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革命ガ始マリマシタ  作者: XICS
船出と始まり
7/72

模擬戦

 勇気と恵良は雪音に案内されて、航空艦の二階の南側の奥にある訓練室へとやってきた。二人は扉が開かれると、訓練室の中身に呆気にとられた。バーベルやダンベル、その他筋力トレーニングのために使う器具は少ししか置いておらず、代わりに完全な個室が三部屋備えられている。その三つの部屋からはガチャガチャと機械が動くような音が響いており、よく見ると何かの配線がむき出しになっている。それがさらに二人に謎を呼んだ。

 しかも礼人、賢、雪次の三人はこの部屋で訓練をしているはずであるが、人影は入ってきた三人以外存在しない。勇気が思わず、これらの奇妙な個室を指さして雪音の方を見る。

「……ここが訓練室ですか?」

「まあ、そうだ」

 雪音が平然と言い放つ。

「中で何が起こってるんですか?」

 恵良が半ば混乱気味になりながら雪音に尋ねると彼女は、もう少し待て、と二人に向かって指示した。二人は困惑しながらも、雪音の指示に従ってその場で待った。

 待つこと十分、三つの個室のドアが開いた。そこから出てきたのは、汗だくになっているパイロットスーツ姿の礼人、賢、雪次の三人であった。勇気と恵良は目を丸くして三人を見つめている。この個室でどのような訓練をしているのか、何故この個室で訓練しているのか、そして何故汗だくで出てきたのか、二人の頭の中には疑問が幾つも浮かんできた。

「お前ら、もう終わりか」

「あ、隊長。それに新入りも」

 雪音が声をかけると、礼人が汗をタオルで拭きながら反応した。それに気づいた残りの二人は、雪音に向かって敬礼をした後近づいた。

「いやあ、まだまだやるつもり。ひょっとしてもう出航するの?」

「いや、もう少し待ってから出航する。『ナンバーズ』の赤いやつのデータをまだもらっていないからな」

 礼人が隊長である雪音に向かって軽口を叩くが、雪音は慣れたのだろうか諦めたのだろうかは不明だが特に注意もせずに答えた。すると、雪音がいきなり勇気の方を見た。

「こいつが訓練について聞きたいらしい。教えてやってくれ」

 雪音に言われ、礼人は露骨に嫌そうな顔をした。

「なんで俺が教えなきゃならねえんだよ。隊長が教えればいいだろうが」

「礼人、立派な先輩として、こいつに教えてやってくれないか?」

 『立派な先輩として』という部分を強調して、雪音は礼人に迫った。礼人はため息をつき、隊長の気迫に折れた。

「分かりましたよ」

「それでいい。私にはやらねばならないことがあってな、少し忙しくなるんだ。頼んだぞ」

 そう言って、雪音は勇気と恵良を三人に預けて訓練室を出て行った。訓練室のドアが閉まると、礼人はばつの悪い顔をしながら頭をぼりぼりと掻いた。

「何してるんですか? 早く教えないと」

「るっせえぞ、賢! てめえらも協力しやがれ」

 礼人が上擦った声で怒鳴るが、賢はにこにこと微笑みを崩さず、雪次は無表情で礼人を見つめる。

「はいはい」

「もとより、そのつもりだ。やるぞ」



 勇気と恵良は三人に連れられて、個室の前まで進んだ。外壁が白一色で、中で謎の機械音がしているのもあり非常に不気味に感じている。

「これはシミュレータだ。SW操縦のな」

 礼人が説明を始める。勇気と恵良はまじまじと個室を見ている。

「これが――シミュレータですか? 横須賀のものとはずいぶん印象が違いますけど」

「このシミュレータは隊長が元々のやつを改造したものらしいけどよ、詳しくは教えてくれなかった」

 礼人が若干困り顔で勇気に答える。

「とにかく、とりあえずやってみろ。すぐに分かるから」

「え? ちょっ――」

 勇気は礼人に腕をむんずと掴まれて、個室の中に放り込まれた。対照的に、恵良は賢に優しくエスコートされて個室に入った。残りの個室には、礼人が入った。ドアを開けるとすぐにシートが現れたが、勇気は放り込まれた拍子に低い天井に頭をぶつけた。頭をさすりながら彼はシートに座る。

 シートに座った二人が見たものは、自分たちが今まで搭乗していたSWのコクピットが再現されたシミュレータであった。あまりにも精巧に再現されているので、二人からはしばらく声が出なかった。コクピットに周りに点在しているボタンや機体制御のための操縦桿やペダルは、実際にSWに採用されているものが使われていた。さらに二人は、横須賀にあったシミュレータには付いていなかったSW用のシートベルトとヘルメットがあることに気付いた。勇気が疑問に思い、礼人に質問をする。

「……なんでシミュレータにシートベルトとヘルメットがあるんですか? それに、これSWに使われてるやつそのまんまですけど――」

『ああ、それ、ちゃんと使っとけよ。何でか知らねえけどこのシミュレータ、自分にかかるGまで再現されてるから。使ってなきゃ最悪死ぬぞ』

 シミュレータに備え付けられた無線から、礼人のとんでもない言葉が飛んできた。二人の頭は驚きに次ぐ驚きで、礼人の話についていくことができていない。

『何ボサッとしてるんだ。シートベルト締めて、メットかぶって、とっとと起動させろ』

「わ、分かりました」

「は、はい!」

 二人はシートベルトを締めヘルメットを装着し、実際のSWの起動ボタンを押す。シミュレータが起動した。起動後の諸々の処理が自動的に済まされると、シミュレータのディスプレイが青くなった。

『よし、新入り共。シミュレータは起動したようだな』

 無線から礼人の声が響く。すると、今まではブルースクリーンだったのが、いきなり晴天の荒れ地の場面に切り替わった。二人は何が起こったのかが分からず、唯々目を白黒させて本物のような荒れ地が映っているディスプレイを見ている。恵良が半ば混乱しながら礼人に尋ねる。

「こ、これは一体――」

『今てめえらは、《燕》に搭乗していることになってる。いつもSWを動かす感じで、ちょっと動かしてみろ』

「分かりました……」

「はい……」

 二人は、礼人に言われたとおりにシミュレータを動かし、シミュレータ上の《燕》を歩行させた。するとシミュレータ上の《燕》は、二人の操縦に応え歩き出した。ここまでは、二人は横須賀にあるシミュレータで経験したことだった。

 二人が驚いたのは、《燕》の動きに合わせてシートや身体に振動が伝わることだった。二人はまるで本物の《燕》に乗っているような身体全体で覚えのある振動を感じていた。二人は感嘆のため息を漏らすばかりだった。先ほど個室の外でガチャガチャと音を立てていたのはこれのせいだろうと、二人は考えた。

 さらに勇気は、ペダルを踏んでブースタを吹かし、空中飛行を試みた。すると勇気はブースタを踏んだ瞬間、実際の《燕》に乗っているようなGを全身に感じた。SWが飛び上がるときの姿勢の変化や身体がシートに抑えつけられるような感覚も、彼が実際のSWで体験したことのあるものだった。

「――すごい!」

 勇気は、買ってもらった玩具で夢中になって遊ぶ子供のようにシミュレータを動かし続けていた。恵良もまた、勇気同様にはしゃぎながらシミュレータを動かしている。いつの間にか、二人の《燕》は合流していた。

『おい新入り共ぉ。こいつは玩具じゃねえんだぞ。そろそろ訓練を始めるから、俺の話を聴け』

 礼人の叱責が飛んだ。二人がシミュレータに備え付けられているレーダーを見ると、初めて討伐部隊と出会ったときに礼人が搭乗していた黄緑色の機体が飛んでくるのが見えた。二人は礼人の機体に《燕》を向ける。

「訓練、とは?」

 勇気が礼人に尋ねると、礼人は呆れたようにため息をついた。

『模擬戦だよ、模擬戦。何のためにこれ使ってると思ってんだ?』

「す、すいません」

『謝んなくていい。いいか。今から模擬戦の説明をする。お前ら二人で一対一で闘え。お互い殺すつもりでやれ。以上だ』

 説明と言いつつ二言で内容を終わらせると、礼人は黄緑色の機体を操り全速力で遠くに飛び立ってしまった。勇気と恵良の二機の《燕》が、その場に取り残された。

「……どうしましょうか、勇気さん」

「このまま浮いてても、礼人さんにどやされるだけですし――」

 勇気が恵良に返すと、礼人が、聞こえてるぞ、と不機嫌な声で無線を入れた。

 二機の《燕》が向かい合う。勇気は真剣な表情になって恵良が搭乗している機体をディスプレイ越しに見つめる。恵良もまた、勇気の機体をディスプレイ越しに真剣な表情で見つめている。

「やりましょう、恵良さん」

「はい。お願いします」

 二機の《燕》が距離を取り、マウントされている武器に手をかけた。

「始まったようだな」

 礼人はシミュレータで再現された乗機である《キルスウィッチ》の中で呟いた。こっからどうなるか、と、礼人はにやりと笑った。



 模擬戦が始まると、最初に動いたのは恵良だった。ブースタを全力で吹かし、一気に勇気のところまで近づく。相手との距離が二〇〇メートルまで近付くと、恵良はマウントしていたビームソードを展開、そのまま猛スピードで前進してコクピットを突かんとする。しかし、動きが非常に単純なので勇気にいとも簡単に躱される。

 勇気は《燕》のブースタを垂直方向に吹かし恵良が放った突きを避けると、腰部にマウントしていたビームライフルをグリップ、そのまま真下の《燕》に二発発射した。恵良は展開式の盾を使わず、操縦桿とブースタのペダルを細かく動かして、するするとビームの弾を避けながら垂直に上昇する。

「――来る!」

 恵良の《燕》の速度がかなり速い。勇気は即刻ビームライフルを腰部にマウントし、右手にビームソードをグリップし展開、昇ってくる機体に向かって加速、展開したビームソードで応戦した。電流が流れるような音とともに、互いのビームソードの刃がぶつかり合う。一合、二合、三合と、互いに高速で移動しながら斬撃を繰り出す。斬り合うたびに、白い閃光が現れては消え、現れては消える。互いの《燕》の出力は同等であるが、少しだけ勇気の方が押しているようにみえる。

 何合も斬り合った二人の体力と精神は、身体にかかるGの影響もあってかかなり疲弊していた。早く決着をつけねばと、恵良はビームソードからビームライフルに持ち替えた。恵良はビームライフルをチャージし始め、そしてチャージしたままのビームライフルをマウント、ビームソードに持ち替えて勇気の《燕》に突進した。それに気が付いた勇気はビームソードを持ちながら恵良に突進する。

 勇気がまた近接戦闘を仕掛けると踏んだ恵良は全速力でブースタを吹かして、思い切り彼の《燕》に近付く。しかし、恵良はただ単純に突進するのではなく、いつでもビームライフルを抜けるように左手でビームソードを持ち右手をビームライフルがマウントされている右腰部に添えるように機体の手の位置を変えている。二機の距離がどんどん縮まる。

「今だっ!」

 恵良の《燕》は、ビームソードを大きく横に薙いだ。

 すると、勇気は恵良との距離が一〇〇メートルになる直前を見計らって、ブースタを操り機体の高度をガクンと下げた。勇気の《燕》は恵良の《燕》の脚部まで高度を落とし、恵良の攻撃は大きく外れる。その隙を突いた勇気は、ビームソードで恵良の機体の膝から下の両脚部を切断した。恵良の《燕》は、ビームライフルこそ脚部を切断される前に抜いていたので無事だったものの、姿勢を大きく崩して墜落した。恵良は悲鳴とも呻き声ともつかぬ声を上げながら姿勢制御をしつつ、ビームライフルの照準を勇気の機体に合わせようとする。

「これで終わりだ!」

 勇気の《燕》が、地上の獲物を襲う鷹のように急降下して相手にとどめを刺そうとする。しかし、恵良が放とうとしているビームライフルに当たらないように、ジグザグに移動して照準をずらすことも怠っていない。

 勇気の《燕》のビームソードが、恵良に向けられて振り下ろされた。

 しかし、恵良の《燕》の姿勢は勇気が向かってくるまでにすでに安定しており、彼を迎え撃てる状態であった。勇気の《燕》がビームソードを振り下ろすとき、ビームライフルの銃口は彼の《燕》のコクピットを向いていた。それにもかかわらず、勇気はビームライフルを避けようとしない。

――撃たれる前に斬る。間に合え!

 勇気が雄たけびを上げた。ビームソードが恵良の《燕》の頭部を斬り始める。勇気はそのままそれを両断せんと、一気に振り下ろし始めた。

 恵良も吠える。ビームライフルの引き金が引かれ、今までチャージされていたビームの塊のような弾が発射される。

 二機を白い光が包み込み、爆発音のような音が響きわたった。



 礼人は、闘っていた二機の反応がおかしくなっていることに気づき、二機のところに向かっていた。というのも、礼人の機体のレーダーに、いきなり高熱反応が大きく出たかと思うと、二つの反応がその場に微動だにしなくなったのである。

「おい! 新入り共、聞こえるか、返事しろ!」

 礼人が無線に向かって叫ぶ。しかし、二人からの返事はない。

 礼人が二機が模擬戦をしていたポイントに到着すると、そこには目を疑うような光景が広がっていた。大破した二機の《燕》が墜落していたのだ。一機は左肩部が大きく抉れており、もう一機は頭部から胸部にかけてビームソードで切り裂かれていた。

 勇気の《燕》が恵良の《燕》を斬っていた時に恵良の《燕》が放った最大チャージのビームライフルは、発射時の反動で右上に大きくずれて直撃した。これが両機の大破の理由であることを、レーダー上でしか確認していなかった礼人は知らなかった。

「おいおい……」

 礼人は舌打ちをして礼人含める三人のシミュレータのスイッチを切り、個室を出た。焦燥した顔でいきなりシミュレータから飛び出した礼人を見て、待機していた賢と雪次は困惑した。

「――一体どうしたんですか?」

「いいからシミュレータのドア開けて、新入り共を引っ張り出すんだよ!」

 礼人の焦り具合を見た二人は、尋常ではないことが起こっていることを悟った。シミュレータのドアを開けて勇気と恵良の様子を確認すると、二人とも気を失ってぐったりと椅子にもたれかかっていた。勇気にいたっては、頭から少し血を流している。

「おい、しっかりしろ、新入り共!」

「大丈夫か、お前ら」

 礼人と雪次が叫ぶように二人に呼びかけるが、二人は目を覚まさない。

「一体何があったんですか」

「さあ、後で録画ででも確認しろ」

「俺は隊長を呼んでくる」

 雪次が訓練室を大急ぎで出て行った。直接シミュレータを見ていない賢と雪次は勿論、シミュレータ上で二人を監督していた礼人も、勇気と恵良に何が起こったかは分からなかった。ただ三人にできることは、雪音に模擬戦の録画内容を引き出してもらうことと、勇気と恵良が目覚めるのを待つことであった。



――あれ? 俺、どうなったんだろう……

 頭の中も視界も全て、真っ白に染まっている。体が浮いているような感じになっている。しかし、心臓の鼓動は感じている。勇気はこれで、自身が生きていることを確認した。くらくらして痛みが走る頭と重くなっている瞼に抗い、彼は目を開けた。

 勇気の視界には、ぼやけてはいるが、礼人、雪音、そして恵良が覗き込んでいるのが映った。

「大丈夫かっ!」

「……ようやく目が覚めたか」

「勇気さん……。よかったぁ!」

 勇気は討伐部隊の隊員に囲まれながら、訓練室の床に寝かせられていた。先ほどまでシミュレータの中にいたはずなのに、なぜここにいるのかを、彼は理解できなかった。痛みを堪えて首を少しだけ左右に動かすと、心配そうにしている三人の顔が見て取れた。特に恵良は、今にも泣きそうな顔になってホッとして胸を撫で下ろしている。

 勇気は少し呻きながら、上半身を起こした。

「自分に、何があったんですか?」

「ったく、模擬戦なのに派手にやりやがって。録画を確認したら、すごいことになってたんだよ。後で見てみろ」

 礼人の説明を聞いても、勇気はまだ理解していなかった。彼が頭を掻くと、指にざらついたものが当たった。勇気がその異物を取ってみると、止血用の包帯であった。一部が赤く染まっており、これがことの深刻さを物語っていた。

「勇気さん、本当にごめんなさい。怪我させちゃいました」

「……大丈夫です。これくらい――」

 しかし、勇気の言葉は呻き声に変わった。彼の身体は痛みで動くことすらままならなかった。動かそうとするたびに身体に激痛が走る。おそらく気絶した後に身体を強く打ちつけられたのだろう、と彼は痛みの中で推測した。だが同じく気絶していた恵良は、なぜかピンピンしている。

「とりあえず、恵良とお前は医務室に行くぞ。ついてこい」

「……わかりました」

 雪音に返事をした勇気であったが、如何せん痛みのせいで動けない。すると、礼人が仏頂面で彼に歩み寄ってきた。

「……俺がおぶってやる」

 礼人が勇気を背負って雪音と恵良についていく。勇気は礼人に礼を言うが、うるせぇ、と一言で返されてしまった。その言葉を聞いた雪音は、笑みを浮かべていた。




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