42:伝説の新人兵もどき
クレアとミハイルの試合後、サイファスの副官であるダレンが広場に走ってきた。
試合中はいなかったので、砦の中で別の仕事をしていたようだ。
「サイファス様、奥方様の笑顔にほっこりしている場合じゃないですぜ! 用が済んだなら、さっさと仕事に戻ってください」
もっともな彼の言い分に、そそくさと隊長たちが解散する。
「じゃあ、クレアを第十部隊まで送り届けたら……」
「すでに第十部隊から迎えを寄越しておりますんで。サイファス様は、安心して仕事に戻って大丈夫です!」
サムズアップしたダレンをサイファスは複雑な表情で眺めている。
新しい副官は、仕事の出来る男だった。
渋々帰って行くサイファスと入れ違いに、年若い兵士が走ってくる。茶髪でそばかすのある元気な少年だ。
「おっ、お待たせいたしました! クレア様、お迎えに上がりました!」
息を切らしている彼の顔に、クレアは見覚えがあった。
「お前、戦場にいた……」
「覚えていてくださいましたか! クレア様、あの時は助けて頂きありがとうございました。僕はボルドと言います! あなた様は命の恩人です!」
元気の良い新人兵士は、クレアより少し年下に見える。
あの戦いが初陣だったのだろう。
「怪我はもう大丈夫なのか?」
「はい! 出血は多かったですが、急所は外れていました。傷も案外浅かったみたいで、すぐに訓練に復帰できました。とはいえ、クレア様が来るまで第十部隊の隊長は不在で、他の部隊の方が時間の合間を縫って日替わりで指導に来てくださっていたのですが」
「そっか。じゃあ、今日からよろしくな」
二人で会話をしていると、もう一つの声が割り込んだ。
「クレアに指導役なんて務まるの?」
振り返ると、非常に見知った顔の銀髪の青年が立っている。
「……アデリオ、やっぱりついて来ていたのか」
「クレアの大立ち回りも遠くから見ていたよ。あまり近づくと、残虐鬼に気づかれて面倒だからね」
「屋敷での仕事は大丈夫なのか? 体よく色々と頼まれていただろう」
「全部済ませた。あれくらいの量なら楽勝だね。けど、口うるさい侍女が常に目を光らせていて、なかなかクレアと二人きりになれないんだよねえ。なんか俺、すごく敵視されてるんだけど……」
「マルリエッタか」
「まあ、理由はわかってるよ」
クレアとアデリオを見ていたボルドは、先の戦で活躍した「伝説の新人兵もどき」が二人揃ったことに感動していた。
赤髪と銀髪の新人兵もどきは、彼らのことに違いないという確信があったのだ。
そうこうしているうちに、第十部隊の訓練場に着いた。
新人の使える場所は、砦の端にある小さな更地だ。
クレアは訓練場を見渡した。
新人兵士たちは、それぞれ体を動かして訓練しているようだが、二人しか見当たらない。
「人数が少ないな」
「前の戦いで、仲間がたくさん亡くなりましたから。まだ補充されていないんです。もともと二十人いたのですが、今は三人しかいません」
新人が置かれていた状況の悲惨さに、クレアは眉をひそめる。
眺めていると、二人がクレアたちに気づいて駆け寄ってきた。




