続・迫真銀河冒険部 ヒゲ兄弟と化した先輩.mp26
温泉が気持ちよかったので初投稿です。
【平穏と脅威は薄皮一枚の境で辛うじて保たれている】
1991年 アメリカ合衆国 テキサス州 フォートブリス基地近郊 夕刻
湾岸戦争に勝利したステイツの帰還兵たちが、今日もまた勝利の美酒の為に近郊のパブで一杯引っ掛けている。
同僚と共にビールを飲みながら歩いて店を出たのは三十代半ばの士官、クレイグ・アイアンズ少佐。酒くさい匂いが漂った。
レッドネック(白人労働者階級)の出身で生まれは余り良くないが、それを努力と根性で成り上がった男である。
休日なのか、野戦服に拳銃とナイフを装備して気分よさげに鼻歌を歌いながら、酔いつぶれかけの同僚に肩を貸して基地への道のりを歩いていた。
これだけならば陸軍将校の楽しい余暇と言った風景だったが、夕日が差し込む路地を越えようとした瞬間空気が変わる。
"ビュゥ"と強い風が吹いてそれまでの陽気だったテキサスらしい空気が一転して、まるで墓場のような雰囲気を醸し出している。
「おい、ドミニク。カーク」
"明らかに正常ではない"事態に酔いが覚めたのか同僚の少佐二人も目を覚まして銃を抜いてこそいないが、戦闘態勢に入った。
墓場の様な空気はどうやら路地の先から流れてくるらしい。
「まるで誘われているな、いっちょ乗るか?」
黒人知識層出身のドミニクがM9の弾倉を確認してそのスライドを引き、安全装置を外しながら獰猛に笑う。
父親が弁護士とは思えないやんちゃ野郎なのだこいつは。
「それも悪くないな。やっこさんどうやら品が無いらしい」
M9を抜いてライトとクロスさせながら昏い路地を照らすカーク。
こいつも両親が教師とか信じられない積極性の持ち主だ。両親は間違いなく教育を誤ったな。
「まるでB級ホラーだ、殺人鬼でも出れば間違いない」
クレイグが先頭に立って三人は汚れた路地をクリアリングしながら進んでいく。
路地を曲がった先は本来ならドーナツ屋の裏口の筈だが、そこはイチョウの木が何本か立っている霊園だった。
「なんだこりゃ」
基地のある都市の郊外にも墓場はあるが、こんな風景では無かった。それに今は街中にさっきまでいた。"ありえない"
まるで別世界か異空間にでも移動してしまったかのようだ。それと同時に血生臭さが周囲に漂い出している。
まさに怪現象といった中、それでも周囲の警戒は怠らない三人。
「ウワァァー!」
警戒歩行を続けて霊園内を歩くと、子供の叫び声が前方の広間から聞こえた。声質からして男。
合衆国民の生命と財産を守る為にも彼らはすぐさま駆け出す。
僅かな時間を駆け抜けると広場に出る。幾つかのモニュメントと長椅子が置いてあるだけの広場だ。
そこに居たのは麻袋を被った血塗れ肉屋といった風体の大男が、大きな解体用包丁を振り回して人形を持った男の子に迫ろうとしていた。
クレイグは完全に訓練通りにM9を照準し肉屋の腹部に発砲した。
発砲された三発の9mmパラベラム弾は狙い違わず腹部に命中し、その動きが止まる。
しかし肉屋はクレイグ達の方向へと向き直っただけで、もう一度解体包丁を振り上げた。
「殺せ!」
《ヴオォォォォォォォ!!!》
恐ろしい咆哮と共に肉屋が三人に迫る。同時にクロスファイアで発砲されて肉屋に銃弾が複数突き刺さる。
肉屋の包丁は先頭のクレイグに向けて滅茶苦茶に振るわれた。
しかし彼はそれを石畳でスライディングする事で躱し、背後を取って三方からの銃撃に発展させる。
「おじさん達逃げて!」
少年が叫び声を上げて彼らに逃げるよう促すが、当然そんなもの聞くはずも無い。
しかし少年は言葉を続けた。まるで初めから敵わないと判っているかのように。
「そいつに銃は効かないんだ!」
「お巡りさんもそいつにやられた!誘い込まれたんだ!」
確かに既に一回の弾倉交換に至るまで全弾浴びているにも関わらず、肉屋の威圧感はまるで減衰していない。
クレイグは苦々しそうにM9をホルスターに戻してナイフを抜き放ち構えた。
ドミニクとカークもM9からナイフへと持ち替えて距離を詰めにかかる。
「オォォォォォ!」
《ヴオォォォォォォォ!!!》
雄叫びと咆哮を重ねながらの第二幕が始まった。
肉屋はクレイグを正面に捉えながら無軌道に包丁を振り回す。
彼も無軌道な包丁捌きをナイフでいなしながら仲間の一撃を待った。
「シィッ!」
鋭く吐かれた呼吸と共にドミニクが肉屋の左腕を、カークが右腕を捻って肩口へとナイフを突き立て捩じる。
《ヴアァァァァァァァァ!!!》
痛みから来たと思える咆哮を上げる肉屋。しかしガッチリ拘束されている為身動きは取れない。
そして動きが止まった獲物に致命の刃が振り下ろされた。
「死ね」
刃の根元まで脳天にずっぷりと飲み込まれてから吐かれた言葉は、非常に冷たい声色に聞こえる。
《ヴァァァ・・・》
ようやく肉屋が力尽き、崩れるように倒れるとまた不可思議な現象が始まった。
なんと肉屋の身体が砂のように消えていくではないか!
そうして消えていく肉屋の身体と同時に、周囲の風景も消えるように戻り始めた。
いつものテキサス、ちょっと汚れたドーナツ屋の裏路地へと。
そこに闖入者がやって来たのは次の瞬間だった。
「あれ、もしかして既に倒しちゃった系?あ、ヤバっ!」
やって来た人物は街のプロテスタント系教会のシスターだ。シスターと言うには俗っぽ過ぎる人間の様だが。
その人物と知り合いだったクレイグは、当然事態の解明の為に二人へ目配せし、シスターを拘束した。
「やぁシスターソフィー奇遇だね。こんな時間に今から帰りかい?それはいけない、女性の一人歩きは危険だ。教会まで送ろうじゃないか」
彼女の方は明らかに顔色が悪くなり逃げ腰の姿勢になっているが、両脇から鍛えられた軍人に抱えられたら逃げ場など無い。
「いや、あの。大丈夫なんで・・・」
「 う ん ? ど う か し た の か ね ? 」
「なんでもないです・・・」
強面の男の優しい言葉は威厳に溢れるモノだ。そこに銃が添えられれば猶更だろう。
淫夢要素はありません。