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GOOD LUCK〜十秒だけは異世界最強  作者: 染谷秋文
第1章 彼方から始める異世界生活
1/72

一、気付けばそこは

冒険、魔法、商売、美女など幅広く書いて行こうと思います。

暖かく見守って頂けると幸いです。

 


 女神ソフィアは言った。


「あなたの旅に幸運のあらんことを」


 碧く美しい髪。

 彼女の艶めく髪は穏やかなる水面に溢れる雫によって揺れる、波紋を象る様に美しく、儚く靡く。


 その時、

 女神は静かに笑った。


 こうして始まる大冒険。

 遥か彼方の異世界にて、それは始まるーーーー






 *************






「一体俺は、どうしちまったん、だああああああああぁぁぁぁ!!!!」



 時を遡ること数分、徹夜でPCと向き合い、差し込む朝日と共にベッドに顔を埋める青年、蒼井奏多(あおいかなた)

 カナタは直ぐに息苦しさを感じたことで寝返りを打ち、天井を見上げる。


 すると其処はーーー、全く知らない場所だった。



「・・・・・・・・・・え?」


 見覚えの無い木製の天井。


 状況が飲み込めず暫く静止したカナタは、今いる場所が自室で無いことに気が付いて飛び起き、周囲を見渡す。


 天井と同じく木製の壁。

 部屋というより、小屋と呼ぶべきだろうか。


 さっき飛び込んだばかりのふかふかベッドは干し草へと変わり、辺りからは干し草に混じって独特な匂いが漂っている。


「ーーーなに!?何だこの状況!?」


 感触を確かめるように干し草を鷲掴みにしてまじまじと見つめ、また周囲を見渡す。


「何が・・・、どうなってる・・・?」


 状況はさっぱり理解出来ないが、此処がカナタの知らない場所であるという事だけは確かであり、これが夢であるとも思えない。


  立方体に近い形をした建物の内部、一面にだけは壁が無く外の光が射し込む場所がある。

 そこへ視線を向けたカナタは喉を鳴らして干し草のベッドから立ち上がり、小屋の壁伝いに歩いて恐る恐る顔だけを外へ覗かせるが、射し込む光は徹夜の目には少々刺激が強過ぎたようで、カナタは何度か顔を顰め、目を閉じては少し開く。

 そんなことを繰り返している内に少しずつ太陽光への耐性を取り戻したのか、カナタは漸く外に広がる光景を視認することが出来た。



「何処なんだよ・・・此処は」



 木造の小屋を出ると、辺りにあるのは煉瓦造りの建物や石畳みで造られた道。

 物の造りを見る限り、一部は中世ヨーロッパ風ではあるが、街には木造の建築物や青々とした植物も豊富に見て取れ、まるで森と街が融合したような、そんな印象を受ける場所だ。

 行き交う生物の多くは獣の耳と尻尾を持った、いわゆる獣人と思しき姿をしており、特徴的なのは二足歩行の小さな犬や黒猫が多く見られることだろう。

 多くの生物が腰や背に武器を携え、時折、目の前を通り過ぎる馬車を引く獣は様々で、その多くは見たことのない生物ばかりーーー、というより、常識的に考えてあり得ない生物ばかりであった。

 

 漫画や小説、映画でしか見たことのないような生物が、目の前を悠然と通り過ぎていく。

 長きに渡り鍛え続けたカナタの妄想力はちょっとしたものではあるが、流石に妄想と現実の区別が付かなくなるという経験はこれが始めてであり、カナタはその場に立ち尽くすより他に無かった。

 少し時間を空けては眼を擦るーーー。

 そんな事を何度か繰り返したカナタは、堪らず声をあげたのだった。



  「一体俺は、どうしちまったん、だああああああああぁぁぁぁ!!!!」


 



 **************






  状況を整理するんだ。


  ーーーまず、俺は誰だ?


 蒼井奏多二十三歳、独身。

  職業、人生サバイバー。辛く苦しく、様々な危険で溢れる世界を強く生き抜く事を生業としている。

 趣味は読書、それにネットを徘徊して無駄な知識を読み漁ることと、料理、妄想に、細かい作業、それからーーーネットを徘徊して無駄な知識を読み漁ること!

 よし、自分のことはちゃんと分かる。脳に異常は無いようだ。


 俺には冷静なる判断が下せると、そう冷静に判断したところで次だ。


  ーーーここは、どこだ?


 見るからに日本ではない。ケモ耳、ケモ耳、ケモミミ・・・・、どう見てもコスプレとは思えない完成度だし、至るところにいる二足歩行で尻尾が二本ある黒猫や、色んな種類がいる二足歩行モフモフ犬はコスプレでは再現不可能だろう。普通の人間もいるにはいるが、どれも冒険物のゲームで見るような服装をしているし、携えてる道具も妙に使い込まれた感じだ。


 そもそも街の風景からして日本では無いし、思い当たる場所すら無い。というか、どうやって此処に来た?


 武器屋らしき場所には剣に槍、斧や鎖鎌のような物まで置かれ、その隣には杖や何やら分厚い本を取り扱っている店もある。

 

 現状を簡単に表すなら、見知らぬ場所、見知らぬ生物、見知らぬ文字に、見知らぬ店、おまけに銃刀法違反で溢れ返っている、知らないものだらけの場所。

 更に状況を簡単に、というか一言で表す方法を思いついた。






  「ーーーー“異世界”?」

















 ここは恐らくーーーー、







 いや確実に、異世界だ。















 **********





 一歩踏み出す度、首を左右に振って歩くカナタ。


 周りから見ればその様子からでもこの街に慣れていない者であることは一目瞭然だろうが、半袖Tシャツにジャージという着の身着のまま出て来たような格好のせいもあってか、カナタは強い異物感を放っている。

 それは様々な商店の連なるこの場所に置いては格好の的となるらしく、新たな建物の前を通る度に、カナタを呼び止めようとする声が飛んでいる。

 

「言葉は理解できる設定みたいだな。だけど金も無いし、一々立ち止まってたら日が暮れーーーー」


 その時、突然ドカッとカナタの腹部に何かの衝撃が加わる。

 目線を送ると、そこには自分の腹部に頭をぶつけ、バランスを崩して尻餅を着く少女の姿があった。


「あっ!ごめんなさいっ!」

 

  猫耳少女・・・、じゃなくて幼女か。


 少し残念そうにそんな事を考えるカナタは、尻餅をついた小さな少女へ手を差し伸べて引き上げると、少し腰を落として声を掛ける。


「俺こそ悪い、余所見してたよ。怪我はないか?」

 青い髪が印象的な猫耳少女の腕には、植物の蔓で編んだような籠が下げられ、中には見慣れぬ野菜が入っている。

 それを見たカナタは、こんなに小さな少女が人混みの中、一人でお使いをしているのかと日本では見慣れぬ光景に少々驚いていた。


「うん、大丈夫だよ! お兄ちゃん・・、珍しい格好してるね!」


 物珍しそうにカナタを見る少女だったが、直ぐに八重歯のような牙を見せて笑う。

 見知らぬ者を見て気にはなったようだが、土地柄か子供ゆえか、その笑顔からは特にカナタを警戒する様子などは見て取れない。

 

  「ん?あぁ、そうなのかい?

 実は遠くから来たばかりで、まだこの街のことがよく分からないんだ」


 自身の着ている服を見下ろしTシャツを指で引っ張るカナタは、この場所では自分がおかしな格好に見えるだろうと分かっていながら、適当な言葉ではぐらかす。


「へぇ!!だから見たことない服着てるんだね!

  じゃあ私が街を案内してあげるよ!」


 屈託のない笑顔を見せる少女は、返事を待たずしてカナタの手を取り雑踏の中を指差す。

 

「ありがたいけど、お使いはいいのか?」


「うん!少しくらいなら大丈夫だよ!!だから早く行こ?」


 知らない人について行くどころか、知らない人を連れて歩こうとする少女に一抹の不安を覚えるカナタだが、自分が何の情報も得られていないことにはさらなる不安を覚えたようで、ここは少女の好意に甘えることを選択する。


「それじゃ・・・、よろしく頼む。俺は蒼井奏多だ。カナタでいいぞ」


「カナタお兄ちゃんだね!任せて!!あっ、わたしはソフィーだよ!」


 ソフィーと名乗った少女はカナタの手を引いて歩き、街に並ぶ建物の紹介をしつつカナタの質問に次々と答えて行く。

 

 カナタは内心、ソフィーをただの子供だと侮っていたが、街の人間にも顔見知りが多い様子からはよくここへ来るのだと推測でき、尚且つソフィーの持つ情報量は想像よりも遥かに多く信頼できるもののように思えたことから、一人でお使いを任されていることにも合点が行ったようだ。

 その為、分からないことがある度に質問を繰り返したカナタは、少し街の中を歩いただけでかなりの情報を得ることが出来た。

 

 まず、この国の名は“バロン王国”。


 妖精猫族(ケット・シー)の治める、森の大国だ。

 ここはバロン王国の中心都市、“王都バロン”。

 周囲にはバロン王国の治める広大な森林が広がり、森の中にも多くの妖精猫族や獣人族が暮らす街や村がある。

 バロン王国の納める森の外には更に広大な森が広がっており、そこには多様な種族が集落を形成しているそうだ。

 バロン王国は、大森林やその外にある数々の国との交易を積極的に行うことで国を発展させた、妖精の住む国としては異例中の異例とも言える国らしく、亜人や人の暮らす街では手に入らぬ珍しい素材や薬などを求めて、世界中から様々な種族の商人や冒険者が集まってくるのだとか。


 そして何を隠そう周囲に多く居る二足歩行で尻尾が二本ある黒猫こそが、この国を治めるという種族、妖精猫族(ケット・シー)なのだ。

 偶に見かける二足歩行の犬は、妖精犬族(クー・シー)という種族で、バロンの周囲に広がる森に住む妖精族の内、特に協力的な姿勢を見せたのがこの妖精犬族らしく、以来、両種族は友好的な関係を築いているようだ。

 カナタはてっきり、妖精猫族の事をケモ耳を生やした獣人達のペットか何かだとばかり思っていたため、彼等がこの国を納める妖精族というのは予想外と言う他なかった。

 だが、言われて見れば確かに首輪もなければ、ペットが店を経営する筈もなく、高級感のある服を着ている者や、甲冑を着用している者までいるのだから、彼等がただのペットであるはずがない。

 妖精猫族は他種とも比較的友好的に接することで知られる種族であり、周りの獣人や人間達が思いも思いに行動していることからも分かる通り、“基本的には”妖精猫族とその他の種族の間に上下関係などは存在しないとされ、それがバロン国王の決めた方針でもあるという話だ。

 露店を営む店主や街を闊歩する猫耳の獣人族の中には、擬人化した妖精猫族も混ざっているそうで、初めてバロンへ来た獣人や人族達と友好関係を築きやすいというメリットから露店を営む者などは積極的に擬人化し、逆に擬人化していない店主には、昔気質の年配者が多く見られるのだとか。

 “擬人化するのは他者を欺く不誠実な行為”だという、今は薄れつつある考えを元に行動しているのがその理由らしく、そういった店主は商人としての意地のようなものが強いことが多く、一見さんには厳しいが一度客として認めて貰えると、他の店よりもよっぽどいい対応をしてもらえることもあるらしい。

 このような情報を年端も行かぬ少女が齎すのだから、カナタが少女の情報に信頼を寄せるのに時間はかからなかった。


 その他に得た情報もいくつかあり、例えば武具を扱う店にも様々種類があって、剣一つとってみても店や値段によって様々な素材や製法に分けられる。

 金属でできたものや魔獣と呼ばれる危険な生物の牙や爪などから造られたもの、更には魔剣と呼ばれる魔法武器などを取り扱う店もあることが分かった。

 その他には、荷車を引く動物にも種類やランクが様々あり、広く使用されている生物の中では、地竜や狼馬(ウルフォス)と言った生物が最高ランクとされるようだ。

 判断基準としては、知能の高さ、魔獣や盗賊の襲撃に対する対応力、走る速度や持久力、力の強さ等がそれに当たり、これらから総合的に判断されランクが定められている。

 地竜や狼馬の他に見られる生物としては、カナタのよく知る馬や、駝鳥のような鳥、背中から棘の生えた犀のような生物や、性格の荒いらしい大きな犬などが見られ、それに引かれる荷車にも様々な用途に分けられた形がある。

 因みにこの荷車は馬車ではなく、獣車と呼ばれ、獣車を引く獣は輓獣(ばんじゅう)と呼ぶようだ。

 その他にも、森の奥深くにあるバロン王国には日帰りで訪れる者など居ないため、旅人向けの宿や酒場が多くあることや、斯く言うソフィーもこの街の“白猫亭”という宿屋で働いていること。

 道具屋では、“森に入るなら毒消しは必須”などと言って薬を売り付けてくる店には要注意、等という事を次々に教わるカナタ。

 理由は、この辺りの森に入れば毒消し草など腐る程あるから、ということらしい。

 地元の住人には大して売れない毒消し薬も、旅人には“妖精猫の作った毒消し薬”として、高値で売れるのだとか。


 ソフィーは事ある毎に、為になる豆知識を教えてくれる。

 そして街の大通りの案内も粗方終わりかと思われた時、カナタにとって最も気になっていたワードをソフィーが口にした。


「カナタお兄ちゃん、とりあえず案内はこの建物で終わりだよ!」


「そっかそっか!色々と教えてくれて本当に助かったよ!ソフィーは本当にお利口さんだな。

 えぇっとーーー、それでここは何の建物なんだ?」


「えへへぇぇ! そうかなぁ?

  ここはね、冒険者ギルド!冒険者さんたちは、ここで依頼を受けてお金を貰ってるよ!」


「冒険者ーーーギルド?」


「そう!お兄ちゃん、冒険者さんじゃないの?」


 ソフィーは、さっきこの国に来たばかりだというカナタから武器や道具屋、魔獣の事を詳しく聞かれ、更に獣車についての知識が全く無かったため、商人ではなく冒険者なのだろうと予想したようだ。


 この時、カナタは歓喜していた。


 街を行き交う者の中にいた武器を持った旅人らしき風貌の者や、獣車の荷台で商品を護るように佇んでいた者を見るたびに、カナタは期待を膨らませていたのだ。

 

 異世界といえば、冒険者。冒険者といえば冒険者ギルド。


 もしかすると、この世界にもそのテンプレは存在するのではないだろうかと。

 そしてついに繁華街で最後の建物にまでやって来てしまったカナタは、“冒険者になる”という異世界冒険物の三大テンプレの一つを諦めてかけていた。


 ソフィーからすれば、カナタを観察していく内に冒険者ギルドに用があるのだろうと予想し、先に街の説明を終わらせた上でギルドに向かうのがいいだろうという配慮だったのだが、そんなこととはつゆ知らぬカナタは、最後まで冒険者ギルドをひた隠しにするというソフィーのいけずな行動に、ただただ悶えていた。


「冒険者ーーではないけど、丁度今から成ろうと思ってたんだ!本当に助かったよ!」


「えへへ!喜んでくれてよかった!!それじゃ、私はもう行くけど、冒険者さんになる方法は受付のお姉さんき聞けば分かるからね!!」


「そっか、じゃあ早速行ってみるよ!本当にありがとな。“白猫亭”にも必ず泊まりに行くからな!」


「うんっ!待ってる!!それじゃあ、またねカナタお兄ちゃん!」


 あまりにも異世界が過ぎて忘れていたが、カナタはまごう事無きケモミミストである。

 優秀な観光案内人であり、“カナタお兄ちゃん”などという心を撃ち抜くような響きの言葉を、屈託のない笑顔で呼ばれ続けたカナタは完全にソフィーの虜になっていた。

 カナタはソフィーとの別れを惜しむように大きく両手を振り、それに気づいたソフィーもまた、カナタに応えるように振り返ると笑って手を上げる。

 そして、そのやり取りを終えたソフィーが石畳みのメインストリートを横断しようとしたその時ーーーーー、


「グリュルルルルウゥゥゥゥ!!!」


 近くを走っていた獣車を引く狼馬(ウルフォス)が、突然、何かに煽られたように前脚を跳ね上げたのだ。

 御者を振り落とし獣車を横転させ更に興奮を増す狼馬は、あろう事か道を横断しようとしたソフィーの居る方へ、真っ直ぐに突き進む。

 

「危ない!!逃げろソフィー!!」


 だが、ソフィーは突然の出来事に体が硬直したのか、声をあげる事も、その場から動く事も出来ずに立ち尽くす。

 周囲の妖精や亜人達もそこへ視線を送るが、迫る獣車よりも早くソフィーの元へたどり着ける者など一人も居はしない。

 街に悲鳴が巻き起こる中、カナタは本能的に走り始めていた。


 獣車が迫る中、腕を伸ばしてソフィーの名前を叫ぶカナタ。

 

 だが、やはり狼馬の迫る速度の方が早い。


 ーーー間に合わない。

 

 そう確信したカナタは、祈るように叫ぶしかなかった。

 


「止まれええええええええええぇ!!」



























 その時、

 世界が止まったーーーー。









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