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Black Period  作者: 輝咲
Episode.2
4/6

Dive.【前編】

「私の意思と感情は、戦いの中で生まれるものである」――Dive.の前編。



この作品は、とある文芸部の冊子に投稿し、加筆・修正を加えています(※部の規約上、作品の著作権は作者自身にあるので大丈夫なはず……)。問題があった場合は、削除するかもしれません。


 ――【あらゆる自然現象が科学を以て証明される時代】

 自由に意思を掲げることのできない時代。最初から選択肢はなく、組み込まれたプログラムによって判断される。アンドロイド――人型の兵器。科学と医療の発展を遂げた集大成。脳の一部を除き、人体の全てが機械によって作られた生命体である。人間には無いような異常な「力」を持ち、例え相手が魔術師であろうと引けを取らない強さも持つ。

 しかし、彼らには意思が存在しない。人を殺す兵器であるが故に――。




□■□




 闇の世界に散りばめられた煌びやかな宝石、海原のように果てしなく続く色鮮やかな夜景。下界の耳障りな喧騒はここまで届かず、吹き抜ける夜風が髪を攫っていくだけ。やはりこの都市は、無駄な明かりが多すぎるように思う。

〈楽園の都市〉ビッグシティと、〈下界の街〉アンダータウン。一つの国がその二つに分裂して既に十数年が経ち、互いに干渉せず、見かけの平穏が成り立っている。だが実際には平和だ、少なくともこの都市は。血で血を洗うような醜い戦争はなく、飢餓や貧困のデータも存在しない。皆が皆、それなりの幸福と平穏を手にしている。それがバンクに記載された情報だ。

 地上から一〇〇メートルは離れているであろう電波塔の一部である鉄骨に座り、ついでに足も外側へぶらりと下げて、私はそんな夜景を眺めていた。何の感動もない、だが見ていて飽きないそれは、不思議と私の目を釘付けにする。趣味、とでも言うのだろうか。こうした高い場所から夜景を眺望するのが、私の集中力を高める方法の一つだった。


「時間通りだな、黒猫」


 名を呼ばれ、自然と身が引き締まる。私の隣に突如として現れたのは、黒いハットとスーツに身を包んだ、全身黒づくめの男だった。日焼けした肌と骨ばった頬が特徴的な男。彼の正体は、私の監視役兼ボスからの言伝係である。


「今回の仕事は魔術師の暗殺だ」


 彼は世間話を挟むこともなく、早速依頼の内容を確認し始めた。仕事前ということもあり、余計な会話をしたくなかったので私も黙って彼の話に耳を傾ける。


「名はルイン、世界を股に掛ける魔術師だ。殺した人の数は、そこらの兵器よりと比べ物にならないという。まあ、単身で戦場へ乗り込んで、敵味方関係なくぶちのめして生還するほどらしいからな。その笑い話にもならないそれを聞いたら分かると思うが、ルインという奴はとてつもなく強い」


 彼の端末から転送された情報が網膜に映し出される。視界の景色に、街全体の立体的な地図とそれに付随して画像や動画も現れる。それらには共通して、一人の女が映っていた。

 黒いスーツに身を包んだ長身痩躯の女。髪色は珍しい赤、長い髪を後ろで一つに結っている。ズームで撮られたのか、顔もはっきりと映っており、年齢は二十代と見受けられる。国籍は日本となっているが、明らかに日本人らしい顔立ちをしていない。鼻筋はすらりと通っており、瞳も澄んだ蒼色である。


「だが、それはあくまで人外じみた化け物を操っているからに過ぎない。それを無効化する方法も見つかったそうだ。つまり、お前の〈力〉なら容易に暗殺ができる」


 女の手には真っ黒な、それこそ闇よりも深い色をした大きな顎、鋭い牙が形成されていた。これが彼の言う「化け物」なのだろうか? 派手に暴れているのか、動画ではほとんど残像しか映っていない。しかし、ほんの一瞬だけ映った顔には、べっとりと笑みが貼り付いていた。


「奴の使う〈悲鳴〉には気を付けろ。あれをまともに聞いてしまえば、お前でも一溜まり無い。最大限の注意を払え」


【CAUTION:マンドラゴラの根】


 点滅したテキストが画面中央に現れる。色は赤、最高レベルを示す。


「以上だ、速やかに目標を暗殺せよ」


 ここから南東より四キロメートル先の廃墟ビルの屋上。そこが標的の居る場所。最短距離のルートも同時に自動で計算され、その道順を頭にインプットする。二分もあれば到着するだろう。私はブラウザーを閉じ、私はすっかり重たくなった足を引き上げて立ち上がる。

 背後から吹き抜ける風が私の体を殴りつける。このまま転落してしまいそうな――しかし、落ちてしまえば地面に叩きつけられ、真っ赤な花を咲かせて呆気なく死を迎えるだろう。生と死を生む瞬間、それが高い所からの落下(ダイブ)

 上着のポケットから、ある装置を取り出す。丁度五百円玉を球体にした大きさをしたそれは、最先端の科学技術による発明品――俗に言うワープ装置だ。名の通り、瞬間的な移動を可能としており、使用者の肉体的負担も非常に少ない。だが普及率はまだ少なく、軍の内部でもほんの一部の精鋭しかワープ装置を扱うことはできない。

 これに先程の情報とリンクさせて目的地の座標を登録し、私はそれをぽいっと中空に投げる。そして、音もなく落ちていく。

 私自身も、それに続くようにして闇の中に身を投じる。体内の臓器がひっくり返るような感覚を味わいながら、重力に従って急降下していく。両手足を広げ、全身で風を浴びる。

 この装置には少し欠点がある。それは、転移させる直前までエネルギーを必要とすることだ。「充電してから転移」をするのではなく、「充電しつつ転移」を行わなければならない。

 逆に言えば、ある一定量の何かしらのエネルギーさえあればこの装置は正常に機能する。火の熱でも水の勢いでも風の強さでも、そこに力が加われば基本何にでも反応するのだ。

 その仕組みも、使用しているワープ装置の種類にもよって異なってくる。私のワープ装置の場合、「引力」がこれを起動させるためのエネルギーとなる。高い所から落ちることで、地面に引き寄せられる力がエネルギーを生むのだ。適性検査によって導かれた結果、「引力」無しではこの装置は作動しない。

 例えワープ装置を扱える適性があったとしても、その権限が無ければ全く意味も成さないのだが。


「ワープ」


 喉に埋め込まれた内蔵のマイクによって、音声入力が完了される。その声に反応し、ワープ装置の球体が変形。ジリリと火花を散らし、異空間へ繋がる円形のゲートを開く。中空に留まったゲートに、私は落下状態のまま突っ込んだ。その中へ入った瞬間、急降下していた引力は失われ、浮遊感が私を包み込む。


『目的地まで、残り五秒――』


 正方形のタイルがびっしりと貼られた真っ白な空間に、無機質な女性のアナウンスが響き渡る。


『――ゼロ』


 足元がぱっくりと割れ、裂け目から見えたコンクリートの地面にゆっくり着地する。ワープ終了。ゲートはすぐに閉まり、上から例の球体が落ちくるのを私は片手でキャッチした。

 夜風が頬を撫でる。景色も、あの電波塔から比べるとあまり良くない。周囲を囲むビルからの明かりが仄かに屋上を照らしている。しかし、視界は良好とは言い難い。視線の先に目を凝らす。そこには鉄柵に背中を預けて、こちらに笑みを浮かべながら――それも見覚えのある――煙草を吹かす女の姿が確認できた。

 同時に疑問を抱く。何故逃亡者である彼女が、こんな所で呑気に煙草を吸って笑っているのかということ。まるで自分が追われていることに自覚がないように見える。


「やあ、おはようさん。えらく未来的な登場の仕方をしたもんだ」


 おはよう、は朝の挨拶だったはず――そんなことを思いつつ、妙な殺気を立てる彼女に私は警戒レベルを引き上げる。彼女を視界に入れたことにより自動でサーチされた情報に目を通しながら。


「全身黒づくめのアサシン、しかも少女ときた。アンタのボスは、とんだ悪趣味をお持ちのようだねぇ」


 くつくつと、彼女は喉の奥で笑い声を転がす。随分といやらしい笑い方だ。あたかも相手を挑発しているかのようである。だが、私はそんなことに乗るほど、低脳なシステムは構築されていない。懐から消音装置――銃身の先端に取り付けた発射音と閃光を軽減させる筒状の装置――付きの拳銃を取り出し、安全装置を解除した。銃口を向ければ、いつでも彼女に発砲ができる状態にしておく。


「おやおや、私を殺すのにサプレッサー付きの拳銃を使うのかい? そんな玩具で一体何ができるという?」


 相手を小馬鹿にするようにではなく、意味の無さに酷く呆れている様子だった。現に「舐められたもんだ」と独り言ちている。

 だが、相手が生身の人間である以上、これはこれでちゃんとした凶器であることに違いはない。例え、相手が魔術師だろうと。


「しっかし、あいつらも懲りないねぇー、どれだけ刺客を送ったって結果は変わらないのに。アンタで何人目だと思って――ああ、そういえば、途中から数えるのはやめたんだった」


 ふぅ、と紫煙を夜風に乗せて吐き出す。人体の健康を害する悪しき嗜好品。私のバンクにはそう記録されている。


「アンタがどこの組織の誰かさんかは知らないけどさ、結局勝てないんだし無駄に命を散らす必要は無い。ここは〈楽園の都市〉ビッグシティ、あの街とは違って平穏が保たれている。もっと穏便にいくべきだと思うがね」


 この場には相応しくない言葉を次々と彼女は口にするが、当の本人は完全に戦意を剥き出しにしていた。彼女から溢れ出る魔力を感知し、警戒レベルが更に引き上げられる。


「さっきから黙りだねぇ、寡黙なアサシンさんだこと。まあ、売られた喧嘩は買う主義だからね。適当に返り討ちにしてやるさ」


 短くなった煙草を指で弾き、彼女は凭れ掛かっていた鉄柵から離れた。その瞬間、私は拳銃を両手に構え、引き金に人差し指を置く。


「少しは楽しませてくれよ?」


 彼女の足元から二つの黒い影――いや、黒い獣がのっそりと這い出てきた。牙を剥き出しにし、グルルと低く唸りながら獰猛な雰囲気を醸し出している。鋭い双眸は淡く赤色に光り、全身の荒々しい毛並みを針のように立たせて身構える。

 それを目視した瞬間、脳内に警鐘が鳴り響く。危険度レベルが急激に上昇する。メーターが今にも振り切れそうだ。頭の中が五月蝿いので、すぐさま通知をオフにする。

 ――確かに、これは人外じみた化け物だ。

 そう認知した直後、二匹の獣は一斉に飛び掛かってきた。鋭利な牙をぎらつかせて直線的に突っ込んでくる。想定内の攻撃。私は後ろに跳び退きつつ、立て続けに引き金を絞る。それは確実に二匹の獣へ吸い込まれ着弾し――そのまま貫通した。血肉を抉ることなく、まるで霧の中へ消えるかのようにコンクリートの床を穿つ。

 その有様を目撃した私は瞬時に普通の銃ではとても敵わないと判断し、その拳銃を仕舞ってナイフに切り替える。そしてこの時にようやく、彼の言っていたこと――お前の「力」だと暗殺できる、という言葉――を思い出し、合点がいった。なるほど、ただの暗殺者では太刀打ちできないというわけらしい。

 二匹の獣は続けてこちらに突進してくる。シンプルな攻撃なのに、異様な迫力がある。普通の人間なら足が竦んでしまってもおかしくない。

 私は足の裏に「力」を込めて蹴り上げた。バチン、と足元で火花が散る。普段のダッシュよりも加速度が増し、私は襲い掛かってきた獣の背中をギリギリのところで飛び越え、着地と同時に勢いを残したままナイフを彼女に投げつけた。一直線に彼女の胸へ飛んでいく。

 それを見た彼女は途端に顔色を変えた。目を大きく見開いている。しかし、その表情はどこか余裕があった。あと一秒もしないうちにナイフが胸に突き立てられる――。


「流石に――」


 彼女は口端を吊り上げながら、上体を反らしてナイフを避ける。ナイフはそのまま屋上の上空へ飛び出し、闇に吸い込まれることだろう。

 そして、今度は私が目を見開く番だった。


「それは予想外だったよ」


 彼女は指をパチンと弾く。飛び越えた勢いを残したまま、彼女の方へ駆ける私に向けて。

 何かのエネルギーを感知したのは確かだった。私は目の前の出来事を瞬間的に飲み込めないでいる。

 ――指を鳴らした直後、彼女の足元に生まれた黒い沼から再び例の獣が二匹現れた。

 そのエネルギーはどうやら、獣がテレポートした際のものであるらしい。狂気にも似た威圧的な気配が眼前から漂い、私を圧し殺そうとしている。これでは振り出しに戻ったも同然だ。強いて変わったことと言えば、私が彼女の下へ疾走しているぐらいだろう。

 私は駆けながら新たなナイフを装備した。危険を察知して引くよりも、いい加減ダメージを与えなければならない。暗殺者として、長期戦はデメリットしか生まないのだ。足の裏に再度〈力〉を込める。

 しかし、獣はこちらに襲い掛かってくることはなかった。彼女は指を鳴らしてその獣を手元に手繰り寄せる。

 ――非現実的な、薄気味悪い呪術を目の当たりにしたかのような衝撃が網膜からバンクを襲った。情報処理が全く追い付かない。

 率直に言えば、獣は彼女の手に纏わり付き、一方は渦巻いた鋭い槍に、もう一方はバンクの記録にある大きな顎に変形した。攻撃を優先とするシフトへ移行していた私は、彼女に向けてナイフを素早く振るうも、大きな顎でナイフの刃を挟まれ、噛み砕かれてしまう。とんだ顎の力だと驚愕する暇も無く、槍を突いた攻撃が迫る。急所――喉を狙ったそれを、私は最大限に首を横へ逸らして回避。ジリジリと肌を焦がすような緊張感に、珍しく自分が追い詰められていることを実感する。感覚が蘇るのはこういう時だ。

 私は左手に〈力〉を込め、その槍の側面に拳底打を放った。バチン、と青白い光が放出される。その瞬間、彼女の表情が強張った。私から離れ、距離を取る。そして、右手で槍を形成していた獣が地面に落ちて横たわる。


「……ふむ、これは効いたね。なかなかに痛い」


 右手に力が入らないらしく、指先を不自然に震わせている。


「なるほど、アンタは電気を操るのか。クリッパーも戦闘不能になってしまった。タイミングも良い、これは早急に追い払った方が良さそうだね」


 彼女は左腕に纏わり付く黒い顎を持ち上げ、こちらに向けて構える。顎は大きく口を開く。まるで、そこから何かを発射させるかのように。


「これを使うとまた面倒な奴らに目を付けられるんだが、そうも言っていられない。バグ、クリッパーがやられた気持ちは分かるが、音量は控えめに」


 音量という単語に、私のバンクが反応した。突如、網膜に例のテキストが点滅して表示される。


【WARNING:マンドラゴラの根】


 彼女の姿とそれが重なり、視界を塞ぐ。しかし、私はそれに構うことなく懐から拳銃を取り出し、素早く安全装置を解除して照準をしっかりと合わせないまま引き金を絞る。


「ハウンドボイス――」


 そう聞こえたと認知する間も無く、まさに耳を劈くような甲高い奇声が屋上に響き渡った。何かを訴えるかのような悲しい叫び声。

 ――刹那、バンクの機能は急停止した。

 頭を揺さぶられているような、脳を激しくシャッフルされているような、その髄までぐちゃぐちゃに掻き乱されているような――そうして、視界がぐらりとひっくり返る。


「――ッぁ……」


 もはや立っていられなくなり、私は拳銃を手放して床に両膝を付いた。痛みとは程遠い何か、死を間近にしたような絶望に似た何か。あらゆる苦しみが脳を中心に私を引き裂く。平衡感覚も失われ、遂に体は床と接触した。


「倒れてくれて助かった。これが効かなければ正直、打つ手が無かったとも言えたんでね。しかし、即死まではいかなかったか。大抵の人間はバークの悲鳴を聞くと、穴という穴から血を流して絶命するんだがね。アンタの場合は、完全に身動きが取れなくなるだけらしい」


 一度、強制的に機能を停止したバンクの復旧には時間が掛かる。私の目標は彼女の暗殺。しかし、勝算は恐らくゼロに近いだろう。バンクが動かなければ、私の〈力〉も発動できないのだ。人を殺す術を知っただけの人間では彼女に勝ち目は無い。

 では、次に私が取るべき行動は何か。バンクが機能しない今、私自身で考えるしかない。


「このままパクッと食い殺したいところだけど、また感電させられたら堪らないからね。素直に拳銃を使うよ」


 体はまだ動かない。バンクの復旧よりもそちらの再起動に専念する。間に合うかどうか怪しい。


「じゃあね、寡黙なアサシンさん」


【WARNING:死の宣告】


 視界にテキストが浮かび上がる。バンクが機能していないのにも関わらず。今になって非常用の電源が入ったのだろうか。それによって、彼女から放たれる殺気をセンサーが拾ったらしい。起動が遅い、と愚痴る。


(――シフト移行、危険回避。身の安全を最優先。直ちに現場から離脱せよ)


 私の意志とは無関係に、体は勝手に動いた。倒れたまま、全身から電気を放出する。相手を威嚇するための牽制。彼女はこちらに発砲しつつ、後方へ跳び退いた。銃弾は全て纏った電気によって受け止められ、カランカランと虚しい音を立てて落ちる。私は起き上がり、彼女に背を向けて屋上の隅へ駆け出した。四方八方共に逃げ道はただ一つしかない。彼女に撃ち殺されるよりも、生き残る可能性が僅かにでもあるこちらの方がよっぽど賢明だろうと、緊急時用にスイッチの入ったバンクが判断した。

 鉄柵に手を掛けた瞬間、バンクの停止間近を知らせるアラームがけたたましく鳴り響いた。エラーが発生したらしい。その原因として挙げられるのは、威嚇攻撃としてほぼ最大出力に近い放出を行ったせいだろう。自動的に放出電力を計算されたとはいえ、こうしてすぐに異常が起きてしまえば元も子もない。このシステム自体の見直しが必要だろう。

 そして、あの悲鳴を聞いた直後でもある。システムが正常に機能していない可能性も十分に考えられる。何にせよ、再び危機に瀕しているのに違いはなかった。

 更に追い討ちをかけるかのように、今度は危険信号が襲ってきた。殺気を感知する。振り向く間も無い。私の拳銃を突き付けているのだろう。私は上着のポケットからワープ装置を取り出し、躊躇うことなく鉄柵を乗り越える――。


「――ッ!?」


 右上腕と腹部に衝撃が加わった。再びエラーメッセージが表示される。


(着弾を確認、直ちに止血をして下さい)


 幸いにも銃弾は貫通したらしく、視界の先でそれが通り過ぎるのを捉えていた。だが、ワープ装置を手から落としてしまう。落下は免れない。屋上から飛び降りた私はそのまま、ワープ装置と共に地面へ真っ逆さまに落ちていく。生と死が生まれる瞬間が近付く。

 私は怪我をしていない左手を伸ばし、ビルの壁を掴んだ。足も使ってブレーキを掛ける。少しでも落下スピードを落とすためだ。しかし、指先の皮膚が破れて血が噴き出すのを目撃してしまえば、バンクが遂に活動を停止した今、私は反射的に力を緩めてしまう。

 そうして大した速度も落とせないまま、私は地面に叩きつけられる。ビルとビルの谷間、碌な明かりもない場所。幸いなことに、落ちた先にはビニール袋の山――恐らくゴミが入っている――があり、大きな損傷は受けずに済んだ。しかし、落下ダメージはゼロではない。銃創からの出血もある。傷口が開いたらしく、血は止め処なく流れていた。バンクも完全に停止。復旧の見込みは無い。体も動く気配は全く無く、この場から這い出る力も残っていなかった。生ではなく、死のみが生まれようとしている。

 意識が朦朧とする。程なくして全システムがダウンし、視界はブラックアウトした。




-To Be Continued-


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