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GOOD LUCK〜十秒だけは異世界最強  作者: 染谷秋文
第1章 彼方から始める異世界生活
8/72

八、カナタ、物乞いをする

 


「なんというか・・・、色々と説明してもらいたいんだが・・」


「うん、そうだね。

だけどまずは、初めまして・・・、と言った方がいいのかな?ーーー蒼井 奏多くん」


 やっぱり別人か。

 それがカナタの率直な感想だった。

 飛竜や猛獣が生息するこの森に現れたことや、扱う魔法を見るだけでも、ソフィーの実力は伺える。

 無関係とも思えないが、街で会った獣車に引かれかけていた幼女と同一人物だとはどうしても思えないでいた。

 そして、一番の謎は少女がグランに予め伝えていた“この森で最初に会った人族の男について行け”という言葉。


 何故、カナタを知り、グランをカナタの元へ導いたのか?そんな事をして何の得があるのか?

 この幼女は一体ーーー。


「君はーーー、何者なんだ?」


「えへへ、私の名前はソフィア。智慧を司る“妖精”だよ!

 グランから聞いたんじゃないの?」


 普通であれば真剣な顔で自分の事を妖精と呼ぶ幼女など、頭のネジがその辺に転がっていないかと心配するところだが、この場においては笑う気にすらなれない。

 彼女は本物だーーー、そう思わざるを得ない事態が幾つも起こっており、何より、聞きたいことが湯水の如く溢れ出るカナタにとって、今はそれにツッコミを入れている暇など有りはしない。


「ああ、少しは聞いてるよ。まずは助けてくれてありがとう。それでーーー」


 と、溢れ出る質問をぶつけようとした時、妖精ソフィアは自身の口元に人差し指をピンッと立て、クリクリとした大きな目の片方を瞑る。


「聞きたい事は大体分かってるよ。今は少し時間が惜しいから、私から簡潔に説明するね?」


 ソフィアが時間の無さを伝えると、カナタは全てを呑み込んで頷き、押し黙る。

 それを確認したソフィアは、聞き分けのいい子供へ向けるような微笑みを浮かべ、話を始めた。


「とりあえず要点だけ話すから、分からない事があれば最後に聞いてね。

それじゃあいい?カナタ、貴方にはこれからグランと一緒に、バロンを目指して欲しいの。その先できっと貴方の求める者とも出会える筈よ」





 ・・・・・・・





「え?それだけ?」


「ええ、とりあえずは・・・それだけね」


 何か伝え忘れたかしら?と言わんばかりに、斜め上へ視線を送るソフィアに、カナタは堪らずツッコミを入れる。


「いやいやいや!お前、俺の疑問に答える気ねぇだろ。俺の言いたいことは大体分かってるって何だったの!?ねぇ!?

ったく、いくら時間が無いっつっても説明がお粗末すぎんだろ。

まず第一に、グランーーーだったよな?

そのグランと俺を一緒にいさせる必要がどこにある?俺は兎も角、あいつは一人で十分やってけるだろ」


 そう言ってカナタはもう一度グランの姿を眺める。

 白く透明感のある肌に、整った顔立ち。

 やはり、カナタの知る少年とはかけ離れた美少年の姿が其処にはあった。

 外では皮膚が焼け爛れてて、太い牙によって顔の骨格は歪み、所々には鱗があり、そもそも身体の形から全く違っていた。

 そんな少年がこのような変貌を遂げたとはまだ信じられないようで、カナタは目を擦ってからグランをもう一度見る。


「本当、同一人物とは思えない・・・、ん?というかさ、ハーフヴァンパイアって吸血鬼と何とのだ? 鱗や牙があったし人間とのハーフってわけじゃ無さそうだったけど、奇形過ぎて何の生物か全く分からん」


「その姿になってたのは、きっと外にいた飛竜のせいだね。グランは竜を見るのが好きじゃないから」


 話が見えて来ず首をかしげるカナタ。

 意味はよく分からないが、なんだか根の深そうな話ではある。何処まで聞いていいものかと考え込むカナタを見たソフィアはそのまま続ける。


「あの子はね、竜人族(ドラゴニュート)吸血鬼(ヴァンパイア)の混血種なんだよ。

 種族名は吸血竜鬼族ヴァンパイアドラゴニュート


「竜人族と・・・、吸血鬼・・・・?」


 信じられないといった顔で暫く静止したカナタは、次第に目を見開いて行く。近頃ではすっかり影を潜めていた厨ニ病心を刺激するような二つの生物の掛け合わせによって生まれたハイブリッド、それが少年の正体だと分かり興奮を隠せない様子のカナタは、少年を見て声を上げた。


「・・・・うおぉぉおおおおおおおおおお!!!! 何だその超絶生物!?すんげえぇかっけぇじゃん!」


「カナタ・・・、時間が無いから落ち着いて。

 カッコイイなんて言ってもらえれば本人も喜ぶだろうけど、グランは竜族の力の使い方があまり上手くないんだよ。大き過ぎる二つの力を扱うには、今のグランでは未熟過ぎる。

 体も、技術も、そして心もね。

 だからグランは竜族を見ると腹が立つんだと思うの。さっきは竜化の力をわざわざ使ってでも、あの飛竜に力を誇示しようとしてたんだよ、きっと」


 カナタを落ち着かせてグランのことを語る妖精ソフィア。その話を聞いたカナタはと言えば、途端に興奮していた表情を変えてグランを見る。


「ええぇぇ・・・しょうもねえぇぇぇ」


 先程ソフィアからグランが竜を嫌っていると聞いたカナタは、得意の妄想によってある程度の物語を自身の中で組み立てていた。

 てっきり、誇り高い竜人族の家に生まれ落ちたグランは、吸血鬼の血が入ってることで迫害されて親を殺され、村を終われーーーーのような重たい話が始まるものとばかり思っていたカナタは、その落差のせいかグランを見る目つきがあからさまに変わってしまったようだ。


「フフフ、本当にね。だけどグランはまだ両親に会った事が無いから、いつか両親に会ったときに竜の力を扱えないままだったら、それを見た竜人族の父親が幻滅するんじゃないかって心配してるんだよ」


「へぇ・・、まあ一応、少しは可愛げのある話もあったんだな。って事は吸血鬼なのは母親の方なのか。

 きっとすっげえぇ美人なんだろうーーーって、また話が逸れてるな・・。

 俺が聞きたいのは、グランと俺を一緒に行動させようとする理由だよ!」


「理由は色々とあるけど・・、それを最初からちゃんと話すには時間が余りにもなさ過ぎる。

 だけどグランはまだ幼く、見た目のせいで人里では困る事もあるでしょう」


 確かに少し会話を交わしただけだが、お世辞にも頭がいいようには見えなかった。

 そんな子供が一人で歩いてれば商人などからしたらいいカモななるだろうし、昼間の見た目では街に入れるのかすらも怪しい。

 などと考えていると、それにーーーと、ソフィアが続ける。

 

「カナタはそもそもグランの手を借りないとこの森すら抜けられないでしょ?

いくら強くても、回数制限のある力じゃね」


 回数制限ーーー、それがソフィアの口から出たことでカナタの顔色が変わった。

 グランもカナタの“特級魔法”について話していたため、その時は、グランが相手の力が分かるという類の能力を持っているのだと思い込んでいたのだが、ソフィアまでもがそれを言い当ててしまった。


 回数制限や時間制限、揺り返しの事など他人に知られてしまえば命に関わるかもしれないと言うのに、自分以外にそれが漏れている。

 このことは、カナタにとって決して楽観できることではないのだが、ソフィアはカナタのそんな心境を見越したように笑った。

 

「ふふっ、大丈夫だよ。他の人には分からないから!」


 カナタからすれば、不落之果実(インビジブル・タイム)だけでなく、自分の考えているこどで見通されてしまったのかと焦りを浮かべるが、少考した後、今の自分の表情であれば相手がソフィアでなくとも動揺を読み取ることは簡単だろうと反省し、深く息をついてから会話を続ける。


「そうなのか?だけどグランのやつも、俺の特級魔法が二つあるとかって言ってぞ?」


「それは、私がグランに“賢者の加護”を貸してるからだよ!普通は誰もそんな加護持ってないし、持ってても遥かに階級や練度の低い加護だろうから、あまり気にしなくても大丈夫だよ!」


「カゴ・・・に、レンド?」


「んーとね、これは説明すると長くなるから、後でゆっくりグランに聞くといいよ。そういう知識は一通り与えてあるからね」


 あまり話は飲み込めていないものの、グランに聞けば分かると言うのなら別に焦る必要もない。

 それよりもカナタは、妖精と名乗った幼女の底知れぬ力にただ困惑していた。

 一人でこの危険な森に現れ、恐らく未来を予知し、魔法を使いこなし、不落之果実の特性を知り、グランに何やら力を貸し与えている。

 どれだけの力を秘めた存在なのか、想像すら出来ない存在。それがカナタから見た妖精ソフィアであった。

 だが現時点で彼女が自分をどうこうする気が無いのもまた明白であり、寧ろ味方と思っても良さそうだ。

 この時点でカナタは、ソフィアにある交渉を持ちかけようと決めたのだが、それよりもまず、どうしても今ソフィアに聞いて置かなければならない質問があった。


 それはーーーー。


「なるほどな。よし、じゃあその話は一旦置いとくとして、さっき言ってた“俺が求める者と出会える”ってのは何のことだ?」


「フフッ、それは貴方が一番よく分かってるはずだよ?」

カナタには、それを聞けただけで充分だった。グランに道中を守ってもらいつつバロンへ戻り、尚且つ求める相手ーーーーー、ケモミミ超絶美少女に出会えると、目の前の妖精が言うのだから。 カナタは既にソフィアの頼みに乗ると決めつつ、少しでもこの世界での生存確率を上げるため、妖精との交渉を始める。


「なるほど・・な。それと、もう少しだけ聞きたい事がある。グランと一緒に行くかはそれを聞いてから決めさせてくれ」


「ーーーあまり時間がないんだけど・・、しょうがないわね。何かな?」


「まず、ソフィア・・ソフィーは、グランに“ケンジャノカゴ”ってのを与えた筈だよな?」


「ええ、確かに賢者の加護は貸し与えてはいるけど、カナタにはもう無理だよ?

 加護や魔法、特級魔法には、それに見合った資質が必要なんだけど、今のカナタには多分これ以上覚えられないかな・・・。えへへへ、・・・・・・・ごめんね?」


 考えを見透かされ早々に考えを否定されたあげく、才能が無いとバッサリと宣告されたカナタは目を点にさせ、唖然とする。

 あからさまに変わって行くカナタの表情をみたソフィアもまたオロオロとし、この不憫な青年に何か出来る事はないかと、額に指をつけ考え始めた。

 するとソフィアは突然何かを思い出したように、何も無い空間を指先で優しくタッチするような動きを見せる。


「なっ、なんだ!?」


 すると突如、何も無い宙空に水面の波紋のような物が浮かび上がり、その中心部分目掛けて腕を伸ばすソフィア。

 チャポンーーーーという、まるで泉に腕を押し入れたような音ともに、波紋を境にしてソフィアの腕の先が消える。

 

「すげぇ・・・。空間魔法ってやつか?」


「えへへぇ、驚いた?んーと、これだ。

 はい、どうぞ!これは最初からカナタに渡そうと思ってたんだ」


 そう言ってソフィアが取り出したのは、一本の剣。


 何の飾り付けも無く、持って見ても特に変わったところや特別な感じは受けない。言うなれば、カナタのよく知る冒険物ゲームにおいて、冒険者が初期段階で持つであろう“銅の剣”を思い起こされるような、赤茶けた鈍重な光を放つ両刃の剣。

 片手剣に分類されるであろう長さの剣は、カナタの想像していた一般的な剣より少し分厚く思え、見た目以上に重量感がある。

 それでも、力の強くないカナタが片手で何とか振り回すことの出来る範囲内であることから、そこまで規格外の重さとは言えないだろう。

 そんな見るからに“ザ・普通”の剣を手に取り確かめたカナタは、疑いの眼差しをソフィアへと向け質問をする。


「これって、何か特別な力でもあんのか?」


「えへへぇぇ。これはね、大昔の英雄が使ってた剣なんだよ!

  今では大半の力を失っちゃったんだけど、まだ一つだけ特別な力が込められてるんだぁ!」


「おっしゃああぁぁーーーー!!!来ったああああぁぁ!!

  なになに!?もしかして何でも切断しちゃう剣とか!?それとも地獄の炎かなんか封じ込められてんのかな!?そう言えば色も普通の鉄とは何か違うしさ!当たり!?ねぇ、当たり!?」


「惜っしぃ!何でも切れる剣はいい線行ってたよ!凄い凄い!!」


「うおおおおマジかよ!?すげぇぇ!!そっ、それでそれで!?早く正解を言っちゃってよぉぉ!

 このい・け・ずぅ〜」


「えへっ、そんなに喜んでくれたら私も嬉しくなっちゃうよ!ふふふぅ〜、それじゃあ発表します。

 その剣はねぇ。

 なんと、“絶対に折れない剣”なんだ!!」


 カナタは、英雄が使ったと言う剣を持って固まった。

  “絶対に折れない剣”、何処かで聞いたような響きだ。


 何せカナタは時間限定とはいえ、そんな武器なら幾らでも作り出せる。

 例え脆い黒曜石で作ったナイフであろうと、枯れた枝だろうと絶対に壊れない武器になるというのに何を今更、わざわざ重い剣を持ち歩かねばならぬと言うのだ。


「いや、マジで要らんわ・・・。お前、俺の特級魔法知ってんじゃねぇのかよ」


「えっ!?知ってるからこそだよ! この剣は今じゃ斬れ味も悪いし、研ぐ事も出来ないから、カナタしか有効に使えない剣なんだよ!?」


「テメェ、さては舐めてんな?何でわざわざ重くて切れない剣を持ち歩く必要があんだよ!?折れない武器ならそこらから作れるっての!!」


「カナタは分かってないよ。じゃあ、例えばこう言う空間での戦いならどうするの?」


 ソフィアが軽い顔で指を鳴らすと、カナタの周囲は何も無い、ただ真っ白な空間へと一瞬で変化する。


 そこは、ただただ広いだけの何も無い空間。


「何だここ!?転移ーーーしたのか!?」


「これは転移じゃなくて、幻を見せてるだけ。カナタは突然こんな場所に連れてこられた時、どうやって敵と戦う気なの?」


 物が無ければ武器になる物も無い。

 だが、こんな空間がそうそうあるとも思えない。そう反論しようとした時、カナタはある事に気がつき、そして反論を諦めた。

 これはカナタが理解し易いよう、ソフィアがワザと極論を用意したに過ぎない。

 

「気づいたみたいだね。こんな場所じゃなくても、近くに手頃な物が無いときは多くある。力の弱いカナタなら、尚更武器に出来る物は少なくなるし、仮に手頃な武器になりそうな物があっても、それを取りに行くのに数秒が必要だとしたら?

 特級魔法を使えない場合の戦闘は?

 カナタは、硬くて振るえる物ならどんな物でも武器に出来る。なら、どんな使い方をしても決して壊れず、常に携帯しておけるこの剣はカナタにぴったりでしょ?」


 確かにその通りだ。ソフィアの言い分に付け入る隙は無く、カナタにも反論は無い。そして、さらに畳み掛けるようにソフィアは続ける。


「それにね、この剣は確かに殆ど切れないけど、カナタはもう一つ特級魔法を持ってるでしょ?その力があれば剣の形状も、鋭さも思いのままに変えられるんだよ!きっと始めは難しいだろうけどね」


「ちょっーー、そういえば忘れてた!俺のもう一つの特級魔法ってのはどんな力なんだ!?」


「え、まだ知らないの?」


「おう、全く!」


「・・・はぁ。

 だから絶対折れない剣への反応が薄かったんだ。

 いい?カナタのもう一つの特級魔法は物質変形(デフォルメイション)。物の形を自在に変えられる力だよ!」


 一瞬、ソフィアの言う意味が分からず考え込むカナタ。能力自体は分かり易いことこの上ないが、その力を持っているからと言って、何故“折れない剣”の価値が跳ね上がるような言い方をしたのか。

 だが少し考えを巡らせれば、確かにソフィアの言う通り、次々に有効な使い道が見えて来る。この剣を持っていることで、一体どれだけカナタの戦術は広がると言うのだろう。

 物体変形(デフォルメイション)を念頭に置いて考えるならば、これほど自分にあった武器が他にあるとは思えぬほどだ。

 カナタは握った剣を見つめ、手の力を強めた。


「ソフィー、ありがとな。きっと今の言葉のお陰で死なずに済む時が来るような気がする」


 分かればよし!と満足げな妖精に、カナタは続ける。


「それと、この剣に名前はあるのかな?あと鞘は何処にあるんだ?」


「名前はーーー、今は無いかな。自由に付けちゃって大丈夫だよ。

 それから、その剣に鞘は作られなかったの。まだ名があった頃は、その特性から鞘が意味を持たず、今となっては切れなさすぎて鞘も必要がない。それはそんな剣だよ!」


「おお・・なんとも切ない話だな。

 まぁいいや!鞘は必要だと思ったら自分で作ってみるよ!物質変形(デフォルメイション)って力も試してみたいしな!

 それと、この剣の名は不折剣(オルナ)。そう決めたよ。

 それから、無理を承知でもう一つだけ相談なんだが・・・、」


不折剣(オルナ)・・・、そっか・・・。

 いい名前だね!うん、もう一つくらいならいいよ。何かな?」


 ソフィアは何処か物憂げな表情を見せるが、すぐに笑顔を取り戻しカナタの要望に応える。


「この剣は、俺が常に持ってるには少し重いだろ?鞘も無いしさ。

 それに、これからグランと二人で行動するなら色々と物資が必要になると思うんだ。だから、さっき不折剣を取り出す時に使った空間魔法をグランの奴に覚えさせてやってくれないか?」


「うぅん、そういうことかぁ・・・。確かにそう出来ればいいんだけど、グランに空間魔法は無理だと思うから・・・、これを渡しておくね!」


 そう言ってソフィアがカナタに手渡したのは、ボロボロの布袋。

 どこからどう見てもただの布袋だ。

 不折剣を渡される前のカナタであれば丸めて放り投げる所だが、今となってはそんな罰当たりなことは思い付きもしなかった。


「おぉ、ありがとな!ーーーそれで、どう使うんだ?」


「物を入れたい時は普通の袋と同じだよ。取り出すときは、取り出したい物の名前を念じながら手を入れてみて?」


 カナタは早速、言われたように不折剣を切っ先から布袋へと押し込んでみる。

 すると、あれよあれよと言う間に不折剣は、刀身より丈の短い布袋へと姿を消したではないか。


 それを確認すると、次は袋の中に手を入れて“不折剣”と念じる。すると瞬時に、手に不折剣の柄の感触が現れ、カナタはそれを布袋から引き抜いてみせた。

 今名付けたばかりの不折剣を取り出せたことから、名前の分からない物でも勝手に名前を付けて入れておけば、忘れない限りは取り出せるだろうと想像したカナタは、入れたものリストを作って布袋に入れておこうと心に決めたようだ。


「うおおぉぉ!こりゃすげぇ!!流石は妖精様だ!! こんな凄いもの本当に貰っていいのか!?」


「フフフッ。今の私にはそのくらいしか出来ないから遠慮しないで」


「そのくらいって、どう考えてもこれめっちゃスゲェだろ!というか、どんな仕組みなんだこれ・・?俺って魔法とか使えないんじゃ・・」


 淡い期待を込めてそう問い掛けてはみるものの、ソフィアから返って来たのは、やはりカナタの期待に応えるような類の返答ではなかった。


「確かにそのレベルの宝巾着(トレジャーポーチ)はあまり見かけないかもね。

 宝巾着というのは、使用者の加護や魔法を使わないんだ!

 中に転送用魔法陣と召喚用魔法陣を仕込んである袋の事をそう呼ぶんだけど、物を入れる時は転送、出す時は物を召喚する仕組みだよ。

 マナを使って物を出し入れするから、大きな物を出し入れするほど消費されるマナも大きくなるんだ!」


「マナ・・・っていうと、魔法を使う時に必要なアレのことだよな?俺にもあるのか?」


「マナの認識は大体それであってるよ!目には見えないけど、空間に漂ってるマナの素粒子を“魔素”と呼び、その魔素が体内に取り込まれることで、精神力の源となるエネルギー、“マナ”に変化するの。

 マナはこの世に存在する限りどんな生物にもあるし、カナタのそれは特に強いと言えるから安心して大丈夫だよ。加護や魔法の才能とマナの量は全く関係ないけどね!」


 お前に魔法や加護の才能は無いと、サラッと棘のある一言を放つ幼女の顔は満面の笑みを浮かべている。

 当然ソフィアに悪気などは無いようで、そのまま宝巾着(トレジャーポーチ)についての説明を続ける。


「因みに、宝巾着に入れられる容量は・・・何て言えばいいかなぁ。んーとね、例えば外に居る飛竜くらいなら、三体分くらいは入れられるかな?

 あっ、けど生きたままは入れられないから、ちゃんとお肉にしてから入れなきゃダメだよ?」


 お肉にーー、という言い回しに若干引っかかるカナタだったが、そんなことはすぐに頭から消し去り、飛竜の大きさを思い返していた。

 恐らく一般的なダンプカーなどではグランの倒した飛竜を乗せる事は出来ないだろう。

 恐らく、どれだけ少なく見積もってもダンプカー四、五台分の物資を持ち運べることにはなる。

 まさか家などを持ち運ぶ事も無いだろうし、それなら容量が一杯になることなど、そうそうあるとは思えない。

 宝巾着の性能をザッと確認しただけでも、その有用性は確かななものだと確信した。


「ああ、分かったよ。本当にありがとな!」


「ううん。気にしないで!それじゃ、私はそろそろ行くけど・・・、さっきも言ったけど、分からないことはグランに聞いてね!それから・・・、グランのことよろしくね?」


「ああ、分かった。長居させて悪かったな!」


「えへへ、それじゃあまた近いうちに会いましょ!」


「おう!楽しみにしとくよ!」



 カナタの一言を最後に、ソフィアはその場から一瞬で姿を消した。


 そして一人になったカナタは思っていた。


 時間が無いと言いつつ、聞けば聞くだけ教えてくれるあたり、もう少し粘っていればもっと良い物も貰えていたのではないかと。












name 蒼井 奏多


特級魔法

不落之果実(インビジブル・タイム)

物質変形(デフォルメイション)


加護

言霊の加護


装備

不折剣(オルナ)


持ち物

宝巾着(トレジャーポーチ)



ーーーーーー



name グラン・イプシロン

吸血竜鬼族ヴァンパイアドラゴニュート


特級魔法

血族之王(ブラッディクラウン)


加護

賢者の加護

火の加護

風の加護








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