移動屋台の店主って、勇者の弟なんだってよ?~たまのお休みをティーブレイクで~
――うららかな昼下がり。どこまでも広がる青空を、グリーンドラゴンが尾を揺らしながら飛んでいく。
どこまでも平和な一日。
「んー、いい天気ですねぇ」
「ああ、いい天気だな」
木々の合間から零れるようにやってくるお天道様。ぽかぽかと身体を温めてくれる。
時折ふわっとやってくる風にセミロングの髪を揺らしながら、フィブリアさんはほっこりした顔を浮かべていた。
耳をすませば、さらさらした水の音。どこかで川が流れてるんだろうな。
ゆっくり伸びをして、僕は切株の上に寝転がる。
フィブリアさんは向かい側から同じように寝転がってきた。
うん、程よく温められて、気持ちいいなぁ。
ここ最近忙しかったから、本当にゆっくりするって幸せ。
「あ、そうだ」
思いついて、僕はさっと起き上がる。
こういう穏やかな日には、お茶菓子だよね。やっぱ。
「どうしたんだ?」
「ちょっと作ってきますね」
善は急げ。
僕はさっと草むらを抜けて、キッチン馬車に戻った。
これは勇者でもある兄さんから貰った、特別製の馬車。内装は立派な立派なキッチン! 冷蔵庫もあれば冷凍庫、オーブンまで。大きいシンクも作業台もあるし、調理器具だっていっぱいそろってる。
ここなら、なんでも作れちゃうんだよね。
普段はこのキッチン馬車を使って、移動屋台式のレストランを開いてる。割と繁盛してて日々忙しいんだけど、今日はお休みなんだ。
じゃ、さくさくっとクッキングしちゃいますか。
使うのは薄力粉、卵黄、バター、砂糖。あとは粉末にしたフレーバーティー。
作り方はすごく簡単。
まずはバターを軽く加熱して溶かしてから、薄力粉、卵黄、砂糖、バター、フレーバーティーの粉末をいれてよーく混ぜる。しっかり混ざったらスティック状に丸めてから生地を休ませるんだけど……。
「《加速》」
魔法で省略。
その生地の時間だけ進めてしまう。数分で一時間寝かせたのと同じ効果が出る。
後はオーブンで焼くだけ。
これで紅茶の香るバタークッキーのできあがり! 付け合わせはスッキリするハーブティ。レモンをちょっと搾っておこう。甘さよりもスッキリさせたいからねー。
ガラスのポットにいれて、と。うん、仄かに黄色だね。綺麗だなぁ。
「うん、完成」
クッキーをお皿に盛り付けて、僕はフィブリアさんのところへ戻る。
「お待たせしました」
「おお、クッキーか」
「はい。ハーブティも淹れてきましたよ」
「いい匂いだ」
フィブリアさんが起きたところで、簡単なテーブルクロスを敷いてから、お皿とカップを並べる。
ととととと……とハーブティを注いで。
「早速いただこう」
フィブリアさんは細長い指でクッキーをつまんで、一口。
さくっ。
と、気持ちいい音。
「うん、うんうん、ううん!」
さくさくっと残りも食べてしまって、フィブリアさんは何度も頷く。
それから、嬉しそうに目を閉じた。あ、たぶんこれ、ほっぺがじーんってなってるヤツ。
「これは美味しいな」
「僕もいただきます」
さくっ、さくさくっ。
歯切れのいいサクサクしたクッキー。すると、一気に甘さとバターの風味が広がって、口の中がいっぱいになる! その奥から、紅茶の香りがふわっと鼻を通り抜けてきて、すっごく爽やか。
これは何枚でもいけちゃうヤツだ~~~~っ。
「このハーブティもすっきりするなぁ」
口の中が甘さでいっぱいになったから、僕も飲む。
すーっと広がってくるのは、スパイスにも似た風味と、レモンの柑橘類の後味。甘さが全部リセットされる。ああ、ほっとなるなぁ。
「穏やかだなァ」
「穏やかですねぇ」
ああ、気持ちのいい午後。
こんな日々が続くといいな。
好評なら連載しようかなと思います。