17:襲撃の後で(サイファス視点)
「そういえば、サイファス様はお聞きになりました? 赤髪と銀髪の兵士の話」
夜襲をかけてきた隣国を追い返して夜が明けたあと、サイファスは一人砦で事後処理に明け暮れていた。
そんなサイファスに、部下の一人が話しかけてくる。
興味を惹かれたサイファスは、顔を上げて相手の顔を見た。
「なんだい、それは」
「ものすごく強い新人兵士がいるって噂なんです。昨夜の戦いで、赤髪と銀髪の兵士は、新人兵を襲った敵兵をほぼ二人で壊滅させたそうですよ」
「うーん……赤髪や銀髪の者なんて新兵にいたかな?」
サイファスは新兵の顔を大体覚えているつもりだ。
だが、赤髪や銀髪の兵士には覚えがなかった。
赤髪と聞いて思い出すのは、愛おしい妻のクレアだけである。
(彼女の髪は綺麗だ……はあ、会いたい)
妻の姿を思い浮かべたサイファスは、束の間の幸福に浸る。
しかし、その直後に銀髪の人物を思い浮かべ、なんとも言えない気分になった。
クレアの従者であるアデリオは、要注意人物だ。
「大丈夫ですか、サイファス様。なんか、苦虫を噛みつぶしたような顔をされていますが」
「問題ない」
間男の存在に密かに危機感を抱いているなんて、部下に話せることではないのだ。
「それほどの活躍をした新人兵士なら、私も会って礼を言いたいな。表彰されていいくらいの活躍だ」
「それが、仲間の兵士が彼らを探したのですが……奇襲のあった翌日に忽然と姿を消したらしく、どこにも姿が見えないようで」
部下の口にした内容に、サイファスは眉根を寄せる。
「調べる必要がありそうだな。余所から混じり込んだ人物なのか、予期せぬ事故に巻き込まれ姿を消したのか……捜索の手配をしてくれ」
「はい。ついでに例のあいつに関して、処罰の決定お願いします」
やるべきことを思い出し、サイファスの眉間のしわが深くなった。
「そうだね、まさか戦場で堂々と命令違反を犯すとは」
部下の言う「あいつ」とは、新兵に無茶な出撃を命じ、自分が我先に逃げた男だ。
彼は隊長の一人だが、普段から問題行動が多かった。
それでもサイファスが彼を重用していたのは、ひとえに男の家柄や立場故である。
「扱いづらい相手ではありますが、今回の命令違反で多くの犠牲が出ました。しかも新人に支給する馬の費用まで着服していたようでして。サイファス様、ご決断を」
「わかっている。いくら重要人物だろうが、裏切り行為を許すわけにはいかない」
また増えた厄介な仕事を思って、サイファスはこめかみを揉んだ。




