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不良令嬢と残虐鬼辺境伯の政略結婚!!  作者: 桜あげは 


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18/99

18:残虐鬼の右フック(サイファス視点)

「いつになったらクレアとゆっくり過ごせるんだ……」


 サイファスはいつになくイライラした。

 ルナレイヴは国境の守備を担う重要な領地だ。しかし、国からの命令で他国を攻撃するのを禁じられている。

 王からの許可がなければ、国境を越えられないのだ。


 だから深追いして敵を叩けない。

 それゆえ、膠着状態が続いている。

 もちろん、大きな争いを引き起こしてはいけない重要性は理解している。

 大国同士の戦で犠牲になるのは大勢の国民だ。


(敵の頭が国境を越えて来ればいいが、手下をけしかけるだけで姿を現さない。新たな対策を考えなければな)


 同じ状況が続いているためか兵士たちの士気も下がり、気の緩んだ者が出てきた。

 問題の隊長がそれだ。

 油断をしていなければ、あんな愚かな行動を取れるはずがない。


(いや、あの男の場合、油断は関係ないか……)


 問題を起こした部下は、王都に住む知人の高位貴族の子息だった。

 その貴族は出来の悪い息子の処遇に困っており、将来を不安視していた。

 だから、せめて国王陛下の騎士として役職を与えたいと思い立ったそうだ。


(周りの人間にしてみれば、いい迷惑だろうな……)


 だが、高位貴族との軋轢を避けたいサイファスは、余計なことは言わなかった。

 すると、その貴族は「名の知れた貴殿に、息子の訓練をお願いしたい」とサイファスに頼み込んできたのだ。曰く、今まで他の貴族にも訓練を頼んできたが、いまいち息子の実力が付かなかったらしい。

 これは、厄介な案件の匂いがしてきた。

 気は乗らないが、知り合いの頼みとあっては断れない。

 サイファスは渋々、その息子を引き受けることに同意した。


 そうしてしばらく後、件の貴族の息子がやってきた。

 しかし、やはりというか、かなり問題のある人物だった。


 親から辺境送りにされたことに憤り、拗ねて真面目に訓練を受けないのは序の口。

 それどころか、サイファスに反発するがごとく、訓練中に余計なことばかりして周りの足を引っ張る。

 大口を叩く割に、一年経っても辺境の兵士の訓練についてこられない。

 地位とプライドだけは高いので、周りも彼の扱いに困っている。

 関われば関わるほど、げんなりさせられる人物だった。


 預かり期間は二年だが、彼を一人前の兵士にするのは絶望的だ。

 体力面では新人にも後れを取っている。

 その割に「自分は正当に評価されていない、本来なら隊長に抜擢されてしかるべきだ!」と喚く。

 だから、サイファスは彼に「名誉職」を与えることにした。

 とりあえず、「お飾りの隊長職」を与えて、黙っていてもらう作戦だ。

 実戦から一番遠い、新人の指導係を任せた。


 しかし、プライドの高い彼はそれもお気に召さなかったらしい。

 昨夜の戦闘で、サイファスは後方支援を命じていたというのに……平気で命令違反をしてきた。

 戦闘で華々しい成果をあげたかったのか、訓練も装備も不十分な新人を連れて、戦場の最前線に堂々と現れたのである。

 色々なことが積み重なった結果、今回の事件に発展してしまった。


 問題行動を起こさないでいてくれたら、他に何もしなくていい。

 期限まで大人しくしていてくれるだけでいい。そう考えていた。

 だというのに、この有様だ。

 重い気分で問題の件の隊長のもとへ向かう。


「ようやくお出ましですか、辺境伯殿」


 謹慎中の問題の隊長の部屋に入ると、相手は椅子から立って不満そうに鼻を鳴らした。

 どこまでも、上から目線の男である。

 親の身分と自分の身分が同等だと思っているのだろう。

 彼の親は公爵で、彼自身も親の持つ爵位の中から子爵位をもらっている。


 だが、残虐鬼であるサイファスを恐れてもいるため、チクリと嫌味を言うに留めたようだ。

 あからさまに歯向かってくる気配はない。


「事後処理に時間が掛かったんだ。誰かさんのせいで」


 言葉にとげがあるのは仕方がない。サイファスは話を続ける。


「レダンド子爵。今回の襲撃で新人兵士二十名のうち、十五名が死んだ。生き残った者で今後も兵士として戦える者はたった三人だ。残りは怪我や心の傷が原因で、もう戦場に立てない。普通の生活もままならない……君は、将来有望な若者の未来を十七人分潰したんだ。馬の支給も訓練さえもしていなかったそうだしな」


 しかし、サイファスの声はレダンドに届いてはいないようだ。

 問題を起こした本人は、ニヤニヤと気に障る笑みを浮かべている。


「またまた、大げさな。たかが十七名じゃありませんか。平民の新人なんて、いてもいなくても変わりありませんよ。それに経費の着服だって、王都では皆やっていることだ。田舎者の気質かもしれませんが、あなたは少し細かすぎる」


 動きを止めたサイファスに気づかす、レダンドは更にまくし立てる。


「いや、私だって反省しているんですよ? やりすぎたってね……ちょっとした嫌がらせのつもりだったんですよ、私の実力を正当に評価しないあなたへの。いくら隊長各と言っても、子供のお守りではねえ?」


 その先の言葉は続かなかった。サイファスがレダンドを殴り飛ばしたからだ。

 さほど強く殴ったつもりはなかったが、レダンドの歯は折れ、口から出血している。


(ふざけるな)


 レダンドのくだらない見栄と虚勢のために、何の罪もない辺境の新兵たちが大勢犠牲になった。

 だというのに、当の本人は全く罪の意識を感じていない。

 やりきれない気持ちと、わき上がる怒りをこらえ、サイファスはなんとか言葉を絞り出す。


「もう、君に与える役目はない。屋敷から出ず、王都へ戻る期限まで大人しくしていろ。君のお父上には、私から事実を伝えておく」


 床に倒れたレダンドを放置し、サイファスは執務室へ戻るべく踵を返した。


(……新人兵士の件は私の責任だ)


 忙しくて手が回らなかったとはいえ、レダンドへの監視を怠った。


(目を配れていれば、防げたことだった)


 犠牲になった者たちを思うと罪悪感に押しつぶされそうだ。


(クレアに会いたい)


 しかし、仕事はまだ山ほど残っている。

 弱音を吐いている暇などないし、そんな真似は許されない。

 今にも泣き言を言い出しそうな自分を叱咤し、サイファスは仕事を続けるのだった。


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