97:聞き込み調査と女装
話がまとまると、クレアたちはさっそく花街へ向かった。服装を変えてフードを被れば、見た目も性別も誤魔化せる。
まずはクレオの知り合いを当たってみることにした。
夜に向けて準備し始める店に顔を出し、手数料を引き換えに情報をもらっていく。
「誘拐事件? そんなのここじゃあしょっちゅうだよ。金髪限定? そういや、向かいの店が買ったばかりの見習いがいなくなったって。それより、パ……今の名前はクレオだったね。クレオ、お姉さんは元気かい? そうかそうか、無事ならいいんだ」
クレオの顔はそこそこ広く、店の女将さん方には人気がある。
荒事には向かないクレオだが頭の回転は速いので、店の計算業務を手伝ったり、配達をしたり話し合いの場を取り持ったりと、様々な雑用を引き受けていたらしい。
三人は揃って向かいの店にも顔を出して尋ねてみる。
「この店の金髪の子供が誘拐? ああ、アンジェリカだね。裏の井戸に水を汲みに行ったきりさ。大損しちまったよ」
クレアやクレオとは違い、サイファスは慣れない花街の様子に困惑している。
「……クレア、花街で子供の誘拐はよくあることなのかい?」
「俺の出身スラムほどじゃないけど、ここも近所だし治安はよくないな。店の見張りはいるが、安価な店では不真面目なのも多い」
他に被害がないか聞いて回ると、やはりいくつかの店で金髪の女児や女性が誘拐されていた。
いずれも一人きりでいる瞬間を狙った様子だ。
「目撃者ゼロか。手慣れていやがるな」
「そっちのプロだろうね。花街と言ってもこの辺りは下層で、お偉いさんが遊ぶエリアとは事情が違う。規模も小さいし、そんな奴ら相手にどうにもできないよ」
クレオの話は事実だった。
相手が組織だった誘拐の常習犯だとすれば、とりまとめ役すらいない小さな店は損をしようが泣きつく場所もない。
今回は違うが、泣きつく先の誰かが手引きしていることも多いのだ。
「最新の誘拐事件がこの辺りだな。で、残りの金髪従業員がいる店はここと向こう……次があれば大店よりこちらを狙うだろう。でかい店は貴族も来るから手出ししにくいだろうし。よし、潜入だ」
クレアは金色のカツラを二つ取り出した。
捜査に備えて事前に準備していたのだ。
「待ってクレア、それはなんだい?」
「潜入捜査用のカツラだ。俺のとクレオのぶん……サイファスはもとから金髪だからな」
カツラを目にしたクレオは目をつり上げて反抗する。
「僕に女装をしろって言うの!?」
「俺が男装できたんだから大丈夫だ」
「一緒にしないでくれる? それにお兄様まで巻き込むなんて! さすがに無理がある!」
「そうか? サイファスは美人だけどな」
「断固反対だ。どうせ張る店は二軒だけなんだから、クレアと僕で十分だろ?」
「うーん、それもそうか?」
今度はサイファスがブンブンと首を横に振った。
「クレアをいかがわしい店に行かせるなんて断固反対だ! 私が行こう!」
「お義兄様、駄目ですってば。あなたの場合は身長で即ばれますから」
「それもそうだな。サイファスの身長で女は無理があったかも」
珍しく、クレアとクレオの意見が一致する。
結局、クレアとクレオで女装し、潜入捜査をすることになった。




