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革命ガ始マリマシタ  作者: XICS
終わりの始まり
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抱いた想い

閑話です。

 恵良は、彼女の部屋の中で独り、電気を点けたままベッドの中でじっとしていた。彼女の枕の横に置かれている目覚まし時計の針は、深夜の零時を指している。彼女は目をパッチリと開けたままシーツを首までかけて、天井をじっと見ている。

――眠れない……。

 恵良は勇気と医務室で話してから目が冴えてしまい、眠ろうとしても寝ることができなかった。ベッドに寝て天井を見つめていると、どうしても彼の顔を思い出してしまう。


 訓練に取り組んでいる時の真剣な顔、彼女が疲れている時に見せる心配してくれている顔、そして彼が絶望から立ち直った時に見せた子供のような純真無垢な満面の笑み――それらを思い出しただけで、彼女は顔を赤くしてベッドの上で縮こまってしまった。


 恵良が自身の胸に手を当てなくとも、拍動が強く速くなっていることは解っていた。顔が内側から熱くなっていくのも感じている。その状態が苦しくなり目を強く瞑るが、目を閉じてもチラリと勇気の顔が映るようになってしまった。

 さらに彼女は、勇気に言われた言葉も思い出した。


――俺には、恵良がいないとダメなんだ! 恵良は俺にとっての『光』だから……俺にとって必要な存在だから!


――恵良が落ち込んだときには、俺が『光』になりたい。


――恵良が元気になってくれて、本当によかったっ!


 勇気に言われた言葉の数々が、恵良の脳を刺激した。捉え方によっては愛の告白のようにも聞こえる言葉の数々も、勇気が言えば彼女はすんなりと受け入れてしまっていた。その事実に、彼女は呻き声を上げて頭を抱えた。


 止めとして、彼女はその勇気を抱きしめたという事実を思い出した。


 あの時彼女は、とても自然な気持ちで彼を抱きしめた。彼女には、明確なある意思があった――彼を称えよう、自身を救ってくれた彼に感謝しよう、そして彼を思い切り愛そうという気持ちを思い切りぶつけた。

 そして彼女は、ある結論に辿り着いた。それに気づいた瞬間、彼女は顔を両手で覆い、ベッドの上を言葉にならない声を上げながらゴロゴロと転がった。

 彼女の暴走は十秒ほど続き、それが終わるとゼエゼエと息をつきながら再び天井をぼおっと見上げ始める。彼女は熱に浮かされているような顔をしている。

――私……勇気のこと……。


 すると、そこで恵良の部屋のドアがノックされた。


「ひゃいっ!?」

 ガラスを引っ掻いたように甲高い声。恵良はベッドからばね仕掛けされているかのように飛び上がり、急いでドアまで駆け寄った。

「私だ。少し中で話がしたい。入ってもいいか?」

 ノックした人物は、雪音だった。彼女は俄かに緊張し、上擦った声で肯定の返事をした。

 ドアが開くと、缶ジュースを二本持った雪音がそこに立っていた。彼女は不気味なほどニコニコしており、恵良の焦燥感が否が応でも高まる。それでも彼女は敬礼で雪音を迎えた。

 二人はベッドサイドに座った。缶ジュースのうちの一本を、雪音が恵良に渡す。

「……ありがとうございます」

「突然押しかけてすまんな」

「……どうして私の所にいらしたんですか?」

 恵良が雪音に恐る恐る尋ねる。

「なあに、お前が元気にしてるかどうか、気になっただけだ」

「他の人たちの所には訪問してるんですか?」

「いや、対象はお前だけだ」

 恵良は雪音のことをじっと見るだけで、これ以上は何も尋ねなかった。雪音は素知らぬ顔でプルタブを開けてジュースを飲み始める。

「お前も飲んでいいぞ」

「ありがとうございます……」

 恵良もプルタブを開けて、缶に口を付ける。カラカラの喉に、甘い味の液体が流れ込む。

「飲みながらでいいから聞いてくれ。少し訊きたいことがある」

「……何でしょうか?」

 恵良がジュースを少し飲んだ後に答え、再び口を付けてジュースを飲み始める。

 すると、雪音が不敵に笑った。


「お前、もしかしてあいつの事が好きなのか?」


 その言葉を聞いた途端、恵良は口に含んでいたジュースを勢いよく吹きだして激しく咳き込んだ。隊長の言った『あいつ』とは間違いなく勇気のことだろう――恵良はそう考えながら、缶を床に置いて胸を抑えて咳き込み続ける。

「大丈夫か?」

「――いきなり変なこと……っ、訊かないで下さい!」

 爆笑しながら、雪音が恵良の背中を擦る。恵良の咳が幾分か落ち着くと、彼女は顔を真っ赤にして雪音の方を向いた。

「だから、私の質問に答えてくれ。あいつの事が好きなのか?」

「……それは――」

 恵良が途端にもじもじとし始める。だが、彼女の心の中で答えは決まっていた。

「心配するな。誰にも言わないから。女子同士の秘密だ」

 雪音が顔を恵良に近づける。雪音の荒くなった鼻息が恵良にかかるほど、その距離は近づいた。


 恵良は観念したように頷いた。雪音が顔を離してコクコクと頷く。


 恵良は頷くと、床に置かれていた缶を再び手に取って一気に中のジュースを飲み干した。飲み終わった彼女は大きくため息をつき、俯いた。

「軍隊で、しかも任務中に色恋なんて……ダメですよね……?」

「いや、私は一向に構わんぞ。訓練や任務に支障が出なければな」

 そう言うと、雪音は恵良の肩をポンと叩いた。恵良が雪音の方を向くと、雪音が微笑んでいる。

「あいつのどこが好きだ?」

 恵良は雪音の言葉に、目を見開いて顔を真っ赤にした。水分を摂ったばかりだというのに、彼女の喉はすぐに乾いてしまった。

「好きになったのは何らかの理由がある筈だ。お前の場合は何だ?」

「えっと……それは……」

 恵良の口から、言葉がうまく出てこない。彼女には勇気を好きになった理由が幾つかあるが、口から出てこない。

「あいつがカッコいいからか? 優しいからか? お前を助けてくれたからか?」

 雪音の誘導に、恵良は悉く頷いた。全部じゃないか、と、雪音が苦笑する。

「皆にはくれぐれも内緒にして下さい……」

「分かったよ。女子同士の約束だ」

 雪音は恵良にウインクをしながら答えた。それに恵良は引きつった笑顔と何かが引っ掛かったような笑い声で答える。

 すると、雪音が徐に立ち上がった。恵良の分の缶を回収して、ドアへと歩き出す。

「突然押しかけてすまなかったな。私はもう戻る。しっかり身体を休めてくれ」

「……はい。こちらこそ、ジュース、御馳走様でした!」

 恵良が敬礼で感謝の意を示すと、雪音は満面の笑みで踵を返して恵良の部屋を出た。再び部屋の中に静寂が訪れる。

 恵良は大きく息をついて再びベッドに寝転んだ。少し騒いだせいか、バスローブが少しはだけている。

 恵良は、自身の心の中がすっきりしているのを感じていた。雪音に全てを打ち明けることで、身体に取りついているおもりが全て取り去られたような軽い感触である。彼女の顔には、自然と笑みが零れていた。


――これで、いいんだ。私は、勇気が好きなんだ。


 すると、恵良を途端に眠気が襲った。全て話したことで、疲労感と満足感がどっと彼女の身体に押し寄せてくる。

 恵良は電気を消し、シーツをかけて眠りに就いた。彼女の寝息が聞こえるまでは、そう長くはかからなかった。




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