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GOOD LUCK〜十秒だけは異世界最強  作者: 染谷秋文
第1章 彼方から始める異世界生活
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十三、さぁバロンへ


  宝巾着(トレジャーポーチ)から昼食用にとっておいた肉を取り出して調理しグランに食べさせ、食事に使ったナイフとフォーク、それに箸を小川で洗ったところで木陰で休ませていたニケが目を覚ました。

 まだ意識が朦朧とするのかボーッとした表情をしているが、何とか会話くらいは出来るようだ。


「大丈夫か?」


「お兄さん・・さん、ご迷惑を・・お掛けしました・・・・・・です。

  もう少し・・待って下さい・・・です。吸血鬼の子供は、私が追い払います・・です」


「いや、追い払わなくていいから。ほら、これ食えるか?グランがお前のために獲ってきた肉だ」


 カナタが取り出したのは、グランが新たに仕留めた針千牛で作った串肉だ。


「吸血鬼の子が・・・です?」


  ニケはそういってグランを睨むが、グランはパラソルの下で椅子に座ったまま軽く舌打ちをして顔を逸らすだけに留まった。

 今はまだ意識がハッキリとせず、思考も曖昧なのか、カナタに手渡された串肉をすんなりと口に運ぶニケ。

  初めはゆっくりと咀嚼して飲み込んでいたが、すぐにに物を食べる程度の元気は取り戻したのか、徐々に食べる速度を上げ、大きな串肉を飲み込んで行く。

  明らかにニケ自身の体より多い体積の肉を完食した頃には辛そうな雰囲気も消え、日常的な行動を取るくらいには回復しており、ふとグランへ視線を送ったニケが言った。


「ここはお兄さんに免じて食ってやったです。有り難く思いやがれ・・です!一先ず今は見逃してやるです」


  「ハハハ・・・、グラン、有難うだってよ」


「ふんっ・・・、何が見逃すだ。まだ魔法が使えないだけだろうが」


「まぁまぁ。修行相手が出来てよかっただろ?俺は体力がないからグランの訓練には付き合えないし、今はソフィーだっていないしな」


  今すぐ追い出せと言わんばかりの表情を見せるグランだが、先ほどの戦いでゴーレムと対峙した時の顔には、明らかに嫌悪感とは真逆の感情が込められていた。

  事実、修行相手が出来たと告げられた時のグランの顔は満更でもなさそうで、それを見たカナタはニケをバロンまで連れて行く事を、改めて決定した。




 *******




  数種類の食用野草を使ったハーブティーが三つ並ぶテーブル。

  念のため仲裁役のカナタを中心として、両脇に座るグランとニケ。

  バロンを目指すことが決まったとは言え、迷子と迷子が合流しただけの現状では、何も前に進まない。 一度冷静になって話し合うことが必要だろうと、設けられた茶会だった。


「さて、自己紹介も終わったことだし、まずはニケに質問なんだが、元々は何の目的でこの森にいたんだ? バロンではえらく急いでる様子だったが・・・」


「ニケ達は・・団長の命令で森にいたです。近頃何やら森が騒がしくて、魔獣の数が多いと報告があったので、その調査をしてたのです」


「団長っていうと、確かレオって奴の父ちゃんだったかーー、それで、原因は分かったのか?」


  首を横に振ったニケが続ける。


「いいえなのです。けどほんとうに森は騒がしくて魔獣の数も多くみられたので、とりあえず報告をしにバロンへ戻る途中だったのです。

  どこかの吸血鬼の子供が森で暴れてたせいかもしれないです」


  確かに、突然飛竜に襲いかかるような吸血鬼がいれば、この森も多少騒がしくなるかも知れないとカナタは内心で頷き、グラン自身も何か心当たりがあるのか、ニケから顔を逸らしてハーブティーを啜る。


「冗談です。この森はそんなに小さくないです。何かよからぬモノが近づいてるはずです」


「よからぬモノ?例えばどういうのだ?」


「そこまでは分からないです。例えば“魔王級”が出たとか、でしょうか・・です」


「魔王級?何だそれ」


  聞き覚えがあるようで知らない言葉がでたカナタはグランに顔を向ける。


「魔王級ってのは魔獣や魔物、それに魔族の中でもスゲェ強え奴のことだ。俺もまだ会ったことねぇな」


「ってぇと、あの飛竜より強いのか?というか魔獣と魔物って違うのか・・・、そもそも獣と魔獣の違いもよくわからん」


「たぶん飛竜とは比べモンに何ねぇと思うぞ?ソフィーが俺に忠告するくらいだし。“見たら逃げなさい。それが無理でも絶対に一人で戦ってはダメよ”ってな。

  それと魔獣ってのは獣の形をしてる奴は全部そうだ。普通の動物も本当は魔獣と同じ生き物なんだけど、強さとか凶暴さが違うんだよ。

 大体は脅かして逃げるのが獣、逃げねぇのが魔獣だーーーと思う。そんで獣以外が魔物、人型が魔族だ」


「ざっくりしてんな・・。

 人型が魔族ってことは、ゴブリンとかはどうなんだ?というかゴブリン・・・って居るよな?」


「カナタさんはお勉強が好きなのです。ニケが詳しく教えてあげるです!

 まず、魔獣と魔物の違いからなのです。

  その子供の説明は間違ってるとは言いませんが、正しくもないです。

  獣の形をしたのが魔獣というよりは、ある程度知能のある獣の形をした生き物を魔獣と呼ぶです。普通の獣と比べて強いのが特徴で、例えば獣車を引く狼馬や地竜なども魔獣ですが、ちゃんと調教すれば、我々に危害を加えるどころか力を貸してくれるようになるです!

  一方で魔物というのは暴れる事しか頭になく、飼い慣らすことは不可能で、他の生物に危害を加えることしかしない生き物のことなのです。

 

  魔物と魔族についてはその子供の言うように多くの者が単純に人型の強くて危険な生物を魔族と呼称するです。

  なので例え人族であろうと猫人族や鬼族のような獣人・亜人族であろうと、はたまたニケのような妖精族であろうと、危険な行動を繰り返し駆逐対象となるような者は種族ではなく“個”として魔族と認識されるですし、逆にゴブリンのような弱い種族を魔族と呼ぶことは無いのです。

  魔獣に関しても普通は獣型の危険生物を魔獣と呼ぶですし、調教された魔獣には輓獣や騎獣などと、用途に合わせた名があるです。

  それと、吸血鬼に関しては学者によって見解は様々で、広義ではどちらにも属さないとされてるです。

  広く危険な存在と認識されていますが、吸血鬼を魔族と呼ぶことはないのです」


  ニケは己の知識をグランに示すように話し、吸血鬼の話をあえて最後にしたかのように話を締めくくる。


  「ひょへえええぇぇぇ・・・。流石は六獣騎士と言うべきか、ニケも沢山勉強してんだなぁ。

  すんげぇ分かりやすかった!ありがとな!」


  そう言われ満足気なニケの頭を曲がったトンガリ帽子の上から撫でてやると、すぐさま恍惚の表情へと変わる。

  そんな様子を見て、一人で猫カフェに行った時の記憶を蘇らせたカナタは、グランの舌打ちによって現実に引き戻され会話を続行させる。

 

  「ーーーそうすると、魔王級が出たかもってのは、人型か獣型かは分からないが、兎に角、強くて危険な生物が近くに出たかも知れないってことで、森の様子がそれくらいおかしいんだな?

  それを報告する為にバロンへ向かう途中で逸れたと。

  レオ達は先にバロンに帰ってるのか?」


「レオとネオはきっと帰ってるです。はぐれるのは初めてじゃないです」


  ニケのマイペースさを見る限り、確かに珍しい事では無いのだろうし、置き去りにしたのはニケへの信頼の証とも取れる。

  何より非常事態を伝える為には急がなければならず、そう選択するのは国の騎士として当然なのかもしれない。

  しかし、それ程の異常事態が起きている森にニケを置き去りにした者達に対して、カナタは何処かもどかしい気持ちを抱いていた。

  何れにしても、それをカナタがどうこう言った所で何の解決にもならないのだから、まずはバロンへ帰る為の方法を探すべきだ。


「そんじゃあ、俺たちも出来るだけ早く帰らないといけないな。

  しかし、なんかおかしいんだよなぁ、この森。目印にしたつもりの植物とかが無くなってたりするから、すぐに方向が分からなくなるしさ」



  そんなことを口にするカナタは、次はグランとニケの様子がおかしい事に気がつき、二人を見る。




「・・・おい、カナタ」



「ん・・・、な、なんだ?」



「まさかお前・・・ずっと植物を目印にして進んでたのか?」



「えっ、なに!?ダメなの!?」



「カナタさん・・。植物の中にも魔物は沢山いるです」



「そりゃ気づいてたさ。蔓をウネウネさせてるやつとか、獣を食ってるいい匂いの花とか見たし。だから俺は動いてない普通の植物を目印にだな・・・。え、なに?それもダメなの?」



「当たり前だろ!動いて無いように見えても寝てるだけの奴もいるし、例え普通の植物だったとしても、深い森には植物妖精族(トレント)が住んでることもあるんだから、森の形が変わることだってあんだろ!?」



「トレント?えっ、何それ常識なの?」



「植物に宿って森を守る妖精だよ!常識・・かは知らねぇけど、こんな深い森を偉そうに歩いてんだから知ってると思うだろ!」


「普段は冒険者や旅の者が迷ったりしないよう、バロン王国の森に住む植物妖精族(トレント)には協力をお願いしてるです。けど今は森が騒ついていますから変化は大きい筈なのです」


「え・・・っと、じゃ、じゃあどうやってバロンへ帰るんだよ?」


「それが分からないから困ってるです・・・。普段ならニケはとっくに帰ってるです」


  目印も無ければバロンの街がある方向も分からないのだから、例え方位磁針があろうともバロンへたどり着くのは至難の技だろう。

  そのマイペースさから少し頼りなさそうに見えるとはいえ幼い頃からこの森に住むニケですらそうなのだから、異世界からやってきたばかりのカナタに森を抜けることなど出来るはずも無い。

  この森に三人が揃った状態でなら餓死することだけは無いだろうが、それでも森を抜けられるのはいつになるだろう。

  そんな現実を前にしたカナタが途方に暮れはじめた時だった。



「・・・オレ、バロンの場所分かるけど」



  沈黙を破るようにグランがそう告げた。













「「はい?」・・です」









 ***********










「場所が・・分かる?・・どうやって?」




「どうって、賢者の加護でだよ」




「はぁ!?マップ機能があるなんて聞いてねぇぞ」




「あれ・・言ってなかったか? 一度行ったことのある場所なら、その方向はどこに居ても分かるんだ」




「じゃあもしかして、バロンの方向からズレてるの知ってたのか・・・?」





「おう。知ってたな」












 ・・・・・・・













「何で・・・・・・・・・。

  何で言わないんだよおおおおおおおおおおおおおお!?

  なんで!?ねぇ、なんで!?なんで言わないの!?ねぇってばぁ!?」


「うわああぁ!?な、何でって、ソフィーからはカナタに着いてけとしか言われてねぇからだよ!!

  確かに時たま同じ所をグルグル周ったりしてたからおかしいとは思ったけど、バロンに行く前に何か探したい物でもあんのかと思うだろ!?」



「てめぇはソフィーの何なんだ!?あぁ!?自分で考えらんねぇのか!?おかしいと思ったなら一言そう言えやあ!!」


「なっーー!!ならカナタも迷ってるなら迷ってるって言えよ!!道も分かんねぇのに何も起きてないみたいな顔でどんだけ歩くんだ!?出発した瞬間から方向違ってたんだぞ!!」


「バロンからそんなに遠くなかったし、大体の感覚で行けると思ったんだよ!!迷子になったなんて言ったらお前が不安になると思うだろ!?

  というか賢者の加護にそんな機能があると知ってたら速攻で相談してたわ!!」


「賢者のことなんて知らなくてもフツー相談くらいするだろ!?オレどんだけ信頼されてねぇんだよ!!」


「信頼・・・?

  そもそも会って数日で信頼関係なんて築けるわけあるかあああ!!

  こちとら二十年以上、誰とも信頼関係なんて築いたことねぇんだぞおおおおおおお!!」


「うっ、嘘・・だろ・・・・・・・?

 ・・・にじゅうねん以上も・・・一人で生きて来たのかよ・・・?

  カナタ・・・・・・。オレが悪かった。

  こっ、これからは何でも相談してくれよな!?」


「カナタさん、ニケもいるです!」



「憐れむんじゃねぇよ!!ネタ・・・ってワケでも無いが、こっちはそんな深刻に捉えてねぇんだよ。ったく・・・。

  はぁ・・・・・、もうこの話はいい。

 取り敢えず、バロンの場所が分かるなら安心したよ。それで、賢者によるとどれくらいで着きそうなんだ?」

「一日か二日くらいかな?距離は遠いか近いかくらいしか分からないから正確じゃないけど、方向はこっちだ」




  グランは進行方向と逆を指差した。

 






「・・・・・・・・案内、お願いします」






「おう!着いてこい!」












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