新生!!カシム!!
カシムはリックと共にラムネーゼを連れ、屋敷を出ていた。
ゴッドツリーがある方向から鳥肌が立つ様な物凄い魔力を感じ、カシム達は敵がこのグリンペレーに侵入した事を察知していた。
一行は二手に分かれ、各々敵を迎え撃つ事にした。
カシム達は屋敷の裏手から森の中に入り、泉がある中腹地点までやって来ていた。
ラムネーゼはリックにおぶられながら眠っていた。
その先をカシムが進む。
泉の更に先に進もうとした所で官能的な艶かしい声が聞こえてきた。
「こんな所まで逃げるなんてねぇ。探すのが大変だったじゃない」
声が聞こえた直後、森の奥からこちらの方にやって来る人影が薄っすらと浮かび上がってきた。
それは徐々にハッキリとした物になって行き、その全貌が明らかになっていく。
そこに現れたのは、レイドに破れたシュヴァリエ騎士団五番隊副隊長ソニアであった。
「あらぁ、残念だわぁ。この前私に膝を着かせたレイドとか言う冒険者は居ないみたいねぇ」
ソニアは三人を見、そう言うと炎流細剣ソニエールを鞘から抜いた。
ソニアは剣先をカシムに向けながら言う。
「まぁいいわぁ。私の任務はラムネーゼ様とリリアラ様を王都に連れて行く事。大人しくラムネーゼ様を此方に引き渡しなさい」
「ラムネーゼ様をお前達には渡す事は出来ない。幾ら騎士王様の命令と言えど、聞くことは出来ない!」
カシムは愛剣を引き抜くと、リックに囁いた。
「リック、ラムネーゼ様は君に任せる。ここは俺がなんとかするから君は他の刺客に見つからない様に逃げろ」
カシムの言葉にリックは答える。
「お前大丈夫なのか?ライラさんとの特訓で体が、ボロボロだと聞いたが」
「君に心配される程のことではない。いいから早く行くんだ」
カシムの決意の篭った瞳を見たリックは「ラムちゃんの為にも無事戻ってこいよ」と一言残しラムネーゼを連れてその場を去った。
その様子を見ていたソニアが口を開く。
「あらぁ、逃しちゃったわね。まあいいわぁ、貴方をさっさと調理してゆっくりと捕まえればいいだけの話ですもの」
「そう上手く行くかな?」
カシムは不敵な笑みを浮かべると魔法を放つ。
「いきなりで悪いが全力だ。メイルストローム!」
渦巻き、嵐の様に猛る水の奔流が発生し、ソニアを襲う。
余りの広範囲攻撃にソニアは、回避する事を諦め魔法を発動させる。
「そっちが全開ならこっちも出し惜しみなしでいくわよお!全ての水を蒸発させる聖なる業火よ出でよ!エクスハティオー!!」
ソニアの周りから青い炎が吹き出し、彼女の周りを守る様に包み込む。
そこへカシムの放った、メイルストロームが衝突し、轟音と共に爆発が起こる。
辺りには水蒸気により、霧が発生する。
カシムはメイルストロームを防がれた事に驚いたが直ぐに気を取り直し集中する。
悪くなる視界の中でも躊躇わず、カシムは次の攻撃へと転じる。
「目で見えなくとも大体の場所は魔力を感知する事で解る。そこだ!ハイドロブラスター!」
カシムの両の掌から、集約された水の魔力により生み出されたエネルギー波が放出される。
そのエネルギー波は木々を薙ぎ倒しながら霞みがかった霧の中に吸い込まれていく。
その後、破砕音と共に霧の中からソニアが飛び出してきた。
「どうやったのか知らないけどたった数日で随分と魔法の腕を上げたじゃない。貴方の事は資料で読んだからよく知っているけど、此処まで休みなくチャージ時間無しで上級魔法が打てるほど魔力は多くなかったはずよぉ?」
「その資料に載っていた時と今の俺は別人と言っていい程の違いがある」
そう言うとカシムはソニアから距離を取り再びメイルストロームを放つ。
「唯でさえ相性が悪いのにこう何度もあの強烈な奴が来ると流石に堪えるわねぇ」
ソニアはそう言いながらも再び先程と同じ青い炎を呼び出した。
又もや爆発が起きると思いきや、今度はそうはならなかった。
なんと、ソニアの炎は燃え続けたままであり、カシムのメイルストロームは蒸発し、露散してしまった。
「なん、だと!?」
カシムは今度ばかりは動揺を隠しきれなかった。
そんなカシムにソニアは語りかける。
「そりゃあビックリするのが普通よねぇ。なんせ水の得意属性である炎属性に真正面からぶつかって負けたのですものねぇ」
ソニアはそう言いながら妖艶に笑った。
「これは我が隊の隊長、十騎士の一人であるメルティアさまが考案なされた対水属性魔法。高熱の特殊な炎を出現させ、水属性の魔法にのみに反応し辺りの温度を一時的に急上昇させる。この魔法は使えば使うほど辺りの温度は更に上昇し、水属性魔法に強くなっていくのよぉ。残念ながらこれによって相性の良し悪しは関係無くなったわねぇ?」
「ご丁寧な解説をどうも」
皮肉を言いながらカシムは内心唇を噛んだ。
彼はライラの特訓により短期間で魔力量を増やす事に成功した。
しかしその代償に体はボロボロになり一時はまともに動けない程であった。
魔力は全快していても体は回復しきっていない為、少し動くだけで悲鳴を上げそうになるほどの激痛が彼を襲っていた。
その為彼は近接戦が完全に封じられていた。
つまり近接戦に持ち込まれない為に距離を取り、魔法を放つしか今のカシムには攻撃手段がないと言う事だった。
(近接戦に持ち込めない以上、魔法で攻めるしかないと言うのにあのエクスハティオーとか言う魔法がある限り俺の水属性魔法は無効化されてしまう。あの魔法を敗らない限り俺に勝機はない・・・)
考えるカシムにソニアは近づき突きを放つ。
それをカシムはギリギリの処で躱す事に成功する。
(クッ、やはり少し体を動かすだけでもかなりキツイ。どうにかして距離を取り続けなければ!)
「《ウォータースライド》!」
カシムは魔法により水の衣を足に纏わせた。
それにより地面を滑る様に移動しつつ更に攻撃魔法を放つ。
「《テトラスマッシャー》!!」
カシムは片手に集めた魔力を、水を圧縮した塊に変化させ放出する。
それはソニアに届く前に分散し、まるでミサイルの雨の如く襲いかかる。
だがやはりエクスハティオーによって塞がれてしまう。
そして今度はソニアが攻撃に転じる。
カシムに近づきエクスハティオーを放つ。
カシムはウォータースライドで後退しながら、咄嗟にメイルストロームを唱え、迫り来る青き炎にぶつけるが、威力を殺しきれず少しだが炎の波を浴びてしまう。
「うぐっっ!」
カシムは火傷を負った頰を抑えながら水弾を連続で撃ちまくる。
そして水弾を撃ち終えると最後にハイドロブラスターを放った。
凄まじい攻撃により砂煙が発生し、ソニア姿がみえなくなった。
「やったか!?」
砂煙が消え、視界が元どおりなっていく。
そこにはカシムの期待が外れピンピンしているソニアの姿があった。
カシムは自らの攻撃の殆ど全てを防がれ、次の手を脳をフル回転させ考える。
攻めあぐねるカシムに今度はソニアが魔法を放つ。
「喰らいなさい!このソニエールに私の魔力を合わせる事により生み出される必殺魔法を!」
ソニアはソニエールを構え《ボルカニックヘイル》と唱えた。
ソニエールの剣先に高速で回転する火球が出現し肥大化していく。
それはまるで小隕石までの大きさになるとカシムに向けて放たれた。
《アトランティア》
カシムがそう唱えると彼の周りを巨大なドーム状の水が包み込んだ。
ボルカニックヘイルが水のドームにぶつかり再び爆発を起こす。
先程とは比べものにならない衝撃が周囲を襲う。
辺りの木々は吹き飛び、地面が抉れ泉はその形を大きく変えた。
「なんとか耐えれた様だな」
カシムは呟くと一つの疑問を抱いた。
(ボルカニックヘイルはその魔力量からして、明らかにエクスハティオーよりも上級の魔法。それに比べアトランティアはメイルストロームと同格。だが幾らアトランティアが上級防御魔法だと言ってもエクスハティオーを喰らえばその特性上ひとたまりも無かった筈。何故わざわざ消費も多く効き目もエクスハティオーより薄いボルカニックヘイルをつかったのか・・・)
そうこう考えているとカシムは答えを見つけたとばかりに顔をハッとさせた。
(そうか!エクスハティオーは見かけは攻撃魔法と遜色ないが、水属性魔法を防御する為にしか使えない防御魔法。さっきは俺が水属性魔法で反撃をする事を予測して攻撃できる様に見せただけだったんだ。水属性が無ければ発動できない特性上、本来は攻撃に使う事が出来ない。エクスハティオーではなくボルカニックヘイルを使って攻撃してきたのがその証拠。つまり勝機は奴が攻撃魔法を放つその瞬間にある!)
カシムは自分の残り魔力では精々上級魔法一発が限界だと思った。
つまり次にソニアが攻撃魔法を放つ時が決着がつく時だと言う事になる。
「どうやら流石に魔力が限界の様ねぇ。これで終わりにしてあげるわ!」
ソニアは上空に舞い上がり、再びボルカニックヘイルを放とうとする。
それに合わせる様にカシムは全神経を集中させ、自身の魔力を高め次の魔法のチャージを始める。
「これで終わりよぉ!ボルカニックヘイル!!」
ソニアがボルカニックヘイルを放ちカシムに直撃したと思われたその時、カシムの全身から水の魔力が溢れ出た。
溢れ出た魔力は強大な水流となり轟音と共に逆巻きながら、天に昇る昇竜の如くボルカニックヘイルを打ち破り上空のソニア目掛けて向かって行く。
「これが俺の最後の魔法、グロリアスメイルストロームだ・・・」
そう言い残し、カシムは意識を手放した。
ソニアは迫り来る巨大な水流に恐怖した。
(何て事なの?!この私がまた負けるとでも言うの?!)
ソニアはその残酷な真実から目を背ける様に目を閉じた。
だが次の瞬間ソニアを襲ったのは、カシムの放ったグロリアスメイルストロームではなく、何か別の衝撃波であった。
地面に打ち付けられた衝撃でソニアは噎せる。
荒れた呼吸が整ってくると彼女は何が起こったのか確かめるべく起き上がり辺りを見回した。
すると彼女のよく知る人物が立っているのに気がついた。
その鍛えられたであろう肉体は鮮やかな紫色の鎧に包まれており顔は先日の怪我により包帯が巻かれていた。
その人物とはライオネル・ケッピンガーその人であった。
「大丈夫ですかなソニア殿?手荒い救助になってしまい申し訳ありません。あの状況で貴方を助けるには私の全魔力を我が魔法剣に吸わせた全力のグランドスレイヴを放ち相殺するしかなった故、申し訳わけ御座いません」
そう言うライオネルに、ソニアは答える。
「ええ。お陰様で助かったわぁ。でも貴方、怪我は大丈夫なのぉ?」
「まだ大分痛みますが貴方達五番隊に全てを押し付けて自分だけ寝ているなど私にはできません」
「そう。まあ何方にせよ、助けてもらった私が貴方にどうこう言う資格なんてないのだけれど」
「しかし恥ずかしながら今の一撃で私は魔力を使い果たしました。貴方も満身創痍のこの状態で巫女様を探すのは無理な様ですね。ここはメルティア様に任せて我々は一旦退きましょう」
そう言うライオネルにソニアは少し待って、と声をかける。
「アレ、使えるんじゃなぁい?」
そう言いソニアが指を指した方向には倒れているカシムの姿があった。
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