67:残虐鬼、クレオ様ファンクラブに入会する(サイファス視点)
クレアと二人、王都の宿に宿泊中のサイファスは、頭を抱えながら城下町を散策していた。
ただでさえ問題が起こっているところへ、クレアが剣術の試合に出ることになってしまったからである。
サイファスの隣では、男装継続中のクレアが、何食わぬ顔をして歩いている。
町を散歩していると、時折女性たちがクレアに視線を向け、手を振っていた。
男装したクレアは、やはり女性から人気があるようだ。
そして、少し進むと数人の令嬢たちに取り囲まれてしまった。
「クレオ様ぁ! お久しぶりです! 最近、お屋敷から外へ出られないと伺っていたから、心配していたんですのよ?」
「ああ、忙しくてな」
令嬢たちの勢いに押されつつ、クレアは色々誤魔化している。
「聞きましたわ! 久々に、剣術大会に出場されるんですって? わたくし、応援します!」
「ありがとうな」
「ところで……」
令嬢たちは、ちらりとサイファスを見た。
「こちらの方は、どなたですの?」
残虐鬼の名前は有名だが、サイファス自体は国民に知られていない。
「そいつは俺の……友人の貴族だ。遠くにある領地から、剣術大会の応援に来てくれた」
クレアは、サイファスが残虐鬼だということを伏せるつもりのようだ。
王都では悪名だけが一人歩きしているので、残虐鬼だと言わない方がいいと気を回してくれたのだろう。
何も考えていないようで、そういうところには気が付くクレアだ。
そんな姿も、可愛くて仕方がない。
クレアの言葉を鵜呑みにした令嬢たちは、サイファスに走り寄り、笑顔で声をかけてくる。
「ねえ、よろしければ、あなたもわたくしたちと一緒に応援に参加しませんこと?」
「えっ……」
「クレオ様ファンクラブに、特別に招待いたしますわ!」
「それは……」
大変興味がある!
……と、サイファスは心の中で叫んだ。
令嬢に誘われたサイファスは、その場で「クレオ様ファンクラブ」に入会した。
サイファスに声をかけてきたのは、偶然にもファンクラブの会長だったらしい。
ついでにマルリエッタも、あとでファンクラブに入会した。
※
試合前日、サイファスはクレオ様ファンクラブのメンバーに呼び出された。
今は、メンバー全員でせっせとクレオの応援旗を作っているところだ。
全部で数十名ものクレオファンがいることには驚いた。
本当は愛する妻と二人で過ごしたいが、クレアがクレオ代理として動いているため、彼女に接触しづらい。
仕方なく、ファンの集まりに参加している。
そして、ファンクラブの令嬢たちとは、クレオ(男装クレア)を褒め称えるトークで意気投合している。
クレアの素晴らしさは、語っても語ってもつきることがない。
ここにいるのは、全員同志だ。
「あなたたち、なかなか器用ですわね」
令嬢たちから裁縫の腕を褒められるサイファスとマルリエッタ。
侍女のマルリエッタはさることながら、サイファスもルナレイヴが貧しかった頃は、料理も裁縫も行っていた。ゆえに家事ができる。
愛する妻のための綺麗な応援旗が完成するのは、純粋に嬉しいことだった。




