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革命ガ始マリマシタ  作者: XICS
終わりの始まり
55/72

新たな力

 『ナンバーズ』が流した映像が流れた翌日から、SWの開発は急ピッチで行われた――と言っても、殆どが完成しているが――。何とか敵の襲撃までには間に合わせようと、皆が必死になって作業をしていた。塗装と細かい部品のチェックを三日で終わらせて、パイロットによる最終チェックを四日目で終わらせようとしている。

 そして、作業員たちの必死な作業の甲斐あって、塗装は三日で終了した。彼らは誇らしげに五機の塗り分けられたSWを見上げた。舞香に至っては、涙を流して喜んでいる。

 その中央に、燃えるような赤色のSWが鎮座していた。勇気が搭乗する予定のSWが、正面を見つめていた。



 討伐部隊の外の情勢も、無論変化していた。

 日本政府が、『ナンバーズ』が放送した内容について公式に声明を出した。日本を脅かしている『ナンバーズ』の脅しには屈しない、彼らが放送で発表した内容は事実無根のでっち上げである、もし応じるのならば討伐部隊の隊長と田の浦とは話し合いをする許可を出すといったことを発表した。

 政府はマスコミ界隈を黙らせるのに必死になり、国会ではこの声明に関する議論が紛糾した。だが事態は急を要するとのことで、『日本自由の会』はこの声明を公式なものとした。

 こうして、日本は完全に『ナンバーズ』と最後の戦いを行うことを決定づけた。



 討伐部隊の隊員たちは、自分たちの機体が完成するまでの間、雪音によってシミュレータにダウンロードされた機体の外装と彼女が組んだオペレーティングシステムを試運転していた。それは以前に勇気と恵良がそれぞれ《ライオット》と《ウォリアー》を受領された時と同じだが、異なるのは武器のデータも一緒にダウンロードされている点だった。


 勇気の機体は、《ライオット》と同じような燃えるような赤色の攻撃的な外見のSWである――フレームの所々が刃物のように鋭く、相手を睨むような切れ長のカメラアイ、そして戦闘機を彷彿とさせる前面が突出した胴体を持つ。

 更に、最大の特徴として、この機体には重力粒子発生装置が補助的に取り付けられている。これでエネルギー残量の心配が殆ど無くなったと同時に、爆発的な出力を手に入れることができた。

 武装は、手武器は以前のSWのようなビームソードやビームライフルといった汎用的な武器であるが、出力や弾速、連射性は段違いに向上している。さらに、背中にも武器を収納しており、背部のブースタの邪魔にならないように格納されている大剣のような武器を背負っている。


 恵良の機体は、全体的に流線形で女性的なフォルムである。《ウォリアー》のように近接特化のヒット・アンド・アウェイ型で、背部のメインブースタの他にも追加ブースタがしっかりと装着されている。

 だが一番特徴的な部分は、そのSWの両手首に取り付けられているリング状の装置である。これは電磁シールド発生装置であり、性能は『ナンバーズ』のそれよりも劣る――前面のみにしか張ることができない、一度攻撃を受けた箇所が破れやすくなるといった欠点を持つ――が雪音が独自に開発することができた代物である――実際にシミュレータでは、勇気のビームライフルの光弾を無効化してみせた――。

 武装は近接特化型だけあってビームソード二本とシンプルだが、当然のように出力は強化されており、機体の出力と相まって強烈な一撃を叩きだすことができる。軽量化のため、それ以上の武装は積んでいない。


 礼人の機体は《キルスウィッチ》同様に装甲が薄く、その機体と同じ場所に追加でブースタが取り付けられている。カマキリのように細い体躯で、背部のバックパックが目立って見える。ちなみに、この機体にも重力粒子発生装置が補助的に取り付けられている。

 武装は《キルスウィッチ》同様に連射可能な特殊なビームライフルを二挺装備しており、その他には右大腿の側部にビームソードを一基隠し持っている。近接戦闘にも機動戦で対応できるように雪音が考えたのである。


 賢の機体は《ダーケスト》同様、狙撃に特化した機体となった。カブトムシの角のような形のアンテナを装備し、索敵性能を高めている。外見でもう一つの特徴的な箇所は、異様に太い腕部である。これは、この機体専用に製造された狙撃武器の反動をできるだけ抑えようとした結果にできたものである。無論、追加ブースタが以前の機体と同じ部位に装着されているので機動力も確保されている。

 武装は遠距離用の大型ビームスナイパーライフルと、独自開発された近距離防衛用のビームマシンガンである。ビームスナイパーライフルは機体の全高とほぼ同じくらいの長さだが、反動は片腕で抑えることができるので片腕のみでも撃つことができる。また、サイレンサーのような装置も装備されているので、隠密に相手を狙撃することができる。マシンガンは、近づかれた際の防衛手段である。


 雪次の機体は《陰陽》同様、近接戦闘を力でごり押すタイプの機体となった。甲冑を纏っているかのように分厚い装甲だが、大型のブースタが装着されているので、シミュレータ上では他の四機と遜色のない機動力を確保している。また、この機体は《陰陽》と色が異なり、銀一色となっている。

 武装は、専用のビームソード二本である。勇気の機体と刃の色が異なり、このビームソードの刃の色は橙がかった白色である――勇気の機体のそれは白一色である――。他の四機とは一段上の出力を誇っており、ぶつかり合いであれば四機は敵わない。


 五人は、それぞれの機体の性能に非常に満足していた。今までの機体とは比較にならないほどの身体の負荷がかかったが、それ相応に機体の性能の向上が手に取るように理解できた。これなら奴らに打ち負けることは無い、自分の腕を信じれば奴らをきっと倒すことができる――五人は実感していた。



 新しい機体が完成したとの一報を聞き、雪音は早朝に五人を引き連れて横須賀基地のSW格納庫へと出向いた。そこには作業員たちが全員集合しており、討伐部隊の隊員と隊長を温かく出迎えた。

 五人はまず、作業員たちの後ろに広がっている光景に息をのんだ。SWが五機、綺麗に鎮座している。特に勇気は、自身のSWが中央に配置されているのを見て、言葉にできぬ喜びを感じていた。そのことを、礼人に冗談交じりに突っ込まれる。

「何でお前の機体が真ん中なんだよ。俺のじゃねえの?」

「自分でもよく分かりません……」

 勇気は困惑しながらも、目をキラキラとさせながらSWを見つめている。

「皆、間に合わせてくれて本当にありがとう。後は此方で調整する」

 雪音が感謝の言葉を口にすると、後ろの五人も、ありがとうございます、と頭を下げた。そこで礼人がふと舞香を見つけて微笑むと、彼女は満面の笑みを返した。

「これからこの五機を、《オーシャン》に搬入する。それが終わったら、皆は艦内でゆっくりと休んでいてくれ。後は艦内でこいつらに最終調整をやらせる」

 雪音が労うと、作業服を着た人たちはそれぞれ《オーシャン》へと向かった。搬入の準備をする者や、いち早く休憩に入る者に分かれる。

 それを見届けると、雪音は今度は五人の方を向いた。彼女の顔からは笑みが零れていた。

「さて……名前だ。皆、決めてきたか?」

 雪音は早く聞きたくてうずうずしているという風に五人を見つめている。すると、まず雪次が挙手した。

「何だ、言ってみろ」

「……自分は、《陰陽》という名を気に入ってます。《陰陽》が強化されたということで、《陰陽・こう》という名前にしようと思います」

 雪音は二回頷いて、微笑んだ。それにつられて、雪次も笑みを浮かべる。

「自分もよろしいでしょうか?」

 次に挙手したのは、賢だった。雪音が彼の方を向く。

「決まったのか?」

「はい。《ブラック・サン》です。皆を援護しようと、光を放つ太陽のような存在になりたいので」

「ほほお、カッコいいじゃないか。機体の色とかけているのか」

 雪音は納得したかのように頷く。賢は照れ笑いを浮かべている。

「俺も決まったぜ!」

 礼人が自信満々に挙手する。

「何だ?」

「《ネメシス》だ! どうだ、カッコいいだろ?」

「……復讐の神の名前か。あいつらに対抗心を燃やしているお前らしい」

 礼人は誇らしげに頷いた。

 雪音は礼人から名前を訊くとすぐに、勇気と恵良に視線を向けた。すると彼女が歯を見せて笑った。

「お前たちのSWの名前は、実はもう決めているんだ」

 二人がキョトンとして胸を張っている雪音を見つめる。

「まずは恵良。お前の機体名は《ドリームキャッチャー》だ」

「ドリーム……キャッチャー?」

 聞き慣れない単語に、恵良含む五人は首を傾げた。

「ああ。こいつは簡単に言うと、悪夢を寄せ付けない蚊帳みたいな壁にかけるタイプの装飾具だ。ちなみに、形は輪状だ」

 恵良はふと、鎮座している純白の機体を見上げた。手首を確認すると、リング状のものが装着されているのが見えた。確かにこれはシールドを発生させるための装置なので、自身を攻撃という名の『悪夢』から守ってくれる代物である。彼女は納得してコクコクと頷いた。

「確かに……これは守ってくれそうですね」

「それだけじゃないぞ、恵良」

 恵良は雪音に言われ、視線を彼女の方に向けた。

「お前は今まで散々『悪夢』にうなされてきただろ? この機体なら、『白金』のことを考えないで済む。我々のお手製だからな」

 恵良は雪音の言わんとしていることが解り、優しく微笑んだ。自身の『悪夢』に対する意味も込めているのだと。

「……ありがとうございます。喜んでこの名前を頂戴します」

 恵良は頭を下げた。勇気も驚いたような顔で雪音を見つめる。

「恵良のことをこんなに考えてくれていたなんて……」

「当たり前だろ? 私の可愛くて立派な部下だからな」

 勇気は彼女の言葉を聞いて、当事者でもないのに泣きそうな表情になっていた。それを見た礼人が、後ろから彼のことを突く。

「ん? どうした?」

「……なんだか、嬉しくて――」

「お前に言ってるわけじゃねえだろ?」

 勇気の顔を見て、彼以外がクスクスと笑い始める。彼は顔を赤くして俯いた。

「さて、最後に勇気。お前の機体の名前は、《ライトブリンガー》だ」

 またも聞き慣れない単語が出てきて、五人が一斉に考え始める。すると、賢が何かに気付いたように雪音を見た。

「ライト、ブリンガー……、光をもたらす者、ですか?」

「ご名答」

 雪音は誇らしげな顔で、賢を指さした。『光』という単語に、勇気も漸く気付いた。

「光……」

「そうだ。お前は、日本に光をもたらす存在だ。第一、この討伐部隊がここまで躍進できたのも皆の、特に勇気がいたおかげだと思ってる。贔屓に見るつもりはないがな」

 雪音の言葉に、勇気以外の四人が頷く。勇気はポカンとした表情で周りを見渡した。

「自分が、日本の光――」

「そうだよ、勇気! 勇気は皆にとっての大切な存在なんだから」

 恵良に笑顔で言われ、勇気の顔は真っ赤になった。それを礼人に突っ込まれたのは言うまでもない。

 勇気は気を取り直して気を引き締め、雪音の方を向いた。

「この名前、ありがたく頂戴します! 自分は……必ず『ナンバーズ』を倒してこの国を救います!」

 勇気は決意を新たに、雪音に頭を下げた。

「よし。搬入の作業が終わったら、各自でセッティングをしてくれ。艦に戻るぞ」

 五人は、了解、と言って《オーシャン》の方へと向かい始める。

 しかし、勇気はその場から動かずに、自身の赤い機体を見上げている。恵良に呼ばれても気づかず、彼は晴れ晴れとした顔でそれを見続けている。

「俺と一緒に戦ってくれ、《ライトブリンガー》……」

 勇気の呼びかけに呼応するように、《ライトブリンガー》ら五機に陽が差し込んだ。



 そして、その日はきた。

 あの映像が流れて五日が経った。予告の通りならば、『ナンバーズ』が横須賀基地に襲撃してくる。基地の周りは完全に封鎖され、近隣の住民は全て避難させた。避難した中には議員たちや『白金』の役員たちも含まれており、『ナンバーズ』に従う気はないことを明確に示している。

 『ナンバーズ』が来ると予測される反対側の上空には、横須賀基地のSW部隊が多数配置されている。その数は、《燕》三〇機、《蓮華》一五機、そして《剱》が五機という、ちょうど五部隊使った編成である。そして、横須賀基地は航空艦が鎮座しているだけでSWの影は無い。

 軍の作戦は、討伐部隊の艦の中に雪音と田の浦を入れて条件を満たし、横須賀基地に降下してきた敵を後方に配置しているSWの大部隊で叩く、というものだ。つまり二人は囮である。討伐部隊の隊員たちは彼らの隊長に何かあった時のために、艦の周りで待機させることにした。この作戦に雪音は反対したが、軍部内で強行採決された。

 討伐部隊の隊員たちは、特別に拳銃の携行を許可された。隊長と彼らの身を守るためである。彼らがそれを持つのは防衛学校での射撃訓練で拳銃を使った時以来で、ズシリと重たく感じる金属の塊を不慣れな感じて弄んだ。

 隊員たちのうち三人は軍の指導で艦の搭乗口の前に立たされ、残りの二人は管制室の前に立たされた。彼らも軍の意向で、囮にされたのである。その役割分担は、相談の結果、搭乗口の前に立つのが礼人・賢・雪次になり、管制室の護衛は勇気と恵良に任された。

 日本は、完全に迎撃態勢で『ナンバーズ』を迎え入れようとしていた。



 約束の日には、当然彼らも動き出していた。

 上空を悠々と航行している漆黒の艦、《ゴルゴロス》。そのSW格納庫の中に、彼らはいた。

 彼らは既にSWの発進のための最終チェックを終えていた。さらに彼らはSWに既に乗り込んでおり、あとは発進するのを待つだけであった。

 不気味なほどに真っ白なコクピットの中に収まっている七海は、彼らが流した映像で男が被っていたバイクのヘルメットのようなものを膝の上に載せている――映像に映っていた男は彼である――。彼は黒いライダースーツのようなものを着用しており、それにはびっしりとケーブルが繋がれている――咲宮が着用していたものと同じで、各々の筋腹にケーブルの先端が触れるような作りになっている。

「準備はオーケー?」

『勿論! 七海さんがいれば、もう何も怖くない』

 返事をしたのは我那覇がなはであった。

 彼女が乗っているSWのコクピットは明るいピンク色であり、彼女もまたケーブルがびっしりと張り巡らされたスーツを着用している。まだ幼いので、ぴっちりとしたスーツでも身体的な起伏は小さく映る。彼女はニヤリと笑い、正面を見つめる。

青河せいかちゃんは相変わらず血の気が多いね……。由利ゆりさんと赤城あかぎさんはどうだい?」

『良好だ』

『いつでも発進できるけど。七海君はどう?』

 由利は冷ややかな口調で答え、赤城は妖艶な笑みを浮かべた。

 由利が収まっているSWのコクピットはほぼ真っ暗であり、計器が放つ光が唯一の光源となっている。赤城が収まっているコクピットも同様であり、二人とも共通してケーブルがびっしりと接続されているスーツを着用している。由利はこのスーツで逞しい肉体が強調され、赤城の場合は女性的な身体が強調されている。

「僕はもう準備できてるよ。じゃ、行こうか」

 七海がニヤリと笑うと、拘束具が解けて発進口が開いた。それと同時に、強風が吹き荒ぶ。それぞれのSWは、大空に飛び出すために前傾姿勢を取り始めた。

「よし。由利ゆり浅葱あさぎ、《マンスローター》、出る!」

赤城あかぎ七葉ななは、《ドリーミング》、行きます」

「……我那覇がなは青河せいか、《バーニング・ボディ》、行くよ!」

 三機の異形のSWが、漆黒の艦から火花を散らせて飛び出していく。それらをレーダで確認した後、七海も目を見開いて凛とした表情になる。

七海ななみ空哉くうや、《フェイスレス》、出るよ」

 そして、最後の異形のSWが飛び出してきた。


 彼らの『切札』は、勢いよく空を降下していった。




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[良い点] ひえぇぇぇえええぇぇぇぇ! 搭乗機の名前が変わったですとーーー!? また最初から覚え直しかーい!! ……と実は読んでる最中からかなり動揺してしまっていたのですが、作者さまの意図とネーミング…
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