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不良令嬢と残虐鬼辺境伯の政略結婚!!  作者: 桜あげは 


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20/99

20:残虐鬼の屋敷案内

 屋敷を見て回ることになったサイファスとクレアは、並んで屋敷の廊下を進んでいく。

 国境沿いの戦いが一段落したこともあり、屋敷の中は落ち着いた空気が漂っていた。

 歴史ある重厚な造りの建物に、二人分の靴音が静かに響く。

 クレアは隣を歩くサイファスをそっと見上げた。


 流れるような金髪に青い瞳の美丈夫は、人々から恐れられる残虐鬼とは思えないほどの優男。

 数度にわたり結婚が流れた人物には見えない。

 歩きながら彼を観察していると、青空色の瞳と目が合いふわりと微笑まれた。


「……!」


 何度見ても、彼の微笑みに戸惑ってしまう。

 ややあって、サイファスは一つの扉の前に立った。


「クレア、ここが私の書斎だよ」


 最初に案内された場所は、壁一面が本に覆われた空間だ。

 中央には、古びた執務机が置かれている。

 父ミハルトン伯爵は寝室と執務室を同じにしていたが、彼は仕事とプライベートを分けたい性質らしかった。

 クレアは隙間なく並べられた本を見て感嘆のため息を漏らす。


「すごいな。こんなに大きな書斎は初めて見た」

「好きな本があれば、何でも持って行っていいよ。マルリエッタが言っていたような、クレアの好む読み物はないかもしれないけれど」


 マルリエッタはサイファスにまで、間違ったクレアの好みを伝えていたらしい。

 新たに恋愛物語を取り寄せられても困るので、今のうちに誤解を訂正しておく。


「どちらかというと、物語よりも領地に関する本を読みたい」


 ルナレイヴの知識を得るために言ったのだが、サイファスは感極まった顔でクレアを見た。

 新たに別の誤解が生まれたようだ。


「クレア、辺境伯夫人として、この領地のことを思ってくれているんだね。ありがとう!」

「単に自分がいる場所について知らないのが嫌なだけだ」

「本当に、君と結婚できて良かった!」

「……俺の話を聞いてないな」


 嬉しそうな笑みを向ける彼を見て、再びクレアの罪悪感がうずいた。

 自分は彼の思っているような、いい妻ではないのだ。


「……」


 迷いを打ち消すように首を横に振ったクレアは、移動するサイファスの後に続く。

 書斎の次は厨房や使用人部屋、客室やダイニングなど、順番に部屋を回っていく。

 案内するサイファスは、とても楽しそうだった。

 嬉しそうにしている雰囲気が見て取れ、彼がこの屋敷を心から愛していることがわかる。

 その後は二人で庭を散策した。


「そういえば、サイファスは薔薇の世話もしているんだったな」

「全部じゃないよ。この一角だけ」

「マルリエッタが、『奥様のために植えた』って言ってた」

「……っ!」


 前に聞いた話を伝えると、サイファスの頬が朱に染まる。

 そっと顔を逸らす彼は、うら若い乙女のような表情になっていた。


(残虐鬼も、こんな顔をするんだな)


 クレオ時代の自分の婚約者だった女性を思い浮かべ、クレアは小さく瞬きする。


「サイファス?」

「あ、いや。なんでもないよ、クレア。先へ進もう」


 綺麗な庭を一通り見て歩き、最後にサイファスの寝室へ向かった。


「クレアの部屋の隣が私の部屋なんだ。執務室で寝落ちしてしまうことも多いけどね」

「……入っていいのか?」

「うん。クレアは私の奥さんだから、自由に出入りしてくれて構わない」


 儚い笑顔を向けられ、クレアはまた居心地が悪くなった。

 そんなクレアに気づかず、サイファスはさっさと扉を開ける。


「さあ、どうぞ」


 優しく手を引かれ、クレアはサイファスの寝室へ足を踏み入れた。


 目の前には、落ち着いた色彩の広い空間が広がっている。

 クレアは密かに自分のレースに覆われた部屋と交換して欲しいと思った。


「せっかくだから、一緒にお茶でもどう? クレアはこっちに座って」

「……うん」


 部屋の中央に置かれた長椅子に二人並んで腰掛ける。

 誰かの向かいではなく隣に座るのは慣れない。


 しばらくサイファスと話をしていると、満面の笑みを浮かべたマルリエッタがお茶を運んできた。


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