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GOOD LUCK〜十秒だけは異世界最強  作者: 染谷秋文
第1章 彼方から始める異世界生活
14/72

十四、死の穴



  賢者の加護にマップ機能があると判明して丸一日と数時間。

  一行は相も変わらず森の中を歩いている。


  カナタのせいで距離が遠くなったというのもあるだろうが、やはり魔物の数が多くなっているのか、少し進む度に魔物と出会すせいで、思うように進めていないというのが現状であった。

 


「そう言えば、グランはバロンの街に行ったことあんのか?

  確か、行ったことのある場所しか分からないんだろ?」


「入ったことは無ぇけど、街を取り囲むデカイ塀の外までならあるぞ。たまたま見つけたんだけど、森の中でカナタを探さなきゃいけなかったし、昼間の姿で入ったら大騒ぎになるだろうから直ぐに森に戻ったんだ」


  竜化の力を使っていない昼間のグランは、服に守られていない場所全てが火傷した様に爛れ、皮膚からは引っ切り無しに煙を上げているせいか嫌でも目立ってしまう。

  そして影に入れば見る見る内に火傷が完治するのだから、確かに昼間グランが人里に現れればちょっとした騒ぎになることは間違い無いだろう。

 

  バロンに着く前に何か考えねばと、カナタは魔物と戦うニケを見る。


  ゆっくりと休んで魔法を使えるようになったニケは、カナタに近づくギリル鳥や針千牛は勿論、狼の群れや凶暴な狒々、猪を捕食するゴキブリ風の虫、熊や巨大鴉など実に様々な生物が現れる中、それらを全て蹴散らして行く。

  本人曰くいくつかの魔法を扱えるらしいのだが、これまで全ての場面で、土を使った攻撃を用いることで魔物に対処している。

  その中で最も多いのが、足元から土の棘を突き上げ魔物を串刺しにすると言うもので、理由としては突っ込んでくるしか能の無い魔物にはこれが一番効率的だから、というものらしい。


  事実、今も頭が二又に分かれた大蛇を同じ方法で仕留めた所である。


「おっ、蛇は美味いって聞くし、後から食べてみるか!」


  それを聞いたグランはすぐ様、ニケの倒したムシュガという名の二頭蛇に食らい付き血を吸い尽くす。

  全ての魔物から素材を回収して精肉していたのではいつ迄経ってもバロンなど見えて来ないため、カナタが獲物を解体する場合にのみグランは血を補給しているのだが、その光景見るニケの目は決して友好的なものではない。


  「・・・カナタさん、ムシュガの牙には猛毒があるので気をつけて下さいです」


「猛毒のある牙か・・、それも買い取ってもらえるかも知れないから回収しとくか!サンキューなニケ!」


「テメェ・・ニケ!!次に答えるのは俺の番だったろ!?横取りすんなよな!」


  「ダラダラと血なんか吸ってるからです。それにカナタさんは質問してないからいいです。ニケが自分で思った事を言っただけなので横取りじゃないです」


「なっ・・・!ぐぬうぅぅぅ」

 

  どちらの方がより物を知っているか、どちらがより多くの魔物を倒せるか、どちらが早く食事を終えるか、二人は事ある毎に張り合い、ニケに至っては半吸血鬼であるグランに対して未だに良い感情は抱いていないようだが、今が争っている時ではないと分かっているのか、昨日のような実力行使に出る様子は見られない。

  だがニケとしては、グランの道案内に着いて行かねばならぬことが癪に触るようで、逆にグランはニケが次々に魔物を倒してしまうせいで自身の修行相手が減ることに危機感を覚えている。

  たった一日とはいえ、両者のフラストレーションがかなり溜まっていることは、カナタの目からみても明らかだった。


「まぁまぁ、二人とも落ち着け。今は森で何が起こってるか分からないんだから、無駄な体力は使わず温存しとくべきだぞ?」


  もし本当に魔王級と言われるような魔物が現れたとすれば、確かに少しでも逃げるための体力を温存しておくべきだ。

  グランもニケもそれを分かっているからこそ派手な攻撃を控えつつ魔物を蹴散らしているのだが、道に迷った挙句何もしていないカナタがそれを忠告するのだから可笑しな話である。


「ぷはぁー、まじぃ・・・。

  カナタ!終わったぞ!」


  吸血終了の知らせを聞いたカナタは、竜包丁を作ると再びグランに合図を出す。

  流石に十メートルを超える大蛇の頭を二つ切り落としたり、皮を剥いだりするには力のないカナタでは時間がかかり過ぎるため、首に据えた竜包丁を上空からグランが踏み付ける事で太い首を切断したり、馬鹿力を利用してムシュガの頭から尻尾の方向へと皮を引っ張ることで靴下を脱ぐように皮を剥いだりと、要所要所で作業時間短縮に努めているのだ。

  剥き出しになった肉をぶつ切りにしてから宝巾着に入れとりあえずの作業を終えると不折剣(オルナ)を腰に戻し、直ぐにその場を後にする。


「よし、猛毒牙も回収したし・・・、出発しようか」


  夕飯にはまだ早く、優雅にお茶をしている場合でも空気でもないため、一行はすぐに移動を開始する。

  道案内のグランを先頭にして次にカナタが続き、その後ろに後方とカナタの周囲を見張る役目のニケが並ぶのだが、前後を二人に護られたカナタと言えば、次の食卓の献立を考えたり周囲の果実や山菜、珍しそうな鉱物などを探してキョロキョロとしてはしゃいでいることが大半で、数分ほど魔物と会うこもなく進む中、そんなカナタの目があるものを捉えた。


「ん・・・?あれって・・・・村じゃないのか?」


  進行方向に向かって右手側、鬱蒼とした森の中に明らかに人工物と思しき木の建造物が目に入る。

  高い木の柵に囲まれている場所にはいくつものツリーハウスがあり、それらが外からも見て取れたことで柵の中に村があるのではと、カナタは想像したようだ。

 

  そんなカナタの視線を受けたニケが、質問される前に答える。


「あれはティキ村という、多くの妖精猫族(ケット・シー)が暮らしてる村です。

  この辺りには世界有数の巨大地下迷宮があるので、昔からバロンの冒険者達の宿場村として利用されてるです」

 

  「へえぇぇ、世界有数のねぇ。まさかこんな森の下に迷宮が広がってるとは想像もつかなかったよ」


「クルベーラ地下大迷宮という迷宮で、別名“死の穴”と呼ばれてるです」


「死の穴?そりゃまた物騒な名前だが・・・、まさか一度入ったら出て来れないとかか?」


  その問いに、ニケは横に首を振る。


「普通に出て来られるです。だけど、まだ誰も最下層に辿り着いたことがないとされてる迷宮で、竜神の遺産が眠るとされる迷宮でもあるです」


  “竜神の遺産”。またしても出た知らない言葉。それを聞いたカナタの表情を横で見ていたグランが割り込む。


「竜神の遺産ってのは、大昔に居た強え竜達が残した力のことだ。ある戦いに勝てないと悟った最強の竜達は、死ぬ前に自分の力を幾つにも分けて世界に散らしたらしい。

  その力ってのが今この世界にある加護や特級魔法ってのになったんだってさ」


  やっと知っている単語が出たことで意気揚々と答えて満足気なグラン。


  それを聞いたニケは、怪訝な顔をして口を開く。


「加護や特級魔法を作ったのが伝説の竜神達・・です?そんな話を何処で聞いたです。

  竜神の遺産は加護や特級魔法だけとは限らない筈なのです!デタラメ言いやがるなです!」


「デタラメじゃねぇ!ソフィーがそう言ったんだ。

  竜神の遺産を手に入れるのは俺の目標でもあるから、ちゃんと勉強してんだよ!」


「吸血鬼が竜神の遺産・・、笑わせるなです。何を企んでるですか?です!

  手がつけられなくなる前にニケがぶっ殺してやるです!」


「何だと!?やれるもんならーーーーーー、って・・・・・・、なんか村が騒がしくないか?」


  又しても言い争いの始まりそうな雰囲気にため息を吐くカナタだったが、以外にもグランの一言によってニケの意識は村へ向かう。

  確かにグランの言う通り、木の柵の中からは村人と思われる者達が色めき立っているような声が聞こえており、普段のティキ村を知るニケもその違和感を感じたようで、村の方向を注視していた。


「確かに何か騒がしいようなのです。

  カナタさん、村でここ最近の森の様子も聞きたいので、寄ってみるのです」



「だな。なら少し準備するから、ニケは先に行って待っててくれるか?」



「・・・カナタさん、ニケを置き去りにする気では・・・です」



「ははっ、しねぇよ。グランがこのまま村に入ったら騒ぎが大きくなんだろ?」



「・・なるほどです。確かにその通りなのです。

 ではニケは先に行ってるです」



「ああ!俺たちも直ぐに追うよ」









 ***********








  グランの変装を終えると、二人は妖精猫族の門番が立っている開きっぱなしの門から村へ入る。

  飛竜の羽から作った黒いトンガリ帽子に木で作った杖を持つグラン。

  どこからどう見ても魔術師見習いの子供で、寧ろジャージに白いティーシャツというこの世界ではまず見られないであろう服を着ているカナタの方が目立つくらいである。

 

  門番を務める細い槍を持った妖精猫族は、カナタを一瞥すると声をかけてきた。


「止まれ。君達は冒険者かな?」


  二人を妙に警戒している様子だ。


「まぁ正しくは見習い・・かな?ニケの連れなんだけど通っていいかな?」


「これはこれは!ニケ様のお連れの方でしたか。

 失礼をした。

  今は村が騒ぎになっているのでな、許されよ。

  ニケ様ならこの通りを真っ直ぐに行った“白猫酒場”という酒場に居られる筈だ」


「白猫酒場だな!ありがとよぉ!」


  確か猫耳ソフィーの働く店の名も白猫亭だったと思い出したカナタは、そういう名が流行りなのだろうと割り切り、特に門番に質問することも無く門を潜る。

  ティキ村に入ってまず驚いたのは、その広さだった。


「へえぇ、思ったよりかなり広いんだな」



「ああ!!スゲェ・・これが村ってやつかぁ!!」


  カナタ達が外から見ていた木の柵は村の端にある本の一部だったようで、中は楕円形に大きく広がっていて建物も多い。

  小さな集落かと思いきや、多くの冒険者が行き交う立派な村であった。

  木の上に立つ多くのツリーハウスのお陰か、村の空間は縦にも広がっている様に見え、それがより一層ティキ村の空間を広く見せているようだ。

  目を輝かせて周囲を見回すグランに、カナタはまさかという疑問を投げかける。


「ん?なんか、まるで村を見た事が無いような言い方だな?」


「ああ、中に入ったのは初めてだ!今まではずっと森や迷宮で暮らしてたからな」



「まじかよ・・」


  これまでソフィアと共に過ごして来たグランは、来る日も来る日も森や迷宮に篭り修行と勉強の日々だったと言う。

  村や街の近くを通る時に獣人や人族を見かけた事はあったが、これ程多くの者達が闊歩する姿を見るのは初めての経験のようで、村の中を歩く者達の姿を食い入るように見つめていた。

  暫くそんな姿を見ていたカナタは、村の中心付近に差し掛かった時、グランの目付きが変わったことを見逃さない。

  その目線を辿った先には人混みが出来ており、そこには思惑通りニケの姿があった。


「おっいたいた。待たせたなニケ!何か分かったか?」


  雑踏の中、その声を拾ったニケの耳がピクリと動く。


「カナタさん・・と、貴方は誰ですか?です」


  振り返ったニケは変装したグランを一瞥した後ワザとらしくそんな事を言い、“冗談なのです”と話を続ける。


「ティキ村の皆さんも森の異変には気づいていたようなのです。

  そして数日前、“死の穴”探索の拠点としてこの村を訪れていた複数の冒険者から、“死の穴にとんでもない化け物が居る”との情報が齎されたそうなのです。

  そこで村に駐在していたバロンの騎士と案内の為の冒険者数名で死の穴へ偵察に入り、戻ったのは彼一人だけだそうです」


  ニケが視線をやった先には、血だらけでボロボロの鎧を纏った冒険者風の男。

  栗毛の毛を持ち犬のような風貌の屈強な男だが、その表情に覇気は無く、余程恐ろしい目に遭ったのかブルブルと震えている。


  それでこの騒ぎかと納得したカナタは男の様子を見た後、駄目元でニケに尋ねる。




「それで、死の穴で何があったのか分かったのか?」


  ニケは案の定、首を横に振り答える。


「いえ、まだなのです。傷だらけだったのでニケが治癒魔法を掛けたところなのです」


  ニケが治癒魔法を使える事に内心驚くも、そのような話をしている場合ではない。

  カナタはすぐに思考を切り替え、如何したものかと男性を見る。

  余計なことを聞いて恐怖を甦らせるのは得策では無いように思えたからだ。


  しかし、その視線を受けた犬の様な風貌の男は、決心したように自ら語り始めた。


「も、もう大丈夫だ・・・。お嬢ちゃん、あんがとよ」


  声も身体も震えるまま気丈に振る舞う男性は、ニケの頭に手を翳し話を続ける。

  頭を撫でられるニケが思いの外無表情なことが気にかかるが、カナタはそのまま男性の話に耳を傾けた。


「俺ぁ冒険者をやってるガルーってモンだ・・」


  その背には折れている巨大な剣を担ぎ、首からは銀色のプレートがぶら下がっている。

  カナタが冒険者ギルドのアルンから聞いた話では、冒険者ランクはFからSまでの“九段階”あり、Fは木のプレート、Eは獣角、Dは鉄、Cは銅、そしてBランク冒険者には銀のプレートが支給されている筈。

  世界に数十万とも数百万とも言われる冒険者の内、この銀のプレートを持つ者は数万程度しか居らず、そのプレートを見たカナタは目の前のガルーという男が如何に冒険者として熟練されているのかを瞬時に理解していた。


「五、六日ほど前だと思うが、死の穴から戻って見りゃ、村の中ではある化け物の話題で持ち切りになっていた・・・」


「話題・・・、死の穴の化け物についてか?」


「ああ・・・そうだ。話を聞いてると、どうも俺達が見かけた化け物と特徴がピタリと一致してたんで、この村の騎士に話したんだ。

  近頃森の様子がおかしいってのは冒険者ギルドの張り紙で知ってたから、何か関係があるんじゃねぇのかってな。

  すると化け物を見た場所を聞かれたんで、道案内を買って出た。

  死の穴は入り組んでるから口で説明するのは無理だってな。

  俺ぁパーティを組んでる冒険者仲間の四人と・・・っ、この村にいた妖精猫族の騎士四人で“死の穴”へ潜った。

  死の穴にゃ、麻痺針を尻尾に持つパラライズキャットって強力な魔獣が居るんだが、その日の奴らはいつもよりかなり広範囲に散って嫌に殺気立ってやがってな・・・。何度も群れで襲われた挙句、俺達ぁ疲弊して、ついには元来た道を引き返そうとしたんだが・・・・・その時、あの二人組に出会っちまったんだ・・・」


「二人・・組?それが化け物の正体なのか?」


「違う・・っ!!化け物ってのは、恐ろしくデカくて強え、パラライズキャットの親玉みてぇな奴のことだ。

  恐らく二人組はパラライズキャットの縄張りを荒らし、奴らを怒らせたんだ。

  だからパラライズキャット達は俺達を二人組の仲間か何かと勘違いしたんだろう。

  兎に角、俺達ゃその二人組にやられたんだ」


  銀プレートの冒険者四人にバロンの騎士までもが帯同していたと言うのに、たった二人に全員が敗れたという。

  信じられぬ事態に、周囲で話を聞く者達からざわめきが起こっていた。


「それで、仲間達はどうなった?生きてる奴はいないのか?」


  「俺の仲間が一人、騎士達も二人が死んだ。

  残りの四人は、運が良けりゃ生き残ってるかも知れないが・・・・。

  兎に角早くギルドに行って救助の依頼を出さねぇとって焦ってる所をそのお嬢ちゃんに救われた」


「だが冒険者ギルドに行くっつっても、どうやってだ?

  というか、この村までどうやって帰って来られたんだよ?今は森が形を変えてるから方向が分からなくなるんじゃ無いのか?」


「どうって・・・、そりゃおめぇ、川や目立つ岩なんかを目印にしてりゃそうそう迷わねぇだろ。

  それに、魔法植物が居るからって森の形が変わるってのは少々大袈裟じゃねぇか?」



  その台詞を受けたカナタがニケを見る。するとニケは、珍しく俊敏な動きでカナタと反対の方向へ首を反らした。

  迷った理由を森の変化のせいにしていたニケだったが、本当は大して森の形など変わって居らず、カナタやニケが迷った理由は、単なる方向音痴によるものだった。

 

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