80:帰り道と侍従の妨害
その後、クレアはサイファスと合流し、ミハルトン家の再建を手伝った。
なぜか、あのクレオがサイファスに懐き始めていて謎だ。
残虐鬼を怖がるどころか、彼のあとをついて回っている。
(短時間で我が儘坊ちゃんの心を開くとは、さすがサイファス。なんだかんだ言いつつ、面倒見がいいもんな)
クレアは感心していた。
※
少しの間、ミハルトン家と宿を行き来し、用が済んだのでルナレイヴへ戻る。
馬車に乗り王都を後にしたクレアは、この国で一番広い川にさしかかっていた。
行きと同じように、川岸に食堂風の船が停まっている。
当初の約束通り、クレアはサイファスと一緒に馬車を降りて、賑やかな船に乗り込んだ。
奥の良い席に案内され、彼と並んで座る。
「さあ、クレア。好きなだけ飲んで! 料理もたくさんあるからね」
「いいのか、サイファス!?」
「当たり前じゃないか。今回、クレアは本当に頑張ったからね」
「……お前は俺を甘やかしすぎだ。子供じゃないんだから」
「子供だなんて思っていないよ? クレアは大人の女性で、私の大切な妻だ」
堂々と言われ、またむず痒い気分になった。
「今回は、サイファスのおかげで助かったよ。ありがとな……」
「クレア……ッ! 照れた顔も可愛いっ!」
頬を薔薇色に染めたサイファスの目が潤み始める。
「ああ、愛しているよ、愛おしい奥さん。君のおかげで、私の世界は広がる一方だ」
「サイファスは大げさだな」
「王都では『クレオ様ファンクラブ』の皆と仲良くできたし、クレオからはついに『お兄様』と呼んでもらえたんだ!! 今までは、誰が相手でも怖がられるばかりだったのに……!」
「よ、良かったな……親しい相手が増えて」
ちなみに、クレアはクレオから「お姉様」と呼ばれたことなど一度もない。
そんな呼び方をされたら鳥肌ものだ。
いろいろ考えていると、サイファスがもじもじし始めた。
「クレア、あのね、屋敷に帰ったら、その……」
「ん? どうした?」
「夫婦水入らずでゆっくり過ごしたいな。というか、一夜をとも……」
彼がそこまで言いかけたところで、二人の間に音を立てて大きなジョッキが置かれる。
見上げると、アデリオがにこやかな表情を浮かべて立っていた。
「クレア。それ、新作ビールだってさ。店の人がサービスしてくれた」
「うおお! マジか!!」
「それと、執事長の他に引き取った孤児をハクに任せて、ルナレイヴの密偵にするんだろ? しばらくは忙しくなるし、夜はきちんと休んだ方がいいんじゃない?」
「ん? それもそうか……?」
アデリオはサイファスに意味ありげな視線を送り、自分の席へ戻っていく。
すぐ近くで、マルリエッタなど他の付き人と一緒に食事しているのだ。
サイファスに視線を戻せば、ぷるぷると震えながら「手強い……」と呟いていた。




