第二十四話――試死合(タメシアイ)
「『爆ぜよ』――」
シーの、おそらくは一切の手加減なく放たれた爆裂魔法を。
ブリーゼは避けることすらせず、あえて被弾する――
やばい。
――そう本能的に悟った堕天男は、とっさに浮遊魔法を唱えて空中に退避。
ピカ。
放たれた小さな光玉は、すさまじい閃光を放ち。
全方位に致死の爆風を巻き起こしながら、大きなキノコ雲を生み出す。
あんなものをまともに食らえば、たとえ恐竜だろうと木っ端微塵にふっ飛ぶだろう。
先日の魔法試合では、シーがそのほとんどの魔法を制限されていたが故にかろうじて試合が成立したのであり、ハンデがなかったら自分は瞬時に物言わぬ肉塊と化していたのだ――と、堕天男は改めて戦慄する。
「馬鹿のひとつ憶えみたいに、それしかできないのかしら?」
いつのまにかシーの背後にいたブリーゼが、その右手を伸ばす。
「く――」
とっさに回避行動をとる、シー。
「『獄炎』」
地獄の火炎ですべてを焼き尽くす高位の火魔法が、ブリーゼの手から放たれる!
回避など意味をなさない。
視界すべてを炎で覆い尽くす、デタラメに巨大な魔法に。
シーはあっさりと、飲みこまれてしまった――!
「あら、幻惑魔法」
少しは感心したのか、愉快そうに笑うブリーゼ。
「『戦いは数手先を読め』――あなたの教えですよ」
すでにブリーゼの背後にいたシーは、すかさず詠唱する。
「『逆巻け』」
直後。瞬時に砂が巻きあがり、巨大な竜巻が発生し。
「『発火せよ』」
どういう原理か、シーが基本発火魔法で小さな種火を投下すると。
砂嵐はあっという間に巨大な火の渦と化した!
複合魔法。ブリーゼの授業でちらと習った知識を、堕天男は思い出す。
魔力の流れを読み、異なる魔法を組みあわせることでまったく新しい魔法を生み出すことができる、と。
むろん素人がいたずらに複数の魔法を唱えてもそれは実現せず、複数の精霊に同時に語りかけ、複数の魔法を同時にイメージし、さらに同時に魔力を吸い取られる負荷に、耐えられなければならない。
「ほらほら〜。ダーリンも少しは攻撃してきなさいな」
背後にいつの間にやら現れたブリーゼに、堕天男の鼓動が跳ねあがる。
「く――『弾けよ』!」
直後に放たれた衝撃魔法をまともに喰らい、ブリーゼはあさっての方向に吹き飛ばされる。
が、しかし――すぐさま煙のように、彼女は消え去った。
幻惑魔法か。
天使すらも欺くシーの、ましてその師であるブリーゼの幻惑を見抜く術は、初心者の堕天男にはない。
やり方について教えを請うたものの、まるでセンスがないとバッサリ。
ビキビキビキ。
一方でシーの生み出した炎の渦が、一瞬にして凍りつき。
足もとからその重みに耐えきれなくなり、徐々に崩壊する様は、巨大地震で倒壊する高層ビルの如し。
だがそんなすさまじい光景を生み出した張本人は、舞い散るダイヤモンドダストの中を、余裕の笑みで散歩していた。
「で、お次は何かしら? 馬鹿弟子」
嘲笑い、見下し、挑発するブリーゼに。
ギリリと歯噛みするシーは――
「『弾けよ』!」
完全に油断しきっていた師に、おそらくは全力の、堕天男の全身の骨という骨を砕いたそれよりもさらに強力な衝撃波を、浴びせた。
砂埃を巻きあげながらふっ飛び、水平線の彼方に消えていくブリーゼを。
「転移」
シーは、転移魔法で追いかける。
俺の出る幕はなさそうだな、と、完全に空気と化した主人公を完全に無視して。
だがこれは三人称小説であるため、主人公不在のままでも容赦なく戦いは継続される。
空中で態勢を立て直し、浮遊するブリーゼに――
シーが、さらなる呪文を唱える。
「『罪人を拘束せよ――呪いの十字』!」
瞬間、ブリーゼの背後に怪しい光を放つ半透明の大きな十字架が現れ、ブリーゼを拘束。
磔にされたその様は、まさにキリストのようだった。




