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不良令嬢と残虐鬼辺境伯の政略結婚!!  作者: 桜あげは 


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56/99

56:残虐鬼のお説教

 クレアは部屋でサイファスと向かい合っていた。

 なぜか、ベッドの上で正座する形で。

 彼の顔は優しげで、普段通りの穏やかな微笑みを浮かべている……はずなのに、この威圧感はなんなのか。

 今まで、自分に向けられたことのない類いのものだ。


「クレア、私は冷静ではいられない。今回の件で君を失うかと思った」


 目が笑っていない。

 クレアはなんとか空気を和ませようと言葉を発した。


「さ、酒でも飲むか? アズム国から持って帰ってきたんだ」

「……」

「仕事に戻るから飲めない? あの青い王子を使ってアズム国側と交渉しなきゃだしな」


 必死に話しかけるが、彼からの反応はない。

 何かがおかしい。

 すると、サイファスが絞り出すような声で話し始めた。


「君は何もわかっていない。私がどれだけ……」


 苦しそうに震えるサイファスは、クレアに手を伸ばし正面から抱きしめてくる。

 いつにない彼の様子を見て、焦りが募った。

 無事にアズム国の王子を連れ帰ったというのに、サイファスは悲しそうだ。

 クレアには彼が辛そうな理由がわからない。


「サイファス、どうしたんだよ」


 軽い調子で尋ねてみると、彼の必死な言葉が返ってくる。


「クレアがいなくなってしまうのではないかと心配で怖かったんだよ」


 取り乱すサイファスの強い言葉を受け、クレアは身動きを止めた。

 自分がいなくなることは、彼にとってそこまでの驚異になるらしい。


(責任感からか? それとも……)


 実のところ、クレアにはそのあたりの感覚がわからない。

 常に命の危機と隣り合わせの、普通に暮らす人々とはかけ離れた暮らしをしてきたからだ。

 過去には他人の心情に歩み寄ろうと試みたこともあったが、上手くいかなかった。

 クレアは再びサイファスに語りかける。


「俺のことなら、サイファスが責任を感じることはない。別の妻を娶るのは大変だろうが……」

「娶らない!!」


 サイファスは大きな声を上げた。思いの外強い声にクレアはたじろぐ。


「私の妻はクレアだけ。一生他の人間を娶る気なんてない。愛しているんだ、君を」


 反論しようかと考えたが、そこから先は言葉が続かなかった。

 サイファスに口づけられたからだ。


「君は私を愛していないのかもしれない。所詮は政略結婚だと割り切っているのかもしれない。でも、私は花嫁が君で心底よかったと感じている。多少変わった花嫁でも気にならないし、むしろ君がいい!」


 彼はありのままのクレア自身を受け入れている。

 それが強く伝わってきた。


(なんなんだ……むず痒い)


 言いようのない感覚に包まれ、クレアはサイファスから視線を逸らす。

 そんなクレアを見て、サイファスが遠慮がちに尋ねる。


「最近、避けられているのはわかっていた。でも、どんなにクレアが嫌がろうと、私は君を手放すことなどできないんだ」


 思ってもいないことを告げられ、クレアは驚いた。

 彼は何かを思い違いしている。


「違うぞ、サイファス。距離を取っていたのは、お前にどう接していいのかわからなくなったからだ。二人でいると、恥ずかしいような、落ち着かないような、なんか変な気持ちになるからだよ。お前を嫌っているわけじゃない」

「それって」


 サイファスは、何かに思い至ったようにクレアを見た。


「これは……喜んでいいの?」

「何がだ?」


 少しだけ元気になってきたサイファスは目をきらめかせ、「執着心が芽生えたということは、いくらか内面が変化しているのかな? この調子で経験を積めば、いずれは私の気持ちを理解できる日も……?」などと呟いている。

 よくわからないが、クレアが彼を嫌っているという誤解が解けてよかった。

 先ほどの険しい表情は消え、サイファスは取り繕うように神妙な表情を作る。


「とにかく、これから単独で動きたいときは、先に私に相談して欲しい。今回のような事件は心臓に悪すぎる」

「……わかった」


 素直に頷くと、サイファスが優しくクレアを抱きしめる。

 その間、気絶した青い王子は暗い牢屋に取り残されていた。


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