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社長と新入社員のパジャマパーティー

「あ、あの……異世界の会社というか、ギルドってどういうことですか?しかもあなたが社長って……。私、妖精の国に拉致されるとかそういう感じなんですか……?」

「うふふ、そのままの意味ですよ。先程申し上げた通り、私は『異世界にある会社ギルド社長ギルドマスター』なのです。それに、いくら妖精と言えども、人攫ひとさらいのような野蛮なことはいたしませんので、そこはご安心ください。今回(わたくし)達の会社ギルドは、人員確保の為にこの世界で求人を出し、その中で才ある貴女をぜひ採用させていただきたく【合格】と判断したのです。もし、今回の雇用条件を貴女が受け入れてくださるのなら、わたくし達は正式に我がギルド社員メンバーとして、貴女を迎え入れさせていただきます。しかし、雇用条件を貴女が受け入れられない場合は、申し訳有りませんが貴女の記憶を消させていただきます。わたくし達の存在は、本来()()()()()()()に知られるわけにはいきませんからね」

 よ、よかった。強制的に拉致されて強制労働を強いられて帰れなくなったりとか、神隠しにあって湯屋で働くような流れみたいにはならないらしい。取り敢えず説明を聞いて『あ、すみません。やっぱり無理です……。』と思ったら、それはちゃんと受け入れてくれるみたいだ。

 いや、それより…『妖精女王が社長やってる会社』ってなんなんだろう。まずその発想の着地点がよく分からない。そもそも妖精とか異形の存在がいる世界に『会社』なんてもの存在するのか、異世界の『会社』っていう概念は私たちの世界と同じようなものなのか、そこもよく分からない。というより、今までの話、ほとんど分からないことしかないわ―――。

「まだ半信半疑、というところでしょうね。仕方ありませんわ。わたくしとて貴女と同じ立場なら、同じような反応をするでしょう。では、信じていただくためにも、我がギルドの詳細をご説明させていただきます。ジャスパー、よろしくお願いしますね」

「はい、妖精女王ティターニア様。よいしょ……っと!」

 今まで黙ってた書記のケモ耳ショタが、彼女の返事に応じて立ち上がった。

 ―――椅子の上に。

 身長が低いから、立ち上がったら机で頭が見えなくなるのだろう。

 改めて見ると、まるで幼稚園児のような体型だった。しかも耳だけでなく尻尾も生えてる。よく見たら尻尾は狼のような尻尾だった。それに声も可愛らしく、見た目と合っているから余計可愛い。

 これは多分、全国のショタ好きなお姉さん方がヒーヒー言うだろう。

「では改めて篠宮シノミヤさん、この度の面接合格おめでとうございますっ!自分は妖精女王ティターニア様が経営する会社ギルドで、社員メンバーの個人情報や実績管理を担っている総務部門長≪グラン・ルドベキア≫のジャスパーと申しますっ!よろしくお願いいたしますっ!!」

 そう言いながら私に向かって一礼をした。

 私もそれに合わせて、『ありがとうございます』とお礼の言葉を述べて一礼をした。

 見た目は本当に、親戚のおじちゃんおばちゃんに自己紹介をする幼稚園児だ。なんだろうか、こう……頭を撫で回したい衝動に駆られてしまう。

「あっ!ちなみに自分は、外見が人間の幼子で動物の耳や尻尾を持つ【リルム】という種族の者です。自分の耳や尻尾は『狼』のものなんですよ〜。こんな見た目だからよく勘違いされますが、これでもあなたの10倍近く生きてますよっ」

 わーお……。見た目はショタ、中身はおじいちゃんだったのか。ロリババアならぬ、ショタジジイってやつなんだろうか。

 ヤバいよ、年齢的に超絶大先輩の頭を頭撫でたいとか考えちゃってたよ。

 私の歳の10倍近くって、200~300歳くらいってことっ!?―――最早おじいちゃん超えてるわ。

 ―――しかも私の心の声聞こえてるからなのか、さっきから妖精女王ティターニアさんめっちゃ笑いこらえてるし。年末にやってる笑ったらお仕置きくらう番組みたいになっちゃってるよ。てか、どんだけツボ浅いんだよオイッ!!

「まぁ、自分の外見の話は置いといて、早速会社(ギルド)の説明をさせていただきますね。本来ならば面接を始める前にお伝えすべきことなのですが、自分達はあなた方にとっては『異世界の住人』ですので、事前に内容を説明するわけにはいかなかったのです。そこはどうかご理解頂きたいです。」

 そう言いながら、彼は深々と申し訳なさそうに頭を下げた。

 理由としては多分、この世界と別の世界は本来交わらないもの。深く干渉してはいけないし、異世界の情報を入手したらこの世界にどんな影響を及ぼすか分からないからってところなんだろう、多分。

 あ、妖精女王ティターニアさん笑顔で頷いてるわ。どうやら私の読みは当たりのようだ。

「ではまず、会社ギルド概要についてです。我々が所属する会社ギルドは、要点を言えば『困っているお客(クライアント)様からの依頼オーダーを受け、それを解決する事が使命』となります。依頼オーダーの内容は様々で、『不眠症に悩んでいるお客(クライアント)様にあった薬を調合し、それを渡す』仕事、『農作物を荒らす害獣の退治』、『ゾンビに襲われた村に行き、ゾンビを退治及び原因究明』、果ては『古代から存在する悪竜の討伐』などです。これらは難易度によって階級ランク分けされ、ご自身の適正階級(ランク)にあったものを受注し、ご依頼先に行っていただく形となります。その中で、新入社員の方は1番下の階級ランクで設定させていただいておりますので、受注できるお仕事も階級ランクが低いものに限られてしまいますが、社員メンバーの安全確保が第1ですので、そこはご了承ください。ですが、様々な依頼オーダーをこなしていけば階級ランクは上がっていきます。階級ランクが上がれば上がるほど、依頼オーダーの難易度も上がりますが、1回の仕事で貰える依頼料も増えます。仕事中に負った怪我については補償しますので、そこもご安心くださいっ」

 なるほど、要は自分に見合ったランクの中から自分がやれそうな仕事を選んで、それをこなしていって徐々にランクを上げていくって仕組みか―――。

「では次に、会社ギルド内の部門をご説明いたします。お仕事に関係してくる部門は、大まかに分けて4つの部門となります。まず、社員メンバーの個人情報・仕事の実績管理、お仕事上の悩み相談などを担う【総務部門≪ルドベキア≫】。お客(クライアント)様からのご依頼を承り、依頼内容を精査・階級ランク分けを行う【管理部門≪ノースポール≫】。精査と階級ランク分けが完了したご依頼を依頼掲示板オーダーボードに貼ったり、仕事を受注する際や、仕事が完了して帰還した社員メンバーの報告を確認する窓口担当の【受付部門≪カルミア≫】。そして、依頼オーダーを受けて現場に向かい、その依頼オーダーを解決する【実行部門≪アスター≫】となります。今回篠宮(シノミヤ)さんに所属していただきますのは【実行部門アスター】です。」

 あっ、そういえば募集要項の詳細情報に『派遣業務』とかって書いてあったっけ。

 それにしても―――不眠症の人に眠り薬作って渡すならまだ出来そうだけれども、ゾンビ退治とかドラゴン討伐とか……なんかそんなのゲームであったな。

 異世界の住人だったらまだしも、武器なんてゲームくらいでしか扱ったことのない、戦闘とは無縁の環境で育ってしまった一般ピーポーの私が、そんな事出来るのだろうか。いずれランク上がったらやれるとは言われても、正直怖いわ……。

「簡単にいえば、管理部門ノースポール依頼オーダーを仕分け、実行部門アスター受付部門カルミアに受けたい依頼オーダーを提示して仕事に向かい、終わったら受付部門カルミアが確認を行い、その依頼オーダーを解決させた社員メンバーの情報と依頼内容を総務部ルドベキアに渡す。そういうサイクルですね。後は社員メンバーの体調管理や、怪我の手当などを行う【医療部門≪トルペ≫】、社員メンバーの食事や飲物を作る【料理部門≪セージ≫】、社員メンバー会社ギルドの貯金管理を行う【銀行部門≪ストック≫】もあります。これらの部門は直接お仕事と関係しませんが、この3部門あってこそ皆さんお仕事ができる―――。言わば『影の立役者』と言っても過言ではない重要な部門です。というわけで、我がギルドには総務部門ルドベキア管理部門ノースポール受付部門カルミア医療部門トルペ料理部門セージ銀行部門ストック、そして篠宮シノミヤさんが今後所属することとなる実行部門アスターの、計7部門がございますっ」

 た、沢山あるなぁ。しかもそれぞれの仕組みがしっかりしてる……。

 だいたいどの部門がどういうことを担うかは分かった気がする。

 それにしても、総務・管理・受付って本当に会社っぽいなぁ―――。

「ちなみに、各部門の責任者は部門長≪グラン≫と呼ばれます。先程申し上げた通り、自分が総務部門長グラン・ルドベキアです。そちらにいる【リザードマン】と呼ばれる種族の……さっき篠宮シノミヤさんを泣かせた方が、管理部門長グラン・ノースポールのランドルフさんですっ!」

「人聞きの悪い事を言うなジャスパーッ!―――失敬、私が管理部門長グラン・ノースポールのランドルフという者だ。先程はすまなかった篠宮シノミヤ殿。」

「い、いえっ!本当に大丈夫です!気にしてませんからっ!」

 ジャスパーさんにいじられながら紹介された蜥蜴トカゲ男さん、ランドルフさんは深々と頭を下げた。

 その態度からとても真面目で誠実な方だと思った。依頼の精査や仕分けをする仕事の部門長をやっているという話は頷ける。

 ―――今気づいたけれど、それぞれの部門の名前が『花の名前』だった気がする。どんな花だったか詳しくは覚えていないけれど……。

「あっ、そうだ!篠宮シノミヤさんと同じく『この世界』で採用した方の中に、部門長グランを務めている者もいらっしゃいますよっ!我々と同じ世界の住人ではないからと言って部門長グランになれないというわけではありませんので、篠宮シノミヤさんも是非、部門長グランを目指して頑張ってくださいっ!」

「えっ!?そうなんですかっ!?てっきり、異世界に住む重鎮たちばかりかと思ってました……」

「あっははっ!大丈夫ですよっ!住む世界は違えど、同じ会社ギルドの仲間です。実力のある方や、努力を惜しまないまっすぐな方はちゃんと評価されますよ」

 なんだろうか。話を聞いてると、異世界のほうがこの世界よりよっぽど会社の仕組みがしっかりしてる気がする。不思議なくらいだわ。

「では次に、篠宮シノミヤさんが所属する実行部門アスターについてご説明いたします。まずお仕事を受注する上で重要な『階級ランク』についてです。階級ランクは5つに分けられており、初級の『マール』、中級の『ティエラ』、上級の『シエロ』、特級の『ステラ』、そして一番上が超級の『ルーナ』となります。先程軽く触れましたが、受注できるお仕事は『ご自身の適正階級(ランク)、または適正階級(ランク)より下』となります。たとえば初級マールの方は、当然初級(マール)のお仕事しか受注できません。ですが、上級シエロの方は上級シエロのお仕事だけでなく、下の初級マール中級ティエラのお仕事も受注できますし、超級ルーナの方は全階級(ランク)のお仕事が受注可能です。ただ……皆さん階級ランクを上げるのに必死で、中々自分の適正階級(ランク)より下のお仕事は受けませんね。稀にお小遣い稼ぎの為に、片っ端から受ける方もいらっしゃいますが……まぁ稀ですね。家賃滞納したとか、彼氏彼女のためにプレゼントを買うお金が欲しいとか、友人に借りた酒代払わなきゃとか、結婚記念日を忘れて女の子と遊んだのがバレて嫁にボッコボコにされ、機嫌を直してもらえるようにサプライズを用意するための金が必要とか、そういう時くらいですかね」

 ―――なんかどうしようもない理由が多い気がしたが、大丈夫なんだろうか実行部門アスターの人たちは……。

 最後に至ってはガチ修羅場じゃん……。そのボコられた人どうなったんだろう、サプライズ用意できたんだろうか、奥さんは機嫌直ったのだろうか―――色々気になる。

「それでは次に『ジョブ』について説明させていただきます。ジョブは主に剣騎士ナイト魔導士ソーサラー弓撃士アーチャー銃撃士ガンナー潜影士アサシン獣共士テイマー拳闘士ファイターの7つに分けられます。また、1つのジョブの中で使う武器、戦い方、自分の得意な魔法属性によって、更に呼び方が細かく分けられますがそこは追々(おいおい)ご説明いたします。ジョブは自分のご希望に合ったものをお選びいただけますし、好きな時に違うジョブへと転職することも可能です。そして、魔導士ソーサラーを除く6つのジョブの中には『魔導士ソーサラーから別のジョブに転職後、魔導士ソーサラーの技術を活かし、自分の武器に魔法属性付与エンチャントをして戦う』者もいます。これが魔法属性付与士(エレメンタラー)と呼ばれる方たちです。この方たちの立ち位置は特殊で、『魔法は使えるけれどジョブ魔導士ソーサラーではない』という感じです。たとえば剣騎士ナイト所属で魔法属性付与エンチャントができる方は魔剣騎士エレメンタル・ナイト弓撃士アーチャー所属の魔法属性付与エンチャントができる方は魔弓撃士エレメンタル・アーチャーと呼ばれます。まぁ呼び方が長いので、大抵は魔法属性付与士(エレメンタラー)と呼んだりすることが多いですね。実行部門アスターのおよそ半数以上の方が、この魔法属性付与士(エレメンタラー)に含まれます。昔はそんなにいなかったのですが、やはり武器に魔法属性付与エンチャントができると色々便利ですからね。その武器の攻撃力を格段に跳ね上げられますし、ドラゴンなど防御力が高い相手の弱点を突くこともできますからね」

 ……もしかしてだけど、募集要項に合った『技術職』ってこれっ!?確かに技術はいるだろうけれど、なんか違うっ!!物凄い()()()()()()()があるんですけどっ!?これはこれで新手の詐欺のように思えるけど気のせいでしょうかっ!?

 職について色々なことを思っていた私は、さっきの説明を思い返して1つの疑問が浮かんだ。

「あ、そういえば。先程の説明で、魔法属性付与士エレメンタラーは『魔導士ソーサラーから別の職に転職後、その技術を活かして武器に魔法属性付与エンチャントを行う者』っておっしゃってましたよね?例えばなんですが、『剣騎士ナイト魔導士ソーサラーになって、剣騎士ナイトの時に使っていた武器に魔法属性付与エンチャントを行う』という事は出来ないんでしょうか?」

 私の質問を聞いたジャスパーさんは、にんまりとした笑顔で答えた。

「さっすが涼香リョーカさん!良い質問ですねっ!はい、実は先程涼香(リョーカ)さんがおっしゃった事は出来ないのです。会社には『転職時は必ず、前職の武器を総務部門ルドベキアに預ける』という決まりがあるのです。その武器を預ければ転職をしたという証明にもなるというのが理由です。以前『潜影士アサシンから魔導士ソーサラーに転職したはいいけれど、やっぱり前職の武器を使いたい』と言って仕事を請け負った社員メンバーの情報が、総務部門ルドベキア受付部門カルミアで食い違いが起こってしまったことがあります。総務部門ルドベキアでは『魔導士ソーサラー』で登録されているにもかかわらず、受付部門カルミアでは『潜影士アサシン』の装いで来たものですから誤解を招いてしまったのですよ。この後も似たような事例が多発し、会社ギルド内に混乱を招いたこともありました。ですので、魔導士ソーサラーが別の職の武器を持って魔法属性付与エンチャントを行うことは、決まりとして出来ないのです」

 なるほど、会社内でそういう混乱を未然に防ぐために出来ないことになっているんだ。決まり事もあって徹底しているんだなぁ。

「このような混乱が起きるほど、今魔法属性付与士(エレメンタラー)は昔より数が増えています。ですので最近の採用条件の中に、魔導士ソーサラーとしての重要な要素『空気中の魔粒子マナを体内に溜められる体であるか』が含まれます。途中で魔導士ソーサラーに転職したいと思っても、素質がなければ転職したところで魔法は使えませんからね」

 ……あれ?私もさっき【合格】って判断されたんだよね?その採用条件もあって【合格】ってことは―――

「あの……私にも、魔導士ソーサラーとしての素質がある……ってことなんでしょうか?」

 この私が抱いた疑問を真っ先に返してくれたのは妖精女王ティターニアさんだった。

「うふふ、ご名答ですよ涼香リョーカさん。そう、先程の採用条件の通り、貴女にも体内に魔粒子マナを溜められる素質があります。しかも、この世界の人では珍しいくらい、その素質に溢れています。わたくしたちが住む異世界でも、こんなに魔粒子マナに愛されている人は中々いませんよ」

魔粒子マナに、愛されている…?」

「ええ。わたくしたちの世界では、魔粒子マナを体内に多く溜められる素質のある人間の事をそう呼ぶのです。魔粒子マナの許容量が多ければ多いほど、沢山の魔法を覚えられますし、高度な魔法も使えます。その素質がある者は、わたくしたち妖精や神に近しい存在とも考えられているのです。」

 そうだったんだ。今まで特に気にしてなかったし、自覚もなかったけれど……。このとしになってそんな才能ありますよって言われると、なんだかよくわからないけれどテンションが上がってしまう。私の第二の人生(セカンド・ライフ)がこれから始まる―――そんな風に思えてしまう。

「ですので涼香リョーカさん。無理強いはしませんが―――魔導士ソーサラーになってみませんか?貴女なら魔導士ソーサラーとしての素質は充分にありますし、魔導士ソーサラーの中でも最上位の存在【大魔導士≪ファンタジア≫】を目指すことも充分可能です。……いかがでしょうか、涼香リョーカさん?」

 き、気にはなる……。そんなことを言われるとテンションは上がるし、魔法にも興味がある。

 ただ―――やっぱり不安がある。

 今までも、仕事とかで新しいことに挑戦したり任されたりして、上手くいった試しがない。

 また失敗したらどうしよう、ただ素質があるだけの宝の持ち腐れにならないだろうか、努力してもそれが本当に実るだろうか……。そんな恐怖心と嫌な記憶(トラウマ)が、私の心を縛り付けた。

 でも、今は違う。前と同じ仕事でも、同じ業界でも、同じ世界でもない。新しい世界での新しい仕事。最初のうちは失敗しても当然だ。それに、妖精女王さん(この人)はちゃんと私の素質を見出してくれた、できると言ってくれた。この人の期待を、私は無駄にしたくない。よし、やってやるっ……!

魔導士ソーサラーになるとか……正直な気持ち、不安でいっぱいです。やったこともないですし、まさか自分がその道を行くとは思ったことがなかったので。ですが、社長あなたが素質がある・できると言ってくださったからには、期待に応えられるように頑張りますっ……!!」

「では、決まりですねっ!篠宮涼香シノミヤ リョーカさん、わたくしたちの会社ギルドの新入社員として心から歓迎いたしますわっ♪」


 その後、色々な契約書にサインをしたり入社する日取りを決めたりして、長いようで短かったこの面接も終了した。

 面接会場のビルを出た時には、もうすっかり日が沈んでいた。家に帰って料理を作る気力がなかった私は、近くのコンビニで弁当を買って家に着いた。

 リクルートスーツを脱ぎ捨て、Tシャツとホットパンツというラフな格好に早々と着替えた。先程買ったコンビニ弁当を食べて、緊張と疲れで凝り固まった体を癒すため風呂にゆっくりと浸かった。そして、今日1日のことを改めて思い返していた。

 ―――本当に、あれは現実だったんだろうか。

 夢なのか現実なのかもよく分からない。早々に就職先が決まった事は凄く嬉しいし夢のようだという事もだけど、それは小さな疑問に過ぎない。

 あの人達の存在、会社、職、異世界の存在の事が1番大きな疑問だ。あんなに立て続けに訳の分からないことを言われて、目にして、一気に全部理解しました……なんてさすがに無理がある。まだ半信半疑だ。

 明日の朝起きたら『狐に化かされてました』なんてオチもあるかもしれない。

 いや、そもそもこのご時世に狐に化かされたとかもあるんだろうか。

 でもどちらかと言えば、まだそっちの方が信じられる。日本人としてのDNAだからというか、幼少期に見た日本昔話とかの刷り込み効果だからというか。

 そんな事を思いながら湯に浸かっていた私は、気がついたらのぼせかけてきた。さっさとシャワーを浴びて、肌ケアをして部屋着に着替え終わり、リビングで髪を乾かすためにお風呂場を出た。

「あらまあ、こんなに沢山ゲームがあるのですねっ♪どれもこれも気になって仕方がありませんわぁ。オススメはどれでしょうか、涼香リョーカさん?」

「ぶふっっっ!!!」

 何故か私の家にさっき面接した社長がいる光景を見た私は、盛大に吹き出した……。

「な、ななな、なんで私の家にっ!!?」

「あら、ごめんなさい。そうですね、勝手に家にいては驚いてしまいますものね。ちゃんと呼び鈴を鳴らして入るべきでしたね」

「あ、そ、そうですね……。出来れば玄関にインターホンあるんで、それ鳴らしてくれれば……じゃなくって!!どうして私の家に社長が来るのかって事が重要なんですよっ!!」

「あらまあ、良いノリ突っ込みですわねえ。あのランドルフと引けを取らないくらい、ノリ突っ込みの才能にも溢れてるんですねえ。感激いたしましたわっ!」

「だあああもうっ!!だからそうじゃなくってぇぇぇ!!!」

 妖精女王に遊ばれる憐れな人間の絵面が出来上がってしまった。―――ダメだわ、完全にこの人のペースだわ。ていうか、ランドルフさんって、さっきいたあの面接官の1人だよね。管理部長とかの。あの人も苦労してんだなぁ……。

「うふふ、真面目な方はいじり甲斐があってとても面白いですわ。わたくし、振り回されて困ってる方の様子を見るのがとても好きなんですの。気まぐれな妖精としてのさがなんでしょうねえ、きっと」

 お茶目さん通り越して困ったさんだわこりゃ……。さすが妖精女王様、とでも言うべきかな。女王様っぷりというか気まぐれというか、Sっ気があるんだな……。でも社長がこんな感じなら、きっと会社もこんな風に楽しそうなんだろうなぁ。

 それに、こういう会話をしたのは本当に久々だな。いつ以来だろうか。もう思い出せないくらい、結構前なんだろうな。

「それで、なんで社長がうちにいるんですか?」

「社長だなんて堅苦しいですわ。気軽に『妖精女王ティターニア』と呼んでくださいな。もしくは渾名あだなの『ニーア』でも構いませんよ?」

「あ~、さすがに社長に対して『ニーア』って呼ぶのは気が引けるんで。―――じゃあ、妖精女王ティターニアさん……とか?」

「うふふ、貴女の呼びやすい呼び方で構いませんわ」

「じゃあ妖精女王ティターニアさんで。……そんで、なんで社長である妖精女王ティターニアさんが、私の家に?」

「あ、それはですね、ただ単に貴女の住まいが気になって付いてきてしまいましたっ♪」

「それ可愛く言えば興味本位ですが、悪く言えばストーカーですし犯罪ですよ…?」

「あらあら、そうなんですか?妖精ですから人間の法律とやらに適用されないかと思ったのですが……駄目なのですか?」

「いや、おっさんだろうが妖精だろうが、後をついてきて勝手に家に上がってる時点で犯罪です。相手があなたじゃなければめちゃくちゃ怖いですよ……。」

「あらあらまあまあ。『妖精ですから(キリッ』と言えばなんでも誤魔化しが効くかと思ったのですが……」

「キリッじゃないし、最悪じゃないですかっ!!もう誤魔化そうとしてる時点で確信犯じゃないですかっ!!」

「冗談ですよ冗談♪貴女のお住まいが気になってついてきたのは事実ですが。ただ個人的に、貴女がどういう方なのか詳しく知りたくて来たのです。ほら、この世界の女性たちは『パジャマパーティー』とやらで親睦を深めると言いますでしょう?なので郷に入っては郷に従えという事で、実践してみましょうというわけなのです!」

「いや、郷に入っては郷に従えって言うなら、まず法律に従ってください……」

 なんなんだこのコントみたいな流れ……。完全にこの問答を楽しんでるわ妖精女王(この人)

 それにパジャマパーティーしに来たって唐突にもほどがあるわ。しかもアポなしだし。―――隣の晩御飯かよ。

 色々頭の整理が出来ていない私は深くため息をついた。

「はぁ……。あの、パジャマパーティーはいいんですけど、いきなりアポなしで来られても特に出せる茶菓子とかないんですよ。今までこの家に人を呼んだこともないから、元々そういう用意もしてないですし……」

「あっ、茶菓子の心配は無用ですわ。魔法で私の仕事机デスクから呼べますし♪」

 そう言いながら彼女が召喚したのは、見たこともない文字と可愛らしいウサギの絵がプリントされた赤い缶だった。中身は色々な味のクッキーが入ったクッキーアソートだった。目の前で魔法を使われて呆気に取られている私は彼女からクッキーを食べるように勧められ、真ん中にイチゴのジャムが入っているクッキーを手に取って食べた。

「―――お、美味しいっ!!」

 心の中で思っていたはずが、そう呟いてしまった。

 以前取引先の人から銀座の高級クッキーをいただいたが、それに引けを取らない程、もしかしたらそれ以上に美味しかった。クッキー生地の甘さとイチゴジャムの酸味が絶妙だった。

 そういえば、不法侵入とは言え、仮にも()()()()()()()に対してまだ飲み物を出していなかった。慌ててキッチンに行き、さっきのクッキーと合うミルクティーを用意し始めた。昔カフェでバイトした経験があるので、紅茶やコーヒーを淹れるのは多少自信がある。

 電気ポットに入れてあるお湯を茶葉入りティーポットに注ぎ、2人分のティーカップにはミルクを4分の1程度注いだ。紅茶の爽やかな香りが充分たった事を確認した私は、紅茶をミルクと混ざるようにティーカップに注いだ。

 そして2人分のミルクティー、ティースプーン、角砂糖が入った小瓶を載せたトレーを持ってリビングに行き、社長に振る舞った。妖精女王ティターニアさんは『いただきますね』と言ってフーフーと少し冷まし、ミルクティーを飲み始めた。

「まあ、とっても美味しいですわ涼香リョーカさんっ♪貴女、紅茶を入れる才能もあるのですねえ」

 良かった。どうやら気に入ってくれたようだ。昔しこたま店長に修行させられた経験を活かせてよかった……。

 そんなこんなでいつの間にか彼女のペースに流され、私と妖精女王ティターニアさんはクッキーを食べたりミルクティーを飲みながら、色々な話に花を咲かせた。今までの仕事の愚痴を言い合ったり、好きなファンタジーゲームの話をしたりした。

 ちなみにその話の流れで、好きなゲームキャラの話をした時に―――

「私はですね、あのファンタジーゲームの長い銀色の髪を持つ長刀使いさんが好みなんですっ♪なんとなく見た目が夫の妖精王オベイロンにも似てて、それで惹かれてしまったのでしょうね。あ、それから―――」

 と、このように好きなキャラと夫の共通点及び惚気のろけ話に発展してしまった。好きな気持ちは充分に伝わったが……とにかく長いっ。

 あと、そもそもこの話題は()()大丈夫なんだろうか―――そこが心配だ。私も人の事は言えないが、この人も大概だわ。まだ2話目なのにこの話をしたもんだから『はいっ打ち切りー!』とかはマジ勘弁だわ……。

 その後はゲームだけに留まらず、アニメやマンガの推しなどの話で盛り上がった。なんでそんなに詳しいのかを聞いたら、妖精女王ティターニアさんが昔、気紛れでこの世界に観光で来た時に日本のオタク文化に触れ、気づいたらアニメやマンガ、ゲームにハマってしまい、自室にはそれらのグッズやゲーム類が溢れ返っているという事情を知った。収集癖があるらしく、どうやら従者である妖精や夫の妖精王オベイロンさんの悩みの種だとか。

 ちなみにそういう経緯があり『このオタク文化とやらに触れている方たちなら、わたくしたちの存在を聞いてもあっさり受け入れてくれますよねきっと!―――と思って、日本で求人を出した』という、女王にしては安易というか、女王だからこそ大胆な案に行き着いたなと思った。

 ふと、面接時の疑問を思い返して妖精女王ティターニアさんに聞いてみた。

「―――そういえば、なんで妖精女王ティターニアさんは会社、ギルドを作ろうと思ったんですか?妖精の女王ってことは、妖精たちの国を治めるのが、どちらかといえば本職なんじゃ……?」

「ああ、それはですね、妖精の国を治めるのが暇だったのです。夫と同等の権限を持ってはいますが、実質治めているのは妖精王オベイロンで私は殆どお飾りなのですよ。それでやることもなく暇を持て余した私は、気まぐれで日本に観光に行き、日本のファンタジーゲームを知って、その中で様々な困った人の依頼をこなしていく『ギルド』の存在を知ったのです。それで、私も同じことをやってみたいと思い、同族である妖精達や他種族の方々に協力を募って、会社ギルドを立ち上げたのですっ♪」

 あ、ただ単にこの人の気まぐれというか、暇つぶしに近いんだなこりゃ……。

 会社を立ち上げた理由を聞いて、危うく関西人ばりのズッコケをしそうになった。

 それからは彼女が気になっていた対戦ゲームや協力プレイをやったりして、カーテンの外から差し込む光でもう夜明けになってたことに気づいた。

 徹夜オールしたり、パジャマパーティーしたり、こんなに人と話した事も、趣味の話や対戦ゲームで盛り上がった事もなかった。

 不法侵入された事実を忘れて、いつのまにか凄く楽しんでいる自分がいたことに気づいた。

「あらまあ、もうこんな時間になってしまっていたのですね。ごめんなさいね、長居し過ぎてしまいましたわ。しかも貴女を寝かせずにこんなに遊んでしまって……」

「いいんですよ、気にしないでください。私もこんなに遊んだり趣味の話で盛り上がったのが初めてで、凄く嬉しかったし楽しかったです。家族や友人ともこんな会話をしたことがなかったんで……本当にありがとうございます妖精女王ティターニアさん」

 一瞬目を見開いた彼女は、慈しむ聖母のように顔を綻ばせた。

「そう言って頂けてよかったですわ。此方こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました涼香リョーカさん。わたくしはそろそろおいとまさせていただきますね。それでは1週間後の入社日の朝、またお伺いいたしますわ。では、良い夢を―――」

 そう言った彼女を見た私の視界は段々遠のいて行き、一面暗闇の世界が広がった。

 そして目を開くと、私の視界には自分の部屋の天井が映っていた。いつの間にかベッドで寝ていたらしい。部屋の壁掛時計を見たら、もう昼の12時を超えていた。

 それにしても―――どこからどこまでが夢だったんだろう。

 もしかして、風呂から上がってその後に寝て見た夢なのだろうか。本当に夢と現実の境目が分からなかった。

 遅めの朝食を用意するかとベッドから出た私は、リビングの光景を見て思わず笑顔になってしまった。

「―――夢、じゃなかったんだなぁ」

 机の上には2人分のティーカップと、見たこともない文字と可愛らしいウサギの絵がプリントされた赤い缶が置いてあり、床には2人分のゲームコントローラーが置いてあった。

 赤い缶の中にはまだクッキーが残っており、私はウサギ型のクッキーを手に取って食べた。

 ……やっぱり、美味しい。

 異世界の妖精女王兼私の社長とパジャマパーティーをした。

 そんな不思議な体験をして迎えた朝は、今まで迎えてきたどんな朝よりも、とても心地良く感じた。

「さてと、朝ごはん食べ終わったら片づけますかね」

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