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色々な恋愛観/温子の決意

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 メディアタワーから、さほど離れていない小高い丘に“ムササビ”のオフィスがある。

知美と二階堂教授は、そこへ向かう坂道を歩いている。

この辺りまで来ると、駅周辺の雑踏がどこか違う世界のように思えてくる。

坂の両側には低層の高級住宅が立ち並び、どこの家の駐車場にも、外車や、3ナンバーの高級国産車が停まっている。

ちょうど、坂を登りきった辺りに、5階建ての高級マンションが建っている。

二人は、そのマンションの正面にあるレンガ造りの門をくぐり、庭園の脇をエントランスのほうへ歩いていった。

大きな、ガラスのドアを開けると、床には、赤っぽい御影石が貼られていて、表面がザラザラのバーナー仕上の部分と、ぴかぴかに磨かれた石とをモダンに組み合わせている。

大理石が貼られた壁の真ん中に、緑色の石で縁取られた、ブース状の一角があり、オートロックの機械と、インターホンが備え付けられている。

外に2台、エントランスホールにも2台の防犯カメラが天井から二人を見下ろしている。

二階堂教授は、5・0・1・呼と、順番に4つのボタンを押した。

すぐに、女性の声で、「はい。ムササビです。」と、応答があった。

「二階堂です。」二階堂教授が名乗ると、「どうぞ。」と声がして、木目調のシートが貼られている両開きの自動ドアが、両側に退いて行った。

中に入ると、左側に管理室があり、窓口から制服姿の警備員が座っているのが見えた。

二階堂教授が、左手を上げて挨拶すると、警備員は、立ち上がって敬礼した。

廊下は、毛足の長いじゅうたんが敷き詰められていて、エレベーターホールまでの壁もエントランスと同じ大理石が貼られている。

二階堂教授が△のボタンを押すと、二台あるエレベーターのうちの、右側のエレベターの扉が開いた。

二人はエレベーターに乗り込み、5のボタンを押した。

5階のエレベーターホールの床も、じゅうたんが敷かれており、壁と天井には、布のクロスが貼られている。

正面と左右に部屋の入口があり、501号室は、エレベーターを降りた左側の部屋だった。

部屋の入口の前にも、インターホンがあり、ドアの取っ手にはテンキーが設置されている。

二階堂教授は、インターホンには触らず、テンキーを押してドアを開けた。

 部屋の中に入ると、透明部分と、わざと傷を付けてスリ硝子状にしている部分がボーダー状に交互に横シマになっている硝子のスクリーンがあり、トレードマークのムササビのイラストがデザインされたロゴをあしらったパネルが飾られている。

二階堂教授が、受付カウンターからオフィス内を覗くと、奥のデスクにいる、30歳前後くらいの男が立上り、手を振った。

「おやじ!」

その男、二階堂護は、そう言って、中へ入ってくるように、デスク脇の応接セットを指した。

 知美がここを訪れるのは、この日で2回目だった。

最初に訪れた日に、例のキャラクターの他に、何点かのイラストを持ってきたのだが、その時に、ストーリー性のある、カットで10枚のイラストを作成してみてくれないかと社長の二階堂護から、宿題を与えられていたのだ。

知美は、早速その日から、教室にこもって、10枚のイラストを作り上げたのだった。

二階堂教授は、知美から10枚のイラストが入った封筒を受け取り、護に渡した。

護は、すぐに中身を取りだし、1枚1枚真剣に見た。

知美は、どんな評価を受けるのか、ドキドキしながら待っていた。

「いいね!この前のイラストもなかなか個性のあるキャラクターだったけど、これも、独特でいい。」

そう言って、イラストをテーブルの上に置いた。

「まだまだ、コンピューターの操作も、おぼつかないんだがね。いい感性をしているだろう?」

二階堂教授が、後押しするように、護に言った。

知美は、ホッと胸をなで下ろした。

「おやじがここに生徒を連れてきたのは、君が二人目でね。最初の子があの子さ。」

そう言って、護が見た先のデスクに座っているのは、佐々木純子だった。

佐々木純子といえば、今、売り出し中のイラストレーターだ。

雑誌の表紙や、企業のポスターを手掛ければ、売れ行きが倍増すると、絶賛されるほど、今や、この業界の第一人者と言われているのが佐々木純子だ。

当然、知美にとっても尊敬するデザイナーであり、目標でもあった。

「藤村さんといったね?荒削りだけど、将来有望だよ。どうだい?ここで、働いてみないかい?」

護の言葉に、知美は思いもよらず、笑みがあふれてきた。

「本当ですか?是非お願いします。」

「ただし、基礎は、大学でしっかり学んでもらわなければいけない。」

「ええ、わかっています。」

「とりあえず、アルバイトという形で、学校が終わってから、来られるときに来ればいい。」

「わかりました。じゃあ、早速今日からでもいいですか?」

「今日?何ともせっかちだな。まあ、君さえよければ。」

それから、二階堂教授は、「よろしくたのむ。」そう護に告げて、一人で帰って行った。

護は、二階堂教授に手を振って応えた。

「それじゃあ、みんなに紹介するから、ついて来て。」

知美は、護に従って、フロアを順に挨拶して回った。


 いつものように、この日も温子はリサーチ活動に励んでいた。

大学の講義が終わってから活動しているので、一日に尋ねていける店の件数は限られている。

今日は、スポーツ&パーティーをテーマに、時間貸しをしている、スポーツ施設を見学していた。

しかし、なんとなく、気が重かった。

「涼子が、孝ちゃんのことを好きだったなんて気が付かなかったわ。」

そのことを思うと、複雑な気持ちになった。

カフェのオープンテラスで、日除けのパラソルが立てられている丸いテーブル席で、Mサイズのコーラをストローですすりながら、ため息をついた。

「おや!CIPの元気印が今日は、なんだか落ち込んでいるように見えるのは気のせいかな?」

声をかけてきたのは、皆川亨だった。

例によって、石川若菜と、米村綾も一緒だった。

「ご一緒させてもらってもいいですか?」

若菜が、声をかけた。

面倒くさい奴にあったなあ。温子はそう思ったが、一人で考えこんでいるよりはましだと思って、「どうぞ。」と申し出を受けた。

「あなたたちって、不思議よね?二人とも、こいつのことが好きなんでしょう?」

いつも、二人で一緒に、亨について歩いている若菜と綾に、温子は、言った。

「おい、おい、年上の、しかも、こんないい男を捕まえて、こいつはないだろう?」

亨が、半ば、冗談っぽく口を出した。

若菜も、綾も、クスクス笑っている。

そして、若菜が温子の問いに答えた。

「私たち、中学校のころから、ずっと一緒で、趣味も一緒だし、とても、気が合うの。」

すぐに、綾が続けた。

「そうなの。歌手や、俳優さんも、同じ人を好きになるのよ。もっとも、どちらかが、先にこの人カッコイイね。って、そういうと、もう一人も、あっ、本当。みたいな感じで。」

まあ、仲がいいのは分った。

そういう意味では、温子と涼子も仲良しなのだが、大抵のものは好みも、考え方も違う。

「だけど、男の人を好きになるっていうのは、歌手や、映画俳優に憧れるのとはわけが違うでしょう?」

女の子三人の話を、亨はタバコを吸いながら、面白そうに聞いている。

若菜と綾は、お互いに目を見合わせて笑った。

「あら?そうかしら?一緒にいた方が楽しいと思うんだけど。」

若菜が、そういうと、綾が続けた。

「そうですよ。別に結婚とかまで考えているわけじゃないし、たまたま、好きになった人が一緒だったから、一緒に、お付き合いしているだけよ。」

温子には、到底理解できなかった。

「あなたは、こういうの、どうなの?」

温子は、たばこの煙をリング状に吐き出しながら、ニヤニヤしている、亨に聞いてみた。

亨は、いきなり話をふられて、少しむせったものの、こう答えた。

「ノープロブレム!別にいいんじゃないか。下手に、隠れて別々の女と付き合うよりは。」

「そんなのおかしいわよ。孝ちゃんなら、そんなことないわ。たぶん…」

「どうだか…」

うすら笑いを浮かべて、亨が温子の言葉を否定した。

「どういうことよ!」

「最近、“HIRO”で、よく藤村と会っているらしいぞ。その、孝ちゃんとやらがさ。」

温子はショックだった。

「うそよ。」

「うそなもんか!智ちゃんが、そう言っていたって、薫から聞いたんだ。」

「うそうそ!そんなのうそよ!藤村さんは、もう、孝ちゃんとは関係ないはずだもの。」

「それじゃあ、仮に、それが藤村じゃないとしよう。そうなると、孝ちゃんのお相手は、お前さんと仲良しのそっくりさんの方だってことになるぞ。どっちにしても、お前さんの知らないところで、よろしくやっているんじゃないのか?」

「…」

「亨ちゃん!」

若菜と綾が、亨を肘でつついた。

「いけね!余計な事を言っちまったかな?まあ、そう気にしなさんな。ただの噂だ。元が薫だから話半分に聞いておけ。」

気休めにもならない言葉を吐いて亨達は去って行った。

温子は、一人で呆然としているしかなかった。


 家に戻った温子は、夕食もとらずに、部屋にこもっていた。

「確かめた方がいいのかしら…」

涼子が、孝太に思いを寄せていることは明らかだ。

“HIRO”で、孝太に会っていたのは、涼子なのか、藤村知美なのか…

「よし、とりあえず、明日、“HIRO”に行ってみよう。」

 温子は、翌日、午後の講義が終わると、武蔵野の森へ出かけて行った。

孝太は、今日、バイトがあるはずだから、鉢合わせする心配はない。

入り口のドアを開けて、店に入ると、小田切薫と、皆川亨が来ていた。

温子の姿を見て、亨が手招きした。

温子は亨の隣に腰かけた。

「昨日は悪かったな。早速、偵察にきたのか?」

智子が、温子の前に水の入ったグラスを置き、注文を聞いた。

「コーヒーを。」

その後、温子は、しばらく、黙っていたが、智子に聞いた。

「孝ちゃんが、ここによく来るのは本当ですか?」

智子は、薫と亨を交互に見て、「おしゃべりね。」そんな表情をした。

「ここへ来たのは、三度ね。一度目はあなたたち三人で来た時。二度目は一人だったわ。」

「三度目は?」

「三度目は、藤村さんと一緒だった。」

「涼子ではなくて、藤村さんだったんですね?」

「ええ、最初は、涼子ちゃんかと思ったけど、話の内容からして、藤村さんで間違いないわ。」

「どんな話をしていたか覚えてますか?」

「高校時代の思い出話かな。それから、あなたのこと。」

「私のこと?」

「そうよ。藤村さんは、孝太君のことが好きだと言っていたわ。だけど、孝太君は、あなたがいるから無理だって。」

「それで?」

「それでって?」

「その後、藤村さんはどうしたんですか?」

「それでもいいって。今まで、待っていたんだから、もう少し待ってみるとか、二人の邪魔はしないとか、そんな話をしていたと思ったわ。」

亨と薫は、二人のやり取りを黙って聞いている。

「そうですか。」

温子は、少し安心したようだった。

「なっ!気にするほどじゃなかったろう?」

「あなたは黙ってて!」

智子はそう言うと、亨を睨んで、続けた。

「あなたが、余計な心配をする羽目のなったのには、私にも責任があるの。だから、全部話をするわ。実はこの話、今のでおしまいじゃないのよ。問題は、二度目に来た時なの。」

「二度目?だって一人で来たんでしょう?」

「そう、来た時はね…」

智子は、まだ、話した方がいいのか迷っているようだったが、ここで辞めたら、それこそ、温子を苦しませるだけになってしまうし、この後、どうなるかわからないけれど、今、このことを聞かせるのも残酷な気もするが、どの道、避けては通れない道だと覚悟を決めた。

「…その日、涼子ちゃんも来ていたの。」

「涼子も?」

「ええ、別に、待ち合わせとかではなくて、彼女も、一人で来ていたの。会ったのは、本当に偶然だったみたいだけど。」

「…」

温子は黙って聞いている。

「わたし、小田切君たちから、話を聞くまでは、あなた達が付き合っていたなんて知らなかったから、余計な事をしちゃったかもしれないわ。彼女のほうはね、むさ美のバザーの後、何度か来ていたの。たぶん、ここに来ていれば、いつか孝太君に会えるんじゃないかってね。あの日もそんな感じだったわ。藤村さんとは、姿は似ているけれど、性格は全く違うから、孝太君とは彼女が、いちばん合っているような気がしたの。それで…」

「それで?」

「それで、彼女に、あなた達とてもお似合いだから、頑張りなさいなんて言ってしまったわ。」

「孝ちゃんとは、涼子が、いちばんお似合いですか…」

「ごめんなさい。でも、あなた達がお似合いではないということではないのよ。孝太君自身は、きっと、あなた以外は考えていないと思うわ。それに、涼子ちゃんは、あなたから彼を奪おうなんてこと、絶対にしないでしょ?」

「涼子が、孝ちゃんのことを好きなのは、私も気が付いたわ。問題なのは、私の気持ちなの。でもまさか、涼子が…」

今まで、黙って聞いていた亨が口を開いた。

「だけど、当然と言えば、当然の結果だったんじゃないのか?うちの、若菜と綾みたいに、四六時中一緒にいれば、情も移るってもんだ。まあ、あいつらは、ちょっと、引き合いに出すには極端すぎるがな。」

温子は、昨日の彼女たちの話を思い出した。

「そうね、私たちは、デートの時まで一緒にいないもの。」

そう言って、温子は、少しほほ笑んだ。


 CIPの部室で、温子はソファーにもたれて孝太と涼子を見ている。

必要以上の会話は、ほとんどない。

しかし、涼子の表情は、明らかに、以前とは違う。

生き生きしていて、楽しそうだ。

孝太は、いつもと変わった様子はない。

孝太が浮気をしていないことは、先日の“HIRO”での話からも明らかだった。

あとは、自分の気持ち…温子はそう思った。

「温子?具合でも悪いのか?元気ないぞ。」

孝太が心配して、近づいてきた。

「大丈夫。ねえ、それより、孝ちゃん、今日バイト休める?」

「店長に聞いてみないと、何とも言えないなあ。なんでだ?」

「久しぶりに、デートしよう!」

「デート?」

「そう!デート!」

そう言うと、温子は立ち上がり、孝太の手を引っ張って歩き出した。

部室を出て、ドアを閉める時に、涼子に向ってこうささやいた。

「涼子、ごめんね。ちょっと孝ちゃん借りるわね、大丈夫!すぐに返すから。」

涼子は不思議な顔をしていたが、温子は、構わず、ドアを閉めた。

孝太は途中、本館ホールにある、公衆電話で“磯松”に電話をかけた。

「まあ、仕方ない。今日だけだぞ!」店長は、そう言って休みを認めてくれた。

「さて、どこに行こうか?」

「そうね、少しおなかがすいたから、ご飯食べに行きましょう。今日は全部、私が御馳走するわ。」

 “大学堂”は、相変わらず、聖都の学生でいっぱいだった。

孝太と温子は、座敷に向かい合って座っていた。

いつもの女店員がハヤシライスを運んできた。

「懐かしいわね。合格発表の時以来だよね。」

「ああ。だけど俺は、この間、副部長と…」

「あっ!そうだったわね。」

「お前たち、途中で冷やかしに来ただろう?」

「違うわよ。孝ちゃんが心配で、様子を見に来てあげたのよ。そしたら、副部長と目が合っちゃて。」

「あれには参ったよ。また、そろそろ始まる頃じゃないのか?」

「そうかもね。」

そう言って、二人は笑った。

「ねえ、初めて会った時のこと覚えてる?」

「ああ、覚えてるさ。」

「その時、孝ちゃんは、私より、涼子に興味があったんじゃない?」

「そんなことはないさ。ただ驚いただけさ。」

「藤村さんに似ていたから?」

「ああ。」

孝太は、ハヤシライスをかき込みながら、頷いた。

温子も一口食べた。

「ボウリング場で藤村さんと再会した時は、嬉しかったんでしょう?」

「嬉しいというより、戸惑ったという方が正解かな。あの時は、もう温子と付き合っていたからな。」

「もし、私と付き合っていなかったら、どうなっていたかしらね?」

「正直、彼女はきれいだけど、中学でも、高校でもほとんど話しをしたことがなかったから、好きだと言われても、ピンとこなかった。」

「へー?好きだと言われたんだ!」

「ああ、一度、“磯松”に来たことがあった。それに、“HIRO”で会ったこともある。」

「まあ、知らなかったわ。」

「いや、隠すつもりはなかったんだけど、温子も忙しくしていたから、言い出す機会がなかったんだ。でも、今、話したろう。」

「それで、孝ちゃんはなんて答えたの。」

温子の話しぶりは、穏やかで、まるで、物語でも聞いているような感じだった。

「温子がいるし、今は、考えられないって、はっきり言ったさ。」

「孝ちゃんにしては、よく言ったわね。」

「お前、俺達のこと、疑ってただろう?」

「それはそうよ。愛するダーリンが他の女に取られやしないか、気が気じゃなかったわ。」

「だけど、俺を信じてくれた?」

「そうね。私にも孝ちゃんしか考えられなかったから、信じるしかなかったもの。」

二人ともハヤシライスの皿が空になった。

温子はコップの水を一口飲んで「お腹いっぱい。」そう言った。

「欲しいものがあるの。付き合ってくれる?」

温子はそう言って、ハヤシライスの料金を二人分支払った。

“大学堂”を出ると温子は、孝太をボウリング場に連れて行った。

そして、クレーンゲームのコーナーへ行くと、以前孝太に取ってもらった、ぬいぐるみの色違いのものを指して、「お願い、あれ取って。」と頼んだ。

孝太は、「お安い御用だ。」と言って、いとも簡単にぬいぐるみを獲得した。

温子は、それを、孝太に渡して、言った。

「それ、持っていて。私の代わりに。ねっ!」

明らかに、今日の温子は、いつもと違う。

孝太はそう思いながらも、それを温子に聞くことは出来なかった。

「さあ、ちょっとお茶でも飲みに行きましょうか?」

二人は、ボウリング場の隣にある、喫茶店に入った。

温子は、レモンティーを、孝太はブレンドを注文した。

「むさ美の皆川って人覚えてる?」

「ああ、小田切さんの親友で、いつも、女の子を二人連れている人だろう?」

「そうそう、あの子たちったらおかしいのよ。二人とも、皆川って人のことが好きなんだって。それで、デートも三人一緒なのよ。変よね?」

「へー、そうなんだ。」

「孝ちゃんだったらどうする?」

「どうすると言われても、わからないなあ。」

「じゃあ、仮によ。仮に、私と涼子が孝ちゃんのことを好きで、二人に付き合ってくれと言われたらどうする?」

「そんなこと有り得ないだろう?それにあったとしても、二人同時にはなあ…」

「そうだよね。どちらかを選ばなくちゃいけない。そして、多分すごく悩むのよね。」

アルバイトらしい、女の子がレモンティーとコーヒーを持ってきた。

温子は、レモンティーを一口飲んでから、話を続けた。

「だけど、横山さんって人は、かわいそうね。」

「ああ、藤村にふられたんだって?」

「まだ、ふられたわけじゃないわよ!だけど、彼女のことだから、いつかは、きっと、そうなるかもしれないわね。」

店内にカレーのにおいが漂ってきた。

他の客が、頼んだのだろう。

「うわー、なんかいいにおいがしてきた。」

「まさか、また食べるなんて言うんじゃないだろうな?」

「バカねえ!さすがの私でも、今はまだ食べられないわ。それにカレーはやっぱり、孝ちゃんの作ったカレーが一番だわ。」

「愛情のスパイスが効いている?」

「そう!愛情のスパイス!」

温子は、そういうと、満面の笑みを浮かべて孝太を見た。

既に、あたりは暗くなっていた。

二人は喫茶店を出て、しばらく歩いた。

孝太の腕には、温子の腕が絡みついている。

「ねえ、今日は孝ちゃん家に泊ってもいい?」

「家の方は大丈夫なのか?」

「大丈夫!」

「晩飯はどうする?」

「途中で買い物して帰りましょう。今日は、私が何か作ってあげるわ。」

「本当に?」

「なによ?不満?」

「いいえ、めっそうもございません。」


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