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不良令嬢と残虐鬼辺境伯の政略結婚!!  作者: 桜あげは 


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36/99

36:不良令嬢、悪徳商人を撃退する(サイファス視点)

「クレア、一体どうしたんだい!?」


 慌てて駆け寄るサイファスに向け、クレアが一言。


「交渉が決裂した」


 ……と口にした。

 玄関前にいたのは、女性向けの装飾品を売る商人だ。

 クレアの輿入れに伴い、最近辺境伯家に出入りし始めた者である。

 唖然とする一同に向け、クレアは更に話を続ける。


「ルナレイヴの相場は確認済みだ。辺境だから運賃もかかるし人出も必要だろう。ものによっては王都より高いのは理解できる……が、いくらなんでもこれは酷すぎる。その装飾品に使われている材質なら、ここまで値が張ることはない。なのに価格は王都で出回っている一級品より高いじゃないか……法外な値で俺にものを売りつけようとはいい度胸だ」


 そう言って、クレアは真っ赤な髪飾りを指さした。

 どうやらこの商人、偶然入口付近にいたクレアに直接営業をかけたようだ。

 若い令嬢だから、ものを見る目がないとでも思ったのだろうか。価格をつり上げて提示したらしい。

 サイファス自身は、女性向けの品に関する知識は薄い。

 もし自分が対応していたら、商人の言い値で買ってしまっていただろう。


(それを見破るなんて、クレアはすごいな)


 商人は、オロオロしながら言い訳する。


「そんな根拠のないことを。この品は王都の王族も身につけているのですよ?」

「嘘だな。少なくとも俺が婚約者に送っていたのは、もっと質のいい髪飾りだ」


 クレアの発言を聞いたサイファスは、耳を疑った。


(私以外にクレアに婚約者が!? それに、女性向けの髪飾りを男にプレゼント!?)


 混乱し始めるサイファスを余所に、クレアは更に商人に詰め寄る。


「おい、アデリオ。この界隈の装飾品の相場を見せてやれ」


 彼女の奥にはアデリオも立っていた。彼は何かが書かれた紙を二枚開いてみせる。


「ルナレイヴ一帯の店で出している価格の一覧と、王都で出されている価格の一覧。各種女向けの装飾品の相場だ。もう一つは、オーダーメイドの相場だが、原材料と平均的な人件費や運搬費に基づき価格を算出してある。手間が掛かる品ならもう少し値は上がるだろうが……さっき提示されたほどじゃない」

「こ、こんなものを……」

「最近暇だからと、アデリオが作ってきたんだ。さっそく役に立ったな。多少の値上げなら目を瞑るつもりだったが、ここまでカモにされては黙っていられねえ」


 言いたいことを言い終わると、クレアはじっとサイファスを見つめてきた。


「…………」


 可愛いとドキドキしている場合ではない。

 彼女は辺境伯家の主たる自分に決断を迫っているのだ。

 サイファスは、一歩前へ出て商人に告げた。


「君にはクレアを迎え入れる際に世話になったね。今後ともいい取引がしたいな」


 にっこりと威圧しておく。

 セバスチャンとマルリエッタが商人を見送ると言うので、あとは彼らに任せることにした。

 残虐鬼に微笑まれた恐怖で足腰の立たなくなった商人は、マルリエッタに抱えられて行った。


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