プロローグ
この作品には、やや性的・暴力的表現が御座います。とは言っても、直接的な描写はほぼ皆無と言っても過言では無いでしょう。主にギャグとしてちらほらと顔を出す程度です。ですが、万が一読んで気分を害してしまっても筆者は一切の責任を持ちません。閲読は、全て自己責任でお願いします。
ここは天の河。一般的には、乳白色に淡く光る星が河のように見える無数の星の集まりのことをそう呼称するのですが、ここは正真正銘の『天の河』。
正真正銘と杭打っているのだから、彦星と織姫も当然ながら存在しています。無論、おとぎ話で聞くように、一年に一度天の河が見える七夕の日にしか二人は会う事が出来ない、というのも紛れもない事実です。
そして、今日はその七夕。
織姫は彦星が自分を迎えに来るのを胸の高鳴りに耳を傾けながら待っていました。
ですが、彦星はなかなか迎えに来てくれません。
そこで、遂に待ち切れなくなった織姫は、天の河に舟を浮かべ、その向こう側へと渡りました。
そこで織姫が見た光景は、それはそれは酷いものでした。
彦星宅にて。
「やっ、いけません! ……彦星様には織姫様というお人がありながら──」
「あんな奴の話なんかしないでくれ! 今は、君の事が知りたいな――君の全てを」
「あ、ダメです……ん、ふぁ──こんなところ、織姫様にでも見られたり、したら」
「大丈夫。織姫は今頃俺の事を、指を咥えて待ってるだろうよ。それより、君が俺のを咥えてくれたら嬉しいんだけど――」
「そんな、彦星様のえっちぃー」
「ハッハッハ、漢はみんな獣さーっ!」
見知らぬ女子と体を交える彦星を見てしまった織姫は、彦星に失望してしまいました。
織姫は思い余って彦星邸を後にし、ショックのあまりに舟まで満身創痍の思いで走りました。それはもう韋駄天の如く、ウサイン・ボルトもビックリな程でした。
その時です。
あまりにも無に近い状態で走っていたので、思わず悟りをひらいてしまった――じゃなくて、舟に乗り込む際に縁に足を引っ掛け、天の河に頭からおっこちてしまいまったのです!
数多と河を象る星の群れを、織姫は重力に為す術が無いまま地上へと真っ逆様に落ちて行きました。
織姫は手足をジタバタとさせて足掻くものの、落下速度は増すばかり。
そして、死闘の末、天の河から誤って落下すること二時間後。
某都内某所の夜道を歩く一人の青年の頭の上へと……──。
ごちん。
「あてっ!」 「いたいっ!」
織姫の強烈な頭突きを青年は脳天で受け止めた為、その衝撃に身体が耐え切れずにフッと意識が飛びました。
クラッとよろめいてから、その場に倒れ込む青年。
一方、織姫はと言うと……。
「いったーい……。もぉ、なんなのよーっ!」
その場に転げ落ち、打ち付けた額を擦りながら涙目で夜空に向かって叫んでいました。
ご近所の 「何時だと思ってんだ!」 の一言で我に返り、自分を受け止めてくれた(?)青年に天からお迎えが来て居るのを目にし、青年を掴む天使の頭をポカポカと叩いて何とか追い払いました。
「ああ、お労しや……あー、えっと──謎の青年A様。素性も存じない私の為に、身を投げ出すだなんて」
確実に違う気がしますが、織姫にはそう見えたのでしょう。
コンビニ弁当の入ったビニール袋を片手に、口から魂が出かかってる青年を見て、身を伏せて彼の顔に手を当て、織姫は静かに目を瞑りました。
「私は彼にフラれたのよ。どうせ、私を待つヒトはもう居ない。だったら、この身体、貴方に御譲り致します──」
暖かな光が織姫のその身体を包み、触れた手から青年の身体も光に包まれる──。