44:新妻のお願い
新人たちが素直になったところで、さっそく訓練を始める。
まず、木刀を持った彼らと打ち合いをし、それぞれの方向性を決めていく。
少人数ならではの方法だった。
結果、ガガは力任せで何も考えていない。だが、実戦では一番強いとわかった。
ポポはまず基礎体力がなく、木刀を振るので精一杯。一番弱いがセコい手は得意らしい。
ボルドは普通だが素直で筋がいい。動き方さえ覚えれば強くなりそうだった。
「新人部隊で育った者は、後に第一から第九までの部隊に配属されると聞いた。お前ら、行きたい部隊はあるか? 第八部隊は医療の専門職だから無理だと思うが……」
問いかけると、ガガが勢いよく言った。
「第一か第二部隊だ! 俺は戦闘の花形がいい!」
いかにも脳筋といった答えが返ってきて、クレアは苦笑する。予想通りだ。
「ぼ、僕は……ガガと一緒がいいな」
ポポは主体性がなかった。ここへ来る前からガガにくっついて過ごしていたらしいので、筋金入りだ。彼は自立するところから始めなければならない。
けれど、敢えてガガと組み合わせることで、良い感じに連携が取れ、活躍できる目もあった。
「僕はどこでもいいです。どこに適性があるのかわかりませんが」
ボルドは控えめだった。前の戦で自信を喪失しているようだ。
とりあえず、三人には戦闘時の動き方や人間の急所について教える。
その後、ポポには筋トレをしてもらい、ガガは受け身の練習。ボルドとはひたすら打ち合いをした。
アデリオとクレアの二人が揃っているので、効率がいい。
訓練が終わると、新人三人は生気のない顔でその場に倒れ込んだ。
クレアの教える戦い方は、騎士の作法などお構いなしの実戦向けのものだった。
※
訓練を終えたクレアは、砦にあるサイファスの執務室へ向かう。
アデリオはこっそり屋敷へ帰っていった。
砦の廊下を進んで最奥の大きな扉を開くと辺境伯の執務室があった。
ノックした扉が開かれると、白と黒を基調とした落ち着いた部屋の中には、たくさんの紙の束が無造作に置かれていた。
サイファスは書類仕事をしていたようだ。
「サイファス、今日の新人の訓練は終わったぞ。あいつら、もう動けそうにないから」
明日は休みらしいが、疲労や筋肉痛との戦いになるだろう。
愛おしい妻を迎えに出たサイファスが、青い瞳を輝かせ、乙女のように頬を染めた。
「クレア……! ああ、君が無事で良かった!」
彼は笑顔でクレアを抱きしめる。
それほどまでにクレアによる新人訓練について心配していたようだ。
「大げさな奴だな。ただの新人指導なのに」
「クレアの実力は大体把握したし、思ったよりだいぶ強かったけど、心配なものは心配なんだよ」
おそらくサイファスは、クレアがいつどこで何をしていても心配するのだろう。
なんとなく察したクレアは、密着してくるサイファスの体をぐいぐい押して離した。
「サイファス……新人指導の件で、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」
「何かな?」
頬を緩めるサイファスに向け、クレアは前代未聞の注文をした。




