87:辺境伯夫人、着せ替え人形になる
そうして、クレアたちはミハルトン伯爵家へ到着した。
「このお屋敷も、しばらくぶりですねえ。クレア様」
「そうだな、マルリエッタ」
馬車から下りると、クレアを出迎える人々が門の前に集まっていた。
その中から、ふわふわのピンク色のドレスを纏った女性が飛び出してくる。
「クレア様ーっ!!」
ピンクの塊を難なく受け止めたクレアは、微笑みながら女性に話しかける。
「エイミーナ、久しぶりだな!」
「ああっ、クレア様! お会いしたかったですわ!」
「嫁いでからも元気そうで良かった」
エイミーナの後ろには、仏頂面のクレオがいた。
「手間をかけたな、クレア」
「問題ない」
体調が悪そうだが、ミハルトン家の代表として、出迎えに出てきたのだろう。
(具合が悪いのは本当みたいだな。今日は絡むのは止めておこう)
現在、クレアの見た目は女なので、今は姉弟として対峙している形だ。
「今回は、お義兄様は来られなかったのか。残念だな」
不思議なことに、クレオはサイファスに懐いている。
これも、サイファスの人格がなせる技だろうと、クレアは感心していた。
「クレア様、さっそく屋敷の中へ入りましょう。私、楽しみにしていましたのよ?」
「それは嬉しいな」
「舞踏会で着る、クレア様の衣装もご用意しておりますの! 試着してくださいませ! あの衣装を着たクレア様は、王子様のように素敵でしょうね!」
「……王子か。王子にはなりたくないなあ」
クレアのよく知る王子とは、意地悪で他人をからかうのが大好きな第一王子である。
エイミーナの相手をしながら、クレアは弟を見て言った。
「一緒に来たメンバーを紹介しておく。こっちは見覚えがあると思うが、従者のアデリオと、侍女のマルリエッタだ。もう一人は辺境騎士団、第八部隊隊長のユージーン。俺の護衛兼、救護係だ」
「さすが、お義兄様。過保護だ……クレアなんか、放っておいても大丈夫なのに」
クレオやエイミーナに案内され、クレアたちは屋敷の中へ入った。
もてなしを受けるのもそこそこに、さっそく、クレアは舞踏会のために用意された衣装で、エイミーナの着せ替え人形と化す。
部屋にはすでに、クレオが注文した服が何着か届いていた。
マルリエッタまで一緒になって、クレアを着飾らせる。
「さあさあさあ、クレア様! 次はこっちを着るのですわ!! 女同士ですもの、遠慮は要りません!」
「まあっ! 素晴らしいですわ、クレア様! ドレスも素敵ですが、こっちもお似合いですわ! アクセサリーも付けてみましょう」
「いいですわね! 髪型もいじった方がいいかしら?」
「お任せください!」
クレアに逃げ場はなかった。
エイミーナとマルリエッタは気が合うようだ。
気合いの入った女性二人に散々着替えさせられたクレアは、解放された頃には放心状態になっていた。




