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GOOD LUCK〜十秒だけは異世界最強  作者: 染谷秋文
第1章 彼方から始める異世界生活
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十五、死の穴で見た者



「と、兎に角、仲間や騎士達は死の穴で今も生きてるかも知れないんだよな?早く助けに行かねぇと!」


  森の変化についての話を無かった事にするように話題を反らすカナタ。


  「ああ・・・その通りだ。情けねぇが、俺ぁ今からバロンのギルドと騎士団に救援依頼を出しに行く」


「そんじゃ、俺達は先に死の穴に行ってガルーさんの仲間と妖精猫族(ケット・シー)の騎士達の探索だな。二人共、それでいいか?」


  カナタの問いかけにグランとニケは迷わず首を縦に振るが、ガルーは違う。焦った表情を見せ声を上げた。


「ちょ、ちょっと待て!彼処はお前らみてぇな子供が遊びで入っていい場所じゃねぇ!Bランク(シルバープレート)の俺達が束になっても敵わねぇような奴が彷徨いてんだぞ!?」


  今まさに死に物狂いで逃げて来たガルーがそう考えるのは当然の事であろう。

  自分の力ではどうにも出来ないと分かっているからこそ、Bランク(シルバープレート)の冒険者にまで上り詰めたガルーがプライドを捨てて救援依頼を出しに行くのだ。

  そんな危険な場所に何処からどう見ても素人丸出しのカナタと、小さな魔術士見習いのような子供、それに妖精猫族(ケット・シー)一匹程度が行ってどうなると言うのだ。

  むざむざ殺されに行くような真似を黙って見過ごせる筈がなかった。


「大丈夫だって。ヤバかったら逃げるし、それにガルーさんに治癒魔法を掛けたニケはバロンが誇る六獣騎士の一人だぜ?」


  バロンの六獣騎士。その名はガルーも周囲の野次馬の多くも聞いた事があった。

  目の前の小さな妖精猫がまさかそれ程の実力者だとは思わず目を白黒させる冒険者達と、その様子を誇らしげに眺めるティキ村の妖精猫族達。

  ガルーは周囲の妖精猫族の様子からも、カナタの言う事が嘘では無いと悟った。


「まさか・・こんなお嬢ちゃんが、この国最強の騎士の一人だと・・・・?

 だっ、だが。

  お前達二人まで死の穴に入る理由は何だ!?お前はどう見ても素人だし、そっちはまだ子供じゃねぇか!

  いくら六獣騎士の一人でも足手纏いを二人も連れて、魔物やあんな化け物二人組を相手に出来るわけがない。悪いこたぁ言わねぇから、此処でじっとしてるか俺と一緒にバロンに来い!」


  確かにもっともな意見だと、周囲の野次馬からも声が上がる。

  妖精猫族達からしても、バロンの大切な騎士を不用意に危険に晒すことなど許せる筈もなく、ガルーの意見を支持する声が多く聞かれた。

  ニケは村人達のそんな不安を払拭するように口を開く。


「大丈夫なのです。カナタさんはやる時はやる男なのです。それにその子供は殺しても死なないような子なので、やはり大丈夫なのです」


  六獣騎士の一声ということもあり、いくらカナタが大丈夫だと主張するよりも説得力はある。

  ここはニケに任せた方が無難だろうと、下駄を預ける事にした。


「殺しても死なない・・?意味が分からんな。

  その子供が何だってんだ。

  というか、そもそも其奴らは一体誰なんだ?どうしてこの国の六獣騎士とそんなガキ共が親しげに話してんだ?」


  ティキ村に駐在している騎士ならまだしも、六獣騎士の一人であるニケが見たこともない格好をした素人青年と、人族らしき子供を連れてティキ村に居ること自体、意味が分からない。

  あるとすれば国賓として招いた客人とその護衛などだろうかとガルーは考えるが、カナタのボロボロになった服や護衛の少なさなどから考えても、やはりしっくりこない。

  それにもし本当に国賓だったとしても、そんな貴族のお遊びで死の穴に入ればどうなるかなど火を見るよりも明らかであり、せっかく仲間を助けるために救援依頼を出しても、目の前の素人の救援を優先され、その間に仲間が死んでしまう恐れすらある。

  ガルーにとって、目の前の素人や子供が死の穴へ向かうことを阻止しようとするのは当然の成り行きだった。

  一方、ニケにとって死の穴で助けを待っている騎士達はバロンの国民であると同時、直属ではないにしろ自分の部下に当たる者達だ。

  時折見せるカナタの正体不明の強さやグランの底知れぬ強さを知るニケにとって、ガルーの話を聞いた後であろうとも、死の穴に入ることは決して自殺行為では無いと思えていた。

  一刻も早く部下の救出に向かいたいこの現状でガルーの問いかけにどう答えるべきなのか、ニケは表情を変えることなく至って自然に返答を出した。


「カナタさんはニケの命の恩人なのです。数日前、森で魔獣に襲われていた所を助けて頂いたです。

  その子供は・・・・、ニケの弟子なのです。そうそう死なないので安心して大丈夫なのです」


  ニケを襲う程の魔獣を倒す実力者と、六獣騎士が太鼓判を押す弟子の魔道士。

  周囲の野次馬からは騒めきが起こり、ガルーは目の色を変えてカナタとグランを交互に見る。

  どう見ても戦いとは無縁の身体つきをした青年と小さな子供ではあるが、何か特別な力があるのかも知れないと自身の思いを取り敢えずは呑み込んだ。

  グランに関しては勝手に弟子扱いされ納得出来てはいないようだが、カナタに諭されたことやニケが自分の正体をバラさなかったことへの意外性のためか、何とか声を荒げずに事態を静観している。

  だが今後、グランが魔道士の格好に化けるのを受け入れることはないだろうと、カナタは頭の片隅で次のコスプレ衣装について考える。


「六獣騎士がそう言うなら其奴らの実力は本物なんだろうが・・・、だからってあの二人組に勝てるたぁ思えねぇ。

  やっぱ俺とバロンへ行って、冒険者やら騎士団やらを集めてから死の穴へ向かうべきじゃ・・・」


「必要ないのです。時間を掛けて足手纏いを増やして何の意味があるですか?です」


  足手纏いーー。その言葉にガルーが反応する。

  冒険者は兎も角、ニケの部下である騎士達を足手纏い呼ばわりするなど、下で働く者達が聞けばどんな思いをするのかと、ガルーは怒りを覚えた。

  だがカナタの平和主義もといビビりレーダーが、ニケのその発言を只ならぬ誤解を生む言葉だと察知し、迅速な対応を取らせた。


「あぁ、ガルーさん。

  ニケが言いたいのは、時間を掛けてたら取り残された奴らが手遅れになるかも知れないし、そんな危険な場所に大人数で行ったら無駄死にする奴が出るだけだから、少数精鋭で向かうべきだって事だ。ーーと思う。

  ガルーさんが見た奴らがそんなにヤバい奴等なら、今は戦うより見つからずに行動する事の方が重要だろ?」


  Bランク(シルバープレート)の冒険者ともなれば、カナタに言われずともその程度のことは一瞬で判断出来る筈だ。

  そんな当たり前を狂わせるほど、ガルーはその二人組に恐怖していた。

  カナタの言葉にハッとし、自身が正常な判断力を失っていることに漸く気がついたガルーは、その大きな拳を固めて自分の頬を強打する。

  すると巨大な岩をハンマーで叩いたかのような、到底生物の身体から鳴ったとは思えぬ凄まじい音が響き、カナタは改めて銀色のプレートを持つガルーという冒険者の強さを実感していた。

 


「・・・すまねぇその通りだ。

  よし・・・・っ!なら俺も行くぜ!

  俺の仲間が助けを待ってるってのに、見ず知らずのお前達に任せとくわけにゃ行かねぇからな!!」


  自身の拳を受けて口から血を流すガルーは、腹を括ったように声を上げる。


  がーーーー。



「邪魔なのでーーーー」


  ニケが何かを口走りそうに、というかほぼ口走った所でカナタがその口を塞ぎ、間に割って入る。


「ガルーさんはバロンへ向かってくれ。身体は回復しても武器が折れてんじゃ力半減だろ?

 それに俺達だけじゃ、全員の救出は無理かも知れないから、救出要請はどっちにしても必要だと思うんだ。とニケは言っている」


「いま完全に邪魔って言ってただろ・・・。

  だが確かに兄ちゃんらの言う通りだな。なら俺ゃ、バロンへ走ってこの事を伝え、手練れを連れて必ず戻ってくるからよ。

  だからそれまでの間、死ぬんじゃねぇぞ・・」


「俺たちだって死にたくはないから、ヤバいと思ったら逃げるさ。

  それよりガルーさんの仲間と化け物二人組の情報をくれ。間違えたら大変だからな」


「間違えるこたぁねぇと思うが・・・。

 俺の仲間は三人とも獣人だ。一人は犬人族のケンロイって若い男で耳が垂れてて、もう一人は深紫色の髪の猫人族で、メイナって名だ。ケンロイは剣、メイナは槍を使う」


  三人の仲間と言いつつ、ガルーは二人の名前しか出さない。

  今は殺された仲間のことを考えないようにしているのか、悲しみを怒りが上回っているのか、ガルーがそれ以上仲間について語ることはなく、仲間を殺した者達について語り始めた。


「仲間を殺した二人組だが、一人は蛇女、もう一人は人の姿をした子供で、実際に俺達八人と戦ったのは蛇女一人だ」


  女と子供。その言葉を聞いた周囲から再び騒めきが起こる。


「蛇女ってぇと、下半身が蛇で上半身が人間のナーガみたいな感じか?

  その女はどんな風に戦うんだ?」


蛇人族(ナーガ)とは少し違うな・・。形は竜人族に(ドラゴニュート)近い。下半身も人の姿で、手足は鱗で覆われ鋭い爪があった。蛇なのは髪と太え尻尾で、尻尾の奴に噛まれると傷口から石化が広がっちまう。

  戦い方は体の爪や三叉槍を使った肉弾戦だが、同時に頭の蛇と尻尾の蛇を巧みに操って戦うのが厄介でな。頭の蛇は太さと数を自在に変えられるから複数で掛かっても効果が薄い」


「石化・・。竜人族とメデューサが合わさったような感じか・・・。確かにヤベェ・・というか、何処かで聞いた能力で造られたみたいな生物だな。

  そういえばもう一人は子供だって・・・」


  ハッとしてグランを見るカナタ。

  しかしグランは首を横に振り、自分ではないとカナタにだけ分かるようにアピールする。

  確かにその子供がグランだったとすれば、ガルーがとっくに反応しているはずだ。

  カナタは思考を切り替えて情報収集を続ける。


「そりゃ確かに厄介だが、仲間や騎士が運が良ければ生きてるってのは、その石化を受けて固まってるってことか?それなら確かに、敵と見間違えることは無いな」


「二人はそうだが、俺の仲間のメイナと妖精猫族の一人は傷を受けた状態で何処かにいる筈だ。戦える状態じゃなかったんで、時間を稼いでる間に退避させたんだが、この村にも此処へ来る途中にも居なかった。

  血の跡が途中で消えてやがったから止血して二人でどっかに身を隠してるか、或いは・・・」


  魔物に喰われたか。

 

  その可能性が高いことはこの場の全員が理解しており、ガルーも敢えてそれ以上は言わず半ば諦めているようにも見える。


「それとだ、本当にヤベェのは多分ガキの方だ。蛇女が異常な程ビビってやがったからな」


  周囲の野次馬は、既に言葉を失い押し黙っている。グランを知るカナタにとって、相手が子供だからといって弱いと決め付けるような考えは既に無く、死の穴と呼ばれる程危険な迷宮に居る時点でその二人組が普通でないことはある程度想像できていた。

  だがそれを想像出来ようとも、その力を一切見せていないのだから対策の立てようがない。

 

「そりゃ、見かけたら逃げる方が懸命かもな・・・。(多分無理だろうけど・・・)」


  グランに視線をやるカナタはそんなことを考えるが、敢えて口には出さない。


「なら俺達はメイナさんと妖精猫族の騎士を捜索しつつ、石化してる二人を見つけて連れ帰れるよう行動すりゃいいのか。

  というか・・・・、それならやっぱバロンからの救援って必要なくね?怪我人を二人探しつつ石化してる二人を連れ帰るだけなら取り敢えず手は足りる。

  寧ろどれだけ早く到着出来るかが勝負なんだから、ガルーさんには道案内をお願いしたほうが良いんじゃないか?」


  いくら賢者の加護を持つグランでも、見たこともない者達が石化している場所など分かるとも思えず、ガルーの話では其処へたどり着くまでにはかなり入り組んだ路を行く必要があるようだ。

  石化した者達が無事なのかは分からないが、こうしている間にも石化した体が危険に晒されているかもしれないのだから、ガルーの存在の有無は彼らの生存率に大きく関わるだろう。

  ニケもそれを分かっているのか反対意見は出ず、ガルーもそれを確認して口を開く。


「よし、案内は俺が請け負った!そうと決まれば一刻も早く出発してぇんだが・・・。その前に一応バロンへ情報は伝えておくべきだろう。

  俺達だけでメイナ達を見つけられるとは限らんし、それ以前に俺達に何もないとは言い切れない。というより、あの二人組みに会っちまえば無傷でいられるはずがねぇ。

  誰か、バロンへ行ってこの事を伝えてくれる奴はいねぇか!?」


  ガルーが周囲を見渡して声をあげると、直ぐに二人の妖精猫族の男が名乗りを上げた。


「俺が行こう。森の中なら俺達の方が速い」


「一人では危険だ!私も同行するぞ!」


  何方も揃いの鎧を付けていることから、商人などではなくティキ村に駐在している兵なのだろ。

  村を守るという任務に着いている以上、勝手に村を離れる訳にはいかないのか、二人は揃ってニケを見ている。

 

「ニケが許すです。頼んだのです」


  その意図を汲んだニケがそう命令すると、命を受けた二人の騎士が一糸乱れぬ動きで脚を揃え拳を胸の前に押し当てる。

  すると、その動きに伴って鎧の音が鳴り響いた。


「「ハッ!!」」


  腹の底から出されたその声は、それぞれの固い決意を表しているかのような、そんな印象をカナタに与えた。

 


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