二十四、商人トト、興味を持つ
「ほぅ、これは・・・、ギリル鳥の嘴ですかな?それに、同じ素材で作った短剣ですか。これは何とも珍しい」
カナタが次に取り出したのは、ギリル鳥の嘴の上下セットと、ギリル鳥の嘴を物質変形で両刃の短剣に作り変えた物だ。
トトはソフィアに鑑定の知識を身に付けさせるためか、側で交渉の様子を見せている。より多くの物の鑑定は歓迎のようなので、この期に様々な物の価値を知っておこうとカナタは企んでおり、それを待つグランは退屈そうに外を眺めている。
「ああ、これはどっちが高く売れるのかな?」
「ふむ、まずギリル鳥の嘴自体にそこまでの価値はありません。何方かと問われれば剣の方でしょうが、剣としての強さであれば鉄で作った物と大差はない筈ですから、仮に店頭で販売価格をつけるなら銀貨一枚がやっとでしょうな」
つまり、武器屋などに持ち込んだとしても買い取って貰える可能性は低いということのようだ。これはカナタも予想していなかったようで、買い取れない原因を探る。
「こんなに便利な嘴なのに、価値が・・ない?」
その言葉を受けたトトは首を傾げる。
「便利・・・と言うと?ギリル鳥の嘴に何か特別な使い方があるとは聞いた事がありませんが・・。まさか煎じて飲めば、知られていない効能が得られたりするのですかな?」
「なんだその怪しい民間療法みたいな使い方! そうじゃなくて、ギリル鳥の使い方と言ったら火打ち石だろ!?これ、俺の御守りみてぇなもんよ!?」
このギリル鳥の散らす大量の火花が無ければ、森の中で火を起こす事など出来なかった。その事実がある以上、これはカナタにとっては命を救ってくれたアイテムの一つと言えるだろう。
「ヒウチイシ・・とは何です?」
「へっ?火打ち石、知らないの?」
「ええ、お恥ずかしながら。良ければご教授願えますかな?」
カナタは下手に出るトトを前に得意気な表情になると、周囲に燃え広がりそうな物が無いかを確認してギリル鳥の嘴を擦り合わせて見せる。
バチンと音を立てて散る大量の火花を見たソフィアは声を出して驚き、トトは目を点にしたように固まっている。
「これがーー、火打ち石だ」
決まった。そう言わんばかりのドヤ顔でトトに向かって親指を立てるカナタ。
「これが・・・火打ち石・・・」
トトがただカナタの言葉を復唱すると、暫く二人の間に沈黙が流れる。
トトはカナタから続くであろう言葉を待っていたのだが、どうやらカナタの商品説明が終了しているようだと察すると、自らが言葉を発する。
「あの・・・、それで?」
今の火花が何か?
そんな表情を向けられるカナタは、トトが火打ち石の重要性について全く理解していないことを理解すると、商品の詳細について説明を始める。
「火打ち石ってのは、火起こしに使う道具の事だよ!それは知ってんだろ?
そんで、このギリル鳥の嘴は普通の火打ち石なんかよりよっぽど多くの火花を散らせるから、簡単に火起こしが出来る!
俺はこれのお陰で森の中でも食べ物にも困らなかったんだ。更に、こっちの剣の形の嘴は、火起こしも出来て護身用にも使える優れ物ってわけだ」
「火花で火起こし?そんなことが可能なのですか?いや・・・しかし文明と交わろうとしない部族の村などでは、特殊な火起こしの方法が使われると聞く。
まさか、それと関係が?」
バロンにいくつもの店を構える商人トトが、火打ち石を知らない。
顔を見る限り冗談では無さそうであり、トトが知らないのなら、バロンの住民の多くも知らないと思っても良いのだろう。
しかし、ニケやグランが焚き火を見て何か特別な反応を見せた事もなく、トトが火起こし自体は知っているのだから、火を使った調理は一般的なものと思って良いはずだ。
カナタは事情の掴めぬまま、ギリル鳥の嘴の有用性を知ってもらうため白猫亭の横にある泉のほとりに細い枯れ木を組み上げ、火打ち石での火起こしを実演して見せる。
枯れ木の皮を解した物へ火花を散らし、煙を上げ始めた所へ息を吹きかけて火を起こすとそれを組み上げた細い枯れ木の下へ潜らせて空気を送る。
すると、忽ち枯れ木に火がつき小さな炎が立ち上る。
火打ち石を打ち付けてから三十秒も経たぬうちに小さな焚き火を完成させると、トトやソフィアからは驚きの声が上がった。
「おぉぉ、これはこれは」
「カナタお兄ちゃんすごぉい!!」
二人の表情が使えもしない曲芸を見た後のように見えるのが若干気にはなるものの、ギリル鳥の嘴の実演を終えると、泉の水で消火して再びトトの店に戻り鑑定の続きだ。
「さて、使い方を踏まえた上で、俺の御守りであるギリル鳥の嘴の評価はどんな感じかな!?」
「まずは、新たな知識を授けて頂きありがとう御座いました。
しかし、やはり鑑定額に大差ははありません。まずギリル鳥自体の数が多く、多少危険な魔物とは言えやはりその嘴は決して珍しい物ではありません。
そして何より、その嘴を使った火起こしは非効率的と言うのが理由です」
火起こしの方法が非効率的。
しかしライターやバーナーなどあるはずもないこの世界において、火を起こす方法は限られる筈だ。
「なら、皆んなどうやって火起こししてんだ?火の魔法は火精霊の加護がなきゃ使えない筈だろ? じゃあ火打ち石ぐらいしか・・・」
「おや、もしやカナタさんは魔方陣をご存知では無いのですか?」
「魔方陣くらい知ってるわ!だけど魔法は加護が無いとーーーー」
使えない筈。
そう言おうとしたカナタは自身の手に持つ宝巾着へ目をやる。 宝巾着の仕組みと言えば、転送と召喚の魔方陣を使ったもの。
魔法を使えないはずのカナタは既に、魔方陣を使っているのだ。
「まさか、魔方陣なら加護は必要無いーーー?」
「その通りです。勿論、魔方陣作成には加護や専門知識が必要ですが、誰でも使えるように作られた魔方陣を使うにはマナさえあれば良い。その為、魔方陣は人々の生活には欠かせぬ物となっています。例えばこの火起こし用の魔方陣であれば、一枚辺りの相場は粒銭一枚と大変安価で、多くの店で取り扱いがあり、紙で出来ているため重さも殆どありません」
そういってトトが取り出したのは一辺が十センチほどの正方形の紙。
その中央には赤いインクで魔方陣が描かれている。
「粒銭っていうと一円くらいの価値しかないってことだよな・・・。十枚買っても十円なら確かに安い。
それにマナを込めるとどんな感じで火が出るんだ?」
「ホッホッホ、先ほどのお返しといっては何ですが、実際にやって見せましょう。
まず、生活魔方陣には普段の生活での誤発を防ぐため、決まった呪文が無ければ発動出来ないよう設定されています」
トトはそう言うとカウンターの中央に火起こしの魔方陣を置き、そこへ手を翳して“”燃えよ、火起こしの陣“”と呟く。
火起こしの魔方陣は使用者の火傷を防ぐ目的で、十秒ほど経過してから発火するように設定されているようで、トトが呪文を唱え暫くしてからボウッと音を立てて炎が上がった。
魔方陣の描かれた紙の少し上から円形の形で立ち上る炎は、家庭用のガスコンロを思わせる。
この火力で十分に調理が出来そうなものではあるが、あくまでも火起こし用の魔方陣のため二十秒ほど燃えた所で火は消え、同時に紙に書かれていた赤い線はまるでエネルギーを失ったかのように灰色へと変わった。
「すっ・・・げえぇぇぇ・・・。この魔方陣は一度使うとそれで終わりなのか?」
「そう言って頂けると実演した甲斐があると言うものですな。
ええ、この火起こし用の魔方陣は使い捨てタイプなので一度だけしか使用できません。そういった魔方陣は多くの場合が紙製なので、知識が無くとも一目で分かるでしょう。
というより、繰り返し使えるタイプの魔方陣の製作には高位の加護が必要となり価格も跳ね上がるため生活用魔方陣として一般に出回ることは殆ど無く、多くは上級の魔法武器や国や街を護るための防御結界などに使われています。
それと、一口に火起こしの魔方陣と言っても火力や持続時間には様々な種類があり、当然効力や完成度によって消費されるマナの量も異なります。
魔方陣の性能は製作者によって大きく異なりますから、自分好みの物を探すのも中々に面白いものですよ。
因みに火の生活魔方陣で私がおすすめするのは、W・ローレンスという製作者の物です」
「へえぇ、一口に魔方陣って言っても色々と奥が深いんだなぁ。
W・ローレンスって人の魔方陣を見かけたらチェックするようにしてみるよ!
というか、そんな便利な物があるなら確かに火打ち石なんて必要無いわけだよ」
「色々と使われてみて違いを実感してみて下さい。
しかし、ギリル鳥の嘴で火起こしが行えるとは夢にも思いませんでしたよ。
商品としては大変面白いですし、短剣型の物であればマナ要らずの護身用火起こし器として買い手自体はあるでしょうが・・・、やはり少し玄人向けのため販売数は多く見込めないでしょうし、販売価格も銀貨三枚がやっとでしょう。
何より販売するたびに火起こしの説明に費やす手間が価格と釣り合わず、ギリル鳥の嘴を仕入れるためには冒険者を雇う必要も出てきますから、もし商品化を目指すなら相当売り方を工夫しなければ難しいかもしれませんな」
「売り方を工夫か・・・。それなら大通り沿いの露店で叩き売りするとかか?
さっきのトトさんやソフィーの反応を見る限りじゃ、立ち止まって見てくれる人は間違いなく居るだろうし、その場で火起こしを実演すりゃ一度に沢山の人に使い方が分かる。
さっきみたいな便利な火起こし魔方陣があるってのにわざわざ買う物好きがどんだけいるかは疑問だが・・・。
まあギリル鳥の嘴なら大量にあるから、もし良い方法を思いついたらいつでも声掛けてくれよ。
売れると思って溜め込んでたもんだから、捨てちまうのもなんと無く勿体無いしさ」
「ほぅ、興味深い話ですな。叩き売りとは一体何なのですか?」
「叩き売りってのは、露店なんかで面白おかしい口上に乗せて物を売り捌く手法のことだ。
この時、口上の合間にリズミカルに台を叩くから叩き売りって言って、一種の大道芸みたいなもんだな。
ゴホんっ。
実はこの火打ち剣、さっき見せた火起こしだけじゃーないんです!
ちゃんと物を切れるからこうして果物や肉を切ったり、動物から素材を剥いだりする事だって出来ちゃう!
もし森の中で魔獣や盗賊に出くわしたら?
この短剣があるだけで命を救われることがあるかもしれない!
実際に火打ち剣に命を救われた人の証言〜
私はぁ、絶対に要らないって言ってたんですぅ。だけど主人が何かあった時のためにって買って来ちゃってぇ。
でも森に山菜を採りに行った時、群れから逸れた狼に襲われちゃって・・・。私ぃ、もうだめかって諦めかけたんですぅ。
あっ、これその時狼に噛まれた傷なんですけどねぇ。
だけと、咄嗟にこの短剣があることを思い出して、狼に突き立てたんですよぉ。そしたら、その狼を追い払うことが出来て!
今では家での料理なんかにも使ってますし、あれ以来、この短剣は私の相棒なんです。
てへっ、こんな事言ったら主人に怒られちゃうかなっ。
なんて人も実際にいるんです!
普段の生活でちょっとした小物を切ったり削ったり出来て、もしもの時の保険にもなる!
魔物の素材から作られてるから錆びることだってないんだ!
そこのお父さん!他人事と思ってちゃーいけないよ!
これさえあれば魔方陣なんて無くても火が起こせちゃうから、”あらやだっ、火起こしの魔方陣が切れてたわ!お父さん、今すぐ買ってきて!“なんて煩わしい思いは、もうしなくて済むんです!
調理にも、山菜採りにも、戦闘にだって使えるんです!
もし火起こしの魔方陣が濡れて使えなくなったら?
もし薪を割る斧や鉈が無かったら?
そんな時はこの火打ち剣を使えばいいんです!
魔方陣要らず、マナ要らずで火が起こせちゃう!
魔法は使わないのに魔法みたい!
どうせ包丁を使うのなら、この火打ち剣を使ってみてよ!
自分で使うも良し、大切な人の御守りとして買うも良し、故郷への手土産にするもよし!
世にも珍しい妖精達の国で作られた、この火打ち剣!なんと価格はたったの銀貨三枚!
このバロンでしか手に入らない逸品ですよ!
今なら特別に、この専用砥石も半額でつけちゃう!
さぁ、早い者勝ちだよ!買った買ったぁ!!
ーーーーみたいな感じだな。
そう言えば、バロンでは実演販売してる店は見かけなかったけど、あまり一般的じゃないのか?」
突如始まったカナタによる実演販売。
それを前にしたトトにソフィア、それにグランまでもが驚いた表情で見入っている。
バロンにも実演販売自体はあるのだが、やはりそういった販売技術の研究し尽くされた日本の技術というのは、こちらの世界よりも圧倒的に高い。
いくら素人とはいえ、テレビなどを通してプロの技をいくらでも見ることの出来る環境で育ったカナタの啖呵売りは中々のものであったようだ。
「すごぉい!!カナタお兄ちゃん凄いよ!!ソフィー、その火打ち剣欲しくなったもん!!」
「確かに凄かった!カナタには凄え才能があんだな!半分以上言ってることおかしかったのに、何でか欲しくなりそうだった!」
欲しくはならなかったのかと心の中でツッコむカナタ。確かに言っている事がおかしいのは重々承知の為あえてそれは口に出さない。
魔方陣が濡れるような状況なら殆ど急な雨が原因と考えられるため薪も濡れて焚き火どころでは無いだろうし、危険な森に入るなら殆どの者は武器を持っているだろうから、火打ち剣を使う必要すらない。
トトもそれは分かっているようだが、先ほど輝晶を大金貨二枚で売ろうとした男とは思えぬ豹変ぶりに驚かずにはいられないようだ。
「これは驚いた・・。いや、本当に驚きましたぞ。
一体、何処でそのような技術を・・・。
実演販売が一般的かと言われれば、そうではないと言う他ありませんが、バロンでも実演販売は偶に見かけますな。
多いのは売り出し中の若い魔方陣製作者などで、そう言った者は商人ギルドの許可を得ていない国外の者が多く、道端で店を構えずやっていることが殆どで、暫くすると街の衛兵に見つかり中断させられておりますな」
バロンにおいて実演販売というのは、売れないミュージシャンの路上ライブみたいなものらしい。
しかし、それはあくまでも営業許可を得ない者達がやるからだ。
トトは僅かにその話に興味を示し始めたようで、少し考え込むとカナタに質問を投げかける。
「因みに、今現在ギリル鳥の嘴はどれ位の量をお持ちなのですか?」
「んーと、そうだな・・・。十体分くらいはあるはずだから、このサイズの短剣やナイフ形なら百本分以上はあると思うけど」
「なんとっ、本当ですかな!?それだけあれば、在庫のことは暫く考えなくてもいい。しかし、露店を出しても商品が火打ち剣だけでは直ぐに飽きられてしまうだろうか・・・・、それに詐欺紛いな売り方はやはり店の信用を落とすことになる・・・。いやしかし、確かに故郷への手土産として売るのは面白い発想だ。・・・・ううぅぅむ」
トトはソフィアのお勉強会のことや、商品の買い取りのことなど忘れたようにブツブツと呟き、露店での実演販売についてあれこれ考えている。
カナタのやったように理由をつけて売れば、初めは物珍しさもあり間違いなく売り捌けるだろうが、やはり便利な魔方陣があるこの世界で火打ち石だけを売るのは相当リスキーな事であるのだろう。
「まあ気が向いたら嘴も短剣もお試しってことで超格安で譲るから言ってくれよ。正直、火起こしの魔方陣を見た後じゃ俺もギリル鳥の嘴に関しちゃ殆ど諦めてる。
それより、まだ他にも買い取れるか見て欲しい物があるからそっちを見てもらっていいか?」
「おお!それは有難い。その時は是非とも宜しくお願いします。
勿論、どんな物でも鑑定はさせて致きますぞ!」
「本当か!?そんじゃーーー」
カナタが取り出したのは、森の中で作った木や石のテーブルと椅子のセットが二つ、ステンドグラスに使われるような大小様々な色の綺麗な石で作ったケモ耳美少女シリーズのフィギュア八点、真っ白で大理石のような質感の鉱石から作った食器類だ。
確実に売れるであろう輝晶や魔物からとった素材を大量に持ちながら、何故か物質変形の修行と己の趣味のために作った品々を取り出すという意味不明の行動をとるカナタ。
これには、どういった物がどのような値で売れるのか知りたいという探究心と、自分が作ったかわいい作品を見せびらかしたいという二つの意味があり、作品を貶された時の為に自分が作ったことを明かさないという保険付きである。
しかし、そんな事情など知らぬトトは、まず目の前に突然現れた品々に驚いた様子を見せる。
「これは珍しいーーー!まさか生活魔方陣を知らぬと言うのに宝巾着を扱えるとは・・・。
見知らぬ知識に見知らぬ装い、貴方は一体・・・、何方の国の御仁なのでしょうか?」
「宝巾着を知ってんのか?俺は別に御仁なんて言われるようなイイもんじゃないよ。日本って国の至って普通の家庭で育った、普通の人間だ」
引きこもりを普通の人間と言って良いものかとカナタは一瞬言葉を詰まらせそうになるが、そこは敢えて堂々と言い切ることに決めた。
「日本・・・聞いた事がありませんが、立ち振る舞いを見る限りでは普通の家庭で育ったとは到底思えませんな。
ここに出された品の多くは、素材こそ普通にあるものですが、どれも相当に高度な技術の職人が作った品と見受けられる。
これらを持つと言うことは、見分ける目があるという事であり、かなり高度な教育を受けている証拠と言えるでしょう。
それに宝巾着を知っているのは当然のことです。それを所有するのは多くの商人の夢でもありますからな。
しかし大金を積んで運良く手に入れたとしても扱うには相応のマナが必要なため、多くの者は扱う事が出来ず成功者の象徴としてただ所有するか、実際に使っている場合でもマナの保有量が多い奴隷を使っていることが殆どなのです。
それと、できれば宝巾着を使用するところは他者に見せぬ方が良いかと・・」
「やっぱそうなのか・・・、トトさんが宝巾着を知ってたからちょっと安心したんだけどなぁ。だけど物を取り出す度に一々隠れてちゃキリがないしな・・・。
とりあえず、トトさんにはもうバレたから此処では大丈夫だろ?」
「それは勿論です。商人としての信用に賭け絶対に他言はいたしません。ソフィアちゃんも、いいね?」
「はい!!ソフィー誰にも言わないから安心してね!!」
「ありがとな!そんで、これの買い取りはしてもらえるのかな?」
「勿論ですとも。まず、この大きな机と椅子はどちらも美術品のように美しく、継ぎ目が見られない事から一つの素材を切り出す技法により作られていると思われます。
特別珍しい素材では無さそうですが、これらを作るには相当な巨木と巨石、それに時間と高い技術が必要となるでしょう。
特に木の製品はデザインも珍しいことから、富豪や貴族などにも欲しがる者は多いはずです。
そうですな・・・石の机と椅子二脚がセットで大金貨一枚、木の机と椅子三脚が大金貨三枚で如何でしょう?」
その辺にある岩と木から作った机と椅子が合計四十万円で売れたのだから文句などあるはずも無く、カナタは売却を即決する。
「それで頼む」
「ありがとうございます。次に、様々な種類の石から作られた彫刻ですが、こちらも素晴らしい出来栄えであり、珍しいデザインです。小さいですが、それ故に技術の高さが伺える。
これ程の完成度の彫刻には滅多にお目にかかれないでしょうな。
製作者の名前はお分かりになりますかな?」
机と椅子の作者は聞かなかったことを考えると、トトはフィギュアが相当気に入っているようだ。もう少し柔らかい素材を見つけ次第、少しサイズアップしたリアルフィギュアを作ってみようとカナタは決意する。
「製作者はーーーーー、アースだ。彼はまだ若くて無名だからこれから作品も増える筈だ」
「アースですか、これは良い物と出会えました。他にもアース作品と出会えれば積極的に収集するとしましょう。まだ無名とは言え、素晴らしい彫刻である事に変わりはない。必ず有名になると期待を込め、八点で大金貨二枚で如何でしょうか?」
「十分だ、それで頼む」
「ありがとうございます。もしアースの作品を他にも見つけた際は、どうぞ白猫商会へお売りください。
次に、白雲石から作られた食器ですな。
白雲石の品質も中々の物で何より作りにも品がある。
こちらの皿が二枚で大金貨一枚、ティーカップのセットが二つで大金貨二枚で如何でしょう?」
「俺は大丈夫だけど、そんなに高値で買い取って大丈夫なのか?」
その辺りで拾った物に次々と高値が付くことで、何か悪い事をしている気分になっているようで、カナタはトトを問い正す。
「勿論でございます。白雲石で作られた食器は最高級とされるものの一つで、貴族の女性などを中心に特に人気の商品です。
特にティーカップなどは好んで収集する方も多いため、直ぐに三倍以上の価格で売れてしまうでしょう。
他にも売って頂ける物はありますかな?」
ここまでの売り上げは、白金貨一枚と大金貨九枚。
何とカナタは、苦労して魔物から集めた素材や大量に残る輝晶を出す事なく、日本円にして凡そ百九十万円もの大金を手にしたのであった。
魔物の素材はともかくとしても輝晶については本当に中々手に入らない物らしく、自分で使う為にもこれ以上は売らずに取っておこうと考えている。
「そっか、それなら良いんだけどさ。
他にも魔物からとった素材とか沢山あるんだけど、今日は用事があるからまた近々お願いするよ!
それと、これから冒険者ギルドで登録する金が必要だから小金貨が欲しいんだけど、何か売ってくれないか?」
「おお、それはそれは。いつでも歓迎致しますぞ!
生憎、こちらの店では商品を扱っておりませんので、そういう事でしたら大金貨一枚分は金貨一枚と小金貨五枚でお支払いしましょう。
所で、お二人は今夜の宿はもうお決まりですかな?」
「あっ、そうだった!!トトさん、折角カナタお兄ちゃんが白猫亭に来てくれたのに、空いてるお部屋が特別室しか無かったんです!!」
「おお、それはちょうど良い。
それではカナタさんにグランさん、良ければ今日は特別室に泊まって下さい。
ソフィアちゃんを助けてもらったのだから勿論お代は頂きません」
「それはいくら何でもやり過ぎじゃないか!?特別室は一番高い部屋なんだろ?」
「確かにそうですが、元々特別室は年に数度、各地から集まる従業員達の為に作った部屋でして、宿泊客が泊まることは殆ど無いんですよ。
一泊大金貨一枚もの金額を出すようなお客はそもそも初めから高級な宿に向かいますから、特別室は元から売り上げなどとはあまり関係のない部屋なのです。
それに、本日売って頂いた品の数々により十分に元は取れる計算ですし、どうやらカナタ殿には私がこれまで知り得なかったような知識が多くあります。これは商人としての先行投資ですので、どうかお気になさらずお使いください」
「そっか、それならお言葉に甘えさせて貰うよ。
魔物の素材の買い取りもお願いするし、商品に出来そうな物にも心当たりだけは腐る程あるから、また相談させてくれ」
「おお、それは是非ともお願いしたいですな。いつでもお待ちして居りますので、お気軽にいらして下さい」
早くも金策のツテを見つけることに成功したカナタとグランは、一路冒険者ギルドを目指す。