29:副官の災難
「紹介する、妻のクレアだ。クレア、彼は私の副官でダレンという」
笑顔のサイファスは、どこか自慢げにクレアの背に手を添えた。
対するダレンは遠慮がちにサイファスへ目を向ける。
「サイファス様、いくら可愛い奥方様を人目に触れさせたくないからって……冗談きついぜ。辺境伯夫人を紹介する代わりに新兵に女装させるなんて悪趣味だ」
突然の切り返しを受け、サイファスはきょとんとした顔になる。
「何を言っているんだい? クレアが兵士の訳がないだろう。どう見たって可愛らしい令嬢じゃないか」
ダレンは「可愛らしい令嬢」の下りで目を剥いた。
その後は心底困惑した表情でサイファスを見つめている。上司の反応を心配しているようだ。
気まずくなったクレアは、あからさまにサイファスやダレンから視線を逸らす。
背後ではアデリオが「あちゃ~」と手で顔を覆っていた。
クレアは、自分の正体がダレンに完璧にばれていることを悟る。
誤魔化そうかと考えたところで、ふと思い直した。
(どうせ明日にも辺境伯の屋敷を出る予定だ)
なら、今、正体がばれても特に困らないのではないだろうか。
むしろ、サイファスの側からきっぱりと振ってもらった方がいい。その方が罪悪感が薄れる。
クレアは正体がばれるのを承知で、成り行きを見守ることにした。
「ええと、サイファス様。以前敵軍を圧倒した赤髪と銀髪の新人兵士を探していましたよね……気づいていて俺をからかっているんですよね?」
「まさか、クレアがそうだと言いたいの?」
ワントーン低くなったサイファスの声に焦ったダレンが、助けを求めるようにクレアを見ている。
「なあ、クレオ。いい加減にしてくれよ……サイファス様が怖えじゃねえか!」
慌てる様子のダレンとサイファスを見比べ、クレアは頷いた。
このままではダレンが可哀想だ。
「そうだな、わかった。なあ、サイファス……俺はお前に黙っていたことがある」
小柄な妻を見下ろしたサイファスは、不思議そうに首を傾げる。
「黙っていたこと? 何かな?」
クレアは全てを覚悟し、真実を話すべく桜色の唇を開いた。




