96:調査開始と花街出身伯爵
翌日以降、クレアはクレオとして、味方と共に事件を解決するための作戦会議に参加していた。
クレアたち以外には、犯人捕縛を命じられた兵士が集まっている。
一応、ミハルトン家当主である本物のクレオも、マントに身を隠してこっそり来ていた。体調が回復したのだ。
「……というわけで、よほどの馬鹿じゃない限り。同じ場所で大規模な誘拐事件は起こさない。狩り場は変えるはずだ。全部の事件が起こった場所の共通点を探し、似た条件の場所に兵士を配置する。動きが見えたら俺たちが戦闘に加勢すればいい」
クレアの意見に残りのメンバーも賛成のようで、新しい意見が上がることはない。
こういった事件が起きやすい場所をクレアは知っている。
孤児だったときに自分自身が攫われた経験があるし、組織にいた時代には仕事で誘拐していた側でもあるので。
さすがに一般人を攫ったことはないが、敵対する相手の身柄を抑えるよう命令が下れば、従って動いていた。
クレアのいた組織は密偵だけでなく、誘拐、暗殺、なんでもありの非人道的な集団だったのだ。
「アデリオ、ハク。お前らも分散して、兵士の面倒を見てやりな。ユージーンとマルリエッタは……」
「大丈夫だよ、クレア。二人とも、戦闘には参加できる」
サイファスの言葉にクレアは素直に頷く。付き合いの長い彼が大丈夫と言うなら信頼できた。
「わかった、なら二人一組で行動するように。無理はするなよ」
クレアが指示した条件をもとに、兵士が地図に×印をつけていく。
「被害者の大半は子供と女性らしい。予想した位置で、子供や女性がうろつける場所はさらに絞られるな」
クレアの横から、アデリオがひょっこり顔を出した。
「被害に遭った人物の特徴は?」
「ほぼ全員が金髪の女児と女性。年齢は五歳から二十歳程度。整った顔立ちだとか」
捕縛に向かった兵士も攫われたらしいが、おそらくそちらは本命ではないと思う。
「なら、売り先はロリコン貴族か花街あたり、下手すると他国もありえるね。それにしてもベタな……」
アデリオの言葉にクレアは頷いたが、サイファスは不思議そうにしている。
「クレア、じゃなくてクレオ、どういうこと?」
「サイファスは知らねえのか? 王都の花街ではここ数年、金髪の女が人気なんだ。アズム国でもな」
説明するクレアに対し、額を抑えながらアデリオがツッコミを入れる。
「あのね、クレオ……様、その情報は表に出てない。常識みたいに感じているのは、俺たちのような裏の人間だけだ」
「そっか。数年前からの流行だから、てっきり皆知っていると思った」
少し考えてクレアは王都の情報屋を当たることに決める。
多少金はかかるが、人身売買系の話なら必ず把握している者たちに心当たりがあるのだ。
「なあ、アデリオ……」
「わかってるよ、クレオ様。俺とハクで情報収集してみる。行方不明者の居場所は兵士サンたちに知らせるね」
アデリオやハクは情報収集も得意だ。
二人に任せておけば問題ないと判断し、クレアは弟のクレオの方を向き小声で告げる。
「おいクレオ、お前は俺に協力しろ。花街を直接調査するぞ」
「は? どうして僕が……」
「花街はお前の方が詳しいだろ」
「周りの誤解を呼びそうな言い方をしないでくれる?」
「悪い。クレオが花街の常連だという意味じゃないぞ。俺よりも伝手があるだろうという話だ」
限られた者しか知らないが、以前の彼は花街で暮らしていた。
ほんの一年前の話なので、ミハルトン家よりも花街がクレオのホームだと言える。
ものすごく嫌そうに眉を顰めながらも、クレオは「お義兄様の助けになるなら」とゴニョゴニョ言って承諾した。
クレアには反抗的なクレオだが、どういうわけかサイファスには懐いているのだ。
翌日から、クレアたちは手分けして捜査を進めることになった。




