表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不良令嬢と残虐鬼辺境伯の政略結婚!!  作者: 桜あげは 


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/99

6:新しい侍女は強かった

「少なくとも、クレアよりは詳しいよ。なんなら、ここで教えてあげようか?」


 言うなり、彼は寝転がるクレアの上に覆いかぶさった。

 はたから見れば、クレアが押し倒されているような格好だ。


「……っ?」


 クレアは思わず息を呑んだ。

 ずっと一緒に過ごしてきたアデリオの真意が読めない。


 目を瞬かせるクレアを見下ろしながら、アデリオの口元がゆっくりと不吉な弧を描く。

 彼の目は笑っていなかった。


「俺のことはいいんだよ、クレア。好きで従者としてここにいるんだから放っておいてくれる?」


 想定外の事態に驚くクレアを見て満足したのか、アデリオは体を離して起き上がる。


「これに懲りたら、二度とそんな質問はしないことだね」

「……」


 やられっぱなしのクレアは、なんとも言えない悔しさを覚えた。

 動揺した心を誤魔化すように、アデリオに掴みかかる。


「このっ……やったな、アデリオ!」


 我に返り、調子を取り戻したクレアは、仕返しとばかりに背後からアデリオをくすぐり始めた。


「クレア。俺は別に遊んでいたわけじゃないんだけど」


 アデリオの方も、ため息を吐きつつ応戦する。

 しかし、その最中に誰かがクレアの部屋の扉をノックする音が響いた。


「……!」


 クレアは慌ててアデリオを押しのけて走り、少しだけ扉を開け外を確認した。

 すると、小綺麗な女性を連れたサイファスが立っていた。

 彼は穏やかな微笑みを浮かべ、クレアに語りかける。


「クレア、今、時間あるかな? 君につける侍女を紹介したいのだけれど」

「え、あ? 侍女!?」


 体裁を取り繕ったクレアは、サイファスと彼の連れている女性を交互に眺める。

 確かに「辺境伯夫人」には、身の回りの世話をする侍女が必要だろう。

 本当はミハルトン伯爵家から連れて来るべきだったが、「適任がおらず辺境伯側で用意してもらうことになった」とクレアの父である伯爵が言っていたことを思い出す。

 クレオ以外のことには適当な親だ。


「サイファス、とりあえず部屋に入ってくれ……ださいませ」


 赤い髪をガシガシと掻いたクレアは後方を確認したのちに、二人を部屋に案内する。

 いつの間にか寝台から降りているアデリオも、何食わぬ顔で従者らしく後ろに立っていた。


「アデリオ、君もいたのかい?」


 ニコニコと微笑むサイファスの瞳に、一瞬冷たい光が宿った気がした。


(気のせいだよな)


 温厚で柔らかな雰囲気の彼が、従者を睨んだりするはずがない。


(アデリオも飄々とした顔をしているし)


 部屋の中には妙な空気が流れていた。それを変えたのは、サイファス本人だ。


「そうそう、クレア。彼女が君の侍女、マルリエッタ・ミンクスだよ。ミンクス子爵家の三女で、君の良き話し相手にもなってくれると思う」


 紹介された侍女が、しずしずと歩み出て頭を下げた。


「マルリエッタ・ミンクスと申します、奥様。これからどうぞよろしくお願い致します」

「ああ、よろしくお願いしますわ。わたくしのことは、クレアと呼んでくださいませ」


 愛想良く令嬢らしく微笑んでみたものの、クレアは内心げんなりしていた。

 サイファス以外に猫をかぶる相手が増えたからだ。

 侍女となると、四六時中近くをうろつくに違いない。

 同じ空間で生活するのは、アデリオだけで十分だった。


「それでは、私はもう少し仕事があるから失礼するよ。クレアはマルリエッタとお喋りでもしているといい」


 辺境を治めるサイファスは多忙なようだ。

 彼の姿がクレアの目指していた「伯爵」の地位に重なり羨ましく思えてしまう。


(ここは……俺のいる場所じゃない)


 あんなにも歓迎されていたのに、こうして大事にされているのに。どこまでも身勝手な考えしか持たない自分に幻滅し、思わず嘆息した。

 辺境伯夫人には、もっと相応しい人間がいるはずだ。


「あの、クレア様?」


 黙り込んだクレアを見て、マルリエッタが心配そうに首を傾げる。


「なんでもない。少し疲れたみたいですわ」

「そうですか。あの、差し出がましいようですが……従者とはいえ、寝室で旦那様以外の異性と二人きりになるのはどうかと」

「ああ、すまない。つい……」


 いつもの癖でという言葉をすんでのところで飲み込んだ。不貞を疑われるのは面倒である。

 クレアがそう思っていると、マルリエッタがアデリオに自己紹介を始めた。アデリオの方もそつなく対応している。彼はこういった面で要領が良いのだ。


「アデリオ様も、いくら親しい仲とはいえ、クレア様は辺境伯夫人なのです。妙な噂を作らないためにも、その辺りをわきまえてくださらなくては」

「あー、了解」

 新しくつけられた侍女には、アデリオもたじたじだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ