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不良令嬢と残虐鬼辺境伯の政略結婚!!  作者: 桜あげは 


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61/99

61:因縁の弟VS残虐夫人

 そうして数日後、公爵家からエイミーナの迎えが来た。

 クレアとサイファスとエイミーナ、セバスチャンやマルリエッタ、ついでにアデリオは、屋敷の前で彼らを出迎える。

 初夏の辺境伯家は、むせ返るような緑の匂いに包まれていた。


 到着した馬車から現れたのは、公爵家の執事、侍女、メイド、護衛というそうそうたるメンバーだ。馬車も一台だけでは足りず、三台も門の外に横付けされている。

 きらびやかな装飾が施された豪華な扉から、彼らは順序よく外に出てきた。


(阿呆だろ。こんなキラキラした馬車で来て、盗賊に襲ってくれと言っているようなものじゃねえか。俺なら、間違いなく狙う……)


 そんな中、一台の馬車から赤毛の青年が降りてきた。彼を見た辺境伯家のメンバーが、揃って動揺している。彼が辺境伯夫人と瓜二つの顔をしていたからだ。

 その人物は、黒髪の華奢な体つきの女性を伴っていた。

 彼らを見たエイミーナが息を呑む。


「あの女は、エイミーナの知り合いか?」

「クレオ様が屋敷に囲っておられる女性ですわ」

「なるほど、あいつの愛人か。ご本人が現れるとは思っていなかったなぁ。面白くなりそうだぜ」


 ニヤリと笑うクレアに向けて、エイミーナが心配そうな表情を向けた。


「クレオ様、もう一人のクレオ様に何をなさるおつもりですの!?」

「まずは一発、顔面にキメてやるよ」


 近くで不穏な話をする妻が気になったのか、サイファスが気を逸らすように質問してくる。


「クレア、君にそっくりな人が馬車から降りてきたけど、彼は……」

「今のクレオだよ。俺の腹違いの弟だ」


 クレオの外見は、クレアにそっくりだった。

 ミハルトン家の特徴である真っ赤な長い髪は同じで、背丈もほぼ変わらない。

 顔も怖いくらい同じだが、僅かに瞳の色が異なる。

 クレアの瞳は淡い珊瑚色だが、クレオの瞳はもう少し濃い珊瑚珠色だ。よく目をこらさないとわからないし、こらしても光の加減だと見落とされるだろう。

 二人が単体で現れれば、もはや、誰にもわからなくなる域だ。

 狼狽える辺境伯家の者たちを見たクレオは、クレアを一瞥して酷薄な笑みを浮かべた。


「そっくりだけど……クレアはあんな表情をしないね。私には、見分けがつきそうだよ」


 サイファスの言葉を聞き、クレアは驚いて彼を振り返った。

 外見だけで二人を見分けられる者は、ほとんどいないからだ。


 ずっと一緒にいるアデリオはともかく、他の人間で二人を知っている者たちは、普段の行動でクレアとクレオを見分けることしかできない。

 主に素行が悪いのがクレア、性格が悪いのがクレオという感じで。


「お初にお目にかかります、アリスケレイヴ辺境伯」


 慇懃な態度で頭を下げるクレオは、どこから見ても伯爵家の立派な跡継ぎ息子に見えた。

 サイファスも彼に向けて爽やかに挨拶している。

 次に、クレオはエイミーナに目を移し、困った様子で微笑んで見せた。


「僕の婚約者が、ご迷惑をかけて申し訳ありません。どうも、冒険心旺盛な性格のようでして」


 エイミーナはむっとした態度でクレオから顔を逸らした。自分の葛藤をただの「冒険」で片付けられ、納得がいかない様子だ。

 クレアがエイミーナを庇うように前に出る。


「そりゃあ、冒険もしたくなるだろうよ。婚約者が愛人を連れて迎えに来るような恥知らずではな。で、そっちの美人は誰なんだ?」


 クレアの言葉を受け、クレオの片腕に手を回そうとしていた女性の動きが止まる。

 彼女の全身に強い緊張が走った。

 今度はクレオが女性を庇うように一歩クレアへ近づく。


「これはこれは、辺境伯夫人は詮索好きですねえ。王都を離れ、娯楽に飢えておられるのですか?」


 遠回しに辺境が田舎だと罵られ、クレアは腹が立った。

 だから、すかさず言い返す。


「格上の辺境伯の前で、ルナレイヴを馬鹿にするのはいただけないな。ミハルトン家の跡継ぎとして、もう少し自覚を持ったらどうだ? 息子がこれでは、伯爵も苦労する」

「あなたの方こそ、伯爵夫人としての自覚が足りないのでは? 夫を差し置いて出しゃばるなど、貴族女性のすることではありませんよ?」

「ルナレイヴはこういう土地柄だからいいんだよ。そっちこそ、地理を勉強したらどうだ? 無知が露見し恥をかくぞ?」


 姉相手では言い負かされると感じたのか、クレオはサイファスに話を振った。


「アリスケレイヴ辺境伯、姉を甘やかすのも程々にしてくださいね。見ての通り、図々しい性格ですから。どこまでも、つけ上がりますよ?」

「心配要らないよ。クレアは、私には勿体ない愛らしい花嫁だから。むしろ、もっと甘えて欲しいと思うくらいだよ」


 クレオは、未知の生き物を見るような目をサイファスに向けた。

 本気でのろける残虐鬼に嫌味は通じないのである。

 だが、そこで引くような善良な性格を、クレオは持ち合わせていない。


「さすが、残虐鬼と恐れられる辺境伯閣下だ。女性の趣味も特殊でいらっしゃる。ですが、聞き分けの悪い妻には、分をわきまえさせる必要があります。それを野放しにしているのは……」


 サイファスに再び嫌味を言い始めたクレオを見て、クレアの目がつり上がった。

 なぜだかわからないが、サイファスの悪口を言われるとイライラする。ものすごくイライラするのである!


「クレオ、辺境伯閣下に対して無礼だぞ。お前こそ、分をわきまえろ」


 憮然とした表情でクレアは不快感を示す。

 貴族同士の格など、どうでもいい。だが、サイファスが馬鹿にされるのは我慢ならない。

 田舎者だし王都ではキワモノ扱いだけれど、地位や実力において、サイファスはクレオより上だ。

 クレアとクレオの間に険悪な空気が流れ、一触即発……というところで、サイファスが二人の間に割り入った。


「とりあえず、客室へ案内するよ。遠いところから来たお客様を、ずっと外に立たせておくわけにはいかないからね」


 害意のない辺境伯の笑顔に毒気を抜かれたクレアとクレオは、一瞬にして黙り込み、大人しく彼の意見に従った。


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