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不良令嬢と残虐鬼辺境伯の政略結婚!!  作者: 桜あげは 


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88/99

88:毒薬を愛でる夫人と隊長

 舞踏会まで少し日にちがあるので、クレアは先にユージーンの用事に付き合うことにする。

 王都の薬屋へ彼を案内するのだが、クレアも彼がどんな薬を用いるのか興味津々だった。

 

 もちろん、アデリオやマルリエッタもついてくる。

 クレアがスラム街へ通うことに、マルリエッタは良い顔をしないが、結局最後は折れた。

 アデリオがまた彼女を挑発したので、それに乗ってしまった形だ。


「王都には何度か来たことがあるのですが、こちらの方面は初めてですね」


 ユージーンはウキウキと楽しそうに王都を観光していた。

 この日のクレアは男装している。

 スラム街の知り合いは、クレアを男だと思っているからだ。

 

「意外と、穴場の店がたくさんあるんだぜ」

「それは楽しみです。クレア様は物知りですね」


 昼間のスラム街に足を踏み入れ、複雑に入り組んだ道を進んでいくと、小さな店が建ち並ぶ場所に出た。

 ぼろ布を屋根代わりにし、地面に怪しげなものを並べて売っている店が多い。


「薬屋はこの先だ。スラムの中では大きめの店……いや、民家だな」

 

 少し進むと、庭付きのあばら屋が見えた。

 周辺の建物に比べれば幾分か広いものの、ぼろさ加減は群を抜いている。


「あそこだ」


 クレアの案内を聞いたマルリエッタは、なんとも言えない表情を浮かべた。

 ユージーンのほうは平気そうだ。庭に植えられた植物を熱心に見つめている。


「あの植物……一本持って帰れないですかねえ」

「いっぱい生えている雑草みたいなやつか?」

「あれ、辺境では手に入らない貴重な薬草です。結構な値段がするのですが」

「……そうなのか、不用心だな。店の親父に言って、何本か引っこ抜かせてもらおう」

 

 毒草には詳しいが、薬草の知識に乏しいクレアだった。

 今にも外れそうな引き戸を開けて、薬屋へ足を踏み入れると、奥の椅子で女性と少年が居眠りをしていた。縮れた茶髪を無造作に下ろした女性と、同じ髪色の日焼けした少年は親子だ。

 クレアたちの気配に気づいたのか、目覚めた少年が女性を揺さぶる。


「母ちゃん、お客さんだよ」

「んー、うるさい」

「ねえ、母ちゃんってば! 起きてよ!」

「んー、ぐー……」

「母ちゃんの大好きな、赤毛の兄ちゃん……クレオ様だよ!?」

「んがっ!」

 

 女性はパチリと目を開け、慌てて上体を起こす。

 

「クレオ様!?」


 彼女もまた、クレオ時代のクレアのファンだった。

 

「おう、久しぶりだな。疲れているところ悪いが、薬を見せてくんないかな」

「ひゃああ、クレオ様! 恥ずかしい姿を見せちまったよ、化粧をしておけば良かった!」

「気にすんな。そのままでも十分美人だ」

「あら、まあ。クレオ様ってば」


 機嫌の良くなった彼女は、エプロンを身につけながら尋ねる。

 

「で、どんな薬が欲しいんだい? 毒薬の類いは私が対応するけど、傷薬なら妹、飲み薬は父と兄が見るよ。その他のものなら母に頼むし、材料の販売や買い取りは夫が担当だ」

「俺は、いつものやつを買う」


 クレアの言う「いつものやつ」とは、武器に塗る安価な毒薬だった。

 

「オーケー。そうだ、新作のしびれ薬ができたんだけど、試してみないかい?」

「お、いいな。それも買わせてくれ。あとさ、こいつにも薬を見せてやって欲しい。医者なんだ」

「あらま、あんたもイケメンだね。どんな品が入り用だい?」

「薬の材料と……あと、僕個人の趣味として毒薬も買いたいのですが」


 少年がクレアの薬を包んでいる間、女性とユージーンは毒薬談義で盛り上がっている。


(……大丈夫かよ、あの医者)


 クレアは、騎士団でユージーンが恐れられている理由の一端を垣間見た気がした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 毒薬談義って(笑) そりゃ患者はビビるねww
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