シェリアの涙
「よく頑張られましたがここまでのようですな」
ライオネルは鎧が擦れる金属音を響かせながらリリアラ達の方へゆっくりと近づいて行く。シェリアは近づいてくるライオネルに少しでも抵抗する為に未だ回復仕切っていない体に鞭を打ち立ち上がろうとする。
「リリアラ様達には近づけさせん」
「今の貴方に何が出来ますかな。万が一にも勝ち目がないこの状況、大人しく降伏するのが賢明だと思いますよ。カシム殿や巫女様達のお陰で救われた命をむざむざ捨てるのは賢い者のする事ではないと思いますが」
「諄い!先程も言ったはずだ、巫女様を守るのが私の使命。どの様な絶望的な状況に陥っても私は命ある限りリリアラ様とラムネーゼ様を守る為に戦い続ける! 」
シェリアは立ち上がり再び剣を構えようとする。しかし足に力が入りきらずふらついてしまう。シェリアが倒れそうになった時リリアラとラムネーゼが慌ててシェリアを支えた。
「シェリア、もういいのです。私達は貴女やカシムに死んでほしくはありません。確かにここで彼等に捕まればこの国の未来は絶望に覆われるでしょう。しかし私達は国の未来よりも貴方達の命の方が大事なのです!国を支える巫女としては失格なのでしょうが私達だって一人の人間なんです。私は貴女に死んでほしくない!だから貴女やカシムを裏切る事になっても私達は貴方達に生きて欲しい。だから投降します」
「お姉さまの言う通りです。私達はシェリアやカシムがいつも側に居てくれるから笑顔でいられる。辛い巫女の役目もやりとげられる。我儘なのはわかってるけどこれ以上シェリア達が傷付き倒れて行くのを黙って見ているだけなんて私達にはできない! 」
二人はその目に涙を溜めシェリアに懇願した。
「巫女様達は我々に同行してくる気になられた様ですな」
ライオネルがそう言い終えるのと同時に辺りから乾いた破砕音と共に砕け散る土壁から泥に囚われていた筈の兵士たちが這い出て来た。
「どうやら辺り一帯に私の魔力が行き渡ったようですな。驚く事はありません、シェリア殿のナチュラルトラップによって兵士たちを捕らえていた泥を私の土魔法によって乾燥させ砕いたにすぎませんよ。これで完全に積みですな」
ライオネルはそう言い口角を吊り上げる。周りには解放されたライオネルの部下達が集まって来ていた。シェリアはリリアラ達と共にまたしても完全に取り囲まれてしまった。
「私は・・・私は!貴方達を守りきる事が出来ないのか!後もう少しなのに・・・後もう少しで国境を抜ける事が出来たのに! 」
シェリアの頬を一筋の雫が伝う。彼女の心は自分の無力感で一杯になった。大切な人を守れない悔しさ、どうしようもない現実に対するぶつけ所のない怒り、それらが彼女の頭の中でグルグルと渦巻いていた。
「ふむ、今頃になって援軍とは。これでは如何なる奇跡が起ころうとこの状況が覆る事は無くなりましたな。如何ですかなシェリア殿、流石の貴方でも心が折れた事でしょう」
ライオネルはそう言うと後ろを振り返った。シェリアはライオネルが見つめている方に視線を向け目を凝らすと薄っすらと大勢の人影見えた。
「あれは五番隊の副隊長ソニア殿が率いる別働隊。我等の魔力信号により此処に巫女様達がいる事をしり駆けつけられたようだな。さて結論をもう一度書きましょうか」
シェリアが問いに答える前にリリアラが答えた。
「ライオネルさん、私達は貴方達と共に王都に向かいます。その代わりシェリアとカシムの命を保証して下さい。シェリアいいですね、これは最初で最期の私の我儘です。どうか勝手な私達を許して下さい」
「!・・・シェリア様」
「そしてラム、ごめんなさい。貴方だけでも守ってあげたかった」
「いいんですお姉さま!私も巫女ですからお母様の後を継いだ時から国の為にこの命を使う覚悟はできています。だからどうか一人で全てを背負おうとしないで」
三人のやり取りを静かに見ていたライオネルは再び口を開いた。
「どうやら話はついたみたいですな。では我々と共に来ていただきましょう。リリアラ様先程の条件の方は飲みます。お前達、カシム殿に魔力安定剤とマジックポーションを飲ませた後馬車に運び薬草等で手当てしろ!シェリア殿、念の為にこれを腕につけて頂きます。この後貴方も馬車で手当てを受けて下さい。巫女様達は此方へ」
ライオネルはシェリアの腕に大きな宝石が付いた枷を付け、リリアラ達をそれぞれの馬車へ案内し始めた。
暫くするとソニア率いる五番隊がライオネル達の元へ到着した。
「どうやら私達の出る幕はなかったようね。流石ライオネル」
そう言ったのは長く伸ばした紫の髪を後ろで縛り、妖艶な雰囲気を漂わせる美しい顔の女だった。
その女は光沢のある赤と白の鮮やかな鎧に身を包んでいた。
「いやはやソニア殿のような美人に褒められるのはこの歳になっても慣れませんな」
女にライオネルはそう言葉を返しながらも真剣な顔付きを崩さなかった。
「まあそれはさておき、取り敢えず準備が出来次第出発しましょ。いつまでもこんな場所に居たくないしさっさと町にもどりたいもの」
ソニアはそう言うと出発の準備を始めようとし、ライオネルの馬車を出てシェリアを治療用の馬車から自分達の引いて来た檻付きの護送馬車に連れて行こうとした。
その時ソニアは背筋が凍るような感覚に襲われた。それと同時に遠くの方にいる騎士達から悲鳴聞こえてきた。
「何事!? 」
ソニアは悲鳴が聞こえた方へ向かった。少し丘になっており見えなかった場所が見えてくる、そこには信じられない光景が広がっていた。
ソニアが見た物はたった二人の人物に騎士達が手も足も出ず倒されていく光景だった。
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