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来賓は“キョン”/島崎と由美子の結婚式

22


 孝太たち三人以外のメンバーは、朝から島内観光を楽しんでいた。

そして、十一時頃には、八丈植物公園に来ていた。

評判のガイドの仕事ぶりをこっそり見に来たのだ。

さすがに評判になるだけのことはあった。

良介の話術が優れていることは全員分かっていたが、圧巻だったのは涼子の突っ込みが絶妙で、良介の持ち味を更に高めていたことだ。

涼子にこんな才能があったとは、親友の温子でさえ気が付いていなかった。

これには、当の涼子がいちばん驚いているに違いない。

園長も、姿が美しい涼子には、ただ、その場にいてくれるだけでいいと思っていた。

たぶん、孝太に恋をして、精神的に成長したことが、涼子を進化させているのだと温子は思った。

 “キョン”の飼育場にも行ったが、孝太は中の掃除をしていたので、メンバーと顔を合わせることはなかった。

温子は、愛らしい、“キョン”に夢中になった。

望は、けものは苦手だといって、近づこうとしなかった。

「そろそろお昼ね。良介達も、もうあがれるでしょうから合流して何か食べに行きましょう。」

「賛成!肉や明日葉にはそろそろ飽きてきたから旨い寿司でも食いに行きたいな。」

伸一がそう言うと、他のメンバーも賛成した。

温子達が飼育場を後にすると、孝太は“キョン”に餌をやるために外に出てきた。


 メンバーは植物公園の入口で良介達を待った。

良介達が出てくると、伸一は「よっ!名ガイド!」と冷やかした。

温子も涼子に「すごい才能があったものね。」と褒め称えた。

孝太は、「そんなにすごかったのか?」と聞き、「それは見たかったなあ。」と繰り返した。

望が、みんな旨い寿司を食べに行きたいと言っていると良介に告げると、良介は園長にどこか旨い店はないかと尋ね、園長は“銀八”の島寿司が絶品だと教えてくれた。

「銀八なら、歩いていけるな。」晃がそう言って、店を案内した。


メンバーはみんな、島寿司を注文した。

甘めのシャリと、カラシが独特だった。

島崎が握ってくれた寿司もなかなかだったが、さすがに、プロの職人には及ばなかった。

食事が終わると、島内観光の続きをするため、車を停めている、植物公園の駐車場に戻った。

そこには、あの“ハワイアンカー”が停まっていた。


 火山性の溶岩が固まってできた八丈島の海底地形はダイナミックで、多くのダイビングスポットがある。

 むさ美のメンバーは、この日は朝から、体験ダイビングをするために港のショップに出掛けた。

博子は泳ぎが苦手だから、遠慮すると言っていたのだが、インストラクターの男性が、今で言うイケメンだったので、恐る恐る参加することにした。

そのイケメンのインストラクターは、博子に付きっきりで指導したので、博子はご機嫌になって、亜熱帯系のトロピカルフィッシュが目の前で乱舞する光景に興奮した。

他のメンバーは、やはり、自然にカップルになって行動するようになった。

司と洋子、薫と智子、亨は相変わらず、若菜と綾の二人を連れている。

どのカップルも、男性陣が女性をリードして水の中で繰り広げられている神秘の世界を堪能していた。

知美は、はじめ、博子と一緒にイケメンインストラクターに手ほどきを受けていたが、慣れてくると、“ムササビ”から借りてきた水中撮影用のカメラを持って、魚や、サンゴ礁の写真を撮って回った。

知美は一人で行動していたので、水中で、はぐれないように常に周りに注意をしながら、撮影を続けた。

すると、別のグループにいたフリーのダイバーが近付いてきた。

男性のようだった。

知美の前にカメラを掲げて、ニッコリ笑っている。

彼は、驚いている知美にカメラを向けると、シャッターを切った。

それから、ボンベに書かれているショップの名前を示して、同じショップだと合図し、片手でKOサインをした。

知美は彼の意図することをだいたい理解した。

 体験ダイビングが終わると、知美達はショップに引き返してきた。

ショップのテラスで一人タバコをふかしている男がいた。

テーブルの上にはあのカメラが置いてあった。

男は、白いTシャツにブルージーンズ、そしてビーチサンダル姿だった。

髪は短めで口ひげをはやしている。

真っ黒に日焼けした肌は、いかにもマリンスポーツか、そういった仕事をしているのだろうと思わせるような雰囲気があった。

知美が近付いていくと、彼の方から挨拶をしてきた。

「やあ!さっきは失礼したね。」

知美は軽くお辞儀をして応えた。

「いいえ、それより、少し待っていてもらえますか?着替えてきますから。」

「ああ、どうせ暇だから、ごゆっくり。」

そう言って、男はまたタバコをくわえた。

 知美が更衣室に戻ると、博子と智子がよって来て、「今の人、誰?」目をキラキラさせながら尋ねてきた。

知美は、海での出来事を説明した。

「まだ、自己紹介も何もしていないの。だけど、着替えてくるまで待っててくれると言ったわ。」

「ねえ?私たちも一緒にお邪魔していいかしら?」博子が聞いたので知美は「構わない。」と答えた。

 テラスに出ると、その男の周りには亨達がいた。

彼は知美に気がつくと、手を挙げて合図をした。

「あれっ?お知り合い?」

亨が知美を見て言った。

「あなたこそお知り合いなの?」

「いや、カメラに興味があったから話しかけたんだけど…」

「私もさっき海でナンパされたばかりなのよ。」

「ナンパ?されたのか!」亨がびっくりして男の顔を見ると、彼は声をあげて笑いだした。

「ナンパか!こりゃあいいや。確かにそうかもしれんな。」

知美も笑って、自己紹介をした。

「藤村知美と言います。武蔵野台美術大学でCGをやってます。」

「ほう!あのむさ美でねえ。ボクは“マリンブルー”という海洋雑誌のライターをしている、南野大洋みなみのたいようです。」

そう言って男は左手を差し出した。

知美は、彼の名前を聞いてクスッと笑ったが、迷わずに握手に応じた。

「ああ、たいようはおひさまの方じゃなくて、大きな海(大洋)の方ね。」彼はそう付け加えた。

そして、知美は仲間を彼に紹介した。

「さて、そろそろ昼飯時だなあ。みなさんご一緒にいかがですか?」

「え〜、いいんですか?」博子はすごくうれしそうに大洋に腕を掴んで甘えた。

「ええ、もちろんです。何事も大勢の方が楽しいに決まってます。」

一同は、大洋に案内されて、近くの割烹“宝亭”に来た。

大洋は、取材でちょくちょく八丈に来るから、うまい店や、安い飲み屋、便利な宿など、一人でタウン誌が作れるのではないかと言うくらい島のことに詳しかった。

この、割烹“宝亭”では、島のトウガラシを付けて食べる、刺身定食がボリュウムもあって旨いというので、みんなそれを頼んだ。

大洋は、それとは別にイセエビの刺身を注文して、味噌汁を出してくれるように言った。

「旨い!」と司、薫。

「おいし〜い!」若菜に綾。

「トウガラシとは意外だったが、合うもんだな。」亨もうなった。

「このイセエビも美味しいわ。」洋子と智子も満足そうだ。

博子は、大洋の隣に座って、ビールを注いでいる。

知美は、その反対側の隣に座って大洋の話を聞いている。

大洋は、ダイビングのライセンスも持っており、記事だけでなく、写真も自分で撮って本に載せるという。

家は小笠原にあるのだという。

彼もむさ美の出身だと聞いた時は、みんな驚いた。

大学を出て中堅の出版社に、カメラマンとして採用され、二年でフリーになったと同時に、海の魅力に取りつかれ、一年の大半を小笠原で過ごしていた。

そんなわけで、今年の初めに、都内のマンションを家具ごと引き払い、父島に家を買い、カメラだけ持って島に移ったのだと言う。

「なんだか羨ましいわね。そういう生活。」と、智子。

「あら!あなただって秋にはイタリアに行くんじゃない。」と、博子。

すると、大洋は、智子を見て、パチンと手を叩いた。

「君!PRビデオの!どこかで見たことがある子だと思っていたんだけど、あれに出てた子だね。あのビデオはよく出来ていたよ。さすが、我が母校だ。」

「あのビデオご存じなんですか?」

智子がきくと、大洋は、後輩がどこかから手に入れて送ってくれたといった。

「でも、残念だけど、あれを撮ったのはうちの学生じゃないのよ。」

「えっ?そうなの?じゃあ、いったい誰が…」

「知りたい?」

「ああ、興味あるね。」

メンバーが口をそろえて、ニコニコしながら、「今、この島にいるんだ。あれを撮ったプロデューサーが。」そう言うと、大洋は驚いて、ぜひ会いたいと、知美に頼んだ。

知美はごちそうになったお礼に、今夜、“すとれちあ”でお別れパーティーをやるから尋ねるといい、そう伝えた。


 島内観光を終えたメンバーたちは、“ハワイアンカー”で一度、“すとれちあ”に戻り、荷物を降ろした後、ペンションと車をバックに記念写真を撮った。

車を返しに行く晃に、直子が軽トラックで同行した。

孝太たちは一時間ほど休憩をした。

孝太はその間に、帰りの荷支度を整えてしまった。

もともと大した荷物はなかったが、翌日は、出発までにやりたいことがあった。

 温子達の部屋では、涼子が同じように荷支度を整えていた。

「明日ゆっくりやればいいのに。」

温子も、望もそう言ったが、涼子は「明日は、帰るまでにやりたいことがあるから。」と、作業を続けた。

 一時間後、みんなでさよならパーティーの準備を始めた。

むさ美の連中も少し遅れたが、準備に合流した。晃の父親の好意で、この日はバーベキュー場を貸し切りにしてくれた。

「なあに、今日の午前中でほとんどの宿泊客が帰っちまったからな。」

晃の父親が言う通り、あすは月曜日なので、家族連れで来ていた客はほとんどが今日の戻りの船と、飛行機で帰ってしまっていた。

“すとれちあ”には、孝太達の他にはカップルの客が一組残っているだけだった。

晃の父親は、そのカップルに、一緒にパーティーに参加しないかと誘うと、快く承諾してくれた。

本音は、一人分別メニューの食事を用意するのが面倒くさかっただけなのだ。

晃の母親に、そのことで「横着しないで、ちゃんとサービスしないとダメよ。」と戒められていたが、「こっちの方が豪華な夕食なんだ。大サービスじゃないか!」と、そっぽを向いた。

 メンバー達は、この夏三度目のバーベキューなので、準備も料理も慣れた手つきでこなしていった。

晃の両親と島崎は食堂で一杯やっている。

メンバー以外のカップル客も予定外ではあったがバーベキューを楽しんでいる様子だった。

パーティーが終わろうとする頃には、南野大洋もやってきた。

知美は、良介を紹介した。

大洋は、良介がまだ、現役の大学生だと聞くと、「どえらい新人が隠れていたもんだ。」と、感心し、ほめたたえた。

この後、知美は大洋と一緒に最後の夜を楽しんだ。

孝太は、明日朝食を出し終わったら、植物公園に来て欲しいと島崎に言った。

島崎は、晃の父親にお伺いを立てた。

晃の父親は、笑って許してくれた。

 バーベキューが終わると、孝太はいつものように、島崎と一緒に後片付けをしていた。

片づけが終わると、島崎がご馳走するから飲みに行こうと誘ってきた。

孝太は未成年だからと言って断った。

島崎は仕方がないから一人で行くと言ってエプロンを脱いだ。

島崎が帰る間際に孝太は、明日必ず植物園に来るように念を押した。

 涼子は、直子の部屋で、直子と一緒に縫い物をしていた。

孝太から、島崎と由美子の事を聞いて、二人の結婚式をやってあげようと提案したのだ。

場所は植物公園で、“キョン”の飼育場がいいと言った。

園長に電話して、開演するまでの時間なら問題ないと許可をもらったのだ。

それで、直子に協力してもらい、由美子に着てもらうためのドレスを縫っているのだ。

他のメンバーに話しをすれば、みんな喜んで協力してくれただろう。

しかし、孝太と二人でやりたかったのだ。

ドレスが仕上がったときには、空がうっすら明るくなっていた。

温子が、心配するといけないから、予め、直子に理由を付けて部屋に呼んでもらうようにしてあった。

 後片付けが終わると、孝太は、予め事情を話して、晃の父親に材料を用意してもらっていた。

島崎のためならと、晃の父親は喜んで材料を提供してくれた。

孝太は、島崎と由美子のためにウエディングケーキを作っていた。

パンケーキで土台を作り、生クリームでデコレーションしていく。

続いて、クッキーの生地を“キョン”の形に作っていく。

生地ができたらオーブンに入れる。

その間に、プラスチックのパイプを4本立て、台座をセットし、二段目のケーキを乗せる。

真ん中には、ホワイトチョコで作った小さな白い家と一組のカップルを乗せた。

もちろん島崎と由美子だ。

焼き上がった“キョン”のクッキーをその廻りに並べる。

土台のケーキの真ん中には八丈富士に見立てたシュークリームに抹茶パウダーを振りかけた。

八丈富士の廻りには、マンゴーやパッションフルーツなどを飾り付けた。

孝太のケーキが出来上がったのも明け方に近かった。

孝太は、ケーキを冷蔵庫に保管すると、食堂の椅子に座って、パッションフルーツの生ジュースを飲んでいた。

そこへ、涼子と直子がやってきた。

孝太は、余ったパンケーキで作ったフルーツケーキとパッションフルーツの生ジュースを二人に用意した。

ケーキには“キョン”のクッキーが乗っていた。

「まあ、なんて素敵なケーキかしら。」

直子は、ケーキを皿ごと持ち上げ、あらゆる角度から眺めながら言った。

「直子さん、こんな時間まで協力してもらって、本当にありがとうございます。明日は、ゆっくり休んで下さいね。」

涼子が、礼を言うと、直子は首を振ってこう言った。

「えっ?私は式に呼んでもらえないのかしら?」

「出ていただけるんですか?」

「もちろんよ!」

「ありがとうございます。でも、疲れているんじゃないですか?」

「平気よ。疲れているのはあなた達も一緒でしょう?それに、ケーキを運ぶのに車がいるでしょう?」

「あっ!」

孝太も涼子もそこまでは考えていなかった。

三人はお互いの顔を見合わせて吹き出して、大声で笑った。

トイレに起きて、孝太がいないのに気が付いた良介が、その笑い声を聞いて降りてきた。

「ずいぶん早起きだなあ。」

寝癖で髪の毛がツンと立ったままで現れて良介を見て、三人はまた笑い声をあげた。

孝太は、島崎と由美子の結婚式の話しをした。

「よしっ!朝飯を食ったら、荷物をまとめてみんなで祝いに行こうじゃないか。」

といって良介は賛成してくれた。

「しかし、水くさいじゃないか。」


 孝太と直子は、島崎がやってくる前にケーキを植物公園に運んだ。

早くに来ていた園長が、二人を待っていた。

園内にある喫茶コーナーの主任に事情を話して冷蔵庫に一時ケーキを保管してもらうことにした。

“すとれちあ”に戻ると、島崎は既に食事の用意を始めていた。

孝太達の最後の朝だということで、明日葉を練り混んだうどんを振る舞うといって、

生地をこねていた。

孝太は、手伝うと言って、厨房へ入っていった。


 良介は、朝、早く起きて、伸一に荷物をまとめるよう指示すると、望達の部屋をノックした。

顔を出した望に事情を話し、朝飯の前にできるだけ荷物をまとめておくように話した。

それから、博子達の部屋へ行き、博子に事情を話し、むさ美の連中に伝えるように頼んだ。

博子は、例によって少女のような笑顔で、快く引き受けてくれた。

 朝食の時間になると、みんな、荷物を担いで食堂に降りてきた。

その姿を見て、島崎は、「いよいよお別れだな。寂しくなるなあ。」と、しみじみ言った。

最後の朝食は、いかにも八丈島といった明日葉うどんだった。

さっぱりして、とても旨かった。

食事が終わると、良介達は「お世話になりました。」と言って、“すとれちあ”を後にした。

港まで送ると言って、直子がマイクロバスで送っていった。

 島崎が後片付けをしていると、晃の父親が、「もういいから早くいけ。」と言って、島崎に植物公園へ行くように促した。

「植物公園に何があるんだろう?」

島崎は、訳も分からないまま、バイクにまたがった。


公園に行く途中で、由美子にあった。

島崎は由美子に、バイクの後ろを指して、「乗っていくか?」と言った。

由美子は、笑顔で島崎の後にまたがった。

植物公園に到着すると、園長が島崎を呼び止めた。

由美子は「じゃあね。ありがとう。」と言って、女子更衣室へ向かった。

更衣室にはいると、直子と涼子が待っていた。

「あら?あなた達確か…」

二人は、笑って由美子を迎えた。

 園長に呼び止められた島崎は園長室に連れて行かれ、タキシードを渡された。

「私のものだからサイズが合うかはわからんが、それよりはましだろう。」

島崎は訳が分からず、とりあえず、服を着替えた。

 会場では、良介達が飾り付けをしていた。

さすがはCIP、その場にあるものだけで工夫して、立派な結婚式場を仕立て上げた。

孝太と温子は、二人でケーキを運んでいた。

「このケーキ、私たち二人のだったら良かったのになあ…」

孝太の顔が青ざめるのが分かったので温子は「冗談だよ。」と言って笑った。

それから続けた。

「孝ちゃんの結婚式には必ず呼んでちょうだいね。」と言った。

「いや、俺は呼べないよ。君を呼ぶのはきっと涼子ちゃんの方だよ。」

「良くもまあ、ズケズケと…でも、本当に涼子を幸せにしてあげてよね。」

「ああ、分かってるよ。だけど、結婚となるとまだ早いような気がするなあ。」

「ダメダメ!それは絶対に許さないよ。じゃなきゃ、私も知美ちゃんも次に進めないじゃない。」

孝太はそれ以上、何も言えなかった。

会場ケーキが到着すると、一同は「おー!」と言う声を上げた。

「これをお前が作ったのか?本物なのか?食えるのか?」

良介は感心してケーキを眺めた。


 「どういうことなの?」

由美子は、有無も言わさず服を脱がされ、ドレスを着せられた。

「時間がないから急ぎましょう。」

そう言って直子は、ドレスの裾を直した。

その間に涼子が、今日の結婚式のことを説明した。

由美子は一瞬、驚いたが、すぐに喜びがこみ上げてきた。

ノーメイクの由美子の目から、うっすらと涙がにじんだ。

直子は、その涙を拭って、簡単なメイクをした。

「さあ、できたわ。」

涼子は、園長が用意しておいてくれたストレチアの花束を由美子に渡した。

「本当はお父様にエスコートしていただくところだけど、今日は私たちで我慢して下さいね。」

そう言うと二人はそれぞれ由美子の両側に立って、会場までエスコートした。


 会場には既に、園長のタキシードを着た島崎が待っていた。

島崎は、由美子の姿を見て、初めて事情が飲み込めた。

「孝太!」

島崎が孝太を睨みつけると、孝太は、Vサインを出してウインクした。

由美子が島崎の隣に立つと、良介がウエディングテーマのカセットテープをならした。

ジャジャジャジャーンジャジャジャジャーンジャジャジャジャンジャジャジャジャーンジャージャジャンジャンジャンジャ…

園長が神父代わりに誓いの言葉を述べた。

「苦しい時も、楽しいときも、病めるときも、健康なときも変わらぬ愛を誓いますか?」

「誓います。」

島崎は、園長の言葉が終わるやいなや、即答で答えた。

「わたしも…」

由美子も同時に答えた。

園長は、二つの、珊瑚で作った指輪をポケットからとりだし、島崎に差し出した。

島崎はそれを受け取り、由美子の薬指にしっかりとはめ込んだ。

由美子も、同じように島崎の指に指輪をつけた。

「さあ、どうぞ!」

園長がそう言って、唇を尖らせ、キスをするよう促した。

二人は、少しためらったが、由美子が先に目を閉じたので島崎は自分の唇をタキシードの袖で拭ってからキスをした。

参列していた、良介達に、公園のスタッフからヤンヤヤンヤの歓声が鳴り響いた。

園長は、島崎に、「ちゃんとクリーニングして返してくれよ。」と言った。

島崎は、「新品を買って返したい気分だ。」そう言って園長に感謝した。

由美子は、ストレチアの花束を涼子に投げてよこした。

「次はあなた達の番ね。」そう言って、孝太と涼子に近づいて、孝太の頬にキスをした。

孝太はびっくりして涼子の方を見た。

涼子は「今日は許してあげる。」そんな表情で微笑みながら孝太を見た。

そして、良介達は、島崎を胴上げした。

胴上げが終わると、「島崎さん、ボクからの気持ちです。」孝太はそう言って、ケーキを指して、ナイフを渡した。

島崎はナイフを受け取ると、由美子と一緒にケーキにナイフを入れた。

その時“キョン”達がケーキに向かって突進してきたのでケーキは地面に落ちて、“キョン”達の餌になった。

「まあ、いいか!彼らも今日の参列者の一員だから。」

島崎は、地面にはいつくばって、“キョン”と一緒にケーキをむさぼった。

由美子は笑って、そんな島崎を見ていた。


「今日は本当にありがとう。とても嬉しかったわ。そろそろ港に行かないとでしょう?仕事があるから見送りには行けないけど、今日のことは一生忘れないわ。」

由美子はそう言って、孝太と涼子の手をしっかりと握りしめた。

孝太達は園長に礼を言って、公園を後にした。




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