15:赤髪の小さな兵士(新人兵視点)
新人兵士のボルドは、戦場に取り残され震えていた。
ついさっきまで楽しく話をしていた仲間が隣で血の海に沈んでいる。
痛いと泣き叫びながら、敵に殺されていく。
指示を出し、自分たち新人を導いてくれるはずの隊長は、いつの間にかいなくなっていた。
周りにいるのは敵だけだ。
出身地は辺境の小さな村で、故郷を守りたいと思い兵士になった。
辺境伯に仕えられることは誇りだった……はずなのに。
目の前に広がるのは絶望に満ちた暗闇と、たいまつに照らされる敵兵、倒れた味方の姿だけだった。
(援軍は来るだろうか)
淡い期待を抱いても打ち砕かれるだけだ。
今やるのは、一人でも多く敵を倒すこと。
(でも、無理だ……!)
恐怖で体が動かない。
このままじっとしていても殺されてしまう。それは理解している。
長く生き延びるためには、がむしゃらに剣を振るう他ない。
だが、新人兵士の技量など知れているのだ。
村で少しばかり喧嘩が強かったとしても、武器を使う実戦のそれとは全く別物だった。
馬はいない。
辺境を守る部隊の兵士は皆馬を持っているが、「新人が馬を支給されるのは、もっとあとだ」と隊長が言っていた。
自分たちは一番前に出て敵を散らし、騎士のための道を空ける役らしい。
(役目は果たせなかったな)
仲間の死体に隠れながら、敵をやり過ごす。
自分がとても情けないことは自覚しているが、勝ち目のない相手に立ち向かい、生きている仲間と合流する余裕がない。
ただ、ひたすら死が怖かった。
数と技量で優勢な敵には余裕があった。
馬から下り、倒れたルナレイヴの兵士たち一人一人にとどめを刺していく。
死んでいる者も、虫の息の者も、死んだフリをしている者も全て心臓を突き刺されていく。
もうすぐ、ボルドの番が来る。足音が近づいてくる……!
これまでかと目を閉じるが、一向に剣が振り下ろされる気配はなかった。
代わりに、誰かの声が降ってくる。
「おい、大丈夫か?」
見ると、赤髪の若い兵士がボルドに向かって手を差し伸べている。
「立てるか?」
「……は、はい」
いつの間にか、周りにいた敵兵たちがいなくなっている。いや、地面に倒れている。
「動けるなら一旦退け。砦まで行けば安全なはずだ」
「ですが、隊長からの指示が……」
「そいつなら、一人で先に逃げたみたいだぞ? だから気にせず戻って傷を診てもらえ。残りは俺が片付けておく」
ぽかんとボルドが口を開けていると、赤髪の兵士は馬を引いてきた。
「乗れるか?」
「はい!」
乗馬の経験自体はあったので、素直に頷く。
ボルドは赤髪の兵士に支えられて馬に乗ると、元いた野営地へ向かったのだった。




