7 お話
『我、神の使徒となりて神の盾とならん。神の矛とならん。神の足とならん。我は神の御使いなり。』
この、長いようで言ってしまえばすぐに言い終わってしまう言葉は、レンという人間の人格を構成するにあたって重要な言葉になる。
その言葉の意味をもうすぐ十年を生きることになるレンもあまり分かっていない。いや、意味は分かっているが、その言葉を発する意味という物が分かっていない。
まあ、この言葉を放つ意味という物が分かっているのはこの世界でも神の御使いだけそして、神の御使いたちはこの言葉を発する意味をレンに教えることはないだろう。
それに、この言葉を発する意味は時が来れば分かるのだから《・・・・・・・・・・・・》。
「さて、お主も今回の秋で数えて十歳になる。」
「うん。」
レンの誕生日をあと数日に控えたある日、ホウマはレンを食後に呼び止め、話をしていた。
「このままずっと我と一緒に居るのもいいが、お主も他の者たちと交流するべきだと思う。」
「ホ、ホウマ?それってどういう・・・。」
レンは話の雲行きが怪しくなってきたのを感じ、いつもは挟まないにもかかわらずホウマの話に口を挟む。
「お主、学校に行かないか?」
その言葉を聞いた瞬間、レンの顔が絶望に染まる。
「そ、それはホウマの元を離れて?」
「そ、そうじゃ。」
「やだ!」
レンはホウマのもとに来てから一回もこねたことがない駄々をこねた。
「やだやだやだ!ホウマと離れるなんてやだ!」
レンの意識にあったのはたった一つの欲望。いや、ホウマと一緒に居たいという願望だった。
「聞け、レン。」
ホウマはレンの顔を無理やりホウマの正面を向かせる。
「お主はこの森と、お主が産まれた村しか世界のことを知らぬ。我はお主に世界のことを知ってほしいのだ。」
「俺は知りたくない!」
昔は一人称が僕だったのに、いつの間にか俺になっている。
レンの些細な成長に喜んだホウマだが、すぐにレンの説得に戻る。
「我が知ってほしいのじゃ。ベッドの作り方、計算の仕方、効率的な狩りの仕方、治療の仕方。それはこの森の中や、お主が産まれた村などでは到底極めることは出来ない。だから、町に行き学んでほしいのじゃ。」
「できる!ベッドも作れるし、計算もできるし、狩りも効率的にできるし、治療も完璧にできる!」
それでもなおレンは抵抗を続ける。
ホウマは溜息をつくと、なおもレンを説得する。
「ならばこうしよう。お主はこの森での生活で足りないものを学園生活の中で見つけ、それを解決する術を持って帰れ。これはお主にしかできぬことだ。」
「俺にしかできない?」
「うむ。お主にしかできぬ。」
「ホウマのためになる?」
「うむ。我はちょー困っておる。誰かやってくれんかの?」
「俺がやる!」
(少し成長したかと思ったが、まだまだ子供じゃな。)
ちょろすぎるレンの先行きを心配しながら、ホウマはレンの出立の準備をするのであった。
ドラゴンの育児日記
今日はとうとうレンに学校のことを話した。
案の定というか、レンは物凄くいやがった。
だが、これはレンのためになるのだ。
そんな我だって、この話をするのに丸二年もかかった。
まあ、結局は行ってくれるそうなので、一安心だ。
これで友達の一人や二人できるといいのだが。