最終決戦へ
七海が来賓室を出ていき暫くした後、勇気・恵良・雪音は再び管制室へと戻っていた。先ほどまで項垂れて泣いていた恵良は、表情は未だに暗いままであるもののしっかりと立っており、勇気が隣で寄り添うように立っている。雪音は厳しい表情で二人と向かい合っている。
「……行けるな?」
雪音の言葉に、まず勇気が大きく頷いた。宣言通りに七海たちを倒そうと、身体の内側が燃え上がっているかのような感触を彼は覚えている。
続いて恵良も拳を強く握りしめて、勇気に負けず劣らずの気迫を雪音に見せて頷いた。そこには先ほどの暗い表情は欠片も存在せず、彼女は完全に頭の中を切り替えようとしている。
「頼もしいよ。お前たちみたいな奴らが討伐部隊で、私は本当によかった」
雪音は二人に、柔らかい笑みを見せた。その笑顔に、二人は泣きそうになりながら彼女と向かい合っている。
すると笑みは一瞬で消え、いつもの『隊長』が雪音の中に戻った。
「これから出撃の準備をしてくれ。お前たちが格納庫に向かっている間に、出撃できるように私がする」
雪音の言葉に、二人は大きく、了解、と返事をした。
返事の後、二人は一言も発さずに踵を返して管制室を出た。二人が出る姿を確認した雪音は、深くため息をついて胸の辺りを強く握りしめた。隊服と白衣に深くシワがつく。
彼女は、七海が――ソラが復讐のために、また彼にとっての理想の日本にするためにこの『革命』を行っているということを知った。彼女にとって彼は討つべき敵であることは明確だが、いざ倒すとなると、彼女の心の奥底にしこりのようなものが居座り始めた。それは取ろうとしても取れるものではなく、息苦しさは増すばかりである。
――諦めきれてない、のか?
ぽつり、と雪音は考えを浮かばせた。
元々の恋人であり、今は日本を恐怖に陥れている七海が死ぬことを自分は恐れているのではないのか、そしてそんな彼と、自分はずっと恋人同士でいたいのか。考えを深めれば深めるほど、彼女の胸の奥が締め付けられていくのを感じていた。
先ほど彼に接吻をされたのが、その考えを余計に深めさせる。あれは本気で自身のことを想ってくれていた時のそれだ――彼女はそう確信していた。そう考えると、彼女は目頭の熱ささえ覚え始めた。
しかし、雪音は首を強く振った。ギュッと瞑った目からは、涙が滲んでいる。
――そんなこと、もう……
雪音は歯をグッと食いしばって、管制室の椅子に向かおうとした。
もうあの頃の関係には、戻ることができない。その事実は、討つ側の雪音が一番感じていた。胸が張り裂けそうになるが、彼女は心痛を必死に堪えて管制室のモニタと向かい合おうとする。
すると、力なく雪音が椅子に座った途端、付けっ放しにしていた無線から砂嵐のような雑音が響いた。彼女はそれに気付いて耳を傾ける。
『俺たちは準備万端だ。早く出してくれ!』
声の主は、礼人だった。三人ともSWに乗り込んで諸々のチェックを済ませたことを示唆している。
雪音は、礼人の半ば好戦的な態度に顔面を引っ叩かれたかのような感触になった。ここは戦場だ、もう迷ってはいられない――彼女は大きく息を吐いた後、キーボードを弄って射出口を開き、出撃の準備を完了させた。
「もう出ることができる。いいぞ!」
『了解。ああ、そうだ。あいつらは?』
「今向かわせている。お前たちが出た後すぐに合流できるだろう」
分かった、と礼人が返すと、今度は賢が無線を繋いだ。
『隊長。ご無事ですか?』
「私たちは大丈夫だが……田の浦議員が人質に取られた。彼はこの日本にとって重要な人物だ。何としても救出してくれ」
『……了解しました』
半ば困惑した状態で、賢が返事をする。
最後に、雪次が無線を繋いだ。
『隊長、もう出られますか?』
「ああ。まず礼人が出るから、それに続いてくれ」
『了解!』
雪次の無線が切れると、雪音は次に《オーシャン》全体に通信を繋いだ。全てのスピーカーに繋がれたことを確認すると、彼女は耳からイヤホンを外し、管制室のマイクに持ち替える。
「皆、よく聞いてくれ」
雪音の顔は、先ほどまで迷っていたそれとは百八十度変わり、凛々しくいつもの聡明な隊長としての雰囲気を出している。
「この戦いが、おそらく奴らとの最後の戦いとなる。今までで一番激しい戦いになるのは明白だ」
そこで雪音は一息置き、目を閉じてリラックスするように二度三度と呼吸をする。
そして、目が開かれた。
「だが、お前たちなら、奴らに勝てる。皆がついている。皆がお前たちの勝利を信じている。皆が、お前たち全員の帰りを待っている!」
雪音は、思いの丈を全て吐きだした。SWに乗っている三人と、格納庫に向かっているもう二人に届いていると信じて。
「私からは以上だ。……ここに戻って来いよ」
そう言って、雪音は通信を切った。彼女の目からは、涙がこぼれ落ちていた。
格納庫の中は、先ほどまで大声の通信が流れていたせいか非常にシンとした雰囲気になっている。その中にあった三機の特徴的なSW――黄緑色の《ネメシス》・紺色の《ブラック・サン》・銀一色の《陰陽・甲》は、既にカタパルトから射出される準備が整っていた。
「……隊長、いつになく必死だったな」
《ネメシス》に搭乗している礼人は、《ブラック・サン》の中の賢と《陰陽・甲》の中の雪次に通信を入れた。だが彼は雪音を茶化すことなく、真面目な口調で話している。
「最終決戦、とでも言うべき戦いですからね。必死になるのも分かりますよ」
「確かに。それよりも、早く発進したらどうだ?」
この緊迫した状況でも、賢は物腰柔らかに接し、雪次は落ち着きを払っている。
「そうだな、無駄口叩いてる暇はねえ」
カタパルトは既に開いており、信号はすべてグリーンである。外の景色が光とともに漏れ出しており、それを一点に見つめて、礼人はペダルに足をかけ操縦桿を掴み始めた。
「烏羽礼人、《ネメシス》、行くぜ!」
「黒沢賢、《ブラック・サン》、行きます!」
「星雪次、《陰陽・甲》、出る!」
礼人が出たと同時に、賢と雪次がペダルを全力で踏み始めた。三機のSWの足元から、火花が散る。
三機は大空を駆け上がった――既に日本の空に存在する敵を打ち倒すために。
雪音からの放送があった時、勇気と恵良は格納庫に到着したばかりだった。彼らはこの放送を直立して、黙って聴いていた。
放送が終わると彼らは互いに顔を見合わせ、身体も向かい合った。勇気が、少し伏し目がちになっているのを、恵良は見逃さなかった。
「勇気……、大丈夫?」
恵良が心配そうな表情で勇気に問うと、彼は少し驚いた顔で彼女の顔を見始めた。
「う、うん。大丈夫。それよりも恵良は? もう、大丈夫なの?」
「私はもう大丈夫。それよりも、勇気が少し元気ないように見えたから……」
恵良は勇気に向かって微笑むが、彼は固い表情を崩さない。それにつられたかのように、彼女も不安になったのか再び心配そうな表情に戻る。
「やっぱり……、田の浦さんのこと、気にしてるの?」
「……正直言うと、まだ胸が痛い。恵良を苦しめてたのも、日本を苦しめてたのも田の浦さんたち日本のトップが関わっていたなんて……、信じられなかった。信じたくなかった」
勇気は、恵良には正直に打ち明けた。恵良は彼の言うことを、頷きながら口を挟まずに聴いてあげている。
すると、突然勇気が凛々しい表情を取り戻した。それに恵良の心拍数は跳ね上がり、少し頬を赤らめる。
「でも、そのことと奴らのやったことは話が別だ。俺は……、あいつらを倒すって決めた。絶対に!」
勇気の宣言に、恵良の表情に笑みが戻った。
「……そうだね! 勇気は、何を言われても、どんな邪魔をされても必ずこの国を守るって言ったんだもんね!」
恵良の言葉に、勇気は漸く笑顔を見せて大きく頷いた。絶望から立ち直った時に自身が言ったことを恵良は覚えていてくれた。それを再確認することで、彼の中に大きな自信と恵良に対する言いようのない想いが沸き上がってきた。
「恵良、行こう。最後の戦いへ」
「……うん! 絶対……、生きてここに戻ろうね!」
互いが頷くと、意を決したような表情で二人はそれぞれのSWへと向かっていった。
勇気と恵良はそれぞれのSW――《ライトブリンガー》と《ドリームキャッチャー》である――に乗り込み、最終確認を行っていた。既に二機はカタパルトに移動させられて、後は飛び出すだけとなっている。
恵良がまず、最終チェックを終えた。追加ブースタや電磁シールドの機構が正しく動くことを確認し、いつでも飛び出せるように機体を前傾姿勢にする。
しかし恵良はすぐには出撃しようとせず、彼女の中の色々な思いを整理していた。
この討伐部隊で難敵と幾度となく戦ってきたが、彼女はその中で生き残り敵を討つという快挙も成し遂げた。途中心が完全にへし折れたこともあったが、その時は勇気をはじめとした彼女の仲間に修復してもらい助けられてきた。
そして、今の自分がいる――恵良は目をつぶりながら今までを振り返っていた。絶対に生き残ってまた皆で集まりたい、皆で笑いあいたいと、彼女は目を開けて前を見つめ始める。
更に、恵良の中には絶対に忘れてはいないことがあった。この戦いが終わったら、勇気に自身の想いを伝えたい――彼女がそのことを思うと、このような状況ではあるが笑みが零れてくる。
『発進してもいいぞ、恵良』
無線から、雪音の声が聞こえてきた。それが聞こえた途端彼女の笑みは引っ込み、凛々しい顔が現れる。ペダルに足をかけ、操縦桿をグッと握りしめる。
「白田恵良、《ドリームキャッチャー》、発進します!」
威勢のいい掛け声とともに、純白の機体が発射された。悪夢を振り払って自由になったかのように、《ドリームキャッチャー》は全速力で宙を舞い始めた。
勇気もまた、最終チェックを済ませた後一人で考え事を始めていた。《ドリームキャッチャー》が加速するのを目で追いながら、緊張した面持ちで操縦桿に手を載せ始める。
この討伐部隊で、彼はかけがえのない仲間と守るべき国の姿、そして守るべき『人』を見つけることができた。耐え難い絶望を経験したこともあったが、それも恵良をはじめとした仲間たちのおかげで克服することができた。その他にも何度も窮地に陥ったことがあったが、自分がどうしてもこの日本を守るという意思を持って力ずくで切り抜けてきた。
恵良が絶望の渦中にいたときには、自身が手を差し伸べて『光』となり彼女の道を照らした。このことがあって、彼は彼女を絶対に守る、と誓ったのだ。
「俺が……この国を守る」
勇気が決意をもって呟く。全ての信号は既にグリーンである。
機体が前傾姿勢になり、ブースタからガスバーナーが火を噴き出しているような音が聞こえ始める。
「灰田勇気、《ライトブリンガー》、行きます!」
真っ直ぐと前を見つめ、勇気がコクピット内で吠える。日の丸のように赤く映える機体は爆発的な加速力をもって、空へと打ち出された。
後続の二機は、既に発進していた三機とすぐに合流した。その姿を互いに確認し合った五人は、ひとまず全員揃ったその状況に安堵する。
「奴らは、どこにいるんですか?」
「……奴ら、太平洋に向かって移動し始めましたね。僕らを誘ってるのかもしれません」
逸る勇気の問いに、賢は《ブラック・サン》の改良型レーダによって冷静に索敵をして答えた。
すると、勇気は遠くで煙が上がっていることに気が付いた。何か嫌な予感を彼は感じ、よくよく目を凝らし始める。
「……あれは」
『羽田と成田の空港だよ。あいつら、そこを攻撃しやがった。俺たちの知らない間に、他の空港も潰されてるらしい。おかげで飛行機やフェリーまで運休だとさ』
「国会議員たちが、逃げられないようにするために、ですか?」
礼人の答えに、勇気は困惑した。しかし、礼人はやけに落ち着いている。
『まあ、お偉いさん方やお金持ちたちはあの五日間で既に海外に何やかんやで逃亡してるだろうから、殆どは無事だろうよ』
「よかった……」
『問題は議員たちだな。あいつらが留まらなければこの国が動かなくなるからこの五日間で逃げた奴らはごく少数だろう。一部の重鎮たちはすでに逃げおおせてるだろうが』
雪次が通信に割り込み、冷静に二人に返す。勇気は閉口しながら、天に立ち昇る煙をじっと見つめている。
『さて、と。奴らを追うか?』
「行きましょう。これ以上、奴らに好き勝手にはさせない!」
勇気は礼人の言葉に呼応し、肯定の返事をした。その返事聞くと、礼人はペダルを踏み込んで《ネメシス》を加速させる。その背中を残りの四機が追随し、一刻も早く敵の方へと向かおうと五人は息巻いていた。
ものの数分で、全機のレーダが尋常ではない熱量を捉え始めた。固まって行動しているのか、熱源が一つの大きな赤い丸のようになっている。Eセンサは既に鳴っており、五人は警戒を強める。
すると突然、五機の無線に何者かがアクセスした。ブツリという音がしたと思うと、無線が味方同士で繋がらなくなったのだ。五人は一瞬困惑して礼人の主導で一旦SWを空中で静止させたが、勇気だけはすぐに繋げた主に勘付いた。
「……七海、空哉」
『ご名答』
七海のフルネームを知らされていない礼人・賢・雪次は驚愕の表情で無線を聴いていたが、勇気と恵良は彼の声が聞こえた途端、敵愾心たっぷりにモニタの向こうを睨み始める。
「お前……、ヘルメットの野郎か?」
『そうだよ。僕がリーダーだ』
「……なら話が早え、手前らをぶっ殺しに来た。覚悟しやがれ!」
礼人が七海に向かって吠えるが、七海は応じない。その代わりに、今まで一点に留まっていた敵の反応が個別に動きだし、此方に向かってきた。
姿が見えると、五人は戦慄した。自身たちのSWは十分に日本軍のそれらよりも特異なフォルムをしているが、敵のSWは刺々しくアンバランス――未知の武器らしき装備品と発達した腕部、そして異様に細長い脚部がその形容を強調させる――で、彼らのSWよりも人間らしくないフレームである。それらのモノアイは一点に五機を見つめており、五人はその視線に釘づけになったかのように動かなくなった。
『ナンバーズ』の四機が、討伐部隊の五機の前で静止する。その後、皿型の頭部に謎の大型の球体を載せた白い機体――《フェイスレス》が、少しだけ前に出た。五機がそれぞれの武器に手を掛ける。
すると、勇気以外の四人では七海からの無線が切れ、別の人物が繋げたと思しき音が機体の中で響いた。
討伐部隊は、それぞれすぐ近くにいるのにも拘らず、完全に分断されてしまった。
『あーあー、聞こえる? 聞こえたら返事して!』
『聞こえるかしら?』
『……声を聞かせるのは初めてだな』
我那覇の機体――《バーニング・ボディ》は恵良に繋がった。彼女はまだ子供っぽい声に酷く困惑している。七海の声が聞こえなくなって無線を自由に使えるようになったかと思えば、今度は別の声が割り込んできたのだ。頭を切り替えるのは大変だった――尤も、礼人・賢・雪次も彼女と同じような気持ちを共有しているのだが――。特に彼女の場合は、明らかに子供っぽい声が聞こえてきたので、なおさらであった。
礼人と雪次の無線からは、先程とはうって変わって若い女性の声が飛んできた――赤城の機体である《ドリーミング》と繋がっている。彼らは警戒を解かず、どの機体が繋げているのかを見極めようとしている。
賢の無線からは、先程の若そうな声とは対照的な落ち着いた壮年の男性の声が聞こえてきた――由利の機体、《マンスローター》と繋がったのだ。それを彼は、内心困惑しながら涼しげな顔で耳を傾けている。
『勇気君、今僕と話しているのは、君だけだ。他の皆は、そこにいる僕の仲間と話をしている』
勇気は困惑して周りの味方を確認するが、目立った様子は見ることができない。無線を繋ごうとしても七海と繋がったままなので、確認のしようがない。ここで初めて、勇気は仲間と『はぐれて』しまったことに気が付いた。
「お前……、皆をどうするつもりだ?」
『ごめんね。数では分が悪いから、一人ないしは二人に分断させてもらった。僕らはどうしても勝ちたいからね。勝つためには何だってする』
勇気は奥歯を食いしばり、目の前の異形の機体を睨みつけた。対して七海は、勇気をあざ笑うかのように微笑んでいた。
『ああ、そうそう。君が助けたいと思っていた田の浦さん、どうなったか教えてあげようか?』
勇気の心拍数が、俄かに跳ね上がった。彼はどうなったのか、飛び立って以降は未だに分からなかった。あの人は、色々な目的のために絶対に救い出さねばならない――彼は操縦桿を握りしめる。
「……答えろ」
勇気がドスを利かせるが、七海は上機嫌に笑っている。その笑い声が勇気を焦らせ、導火線に火をつけようとしている。
『彼、死んだよ。僕が落としてやった。今頃海の藻屑だろうね』
七海の衝撃的な一言に、勇気の思考はフリーズした。七海の嬉しそうな笑い声も、彼の耳には入ってくることがない。
『君は責任を感じなくてもいい。君がいようがいまいが、結果は変わらなかっただろうから』
その言葉が勇気の耳に入り、脳に染みわたる。
勇気が解凍された。怒りは瞬く間に身体を支配し、顔を真っ赤にしながらSWの武器を展開する。
「お前ぇぇぇっ! よくも、よくもぉぉぉ!」
《ライトブリンガー》が右手に持った一本の筒から、白光の刃が伸びる。その一瞬後、それは閃光となって目の前を真一文字になぞっていた。
しかし、目標は遥か遠くにいた。この一瞬の時間で、《フェイスレス》は後退して一撃を避けていた。
目標はどんどん後退していく。勇気は憤怒の表情でペダルを壊れんばかりに踏みつけ、逃げていくそれを追いかけようと上空へと飛んでいった。
「待てっ! お前は……、俺が絶対に、倒す!」
「いいよ……僕と決着をつけようじゃないか!」
爆発している勇気とは対照的に、七海は心底楽しそうに彼と向かい合っていた。
数秒も待たずして、《ライトブリンガー》と《フェイスレス》は遥か彼方へと飛び去って行った。
四人はその様子を、ただ唖然として見ていることしかできなかった。特に恵良は、届かない無線に向かって必死に勇気の名前を叫び続けていた。
『なあに? 今七海さんと一緒に飛んでったのが、ユウキ、ってヤツ?』
突然、少し苛立っているような調子の声が飛んできた。まるで自身に興味を示していないことに怒っているかのようである。恵良はそれに気付いて、恐る恐る声をかける。
「貴女は……誰?」
すると、恵良の無線からクスクスと笑い声が聞こえてきた。その笑い声も恵良にとっては不気味に感じてしまう。
『アタシ? アタシの名前は、我那覇青河。十二歳』
恵良はその女子が口走った名字に、悪寒を覚えた――自分の予想が正しければ、まさか……。
「我那覇、って、まさか――」
「……そうだよ。アタシのパパとママは、この国に殺された!」
すると我那覇の駆る《バーニング・ボディ》が、背部に収納されていた実体の大剣を片腕で構え始めた。彼女は憎しみに満ちた顔で目の前の白い機体に目を付け、大剣を振り下ろした。
――この速さ、普通じゃない!
恵良は、今目の前にいる機体がどれだけ異常な出力を誇っていることを肌で感じた。彼女が操る《ドリームキャッチャー》はその一撃を後退して躱す。すると他の三機も身の危険を感じたのか、その場で散開した。
「……やれやれ。相変わらずあの子は熱しやすいのね」
「それよりも、あいつらが散開した。俺たちも、やることをやらなきゃならんようだ」
「……そうだね。行きましょうか!」
その光景を見ていた赤城と由利も乗機の武器をそれぞれ展開した。
《ドリーミング》は両腕の菱形状の武器を展開し、ビーム粒子の塊と形容できる刃を放出する。じりじりと空気を焼くような音が、周囲を威圧する。
《マンスローター》は両腕に装着されているコーン状の武器を『展開』した――頂点を中心に口のようにパックリと開き、内部のビーム砲が露出する。
最後の戦いが、始まろうとしていた。




