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革命ガ始マリマシタ  作者: XICS
エピローグ
71/72

それぞれの道、二人の道

 恵良たちの初めてのお見舞いから一週間、勇気と礼人の怪我の具合は見違えるほどよくなっていた。早ければ次の一週間後には退院できるだろうと澄佳が診断すると、本人たちや周りの恵良や舞香も喜んでいた。

 また、彼らにとってもう一つ嬉しいニュースが入ってきた。討伐部隊のメンバーは暫く横須賀に残って活動を続けることを命じられたのだ。これは『ナンバーズ』との戦闘で三十人の兵士の命が奪われ横須賀基地のSWパイロットが足りなくなったため、礼人・賢・雪次が元々所属していた嘉手納基地との協議の末に取り決められたことである。このことを雪音に報告された隊員の五人と討伐部隊の下で働いている舞香は大いに喜んだ。



 そして、ついにその日は来た。

 勇気と礼人が漸く退院することができた。未だに胸郭のコルセットは外せないが、二人は久方ぶりに《オーシャン》へと戻ってきた。二人は実家のような安心感をそこで感じた。

「お帰り。待っていたぞ」

 二人が早速雪音に管制室へと呼び出されると、いきなり雪音・恵良・雪次・舞香にクラッカーを鳴らされた。二人は驚いた衝撃で胸の痛みを感じたが、それ以上に嬉しさがこみ上げてくるのを感じていた。

「礼人さん、お帰りなさいっス!」

 舞香が礼人の下へと駆け寄ってくる。抱き着こうとした彼女を、礼人は手で制止した。

「ただいま……って言えばいいのか?」

 礼人は頬を赤く染めて、舞香と向かい合う。それに対して彼女ははにかみながら彼に頷いた。その光景に、取り残されているような雰囲気の残りの四人が微笑む。

 再会を喜んでいるところで、雪音が一回手を叩いた。五人はすぐにそこに注目する。

「諸君、まだ入院中の賢にはもう話してあるが、討伐部隊としての仕事は『ナンバーズ』が壊滅してもまだ終わっていない。これからいつどんな脅威が襲ってくるか分からないからな」

 急に真面目な話になり、五人の表情も硬くなる。

「だから、お前たちの力を合わせてこの基地を、この国を守ってくれ。私が言いたいのはそれだけだ」

 五人は一斉に大声で肯定の返事をした。と同時に、これから再びいつものメンバーで任務を行うことができるという未来に喜びを抱いていた。



 それから勇気たちは、管制室内で暫くこれからのことを話していた。

 雪音の処遇はまだ決まっていないと彼女は皆に告げ、『ナンバーズ』を討伐した際の勲章や階級上昇についてもまだ決まっていないとも彼女は告げた。

 舞香は今までの働きぶりが認められて、派遣雇用から正式な日本国防軍の整備員となることも分かった。これは雪音が上層部に直談判して決めたもので、勇気達は改めて隊長の豪胆ぶりに驚くと同時に、舞香の昇進を祝福した。特に礼人の喜びぶりは大きく、嬉し泣きしている舞香の頭をくしゃくしゃに撫でて祝った。

 更に、舞香と礼人は一緒の部屋で住むことも決まった。雪音の便宜により、今まで一人で部屋を使っていた舞香は礼人の部屋でともに暮らすことになった。これに一番驚いていたのは無論その部屋の主で、いきなりのことにさすがの彼も顔を真っ赤にして黙り込む他なかった。

「良かったじゃないか、礼人。一緒に暮らせる女性ができて」

「うるせえ、雪次!」

 礼人が雪次を怒鳴りつけると、彼以外が声を上げて笑った。


 しかし、恵良は笑いながら舞香を羨望の思いで見ていた。彼女の想い人と一つ屋根の下で暮らすことができるようになったのだから。

――私も、舞香さんみたいに……。

 恵良は心拍数が増えていくのを感じた。


――今なら、今なら……。


 彼女の心拍数は、雪音が解散の号令をかけるまで増えたままだった。

 彼女は解散した後、弾かれたようにある場所へと向かっていった。



 久しぶりの再会で盛り上がり、勇気は先輩たちに挨拶をした後、満足した気持ちで部屋へと戻ろうとした。彼の心は今までにないほど満たされていた。

 およそ一年前の勇気と比べると、かけがえのない仲間や大切な人達ができたことで彼は大きく満たされていた。自身の親とも呼べる日本国を自身の手で救うこともできた。彼の喜びはこの上なかった。

 ふと、エレベータを降りた彼の目に、ある人物が部屋の前で立っているのが映った。

 それは他でもない、恵良だった。

 彼は訝しみ、駆け足で彼女のもとへと急ぐ。

「恵良、どうしたの?」

 彼女は勇気に尋ねられても、黙ったままだった。様子がおかしい恵良に、彼は余計に怪しんだ。

「恵良……」

「勇気」

 すると、黙り込んでいた恵良がいきなり話し出した。勇気はそれに少し驚くと、彼女はいきなり彼の腕を掴んだ。

「な、何を――」

「ついて来てほしい……ところがあるの」

 勇気は頬を赤く染めて、数回頷いた。それから彼は、恵良に引きずられるように連れていかれた。



 勇気が恵良に連れていかれたところは、SWの格納庫だった。そこに《ライトブリンガー》と《ネメシス》、そして《ブラック・サン》はおらず、《ドリームキャッチャー》と《陰陽・甲》が残されていた。整備員たちは一人もおらず、二人の足音がよく響く。

 訳も分からず勇気は恵良に連れられて歩いていた。一体何が起こるのかと、彼の心には不安感すら沸き起こっている。

 すると、二人はSWへと移乗するためのエレベータの前で止まった。そこで二人が漸く向かい合う。

「……恵良。なんだかいつもの恵良じゃないみたいだけど……どうしたの?」

「ここ、覚えてる?」

 いきなり恵良に問われた勇気は混乱し、首を横に振ることしかできなかった。

「私たちが初めて会った場所だよ」

「あ……」

 そう言えば――勇気は気が付いた。二人が初めて『ナンバーズ』に遭遇し、命からがら逃げのびたときに、彼はそこで恵良の笑った顔を見たのを思い出した。それは今思えば安堵から出たものだったのかと、彼は推察した。

「……そうだったね」

 勇気はばつが悪そうに笑ったが、恵良は至って真面目な表情である。

「……ねえ、勇気」

「ん?」

 恵良は途端に、勇気に縋るような目つきになった。

「あの時、勇気に助けられてすごくホッとした。嬉しかった。それから勇気と一緒に討伐部隊に入って、『ナンバーズ』を倒していった」

 勇気は黙って相槌を打つことしかできなかった。未だに彼女が何をしたいのか分からない。

「私が……()()()()()に騙されて裏切られて、死のうと思った時には、勇気が一生懸命声をかけて、命がけで私なんかを助けてくれたよね。おかげで、こうして立ち直れた」

「……そう言ってくれて、俺も嬉しいよ」

 勇気はすっかり硬直してしまっている。嬉しいことを伝えたが、顔は全然笑っていない。

 それでも恵良は話し続ける。

「隊長が言ってたよね、これからも討伐部隊は横須賀基地に残ることができるって。これからも皆一緒だって」

 彼女の話の意図が全く掴めない勇気は、黙りこくりながら頷くしかない。

 すると、恵良が唇を真一文字に引き結んだ。

「……どうしたの?」

「……私は、これからも……討伐部隊の人たちが元の場所に帰って行っても……、勇気と……ずっと、ずっと一緒にいたいな」


 勇気は耳を疑った。不思議と顔が熱くなるのを感じる。


「それって、どういう――」

「――き」

「え?」

 勇気がしどろもどろになりながら聞き返すと――



「私は、勇気のことが好き! 大好き! これからも、ずっと、ずぅっと一緒にいたい!」



 彼と彼女の間で、時が止まったかのような沈黙が訪れた。

 恵良は涙を流しながら勇気だけを見つめている。彼もまた恵良だけを見つめる――凝視する、と形容した方が正しいか。


 勇気は、恵良が放った言葉の意味を咀嚼していた――彼には、『誰々のことが好き』という概念がよく分かっていなかった。恵良が言った数々の言葉の意味は分かるが、それがどう結びつくのかがよく分かっていなかった。


 すると、彼にも思い当たる節があることに気が付いた。


 自身の存在を否定されて絶望に打ちひしがれている時、恵良が優しく声をかけてくれたおかげで立ち直ることができた。その後も、ことある毎に自分を励まして優しく声をかけてくれた。

 その時に、彼は身体が熱くなるような感触を抱いていた。それ以来、恵良のことを思い出すと身体が変になってしまうことも自覚していた。

――もしかして。

 これが、『好き』という感情なのではないか。恵良に抱いている想いは、それではないか。

 そう考えると、勇気の頭は俄かに茹だった。心拍数が増え、呼吸が速くなる。まるで地に足がついていないような感触を抱いていた。

「……恵良!」


 勇気が突然叫ぶと、恵良の両肩を両手で掴んだ。彼女の身体が跳ね、今度は彼女が呆然とする番になった。

「……勇気?」

「お……俺も――っ、恵良のことが好きだっ! 恵良に助けてもらってから、ずっと……ずっと好きだった!」


 勇気が何の躊躇いもなく、恵良に告白した。恵良は大きく目を見開き、言われたことを必死に理解しようとしている。


 そして、やっと彼女の頭に勇気が言わんとしていることが入った時、彼女は満面の笑みを見せて優しく抱き着いた。傷に障らないように、ふんわりとした感触で彼の身体を包み込む。

「勇気……勇気ぃ……。ありがとう! これからも……ずっと、よろしくね!」

「恵良……俺も、恵良をずっと大切にする。約束する」

 勇気も、恵良の背中に腕を回した。表情は硬く抱擁もぎこちないが、彼女を守る意思だけははっきりと伝わっている。二人は共に目を閉じて何度も頷きながら、身体を重ねていた。


 それから二人は、このまま暫く動かなかった。ただ互いを感じていた。





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