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GOOD LUCK〜十秒だけは異世界最強  作者: 染谷秋文
第1章 彼方から始める異世界生活
21/72

二十一、六獣騎士


「四十七階層に向かうのは良いけど、メイナさんとヤルさんはどうすんだ?」


  カナタのそんな疑問に、グランが何を悩むことがあるのかと口を開く。


「まだ完全には回復してなくてもメイナは銀色の冒険者で、ヤルも村では強い騎士なんだろ?

 なら村に帰るくらい二人だけで余裕だろ」


  確かに普段の状態であれば、このクルベーラ地下大迷宮をよく知る二人ならば何の問題も無く村へ帰ることが出来るだろう。

  しかしどうやら、ガルーはその意見には賛同しかねるようだ。


「ダメだ。今は俺でさえ到底勝てねぇような魔物が彷徨いてやがんだぞ!?メイナ達だけで帰らせるにはちと危険すぎる」


「なら下まで一緒に連れてくってのか?」


  グランの一言を聞いたその瞬間、メイナ達の表情が立ち所に曇る。

  人生最大とも言えるような恐怖を味わいそして助かったばかりだと言うのに、その恐怖を味わった場所に戻りたがる者など居よう筈もない。

  少なくとも、二人がもう一度下層を目指すにはもう少し時間が必要となるだろう。

  それに例え、共に下層を目指したとしても今のメイナとヤルでは足手まといにしかならない。全員の命を危険に晒すかもしれない以上、二人を下層へ連れて行くという選択だけはあり得ないことであった。

  当然、ガルーもそんなことは百も承知であり、グランの言葉にそれ以上反論することはない。


「なら選択肢は一つ寄りの二つだな。メイナさん達にはこの部屋で待っててもらうか、グランかニケの護衛付きで村に帰るかだ」


「敵が二人で行動してる以上、ボウズと嬢ちゃんが別行動になるのはちと危険過ぎるな・・・」


  ガルーはそう言って改めて部屋を見渡す。

  この場に二人を放置して良いものかと考えて居るのは明白なため、カナタが補足する。


「勿論その場合、部屋は目立たないよう迷宮の壁の中に作り直すよ。それで俺達が此処へ来るまで大丈夫だったんだし、食料と水も置いとけば、少しの間くらい平気なんじゃないか?」


「私はそれで構わないわ。ヤルはどう?」


「ああ、私もそれでいい。もう少し休んで体が回復すれば、何かあった時も自分達で対応できるだろう」


  二人は笑顔でそう答えるが、何処と無く複雑な表情をしている様にも、カナタには見えた。

  少しの不安と、今も石化しているであろう仲間の元へ駆けつけられない不甲斐なさとが入り混じっているのだろうが、それをあえて口に出そうとはしない。

  ガルーも納得したのを確認すると、時間も無いことだしとカナタが部屋作りに取り掛かろうとする。

 しかしその時、何かを考えて込んでいたニケが口を開いた。


「カナタさん、その必要はないのです」

 

「必要ない?どう言うことだ?」


「バロンからの救援がそろそろニケ達に追い付くです」


  何故か自信のある顔つきでそう答えるニケに、ガルーが反論する。


「確かに情報は伝えるよう頼んだが、こんなに素早く救援なんか来る筈がねぇ。

  それに、この場所は俺達が長年掛けて発見した道だぞ?もし嬢ちゃんの言うようにバロンからの救援が死の穴に入ってたとしても、この三十二階層まで全く同じ道を選んで来るのは絶対に不可能だ」


  確かにそれは無理だ。

  ガルーの話を聞いていたカナタもそう考えていた。

  無数に枝分かれした道が存在するこの迷宮において、救援部隊が同じ道を通る可能性などゼロに等しいだろう。


  しかし、ニケの表情に変化は見られない。


「大丈夫なのです。それに、レオル様は自分の力と六獣騎士の強さを疑わないです。伝者がちゃんと情報を伝えてるなら、レオル様はすぐに六獣騎士全員を死の穴に向かわせる筈なのです」


「国最強の騎士を全員だと?いくら何でもそれは言い過ぎだ。

  六獣騎士が王都から離れてる間に何かあったらどうする。ーーーーそれに本当に六獣騎士の強さを信じてるなら、一人か二人寄越せば十分な筈だろ」


「ガルーは何も分かってないのです。レオル様はバロン最強の大騎士なのです。

  それに、六獣騎士の強さを知ってるからこそ、一人でも無駄死にさせるわけにはいかないのです。

  敵が強くてその上限が未知数な以上、レオル様は絶対に全員を向かわせるですし、王国の騎士とバロンで活動する冒険者が殺された以上、敵の殺害許可も出てる筈なのです」


  バロン最強の大騎士ーーー。

  ニケのその言葉の重みを本当の意味で理解している者は、ニケを除きこの場には居ない。

  だがもし仮に王都に何かあろうともレオル王一人が居れば十分なのだと、少なくともニケがそう確信しているということは全員に伝わった。

  カナタはそれを聞いた上で、気になっていた事をニケにぶつける。


「ニケの言う通りだったとして、六獣騎士達はどうやってこの場所まで来るんだ?そんな特級魔法を持った奴が居るってことか?」


「そんな大それた力じゃないのです。六獣騎士の三強にはニケの師匠が居るです。師匠にかかればニケのマナの痕跡を追うくらい簡単なのです」


「三強・・・っていうと、六獣騎士の中でも宿った力を進化させた奴のことでいいんだよな?

 確か妖精獅子族(リオン・シー)とかって種族のさ。

 マナの痕跡・・っていうと、何か歩きながら目印でも残してたのか?」


「目印というより、ただ足の裏にマナを集中させて歩いてたなのです。師匠ならそれを追えるです」


「へ、へえぇぇ・・・。流石ニケの師匠って感じだな。なんか凄え人・・じゃなくて妖精だってことは分かった。

  そんで、ニケの想像ではその師匠が六獣騎士を引き連れてもう直ぐ到着すると?」


「はいなのです。師匠が到着したら怖い者無しなのです!その二人組はぶっ殺されて終わりなのです!」


  自慢気に師匠の話をするニケに、周囲の者は笑顔を見せ、グランだけはソフィーの方が凄いと言いたげな顔をする。


  そんな明るい空気を切り裂くように、突然それは聞こえた。

 


「騎士として、言葉遣いには気をつけなさいといつも言っている筈ですよ?ーーーニケ」









 ***********









「何だ!?」




  突然、聞こえた声に全員が振り向き身構える。

  すると迷宮の通路を横切るように作られた壁の扉がゆっくりと開かれた。

  そこに立って居たのは、獣人風の美しい女性。

  女性はニケを思わせるようなつばの広いトンガリ帽子から猫耳を出しており、ニケのような灰色の髪を腰の辺りまで伸ばし、鋭く長い爪のある綺麗な手には木製の長い杖が握られている。

  それがかなり強力な魔法武器であることを示すかのように、湾曲した杖の先にあしらわれた大きなワインレッドの宝石が存在感を放っており、女性のその佇まいはニケを人型にし、品を併せ持つ大人へ成長させたような、そんな姿をしている。


  女性はゆっくりとカナタ達のいる部屋へ立ち入ると、目の前の状況など見えて居ないかのように話を続ける。


「それに、任務中にレオ達と逸れるのはこれで何度目ですか?先ほどの言葉遣いも含め、後でお仕置きが必要のようですね。

  けれどーーー、今まで皆様をお守りし、此処まで私達を導いたことは褒めてあげますよ。

  良くやりましたね。流石は私の弟子です」


  女性はそう言いつつゆっくりと前進し、ニケの頭へ手を置く。するとニケは、カナタに頭を撫でられた時のような満足気な表情を見せた。


  その様子から、彼女がニケの言っていた師匠なのだと全員が理解するも、Bランクの冒険者であるガルーやメイナ、そしてグランまでもが声を掛けられるまで彼女の存在に気づくことが出来なかったという事実を前に固唾を飲み、ただその光景を見守ることしか出来ないでいる。


「あら?貴方達、いつ迄外に居るのですか?」


  そんな中、女性は自らが歩いて来た方向へ顔を向けて声を掛けると、それに反応した三名の騎士達が部屋へ足を踏み入れる。


「説教が長引くかと思ったんで、こいつらを休ませてたんだよ。道中ずっと説教ばかりだったんでな」


  屈強な獣人風の男、六獣騎士の副官ゼノスを先頭にレオとネオが続いて入り、部屋の中に広がる迷宮とは思えぬ光景を前にした三名は、ニケの師匠であるラミスとは全く違う反応を示している。


「私だって時と場合は選びます。それに道中のことは、ゼノスにとやかく言われる筋合いは有りません」


「あのなーー、俺は副団長だぞ?少しは言う事を聞け。あんなに説教ばかりされてちゃレオ達が不憫でならん」


「副団長であろうと何であろうと、その子達の教育係を任されているのは私ですもの。レオル様以外に指図される謂れは無いわ」


  ラミスは王宮でゼノスから説教を受けた時とは全く違う反応を見せて反論し、ゼノスもそうなる事は分かっていたと言わんばかりのため息を吐く。

  そんなゼノスの心労を他所に、ラミスは視線をキョロキョロと動かしその場の全員を一瞥して口を開いた。


「色々とお話したい事はありますが、まずは其処のお二人が、生死不明だったお二人で宜しいですね?」


  ラミスがメイナとヤルを真っ直ぐに見据えてそう問うと、ヤルはハッとしたように片膝を地に着き、姿勢を低くして答える。


「ハッ!その通りですあります!!」


「楽にしなさい、まだ身体が辛いのでしょ?ネオ、まずは彼等をティキ村へお連れしなさい。ゼノスもそれで良いですね?」


「適任だな・・、それで構わん。ではネオは村へ二人を送り届けてくれ。その後は分かってるな?」


「ハイなのにゃ!」


  豹のような黒い斑点のある妖精猫族(ケット・シー)であるネオは、ラミスの説教から解放されるのが余程嬉しいのか、そう言われた途端に疲れたような顔を、どこかあどけなさの残る笑顔に変えて返事をする。

 

「気を抜かないようにお願いしますね。では次にーーーー」

 

  ラミスは気の抜けたような表情のネオを正すような言葉をかけ、ネオは命令を実行すべくメイナ達へ歩み寄る。

  そして次の議題に入ろうと、ラミスが視線を動かした時、言葉を失っていたガルーが声を上げた。


「まっ、待ってくれ!今の迷宮は異常だ。

 中層より下の魔物が上層や森にまで出現してやがるんだぞ!?そんな状況でメイナやヤルをそいつ一人に任せて大丈夫なのかよ!?」


  先ほど再開したばかりの仲間を、現れたばかりの騎士が突然連れ出そうとしたことに不安を覚えたガルーは、焦ったような顔でラミスとニケを見る。


「貴方がティキ村へ迷宮の異常を伝えてくれたという冒険者ですね?貴方達の行動は、この国に住まう多くの者を救うこととなったのかも知れません。

 この国の騎士として、心からのお礼を申し上げます。

  それと、その方々の護衛についてですが、様々な観点から現状ではネオ以上の適任者は居りません。

 この子は強いですからご安心いただいて構いませんよ」


「本当に、そいつが・・?」


  メイナ達の護衛を務めるというネオの姿や喋り方はこの中でも一際幼く感じられるせいか、ガルーは不安気な顔でネオと同じ六獣騎士であるニケを見る。

  するとニケは、ガルーを安心させるように強く頷き言葉をかける。


「ネオはバロン王国始まって以来の天才と呼ばれてるです。ネオに任せておけば大丈夫なのです」


  その自信に溢れた言葉を聞いたガルーは渋々といった様子ではあるが一応は納得して引き下がり、それを見たネオは直ぐにメイナ達を連れて部屋を出ようと行動する。


「それじゃ、行ってくるにゃ!」


  軽快な声でそう言い残して出発するネオを見送ると、ラミスはカナタに目線を移し笑顔を浮かべた。


「時間が惜しいので、話は出発してからに致しましょう」


 




 *********







「私はバロン王国、六獣騎士の一人ラミスと申します。

  まずはニケを助けて頂いたことにお礼を言わせて頂きます。

  本当にありがとうございました」


  部屋を後にし、再びガルーを先頭にして迷宮を進む中、ラミスはカナタに向かって礼をする。

 

「そんなの全然いいって!俺達も丁度バロンに戻る途中だったってだけだからさ!

  あぁっとーーー、俺は蒼井 奏多で、こっちがグランだ」


  カナタの返答を受けたラミスはグランへ微笑むと、そのまま会話を続ける。


「そう言って頂けて感謝します。では、アオイさん、グランさんと呼ばせて頂きますね。

  早速なのですが、まず始めにはっきりさせておかなければならないことが幾つかあります。宜しいですか?」


「はっきりさせたい事・・・?何だ?」


「まずアオイさんとグランさんのご関係からお伺いしても宜しいでしょうか?

  話では、グランさんはニケの弟子を名乗ったそうですね?見た所、グランさんはかなりお強いようですが、何故わざわざニケの弟子を名乗ったのですか?」


「俺とグランの関係・・・・」


  カナタは突如迫る、核心を突くような質問に戸惑いを隠せない。

  気づいた時には異世界に転移しており、ソフィーに言われて森の中で自分を探していたグランと出会ったなどと言っても信じてもらえる筈がないからだ。

  かと言って、嘘をつけば直ぐにボロが出る。何故だか、ラミスを前に嘘を吐くのは危険だと感じていたカナタは核心部分には触れず、嘘も吐かないような答え方をする他無かった。


「俺とグランにはソフィーって名の共通の知り合いが居るんだ。そんで、何でか分かんないけどソフィーは俺にグランを託した。

 ニケの弟子ってのは、俺とグランがこの迷宮に入るのをガルーさんに納得させるために言ったただの出まかせだ」


  突然、思いも寄らぬ形で判明した事実にガルーは思わず顔を後ろへ向ける。

  一方のラミスはそんなガルーや弟子であるニケの表情を確認し、カナタの言うことが嘘では無いと判断したようだ。


「なるほど、そうでしたか。確かにアオイさんの身のこなしやグランさんの幼さでは、そうでも言わなければ誤解されてしまいそうですね。ではーーー」


「ラミス、前置きはいい。結果はどうだったんだ?」


  腕を組み最後尾を歩くゼノスが、痺れを切らしたように口を開いた。

  結果というのが、何を意味するのか把握できないカナタは鋭い眼光で自分を睨むゼノスを恐る恐る見ると、直ぐに目線を逸らしてラミスへ視線を戻す。


「分かっています。ですがまず、お二人には不快な思いをさせてしまうことをお詫びします。

  ニケの恩人とは言え、国を守る立場としては避けて通れぬ事ですのでどうかご理解を」


  そう言って謝罪の言葉を述べるラミスが何を言おうとしているのか、カナタやグランはまだ理解して居ない様子だが、ラミスはゼノスの問いに答えるように話を進める。


「まず、アオイさんやグランさんに魔法で変装している様子は見られない。同時に、誰かから魔法で操られている可能性も無いわ」


  「なら完全に他人か、例の二人組の仲間かの二択だな」


  そのやりとりを聞いたカナタ達は、漸くラミス達の言っている事が理解できた。

  理由までは分からないが、迷宮に現れた二人組とカナタ達には何か関係があるのでは無いかと疑われている。

  そして、その二人組と同じような時期にバロンへ現れ、身元を証明する方法を持たぬカナタには、この場で身の潔白を証明することは不可能に近いであろうことにも気づいていた。

  状況が状況だけに証拠を提示出来ない以上、ラミス達の心象を悪くしてしまえば最悪の場合、投獄なども考えられるであろう。

  次にどのような質問をされるのか、そしてどのように回答すべきなのか。

  そんなことを必死に考えていると、カナタを庇うようにニケが口を開いた。


「師匠、カナタさん達はずっとニケといたです。その二人組とは別なのです」


「ニケ、分かっているでしょう?私達はバロンを守るべき騎士なのですよ?」


「分かってるです!でもーーーー」


「ではーーーー。ニケがアオイさん達と出会ったのはいつですか?」


「二日前、森の中で会ったのです・・」


「伝者の話では、冒険者とティキ村の駐在兵がこの迷宮へ向かったのは五、六日前。

  道案内を買って出たガルーさん達はかなり死の穴に精通しているようなので、四十七階層までであれば一日か二日もあれば辿り着けるでしょう。

  つまり、ガルーさん達が被害に遭われたのは、ニケがアオイさん達と会うより前です。

  ニケとずっと一緒に居たという情報では、アオイさん達の潔白を証明することはできません」


「でも、カナタさんはニケを助けてくれたです!もしカナタさん達がその二人組の仲間なら、ニケを助けたりしないです!」


「ニケを泳がせることで我等をおびき寄せたかった、という見方も出来ます。

  ニケ。分かっているとは思いますが私達は、何もアオイさん達を犯人にしたい訳ではありませんよ?

  けれど、バロンを守るべき者として聞かねばならぬ事もあります。疑いが晴れれば、その時は改めて謝罪と、ニケを助けて下さったお礼をさせて頂きます。

  アオイさん、それで宜しいでしょうか?」


「ああ、俺は構わないよ。そっちも仕事なんだからしょうがない。

  ただ先に聞いときたいんだが、いいか?」


「そう言って頂けると助かります。ええ、もちろん構いませんが、聞きたい事とは何でしょう?」


「まず言っておきたいんだが、俺達はその二人とは何の関係も無い。

  だけど、絶対に仲間じゃないと証明する方法も無い。その場合、俺達はちゃんと解放してもらえるのか?」


  「可能性を言い始めればキリがありません。絶対に仲間では無いと証明することなど、私達を含めた誰であっても不可能なことでしょう。

  ですが、我々は同じ六獣騎士の者を疑いなどしません」


「なるほど・・・、要は信用の問題だってことか。なら聞かれたことに正直に答える以外に無いな。

  それともう一つ確認なんだが、俺はガルーさんや駐在兵達がこの迷宮に入ったって言う五、六日前、バロンの王都に居たんだがそれは潔白を証明する事にはならないのか?」


  カナタはそう言ってレオを見る。

  レオ達が街中で暴れる狼馬を沈めた後、何処かへ急ぐように消える直前、カナタはレオと目が合った気がしたことを覚えていたからだ。

  本当に目が合ったのか、もし合っていたとしてそれをレオが覚えて居るのか。

  それは定かではないが、カナタは祈るような気持ちを込めてレオを見ていた。

  しかし、レオは前を向いて歩くのみでカナタに目を合わせようともしない。

  やはり覚えて居ないかと諦めかけたとき、最後尾を歩くゼノスから意外な言葉が出る。


「確かにお前らしき漆黒の髪の青年を見たとレオから聞いてはいるが、四、五日前バロンの王都に居たとしても冒険者達の移動時間を考えれば、彼等がこの迷宮で被害に遭うのはその少し後だ。実力者で尚且つ下層への道順が頭に入っているとするなら、冒険者達より速く移動するのは不可能では無いだろう。

  それに、今そんな事は別にどちらでも構わんのだ。

  ラミスが言う以上お前達と迷宮に現れた二人とは別人なのだから、いつ王都に居たのかなど何の関係もない。

  問題なのはお前達は何処の誰で、何の目的でバロンへ来たのかということだ」


  レオが自分を覚えていたことで助かったと肩を撫で下ろそうとしたのも束の間、まさか迷宮の二人と別人だと証明されてしまったが故に疑いの目を晴らすことが出来なくなってしまうとは想像もしていなかったカナタに、最も答え辛い質問が飛ぶ。


「どうした、答えられんのか?」


  元から疑いの目を向けていた相手がそのような単純な質問に言葉を詰まらせれば、どう思うだろう。

  カナタは、兎に角早く答えねばと焦りを強め、やはり嘘は言うべきで無いと判断した。


「俺の故郷は日本って名の国だ。バロンに来た理由はよく分からない。気づいたら居たんだ」


  「ほう・・・。ニホンとは聞いたことの無い土地の名だがなるほど、その珍しい身なりはそういう理由か。

  だが、気づいたら居たとは随分な言いようだな。苦し紛れの出まかせにしても酷すぎるが・・・。

  ラミス、例えば他者の何らかの力で行動を操られ王都へ入り、目的を達した後で行動支配と記憶を消されている可能性は?」


「さぁ?けれど、もしそうであれば私には検知不可能ね」


「なっーー!?待ってくれ、それを言うならバロンに居る全員にその可能性があるだろ!?」


「それはさっきお前自身が分かったと言ってただろう。信用の問題だとな。

  現状ではただ、他の者達よりお前達が怪しいと言うだけの話だ。

  だからと言って別にお前達を二人組の仲間だと決め付けるつもりは無いが、故郷を聞けば聞いたこともないような土地の名を吐き、バロンへ来た目的を聞けば記憶が無いと言う。

  その情報だけでお前達を潔白と判断しろと言う方がどうかしている」


「それは確かにそうなんだが、俺は嘘なんて吐いて無い。ならどうしろっつんだよ?」


「答えられんなら別にどうもせんでいい。俺はバロン王国騎士団の副団長として、バロンを守るだけだ。

  お前達が妙な真似をする気なら容赦はせんが、このまま何も起こらなければお前達はニケの恩人だ。

 礼もさせてもらおう。

 だが、何方にしても暫く見張りは付けさせてもらうからそのつもりで居てくれ」


「えーーーっ!?あっ、そうなの?案外そういう理性的な感じなんだ?」


  ゼノスの意外な言葉に、カナタはキョトンとした表情を見せる。

  だがゼノスのこの言葉は、自分達の絶対的優位を確信しているからこそ出るものであった。

  例え迷宮に現れた二人組とカナタ達が仲間であり、この先でカナタ達と二人組が合流して暴れ出したとしても、それに対処出来る自信がゼノスにはあるのだ。

  これまで黙って話を聞いていたグランもこれには言いたいことがあるようで、初めてニケ以外の六獣騎士へ自ら声を掛けた。


「おいオッさん!余裕ぶっこいてるが、いいのか?俺らが此処で暴れ始めたらどうする気なんだよ?」


  バロン王国騎士団の副団長であるゼノスを威嚇するように睨み付けるグラン。

  六獣騎士に囲まれたこの状況で何を言い出すのだと、カナタは焦ったようにそれを辞めさせようとするが、ゼノスは特に気にした様子も無く先ほどと同じ口調で答える。


「ふむ、お前ごときが相手なら左手だけで十分だな」


「なっ!?何だとーー」


  グランはその言葉と、自分に興味を示そうともしない態度に顔を引きつらせ、決闘を申し込みそうな勢いでゼノスを睨み付ける。

  そんな状況でも他の六獣騎士は顔色一つ変える事なく前だけを向いており、それが更にグランのプライドを刺激する。


  それを見兼ねたニケが口を開いた。


「止めるです。ゼノス様に勝てない事くらい、最初から分かってるはずなのです」


  「な・・・何だよそれ!?かっ・・、勝てるっつぅんだよ!!」


「勝てないのです」


「うっせぇ!!やってみなきゃ分かんねぇだろうが!!」


「分かるです」


  「てっ・・・テメェに何が分かんだよ!?」


「グランがゼノス様に勝てないことなのです」


「なっーーー!?て・・てめぇ」


  ニケの言う通り、グランはゼノスとラミスを視界に捉えた瞬間、全身の毛が逆立つような強烈な気配を感じていた。

  だと言うのに六獣騎士の接近にすら気付けなかったという事実を前に、危機感を覚えていたのだ。

  その思いが焦りとなって現れている事を何となく察したニケはあえて事実を突き付けることでグランを落ち着けようとしているようで、グランはその思いを知ってか知らずか、それ以上ニケへ反論することなく、舌打ちをしてガルーの横へ戻っていった。


  カナタは肩を撫で下ろして溜息を吐き、ニケへ向けて親指を立てる。

  それに一瞬表情を緩めるニケだったが、横を歩くラミスの姿を見ると、顔を引き締め周囲の警戒に当るのだった。

 

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