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GOOD LUCK〜十秒だけは異世界最強  作者: 染谷秋文
第1章 彼方から始める異世界生活
10/72

十、物質変形


 時は少し遡りソフィアの去った洞穴の中。眠り続けるグランをカナタは見つめていた。


「しっかし、こいつ本当に綺麗な顔してんなぁー。確かに吸血鬼っつったら整ったイメージだけど、こうも違うもんかねぇ」


 鏡も無いのにカナタはそう言って自分の顔を撫り、グランとの顔の出来を比べ自虐する。

 わざわざ鏡を見て確かめずとも明らかに普通の人間とは隔絶された、まるで美術品を見ているような不思議な美しさがそこにはあった。

 白く透き通るキメの細かい肌はシルクを思い起こさせ、睫毛は長く、良く見れば髪の毛も単純な白金色ではない。

 根元の部分は白みが強く、毛先に行くにつれて少しずつ濃い金髪に変化して行く。

 そして毛先の所々は薄紅色に色付いており、何とも綺麗なグラデーションとなっている。

 

「・・・何で男なんだろうなぁ」


 確かに美しいが、いつ迄も男を見ていても仕方がないし、ソフィアの言っていた通りバロンへ向かいたい所ではあるが、生憎グランはまだ眠っている。

 今日は既に二回不落之果実(インビジブル・タイム)を使い、案の定、今は力を発動出来なくなっている。

 一人で森を抜けられない以上、グランの目覚めを待つより他にない。

 

 ならばと、カナタはこの時間を使って特級魔法物質変形(デフォルメイション)を試してみることにしたようだ。


「取り敢えず此れでやってみようか」


 初めから不折剣(オルナ)を使うのは気が引けたようで、カナタはそばに転がっていた拳大の石を手に取り見つめる。

 物質の形を変化させるというその力を確かめるため、カナタは取り敢えず手に持った石がラグビーボールのようなレモン型に変形するのを想像し、強く念じる。


物質変形(デフォルメイション)!!)


 すると、手に持った石は難なくカナタが想像した通りのレモン型へ変形して行くではないか。変形スピードこそ早くはないが、五秒ほどであっさりと形を作り変える事に成功してしまったのだ。

 ソフィア曰く“初めは難しいかも”という事だったため、カナタはかなり手こずるものと思っていた様なのだが、日々の妄想が活きているのか、やはり想像する力に於いてはかなりの物のようだ。

 しかしその一方で、いくら初回とは言えこの程度の大雑把な変化に五秒も掛かってしまっていては、実戦では到底使い物にはならないはず。

 カナタは直ぐに石の形を変化させ、何度も何度も練習を繰り返す。

 丸からレモン型、レモン型から立方体、立方体から三角錐、三角錐から六面体などと様々な形へと変化させつつ少しずつ速度を上げ、より複雑な形の物へ形を変える練習を繰り返す。


 そして数十分後ーーーー。


 暫くの練習と実験の繰り返しにより、まだ操作には難が残るものの、カナタはこの力の大凡の概要を把握しつつあった。

 分かったことの内まず一つ目は、この力で物体を二つ以上に分ける事は出来ないということ。

 例えば石を紙のように薄く伸ばす事は可能だが、石が二つに分かれるまで薄め続ける事は不可能という事になる。

 もしかすると技術を上げれば可能なのかも知れないし、薄くし過ぎれば結局は重力や衝撃の影響を受けて割れてしまうため、実際のところは石を二つ以上に分ける事が可能なのだが、少なくともこの能力のみの力では、不可能だとカナタは結論付けた。

 何故そのような事を実験したかと言えば、一つは剣の斬れ味を何処まで高められるかという実験。薄くすればするほど斬れ味は良くなるのだから、薄められる限界は知っておきたかった。

 そしてもう一つ、カナタが本当に試したかったのはこちらの実験だった。

 その内容とは、少し自分には重たいと感じる不折剣(オルナ)を二分割にして、双剣に出来ないか?と言うもの。

 そして導かれた答えは、不可能、というものである。

 やはりソフィアが“絶対に折れない剣”と豪語するだけはあり、不折剣(オルナ)は限界まで薄めた状態で岩に叩きつけようとも、折れることはなかった。

 もっとも、竹刀も握った事の無かったカナタが双剣など真面に扱える筈もないため、この結果は逆に幸運だったと言えるかもしれない。

 続いて二つ目は、物質を変形させる場合、その間はずっと形を変えたい物質に触れておく必要があるということ。

 もし遠隔で操作可能ならばその使い勝手の良さは大幅に変わるため、カナタは直ぐにそれを試したのだが、残念ながら指先が離れると、幾ら念じようが変形も止まってしまうことが分かった。


 三つ目、生物にも有効か?

 答えは無効だった。

 いくら再生可能だとは言え、眠るグランの手を掴んでこっそり変形させようとしたのは、内緒である。


 四つ目は、能力の有効範囲がどれほどか。

 

 この力では手に持った物だけではなく、地面や壁でも、触れさえすれば形を変えられる。

 地面を可能な限りの広さで盛り上がるように変形させてみた所、地面につけたカナタの右腕を中心に半径約一メートル程だと分かった。

 盛り上がった土の高さも一メートル程度が限界だったことから、円としても球としても、それが一度に変形させられる限界点といえるだろう。

 他にも、地面を棘状に変化させたり、防御壁のように形を変えることは可能だが、高さも幅も一メートル程が限界のため、アニメの中で魔法使いが攻撃や防御に使う土魔法のような使用法は難しいと言える。

 もっとも、これは現時点でのカナタの限界であり、初めてこれを試した際はカナタの右腕を中心に半径三十センチほどが限界で、変化させる速度に関しても、現時点で何倍も速くなっている事を考えれば、まだまだ成長の余地があると言えるだろう。


 実験を一通り終えたカナタは、元の形に戻しておいた不折剣(オルナ)を手に取り見つめる。

 剣であるなら普通は鋭利なはずの刃。

 だがオルナの刃は手を当てても切れることは無く、触った感触としては木刀よりは鋭利だが、鋏よりは丸みを感じるという程度でしかないため、これでは“斬れ味が悪い”剣ではなく、“切れない剣”と言った方が正しいのかもしれない。

 もっとも、鞘を作るまでの間はかえってその方が好都合のため、物質変形の練習も兼ね、用事がない場合には常にこの状態で携帯することに決めたらしい。








 ***********








  ーーーーここは、




  洞穴?









 そうか。俺、生きてたんだ。






 あんまり覚えて無いけど、多分・・・、あいつに助けられたんだよな。











 ・・・・・・




 






 あいつがここに運んでくれたのか・・・?俺のこと持ち上げれなかったくせにどうやって・・・。
















 あいつ、強いな。ソフィーとどっちが強いんだろ?








 それは流石にソフィーか・・。








  というか・・・・、


  俺って弱いんだなぁ・・・。




 ヘコむよなぁ。



 なんか変な顔されたし。





 あー、





 腹減った・・・。




 



 寝た筈なのに殆どマナが残って無いな。


 今日は朝から戦いばっかだったのに大怪我しちまったからな・・・。





 しっかし、あいつの動き全然見えなかったなぁ。





 いつ攻撃されたのかも分かんなかったし。





 というか、本当に腹減ったなぁ・・・。



 何か食いモンねぇか・・・、ん?



 クンクン・・・、スンスン・・・。







 ・・・・・






 外からなんかいい匂いするな。







 今のマナの量で太陽に当たっても平気か・・・?






 まぁ・・結構薄暗くなってるし大丈夫か。






 うっ・・・、熱・・・。








「おっ、もう起きたのか! こっち来て食えよ」






 ・・・・・







  飛竜の肉か・・・、こいつなら少しはマナも回復するか。





 よいしょっと。







「よし、座ったな。じゃ、手を合わせてーー、いただきます!」







 こいつ、掌合わせて何やってんだ?






 まっ、何でもいいか。早く食おう。







「こらこらこらあぁ!!ちゃんと頂きますしたか?」





 イタダキマス?してないな。何だそれ。





「こうやって掌を合わせて、食材に感謝するんだよ。命を頂きますってな! ほれ、やってみろ」





 なんで俺があんな飛竜に感謝なんか・・・。




 ちっ、けどこいつとの勝負にゃ負けちまったんだったな。





 しょうがないか・・・。







「いっ・・・いただきます」



「よぉし!もう食べて良いぞ。味付けはしてないけど、結構美味ぇから食ってみ!」




 そりゃこんな森の中でわざわざ飛竜に味付けなんてしないだろ。





 骨付き肉と・・スープか。






 どうせ大して美味くもないんだから無駄なことせず丸焼きにすりゃーーーーー、



















 うっ・・・美味い・・・っ!?










 美味い・・。















 美味い・・!













 美味いっ!!











「美ん味えええええええぇぇ!!!飛竜うめええぇぇ!」




「そうか!そりゃよかった!どんどん食え!何たってグランが仕留めた飛竜だかんな」








「お、おう!」








 そうか、こいつの作った食いモンは美味ぇのか・・・。








 ソフィーは料理下手だからな。









 こんな美味いもん食ったことねぇよ。









 もしかして、これからも食えるのか・・・?







 く・・食えるよな?








 勝負に負けたから、どうせこいつに着いて行かなきゃならないんだし。





 約束守んねぇとソフィーのやつ怒りそうだし。





 ったく、しょうがねぇな!






「カナタ!」


「ん?どした?」




「しょっ・・・、しょうがねぇから着いてってやるよ!感謝しろよな!」


「ほんとか!グランが着いて来てくれるなら心強いよ。ーーーよろしくな!」




 カナタを助けてやれってソフィーも言ってたからな。




 俺が助けてやんねぇと!











 




  ************











  ん?あいつやっと起きたのか。








「おっ、もう起きたのか! こっち来て食えよ」






 おぉ・・・、盛大に火傷しとる。夕日に焼かれる半吸血鬼ってのも乙・・・。




 いや、そうでもねぇな。




 まぁ気にせず歩いて来てるし、何でもいっか。

 吸血鬼なのは半分だけだし、昼間も出歩けるくらいだしな。




 うぅむ、しかし昼間でも行動出来るのはありがたいが、人目のある場所では何とかしてやんねぇとな・・・。






 まっ、細けぇことは後で考えるか!







「よし、座ったな。じゃ、手を合わせてーー、いただきます!」





 ・・・・・






  うん、分かるわけないか。



  しゃーねぇな。





「こらこらこらあぁ!!ちゃんと頂きますしたか?」



 

  ここは一つ、日本男児として教えとくか。




「こうやって掌を合わせて、食材に感謝するんだよ。命を頂きますってな! ほれ、やってみろ」





  おっ? 意外や意外ーーー。




  案外素直じゃねぇか。





 あんまり食材に感謝してる風ではないが・・・、まぁ子供がいきなりそんなこと分かんねぇよな。






  最初はこれで十分だ。







「よぉし!もう食べて良いぞ。味付けはしてないけど、結構美味ぇから食ってみ!」





 飛竜の肉は部位にもよるが脂肪が少なくて、サッパリとした質感が特徴だ。

 それでいて、肉にはしっかりとした旨味とほんのりとした甘みがある。

 ちょっと筋が多いのが難点だけど、ちゃんと取ってやれば問題ないし、そもそもグランなら筋とか関係なく噛みちぎりそうだ。

 流石に数時間でこの大きさの飛竜を精肉し切るのは無理だったから、固そうなとこはグランにやろう。


 因みに飛竜の解体に使ったのは、不折剣(オルナ)を片刃に変形させた幅広の刀剣で、折れない特性を活かして刃を極限まで薄くしてあるから、この刀剣は滅茶苦茶切れ味がいい。

 竜の解体にも使える刃物ってことで、マグロ包丁ならぬ“竜包丁”と名付けた。

 まあ実際には解体が始まると用途に合わせて形状を変えるんだが・・・・、それも物質変形の良い練習になるだろう。

 無駄にデフォルメに拘った“竜包丁”は、見た目もカッコよくて切れ味も抜群。解体にも使えるが、やはりその本領を発揮するのは戦闘時だ。

 いつ如何なる時でも一瞬で竜包丁を作れるようにしとかねぇとな。

 その他にも戦闘で役立ちそうな形状に関しては、重点的に変形の練習をしときたい所だ。


 


 そうそう、スープの出汁に使ったのは昨日の怪物鳥の余りだ。

 洞穴の中で腐敗されても困るし、野犬なんかの注意を俺から逸らす為に、洞穴の外に出して置いてたのが、別の形で役立った。

 器や鍋は岩を変形させて作った土鍋・・・というより石器か。

 呼び方なんて何でもいいが、案の定、怪物鳥の肉と骨からはいい出汁が出てる。

 調味料さえ揃えば、日本の店にあっても不思議じゃないような料理が作れそうだ。







「美ん味えええええええぇぇ!!!飛竜うめええぇぇ!」







 おっ、よかった。やっぱこいつは固いとこで問題なかったみたい。

 スープの味も気に入った様に見える。







「そうか!そりゃよかった!どんどん食え!何たってグランが仕留めた飛竜だかんな」




 うん、寧ろ俺が人の獲物を勝手に頂いてるだけなんで。あざす。





「お、おう!」




 いやマジで助かったよ。この飛竜のおかげで、結構な物資が調達出来たからな。

 宝巾着(トレジャーポーチ)に肉を入れておくと腐敗するのかも知りたいし、何よりこの、牙や爪、それに鱗は高値で売れるだろうし、急造だけど不折剣(オルナ)を腰にぶら下げておく為のベルトも作れた。

 本当は宝巾着に入れておこうかとも思ってたんだけど、やっぱ、いざという時の為にいつでも使えるようにしておきたいしな。

 鞘は作ろうと思えばいつでも作れるんだが、考えれば考えるほど必要性が感じられないから作成は見送った。

 直ぐに不折剣の形を変形させたい時とか邪魔になるし。


 だけどそうは言っても、やっぱこのベルトは後でちゃんとしたやつを作らないとな。

 飛竜の鱗や骨を使って、ボタンで止めるタイプのベルトを作ったのはいいが、やはり物質変形(デフォルメイション)はただ形を変えるだけの力。

 ちゃんと革を鞣してから作んないと、強度的にも保存状態的にも不安がある。


 後は飛竜の鱗や牙でかっこいい鎧とか武器とか作っちゃおっかなぁ。ぐふふふ。

 それに忘れちゃいけないのが怪物鳥の嘴で作る火打ち石だな。

 あれは携帯しときゃ必ず役に立つから、薄く伸ばしてから石で叩き割って回収しておいた。

 かなり丈夫で鉄みたいな粘りもあるから、ナイフみたいな形状にして、火起こし機能付き護身用ナイフとして宝巾着に保管してある。

 道具屋か武器屋に持って行きゃそれなりの値段で売れるんじゃないか?




「カナタ!」




 なんだ、人が楽しい楽しい妄想に耽ってるってのに。




「ん?どした?」





「しょっ・・・、しょうがねぇから着いてってやるよ!感謝しろよな!」





 お、おう。






 いや、つぅか・・・・。


 はぁ・・・、何でお前は男なんだ。



 いくら美形のツンデレでも男はちょっとな・・・。




「ほんとか!グランが着いて来てくれるなら心強いよ。ーーーよろしくな!」




 まぁ、それは本当だ。





 というか・・・、今更だがグランって飛竜食っても良かったのか?








  共食いなんじゃ・・・・。










 まっ、美味そうにしてたし、いっか。









美味しくて簡単(二分で完成)

たまごサンドの作り方



軽く熱したフライパンに溶き卵を入れ、お箸でグルグルします。

冷蔵庫から出したマヨネーズを二、三周回しかけます。

食パンは焼いても焼かなくてもいいので、好みで。

パンの上にマヨを和えたスクランブルエッグを乗せて、塩を振りかけます。


完成。これだけでめちゃくちゃ美味しいたまごサンドが出来るので、ぜひ試してみてね。


ワンポイントアドバイス

このたまごサンドに限って言えば、塩は後でかけた方が塩味を感じやすいので、減塩したい方は絶対に後がけがオススメです。そうでない方は、お先にどうぞ。

自分は塩ではなくアジシオを使ってますが、どちらでも可。

お好みで、パンにからしを塗っても美味しいよ

卵に火を通し過ぎてパサパサになると美味しくないです(これが一番大切)

パンは軽く焼いた方が、卵が溢れにくくて食べやすいです

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