社畜からの引きニートからの転職活動
「なんなんだろう、この状況…。」
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私は大学卒業後、某ゲーム会社に入社して品質管理部門に配属となった。
ゲームでひたすら同じ動作をやって、不具合を見つけたら開発に報告。もしくは、自分で『こうしたら不具合が起きそうだな』と思った動作をやる自主確認。たまに、社員やアルバイトの子たちに共有するプロジェクトの仕様書を作成したりなどなど。
ゲームテスター、これが私の仕事だ。
いや、正確に言えば仕事だった…。
「ただ毎日ゲームをやってお金もらえるなんて、超羨ましい~」
以前、家族や友人に言われた一言だが、この職場に来てみれば、そんな台詞は言えなくなるのは確実だ。
何年勤務しても上がらない安月給、低賃金の割に膨大な仕事量、当たり前のサービス残業、休日・ボーナス・有給休暇なんて無いようなもの。
おまけに、お局様からのパワハラ、同僚である男性社員からのセクハラ、それらを申告しても聞き入れない上司、空気の入れ替えもろくに出来ない箱詰めのようなビル。まるでありとあらゆる『ブラック企業要素』をこれでもかと詰め込んで溢れ出たような、そんな企業だった。他にもまだ色々あるが、これ以上はキリがない…。
とにかく、『ここはブラック企業でしょうか?』と質問したら、100人中100人が『はい』と答えるような職場に、私は5年程勤めた。
目の下にクマを作って、お局様のサンドバッグにされ、同僚のセクハラ野郎にからまれ、新入社員の後輩やアルバイトの子たちを指導し、深夜に帰って早朝に出勤する過重労働に耐え、毎日真面目に働いた結果、気づいたら私は病院のベッドにいた。
付き添ってくれた後輩曰く、昼休憩中に吐いて倒れたらしい。急いで救急車を手配したが、病院に運ばれても意識がなく、生死の境を彷徨う危険な状況だったそうだ。
何時間も経って、ようやく目が覚めた私に矢継ぎ早でその事を告げた彼女は、涙ぐみながら『先輩が生きててよかった』と呟いた。
あの時初めて見た彼女の泣き顔、彼女への恩を、私は一生忘れないだろう。
その後、1か月の入院生活を送った私は、会社に引き留められたが、色々難癖をつけてめでたく退職した。
社長や上司から、『もう少し給料上げるから』とか、『休職扱いってことにするから、体調良くなったらまた戻ってきてよ~』と言われたが、『そんな事を言うくらいなら、もっと前から改善するべきだったな!!』と言い放ち、あのクソ会社を後にした。
会社を辞めたものの、すぐに転職活動を始める気は起きず、しばらく休みたいなと思っていた私は、憧れだった自宅警備員の道を選んだ。安月給ではあったものの、残業代がプラスされていて、多少貯金に余裕があったからだ。
今までは1日の大半以上を会社で過ごしていたので、精々家でやることと言ったら、『帰ったら寝る』、『起きる』、『シャワーを浴びる』、『朝食を食べる』しかなかった。
そんな、やることがなかった小さなアパートの1Kが、ついに私の楽園となった。
それからの毎日は幸せだった。好きな時間に起きて、朝飯を食べて、ゲームして、テレビを見て、夕飯を食べて、最後はネトゲで1日の〆を飾る。あぁ、なんて素晴らしき自宅警備員生活。外に出る時と言ったら、日用品や食料の調達、新作のゲームや好きな小説家の本が出版された時くらいだ。
冬場は特に最高だ。テレビの目の前にこたつを置き、こたつに入りながらゲームをしたり、年末のお笑い番組を見て1日を過ごした。こたつの上にはゲーミングノートPC、据え置きゲームとネトゲ用のコントローラー、テレビのリモコン、スマホ、漫画、ティッシュ、カップアイスを置いて、こたつの横には2ℓのオレンジジュースとゴミ箱を用意し、まるでコックピットにいるような気分を味わった。
あんな思い出しただけでも反吐が出るような最悪な日々から解放され、こんなに毎日が楽しいと思えたのは初めての事だった。あぁ、一生この生活を続けていたい、社畜に戻りたくない、そう思っていた。
だが、そんな幸せも長くは続かなかった。とうとう貯金が底をつき始めたのだ。
そりゃそうだ。1年もこんな生活続けていたら、必ず終わりが来る。いい加減、腹を括って転職活動を始めるしかない。寂しい残高が書かれた私の貯金通帳が、その残酷な運命を告げた。
とは言え、1年もの空白期間があり、20代半ばも過ぎている私が、早々仕事先が決まるのだろうかという不安がある。転職活動をサポートしてくれる『エージェントさん』とやらにお世話になるのも、それはそれで面倒くさい。
どうしたものかと考えながら、スマホでなんとなく求人検索をしていた時、こんな内容の文章が私の目に留まった。
『転職活動を考えているそこのアナタ!一度私たちとお会いしませんか?』
ありきたりだが、今の私に向けられているような言葉に不思議と惹かれ、思わず求人の詳細情報を開いてしまった。
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【仕事内容】:配属されるポジションによりますが、基本的にはお客様からの
ご依頼を受ける〈技術職の派遣業務〉となります。
詳細情報は面接時にご説明いたします。
【求める人材】:学歴不問!
特に、RPGやファンタジーの世界が好きな方はぜひ!
【勤務時間】:フレックスタイム制
【職場環境】:社員同士フレンドリーで年功序列はありません。
面倒見の良い先輩方ばかりで、社長とも直接交流できる
良い職場です。
お仕事上での悩みがある際は、即時対応させていただきます。
【ポジション】:今までご自身が培ってきた経験や、面接時での適性判断により
応相談とさせていただきます。
ご希望にもお応えいたしますので、
お気軽にお申し付けください。
【給与】:案件にもよりますが、新入社員でも、
基本給は最低月18万以上となります。
経験によりこちらも応相談とさせていただきます。
【昇給・賞与】:昇給/年2回・賞与/年1回。成果により金額が上がります。
時々ですが、お客様からお礼をいただける場合もございます。
【諸手当】:社宅あり。役職手当あり。
【休日休暇】:年間休日120日以上。有給・慶弔休暇、リフレッシュ休暇、
バースデー休暇など。
【福利厚生】:研修制度。産休育休制度。服装髪型自由。
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「…あ、怪しすぎる」
これが率直な私の感想だった。こんな求人、見るからに怪しすぎる。それに肝心な仕事内容がよくわからない。派遣業務と書いてはあるが、どんな業務をやるかは面接時でないと教えてくれないと書いてある。よほどの機密事項なのか、もしくはもっとヤバい仕事の内容なのか…。ただ技術職と書いてはあるから、多分、面接時にいきなり『脱げ』とか言われるような、そんな仕事じゃないとは思う。というか、そうであると信じたい。
ブラック企業臭がするこの求人を一通り眺め終わり、別の求人を探すかと思った私だが、ふとさっきの【職場環境】の欄に目が行ってしまった。
フレンドリー、面倒見がいい先輩、悩みがあれば聞き入れてくれる。あの職場に勤務していた私にとって、それは縁遠い言葉であった。
周りは常にギスギスしている、年上にはいびられる、仕事もろくに教えず悩みも聞いてくれなかった上司、それが私にとっての当たり前の職場だった。
「逆に、ここで働いている人たちは、私がいた職場環境とは縁遠い職場環境で働いているんだな…」
嫉妬と羨望が混ざった、なんとも言えない感情が湧き上がった私は、その求人の下に表示されていた【応募ボタン】を一瞬躊躇ったが、その躊躇いの感情を捨て去って押した。
いいんだ、面接に行ってやっぱ合わないと思ったら、また違うところを探せばいいだけだ。そう自分に言い聞かせ、氏名、生年月日、住所、電話番号、学歴・経歴などの必要事項を記入して、応募メールを送った。
すると1時間も経たないうちに、応募した企業から『ぜひ面接にいらしてください』という電話がかかってきた。
いくらなんでも早すぎないだろうかと思った私だが、電話口の女性の話し方や雰囲気に好感を持ったからか、そんな心配事を忘れ、急ではあるが、面接の日程を明日に決めてしまった。
電話での会話が終わった後、大学の就活以来、クローゼットに仕舞ったままだったリクルートスーツを取り出し、丁寧にアイロンがけをした。それから履歴書を書いて、夕飯を済ませ、今日はいつものようにネトゲはやらずに、早めに就寝した。
そして面接当日の今日、けばくならないようにと気を付けながら久々の化粧をし、履歴書と筆記用具を鞄に入れ、指定された東京都内某ビルに向かった。
面接開始の10分前に、その20階建てのビルの前に着いたが、雰囲気がなんとなく怪しかった。『ここ本当にその会場なのだろうか?』と思うくらい人気がなく、外観が少し汚かった。
躊躇していたが意を決した私は、ビルを入ってすぐ左のエレベーターに乗り、面接会場である10階に向かった。
着くとそこには受付もなく、ただ細長い廊下があり、右に曲がってすぐのドアの前に『面接会場』と書かれた立札が置いてあった。
改めてここが面接会場と確認した私は深呼吸をして、少し間を置いた後にドアを2回ノックした。
『どうぞ』と中から声がしたので、ドアノブを回して部屋に入り、一礼をした後、自分の名前を名乗った。面接官から目の前の椅子に座るように促されたので、その指示に従い、持ってきた履歴書を渡した。面接官3人と応募者1人という、確かによくありがちな光景だが、私の場合、入った時から異様な光景だった。
なんと、面接官3人とも、黒いローブを纏っていたのだ。面接官はどんな顔なのか、今どんな表情をしているのか、性別・年齢、そもそもなんで黒いローブを纏っているのか、全くもって分からない。
しかも3人とも、私の履歴書を受け取った後、ヒソヒソと話し込んでいる。どんなことを話しているか一瞬気にはなったが、寧ろ外見の方が気になりすぎて、そっちまで頭が回らなかった。
長くなったが、こうして一連の流れがあり、冒頭の私の台詞に戻るというわけだ。
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いやほんと、マジで何なんだろうこれ。あの求人票を見て応募した先の面接官が、こんな格好してるとか聞いてないんだけど。いや、普通ないでしょこれは。え、もしかして、私の普通がおかしいのこれ。しかも2~3分ずっと、私の履歴書見ながら3人で話し込んでるし。ローブで顔見えないけど、時々こっちに視線来てるような気がするし…。
このなんだかよくわからない謎の状況に対して、色々なことを思い、戸惑っているのが私、篠宮涼香。
黒髪ボブヘアー、眼鏡っ娘の三十路手前。所謂特徴的でもない、地味な外見をした私。メタ発言になるが、一応本作の主人公らしい。
もっと、金髪ツンツンの大剣使いとか、特徴的な外見をしたファラオの決闘者みたいな、そんな派手な外見や設定の主人公にすれば、絶対目立つし記憶に残りやすいだろうに。なんで、『過労死寸前になって仕事辞めた引きニート系地味眼鏡女子』を主人公にしたのだろうか…。
とか、色々なことに思いを馳せていると、急に3人の内真ん中にいた面接官が、
「以前は、ゲーム会社にお勤めされてたのですか?」
と質問をしてきた。急に質問をされたことに一瞬驚いた私は慌てて「あっ、はいっ!」と答えた。
ローブで全然顔が見えないからわからなかったが、声を聞いて女性だと分かった。しかもこの声、昨日電話越しに話したあの人だった。
「なるほど、そうだったのですね。ちなみに、どのようなジャンルのゲームを?」
「はい。RPG、アクション、シューティング、カードゲーム、競馬といったジャンルです。家庭用の据え置きゲームからスマートフォンアプリゲーム、オンラインゲームなど色々な案件に携わりました。その中でも、RPGのファンタジー要素のゲームが、一番長く携わった案件で、思い入れがあります」
「まあ!ファンタジーゲームですかっ!!具体的にはどういった内容ですか?」
「まだ未発表の作品なので詳しいことは言えませんが、妖精や魔法生物が生息する島が舞台です」
そう。いくら面接の場であろうが、退職した会社の話だろうが、未発表の作品はさすがに深くは言えない。守秘義務だからだ。情報漏洩すると、その後の会社の業績に大きく関わって、下手したら倒産する恐れもある。
あんな会社別に潰れても構わないと思ったが、私の口から洩れたと特定されてはさすがに困るので、仕方なく黙っておいてやる。
「あら、そうなのですか。詳しく知れないのは残念ですが、仕方のないことですものね。ですが、ちゃんと秘密を守ろうとするその姿勢、とても好感を持てましたわ。」
どうやらこの面接官は、少しでも私のことを気に入ってくれたらしい。他の2人が一言も発していないのが気がかりだが。
と思ったら、今度は私から見て、左側の面接官から質問が来た。
「お尋ねしたいのだが、其方の履歴書には、【5年勤めた会社を1年前に退職】との記載がある。こちらは何か理由が?差し支えなければ、真実の事を述べて欲しい」
この内容の質問が来るとは想定してたけれど、威厳のある低い声で聞かれたものだから、余計この質問が重く感じた。
あの環境のことを思い出したり口にするのは、1年たった今でもやっぱり落ち着かないし、少し手から冷や汗が出る。あの最悪な毎日の記憶が、まだ私の中に残っているからだろう。
少しだけ息を吐いて、自分を奮い立たせるように軽く手を握った私は、今までの経緯を話すことを決心した。
「実は、会社で倒れたんです。危うく過労死しそうになって…」
そう告げた私に対して、真ん中にいる女性の面接官の視線が真っすぐこっちを見つめ、真剣に話を聞こうとしてくれている感じがした。続けて、もっと詳しく聞かせてと言っているかのように。
それからはさっきの回想通り、セクハラ・パワハラを受けたこと、相談しても対応してくれない上司、安い賃金での過剰労働、そんな劣悪な職場環境に居続けた結果倒れ、その後1年間療養(という名の引きニート)をしていたという経緯を話し終えた私は、自分が震えていることに気づいた。話しながらあの日々を思い出して、体が耐えられなくなっていたようだ。
「・・・さん。涼香さん!大丈夫ですかっ?」
意識が遠くなりかけていた私を現実世界へ戻してくれたのは、あの女性の面接官だった。とても心配そうに私を見ている・・・気がした。
「大丈夫ですか?すごい冷や汗ですが・・・」
「も、申し訳ありません!面接中にこんな醜態をさらしてしまい・・・」
そうだ、今は面接中だ。しかも大事な転職活動中。それなのに、質問に動揺して自分の口から説明しただけで、あの時の記憶がフラッシュバックして倒れたでは、さすがにこの会社に申し訳ない。
「気になさらないで下さい。こちらこそ、其方にとって辛いことを聞いてしまった。誠に申し訳ない」
「い、いえ!謝らないでください!面接で経歴の空白期間について聞くのは、当然だと思いますからっ・・・!」
どうしよう、さっき質問してきた面接官に気を使わせてしまった・・・。なんだか、本当に申し訳ないな。こんな空気になって、受かる気がしなくなってきたな。
もうこの面接じゃダメだろう。半ば諦めかけていたその時、
「涼香さん。さぞ、お辛かったでしょう。周りに頼ろうとしても頼れない環境。それなのに、そこで5年も耐えてらっしゃった。本当に立派な方ですわ。そんな辛い記憶を嘘偽り無く、きちんと仰ってくださった。私は、貴女の事を気に入りましたわ」
辛かっただろう、よく耐えた、立派、気に入った。初めて会った人、しかも面接官にそんな言葉をかけてもらえるとは思わなかった。しかも、面接中に危うく倒れそうになった私の事を気に入ってくれたとか。こんな事って、本当にあるんだ。
「では、最後の質問をいたしますね」
これで、この面接が終わる。下手なことは言わないようにしなければ。今気づいたが、右側の面接官は何も話していなかったが、どうやら今までの話を書き留める書記のような役目らしい。
「貴女は先程、『ファンタジーゲームの案件に携わっていた』と仰っていましたね。妖精、魔法、魔法生物。それらが存在する『異世界』がもしあるとするなら、貴女は信じますか?」
ど、どういう質問なんだろうこれ。ローブ着てるから、なんだか怪しい勧誘のようにも思えるけれど・・・。確かに【求める人材】の欄に『RPG好きな方はぜひ!』的なことは書かれていたけれども。そもそも、会社の面接でこういうこと聞かれるとは思わなかった。ただ、なんだろう。この面接官からだと、不思議と違和感がない質問というか、そんな風に思えてしまう。少し戸惑ったが、自分の本心を素直に答えてみようと思った。
「はい、あると信じます。信じたいです。もしあるとしたら、とても素敵なことだなと思います。そんな世界があるのなら、一度でもいいから見てみたいです」
いつもゲームをしながらそう思っていた。もしこんな世界があるのなら行ってみたい、自分の目で確かめてみたい。妖精、人魚、竜を見てみたい、触れていたい。ゲーマーなら誰でも思うような、そんな夢の世界に。そう、異世界に。
「分かりました。では、行ってみましょうか。その異世界に」
・・・へ?今、なんて?
「え、あの、どういう・・・」
「言葉通りの意味ですよ、篠宮涼香さん。貴女を私たちの世界、異世界にご招待いたします」
そう言いながら面接官の3人とも、今まで被っていたローブのフードを取った。私は思わず『えっ!!?』と声を漏らしそうになった。面接官3人とも、明らかにこの世界の人ではなかったからだ。
右側のずっと質問内容を書き留めていた面接官は、少年のような幼い顔立ちだが、耳は人間のものではなく、猫のような耳だった。口からも八重歯というか、牙が見えている。
左側の面接官は、簡単に言えば眼鏡をかけた蜥蜴男だった。頭は爬虫類独特の質感で、モスグリーン色の鱗がところどころ剥がれ落ちている。蜥蜴というより竜のような鋭い眼光、目の下に刻まれた深い皴が、この男性の年齢や経歴を物語っている。
そして真ん中の女性の面接官は、とても美人な顔立ちの、一見普通の人間のようにも思えた。だが、耳は所謂エルフ耳で、髪は透き通るようなサファイア色、腰より下の綺麗なロングヘアーだった。そして目はネコ科動物の縦長の瞳孔で、色はまるで月のように輝く綺麗な金色だった。
「あ、あの。その恰好って、コスプレ・・・でしょうか?」
秋葉原や池袋にいたら、間違いなくクオリティーの高いコスプレイヤーだと思われるような恰好。もしくは映画用の特殊メイクを施された俳優のようだ。この3人を見て、思わずそう口に出してしまった。
「・・・ふっ、うふふふふふふっ!違いますよ、そんなわけないじゃありませんかっ!そう言われたのは、貴女が初めてですよ涼香さんっ。・・・ふふふ、あははははははっ!」
両側の面接官はきょとんとしているが、女性の面接官はツボに入ったらしくまだ笑っている。まさかここまで笑われるとは思わなかった。いや、多分この恰好を見たら、大体の人たちが真っ先にそう思うはずだ。
「はぁ・・・。妖精女王様、いつまで大爆笑しておられるのですか。肝心な事を、まだ我々はこの方にお伝えしていないのですよ?」
「はぁ、はぁ・・・。あらやだ、ごめんなさいね。まさか、そう言われるとは思わなかったものですから」
ティ、ティターニア?今、蜥蜴男の人、この女性をティターニアって呼んだ?ゲームとかでも時々見かける、あの妖精たちの女王の『ティターニア』?
「はい、彼から言われた通り、私の名は【妖精女王 ティターニア】。異世界に住む、全ての妖精たちの母です。よろしくお願いいたしますね、涼香さん」
まるで私の疑問、思考を読んだかのように答えた。いや、半信半疑だけど、もし本物の妖精女王なら、思考を読むような魔法を使ったりすることはできなくはない・・・かもしれない。
「はい、仰る通り、そのようなことは造作もありませんわ♪」
あっ、やっぱり読まれてた・・・。本物だわこれ。
「私たち妖精は、嘘をつかれる事が嫌いなのです。否が応でも、心の声が聞こえてしまいますから。上位の妖精ともなれば、声の聞き分けを制御できますが・・・」
なるほど。だから会社を辞めた理由を聞かれたとき、『真実の事を述べて欲しい』って言われたのか。
「もし、さっきの質問で私が嘘をついていたら・・・?」
「その時は、貴女の記憶を消して、今回の面接はなかったことにしていたかもしれませんね。ですから、貴女にとってとても辛い記憶であるにもかかわらず、ちゃんと本当の事を仰ってくださった時は、本当に、本当に嬉しかったです」
彼女は、私にそう言いながら微笑みかけてくれた。嘘をつかれるのが嫌いな妖精の女王なら、きっとこの言葉も嘘はない、紛れもない彼女の本心なのだろう。
「では、改めまして、篠宮涼香さん。面接お疲れさまでした。貴女を、今回の採用試験で【合格】と判断させていただきます。おめでとうございます」
時が止まったように感じた。合格?この私が・・・?こんなに早く決まるの?言われた言葉の意味を理解するまで一瞬遅れたが、理解した途端に嬉しさのあまり涙が出そうになった。
「あっ、ありがとうございますっ!!」
言葉を詰まらせつつ感謝の意を述べながら、3人に頭を下げた。合格、合格なんだ私っ。年齢も年齢だし、いつ頃採用されるのか分からなくて不安に思っていたけれど、まさかこんなに早く決まるなんて。
・・・と、嬉しさで胸がいっぱいになっていたが、さっきの発言を思い出して、落ち着いて我に返ってみた。
あれ?さっきフード取った時『異世界に招待する』って言ってたよね?しかも今『合格』とも言われたし。それに彼らも多分、本物の存在だし。ということは、『合格=異世界に行く』ってことだよね?えっと、それってつまり・・・どういうこと?
「うふふ、混乱なさるのも無理はありませんわ。では、ちゃんとご説明いたしますね」
そんな私の心の声を聴いて、彼女は椅子から立ち上がり説明した。
「貴女は今回の面接で、『異世界にある我が社に採用されました』ということです。私は、その会社を経営し、そして今日から貴女の親であり、社長となる妖精女王です」
一瞬目が点になった。ダメだ、言葉の処理能力が追い付かない。そんな状態の私がぽろっと口に出した一言は、
「・・・マジっすか?」
あっ、タイトル通りのリアクションをしてしまった・・・。