復讐の神
二度目の大爆発が、空気と海面を揺らした。
《マンスローター》が撃墜されたのを見て、狙撃で撃ち落とした賢はフルフェイスのヘルメットのバイザーが広く曇るほどの大きなため息をついて頬を緩めた。
――一機落とした。これで礼人や雪次に楽をさせることができる。
彼はペダルを踏んで《ブラック・サン》を移動させようとするが、その瞬間彼の両脚に激痛が走った。途端に顔を顰めてそこを見ると、幾多の金属片が彼の両脚に突き刺さって、隊服に血が滲んでいるのが見えた。シミは広がり、一つの大きな模様を作り出そうとしている。
――これは……。
「援護に行くのは、無理そうですね」
賢が諦めたように呟くと、漸く自由になった無線を用いて《オーシャン》に繋げた。
「こちら、黒沢賢。《ブラック・サン》、これより帰艦します」
痛みを堪えて賢が通信を入れると、雪音のものと思しき安堵のため息がまず聞こえてきた。
『生きていたか……よかった。本当によかった!』
「……機体は半壊、自分も足を負傷しました……。何とか手遅れにならないように帰艦します」
『……すぐに医療チームを呼ぶ。お前が帰艦したら即刻医療施設に行けるようにしてやる。早く帰って来い!』
賢の負傷を聞き、雪音が焦り始めたことが無線を通じても分かる。彼は、了解しました、と一言返事をして無線はそのままにしておいた。
《ブラック・サン》が、陸に向かって急加速する。賢は援護に行けないことを悔しく感じたが、隊長からの『生きて帰ってくる』という命令に忠実に従おうとそのまま艦へと向かい始めた。
《マンスローター》の討伐が、完了した。
空気を揺るがすほどの大爆発は、他の討伐部隊メンバーや『ナンバーズ』メンバーにも勿論確認されていた。特に現場に比較的近かった礼人、雪次、そして赤城は戦いの手を止めてしまうほど呆然としてそれを眺めていた。
赤城はそれを見るとすぐに《ネメシス》・《陰陽・甲》の二機から距離を取り、レーダを確認する。
彼女には信じられなかった――《マンスローター》の反応が、どこにも見当たらないのだ。見つけたものは、敵の反応と思しきものが此方からどんどん離れていくという状況だけ。彼女は目を見開いてレーダをくまなく探したが、どこにも見当たらず、《マンスローター》がロストしたことをついに受け入れた。
「……由利さん」
赤城は目をきつく閉じて唇を白くなるまで噛み、涙をこらえて目の前の二機と向かい合った。
「私は、絶対に倒す」
赤城の目が開く。
一つの決意を持って、赤城は《ドリーミング》の武器を再度展開。光の粒子を零しながら、倒すべき目標へと突進していった。
我那覇もまた、由利の反応が無くなったことを理解した。
すぐに恵良との無線を切り、由利のチャンネルに繋げようとする。しかし、聞こえてくるのは砂嵐のような音のみ。
「おじさん、おじさん! ねえ、返事してよ……っ、おじさん……っ!」
懸命に呼びかけるが、砂嵐の音だけが無常にコクピット内に響く。徐々に声が湿っぽくなり、表情も沈鬱なものへと変わっていく。
そして、一つのことに気付いた。
あの爆発は、彼の機体が爆発したものだったのか――我那覇は気付くと、大粒の涙を零して狂ったように叫び始めた。
これが命を懸けた戦いだとはいえ、幼い彼女には大切な人の命が消えていくことが発狂するほど辛いことである。一回彼女は経験しているので、より繊細にそのことを受け止めてしまう。
我那覇は恵良に無線を繋げることを忘れ、泣き叫びながら《バーニング・ボディ》をでたらめに動かし始めた。大剣を片手で《ドリームキャッチャー》に向かって振り回し、相手を寄せ付けようとしない。この様子に、《ドリームキャッチャー》は一旦距離を取るしかできなかった。
「殺す……、絶対に、殺す!」
物騒な言葉を泣き叫びながら、我那覇はミサイルのように白い機体に突っ込んだ。
高度五〇〇〇メートルを超える上空。その中で、二機のSWが死闘を繰り広げている。
太陽光に、燃えるように赤い機体と異形の白い機体がビームソードでつばぜり合いを行っている。二機が磁石のように反発しあうと、すぐに体勢を整えて互いにブースタを吹かし、再度剣戟を繰り出した。相手のコクピットを捉えようとするが、勇気は剣捌きで、七海は電磁シールドでそれを寄せ付けない。
赤い機体である《ライトブリンガー》を駆る勇気は七海が操る白い異形のSW、《フェイスレス》相手に、未だに傷を負わせていない。逆もまた然りで、二機は戦闘を開始してから決定打を互いに与えることができていない。
すると突然、《フェイスレス》が勇気の前から引き下がった。熱くなっていた勇気もそれを見て一旦落ち着き、相手の出方を窺うようにビームソードを構える。
『……君にとっていいニュースだ』
「……何だ?」
勇気が怪訝に思って尋ねると、無線から一息つく音が聞こえてきた。
『僕の仲間が、君の仲間に倒された』
その言葉に、勇気は目を丸くして無線に注目した。敵の動揺具合からして、この知らせは本当だろう――彼は思わず頬を緩めた。
「俺たちは、お前らなんかに負けはしない。それが分かったな!」
「どうかな? 僕は仇をとるつもりだよ」
由利が死んだことで、七海は完全に動揺していた。しかし、その悲しみを原動力にして彼は銃口を勇気に向ける。
瞬間、《フェイスレス》が構えた、見た目はライフルだがバズーカのように銃身が太い銃器から赤色のビーム弾が発射された。勇気が以前戦ったことのある《ペニーウェイト》が背部に装備していたビームキャノンのように、ビーム弾の熱量はすさまじく、轟音をたてながら《ライトブリンガー》を襲う。
勇気はそれを、視覚情報のみで危険と判断した。これは当たるどころか、掠っただけで致命傷になる。そう判断した彼は、スラスタを巧みに操作してそれを躱す。
躱し終えた勇気は、先程の銃器から白煙が上がっているのを見た。冷却装置が作動しているのだろうか――彼は考えて、《ライトブリンガー》を操作してビームソードをマウント、ビームライフルをグリップし始める。
彼が警戒すると、すぐに第二撃が発射された。空気を焼く音と放電しているような音が混じりあって響きながら、膨大な熱量を持ったビーム弾が勇気を襲う。彼は機体の操縦桿をしっかりと握りしめ、ペダルに入れる力を微調整しながらそれを回避する。
《フェイスレス》はそれを連射し始めた。一発、また一発と撃ちだされ、勇気はそれらを躱すことしかできない。
「……なんとか、攻撃を――」
意を決して、勇気は《フェイスレス》にビームライフルを突き付けた。なおも敵の射撃は止まらない。
《ライトブリンガー》の指が、引鉄を引いた。銃口がフラッシュし、白色の光弾が射出される。
それに反応した《フェイスレス》は銃器を引っ込めて電磁シールドを展開、《ライトブリンガー》の一撃を容易に遮断した。勇気はなおもビームライフルを撃ち続けて相手の出方を窺おうとしている。
銃口が赤熱したのを確認すると、勇気はビームライフルの連射を止めた。それと同時に、相手もシールドを解く。《フェイスレス》の銃身からは未だに白煙が吹き出ている。
『なかなかやるじゃないか。流石、僕の仲間を倒しただけある』
「……俺は負けられないんだ。お前なんかに、負けられない!」
勇気が吠えると、ビームライフルをウェポンベイに収納し、再びビームソードの発振器を右手にグリップして白い刃を展開した。
それを見た七海は、《フェイスレス》の銃器をマウントしてビームソードを展開した。その刃も真っ赤に染まっている。
再び、両者がぶつかり合った。
礼人と雪次は、先程の爆発の直後にレーダを確認して笑みを浮かべていた。赤い点が消え失せていたのだ。賢があの黒い機体を倒したことを示していることは彼らには容易に理解できた。
「……やりやがったな、賢」
礼人が呟くと、白い点が徐々に此方から離れていくことも確認できた。彼の顔から笑みが消える。激しい戦闘があって、機体がかなり損壊しているのかもしれないと、彼は無理矢理納得して目の前にいる倒すべき敵に再び注意し始める。
「お前のお仲間は、死んだようだな」
『……そのようね』
敵の声は、明らかに消沈している。今が絶好のチャンスかもしれないと、礼人と雪次は察した。
通信が終わると、《陰陽・甲》が飛び出した。二対のビームソードを振るい、がら空きになっている懐に向けてそれらを振り下ろす。
《ドリーミング》も《陰陽・甲》に向かって突っ込み始める。ビームの粒子を零しながら、討つべき敵に向かって刃を向ける。
一秒も経たずに、二機の刃が轟音とともにぶつかり合う。数秒つばぜり合いが行われた後、弾き飛ばされたのは《陰陽・甲》だった。雪次は呻き声を上げながらブースタを吹かして追撃を回避しようとするが、そこは《ドリーミング》が追撃の手を緩めない。礼人の半壊している《ネメシス》を振り切り、袈裟懸けにしようと武器を振るう。
「俺を忘れんじゃねえ!」
隙有りとばかりに、《ネメシス》が右腕に構えた銃器の引鉄を引く。橙色の針のような光弾が散り散りになり、《ドリーミング》のバックパックを襲う。
『……勿論、忘れてないけど』
「ちっ……やっぱりかよ」
《ドリーミング》は武器を振るう傍ら、バックパックの周りに電磁シールドを展開して光弾を弾いた。
雪次は《ドリーミング》の攻撃を後退用のブースタを吹かして振り切り、相手の懐ががら空きになったところを再びビームソードで狙おうとする。
彼の予測通り、相手が武器を振り切った後、僅かな隙ができた。ペダルを踏み込み、ブースタが唸り、《陰陽・甲》が相手の懐に潜り込む。
雪次の狙いは、《ドリーミング》のコクピットだ。そこに向かって、《陰陽・甲》はビームソードを突き刺そうと両腕を伸ばそうとする。目にも留まらぬ速さで彼が操縦桿を操作すると、目標に向かって両腕を伸ばし始めた。
「読めてるのよ、貴方の行動は!」
《ドリーミング》はコクピット付近に電磁シールドを張った。そこにビームソードの先端がぶつかり、《陰陽・甲》が弾き飛ばされる。
それを見た赤城が再び《ドリーミング》の菱形状の武器を展開、そのまま体勢を崩している《陰陽・甲》に突進する。瞬く間に二機の距離は肉薄し、《ドリーミング》が射程圏内に捉えた。
そこに、《ネメシス》が割り込んできた。片腕で銃器を持ち、引鉄を引いて二機の間に銃弾をまき散らす。《ドリーミング》はその場で静止してシールドを前面に展開。その隙に雪次は弾き飛ばされた反動も利用してブースタを吹かし、勢いよく後退して相手と距離を取る。
「死にに来たの?」
「手前を殺しに来たに決まってんだろぉ!」
やるかやられるか――礼人は血気盛んになり敵に向かって引鉄を引いた。
対して赤城は、前面にシールドを展開したまま《ネメシス》へと突進し始めた。礼人も機体を後退させながら、銃口が灼けつくまで引鉄を引き続ける。
攻撃が通らないと理解していても、彼はそれを止めなかった。腹の底から叫びながら、片腕で攻撃を続ける。
不意に、《ドリーミング》の左腕が光り始めた。菱形状の武器が展開され、また光の刃が顔を出している。先程の刃の長さが日本刀なら、今の長さはジャックナイフのように短い。仕留めるならこれくらいで十分ということか――礼人はいつ攻撃が来るのかを警戒していたが、武器を管理するモニタから警告音が出始めた。礼人は舌打ちをして、すっかり砲身が真っ赤になった銃器をウェポンベイに格納した。
――これじゃ、暫く使えねえな……。
それを見逃す敵ではなかった。すぐさま電磁シールドを解き、ブースタを轟かせて《ネメシス》へと急接近する。爆発が起こったかのような音が出たかと思うと、二機の頭部を付き合わせることができるほどの距離まで縮まっていた。
「やべっ――」
《ドリーミング》が左腕を動かし、突きのモーションに入る。それすらも速く、切っ先は確実に《ネメシス》のコクピットを捉えている。
「終わり、ね」
赤城が勝利を確信したように不気味な笑みを浮かべる。後は腕を伸ばすだけで、目の前のパイロットは蒸発し、そのままジェネレータを貫通、爆発四散する――彼女の頭の中には、残虐なビジョンが既に描かれていた。
《ドリーミング》の左腕が伸ばされる。
その一瞬で、コクピットを貫いている――。
筈だった。
礼人が雄たけびを上げた。その一瞬後、《ネメシス》は《ドリーミング》のコクピットに近い部分に蹴りを入れていた。
《ドリーミング》はこの一撃で押し出され、体勢を崩した。コクピットの中はシェイクされ、四方八方に大きく揺れる。赤城が悲鳴を上げる間もなく、身体の至る所が打ちつけられる。ヘッドレストや前面のモニタに頭を打ちつけて、しっちゃかめっちゃかになる。
しかし、突きの動作はキャンセルされていなかった。今のビーム刃の長さでは《ネメシス》には届かないが、あろうことか刃が『伸びた』。礼人はこれを見て、咄嗟にブースタを後方へ最大限吹かす。
「くそぉっ!」
このままではどの道コクピットをやられてしまう――礼人には目の前で光る刃をどうしてよいのか分からなかった。重力粒子発生装置を使っても、逃げることができる保証はない。
――殺される。
不意に、礼人は死が近づいてきたことを理解した。スローモーションのように、それが近づいてくるのを実感する。
しかし、それは見事に断ち切られた。
《陰陽・甲》が、伸ばされていた左腕を肘から切り落としていた。菱形状の武器から光が消え、呆気なく海中に没していく。
脳震盪に近い状態でぐったりとしている赤城はこれに気付くはずもなく、唯々礼人だけが絶句してそれを見ていた。
「今まで、散々手こずらせてくれたな」
餞別だとばかりに、無線越しに声を投げかける雪次。だがその顔には余裕はなく、すぐに《ネメシス》を庇うようにホバリングし、二対のビームソードを構えて突進しようとする。
その声で、赤城は幾分か意識を取り戻した。すぐに電磁シールドを展開して、彼女の体勢を立て直そうとする。
赤城の頭からは夥しいほどの流血が見られ、前髪が血で額に付着している。口の中も切ったようで、口元から血が一筋流れている。息は荒く、響くような頭の激痛と格闘しながらSWを操作する。
シールドが張られていると分かった途端、雪次は突進を止めて礼人と同じ位置まで引き下がった。それでもビーム刃を展開し続け、いつ攻撃が来てもいいように構えている。
「……何故」
赤城が、無線越しに礼人と雪次に問いかけ始める。
「何故貴方たちは、こんな日本を守るのに必死なの? 自己保身と金のことしか考えない企業や政府、蔑まれる施設の子供たち! 私たちは実際にこれを見てきた。これに潰されそうになった! だから、復讐する! これを見ても、貴方たちは……貴方たちは日本を守りたいの!?」
血を吐くような思いで、彼女は叫んだ。こんなにも必死になって、性能では遥かに上のSWを半壊の状態になるまで追い詰めようとする行為は、彼女にとっては到底理解できなかった。
しかし、礼人はそれを鼻で笑った。息を荒げながら、操縦桿を握りしめる。
「他の奴ぁ、この国のために戦ってるのもいる。けど、俺は違う」
『……だったら、何故』
息も絶え絶えな赤城の声。礼人が話す前に咳き込むと、血が飛び散った。
「俺は、俺のために戦う。手前らに散々コケにされたんだ。そいつが我慢ならなかっただけだ。だからよぉ――」
一旦言葉を切り、礼人は《ネメシス》の重力粒子発生装置を起動した。
熱せられた空気が、暴風とともに一気に放出される。
――これで、一気に決着を付ける。
「手前をぶっ潰さなきゃぁ、俺の気が済まねえんだ! こいつぁ俺の『復讐』だ!」
血反吐を吐きながら、鬼の形相で目の前にいる『復讐の対象』を睨みつける礼人。《ネメシス》は既に冷却されている銃器をグリップし、突進とともにその引鉄に指をかけた。
同時に、《陰陽・甲》も飛び出した。雪次は《ドリーミング》の左方向に回り込み、ビームソードを構えて相手の出方を窺い始める。
「俺の答えがまだだったな」
呆然としているのか赤城からの返事がない無線に、雪次が静かに語り掛ける。
「俺はお前が言ったように、日本が腐敗していることは知っている。だが、それとお前たちを倒すために日本を守ることは別問題だ。俺は、日本軍の兵士としての使命を全うする、それだけだ」
淡々と語ると、シールドを発生させている《ドリーミング》へとビームソードを振り下ろした。この二撃は容易に弾かれたが、重力粒子発生装置を使ったことによって得た驚異的な機動力で後ろに回り込んだ《ネメシス》に隙を見せてしまった。
礼人は、身体が砕けてしまうのかと思うほどの激痛に襲われながら、なんとか意識を保って《ドリーミング》の後方に回り込んだ。
引鉄にかかっている指が、動く。銃口から、橙色のビームの針が無数にばら撒かれる。
それでも《ドリーミング》は咄嗟に後方にもシールドを発生させてジェネレータに当たることをなんとか防いだ。これでは防戦一方だ――赤城は独りコクピットの中で呻いた。
赤城は今までの彼女らしからぬ雄たけびを上げると、まだ右腕に残っていた菱形状の武器を展開、光の刃を後方の《ネメシス》に向けて振り回した。礼人は機体を上昇させてそれを躱そうとする。
ところが、そこで彼に予期せぬ事態が起こった。躱そうとして機体を上昇させたはいいものの、突き付けていた銃器は逃がすことができず、銃身を溶断されてしまった。
「なっ――、くそっ!」
礼人は毒づき、使い物にならなくなった銃器をパージした。間髪を入れずに彼は左腰部にマウントしている筈のもう一つの銃器に手を掛けようとしたが、ある筈のものは最早原形を留めない鉄屑と化しており、意味のない錘として《ネメシス》に癒着していた。どうやら、先程左腕を持っていかれたときに一緒に溶解してしまったようだ――礼人は推測し、一旦敵から離れることにした。
「そこだ!」
今度は雪次が仕掛ける番だ。《陰陽・甲》がビームソードを横に薙ぐが、その一撃もシールドによって弾かれてしまう。それでも雪次は敵に容赦なく攻撃を浴びせて、どこかに隙ができないかと探りを入れる。
赤城も防戦一方で黙っているわけではない。礼人の執念と雪次の攻撃に慄きつつも、負けぬように狂犬のような唸り声を上げて《ドリーミング》を駆る。残り一つしかない武器で、何とか一機は追い払った。残りの近接特化機体を倒そうと、彼女はシールドを解除してブースタを点火、《ドリーミング》は大きく右腕を左から右に薙いだ。
そこに残ったのは、空気がジリジリと灼けつく音のみ。《陰陽・甲》は、垂直方向にブースタを吹かしてそれを躱していた。
漸くできた一瞬の隙。雪次にとっては絶好の機会である。そのまま飛び降りるように加速し、二対のビームソードを振り下ろそうとする。
「俺たちの底力を、味わえ!」
雪次が言い放った直後、《陰陽・甲》のビームソードによって、《ドリーミング》の両腕が切り離されていた。橙色の切断痕を残し、両腕が空しく自由落下していく。
「嘘――」
赤城は絶句していた。これで両方の武器を失ってしまったのだから。
「まだよ! まだ――」
赤城が悪あがきをしようとした途端、彼女の眼前に信じられないものが映った。
それは、右手でビームソードをしっかりとグリップしている《ネメシス》だった。
右大腿部に装備していた予備用のビームソードは、しっかりと生きていたのだ。
「これで……終いだ」
今にも力尽きそうな礼人。実際、彼の口からは尋常ではない量の血が流れていた。
力を振り絞り、ペダルを壊れんばかりに踏みつけて、操縦桿を前に押し倒す。
次の瞬間、《ネメシス》のビームソードは《ドリーミング》のコクピットを両断していた。




