渾身
時間がピタリと止まってしまった感覚を、勇気は感じた。自身の目の前で、先輩が敵の攻撃を食らってしまったのだから。
『2』の剣戟は、《キルスウィッチ》の右肩部を突いて貫いていた。電流が走り、《キルスウィッチ》の右腕がだらりと下がって使い物にならなくなっている。
『2』はその刃を、そのままコクピットまで振り下ろそうとしていた。モノアイが意識を持っているかのように光るのを、勇気は見た。それで彼は我に返り、敵にもう一度ビームライフルを向ける。
『勇気君、下がって!』
突然、賢から絶叫に近い無線が入った。勇気が落ち着きを払って確認すると、《ダーケスト》がスナイパーライフルを敵めがけて構えていた。勇気は彼の言った通りに後退し、ビームライフルの引鉄を引こうとした。
防御のためのシールドを張っている時には攻撃はできない筈だ――勇気はそう踏んだ。《キルスウィッチ》に当たらないように、『2』の頭部にピンポイントで的を絞る。
すると、勇気と賢の攻撃体勢に気が付いたのか、『2』が突き刺していたビームソードの刃がフッと消えた。と同時に、タイミングを見計らって《キルスウィッチ》が全力で後退する。
《ライオット》と《ダーケスト》が、同時に引鉄を引いた。それぞれ速度の違う光弾が、相手を襲う。
放たれた光は、またしても『2』の周りでかき消された。やはり防御時には攻撃はできない――勇気と賢は結論付けた。
挟み撃ちにされた『2』は、膠着して動くことができなくなった。その隙を見計らって、勇気が礼人に通信を入れる。
「礼人さん、無事ですかっ!?」
礼人の無線からは、彼の荒い息しか聞こえない。勇気の背筋が俄かに凍る。
「礼人さん!」
『……うるせえぞ。耳元ででけえ声出すな!』
礼人は呻きながらも、勇気に負けず劣らずの大声で返した。彼が無事だと分かった途端、勇気と賢、そして『4』と戦闘中の雪次はホッと胸を撫で下ろした。
しかし、《キルスウィッチ》のコクピット内はまるで嵐が通り過ぎたかのようにしっちゃかめっちゃかになっていた。ビームソードを突き刺されたせいで計器のいくつかが破損し、その破片が礼人の足元に散らばっている。礼人は頭から血を流し、全身をシートに打ちつけられて激痛を感じていた。呻きながら、右腕破損を告げるアラームがけたたましく鳴る中で、眼前の『2』を睨みつけている。
「……痛え」
そう言って、礼人は口に溜まった血を飲みこんだ。突き刺された衝撃で、口の中を切ってしまったのだ。鉄臭い味が、彼の舌と喉に広がる。
礼人が無事だと分かると、勇気はもう一度ビームライフルを構えて『2』へと向けた。
活路が見出せた――勇気は少しだけ敵に届いた気を感じていた。
「……行くぞ!」
勇気は自分に喝を入れるように叫ぶと、ビームライフルの引鉄を引いた。
勇気・礼人・賢の三人が『2』と戦闘している時、雪次が駆る《陰陽》は『4』と死闘を繰り広げていた。もう何度目の対決になるのだろうかと、彼は考えるだけでもうんざりとした気持ちになったが、今はそのことは考えずに黙々と敵を討伐しようとしている。
しかし《陰陽》の剣戟は、『2』への攻撃同様『4』には届いていなかった。雪次が繰り出す攻撃は全て『4』の剣戟に弾かれて防がれている。捉えた、と彼が思った攻撃も、『2』と同様の電磁シールドによって防がれてしまう。まるで素手でコンクリートの壁を殴っているような感触に、雪次の集中力は途切れかけていた。
対する『4』の攻撃は、雪次が今までそれから経験したことのないほどの強い力で《陰陽》を襲っている。まるで今までリミッタをかけていたかのような動きは、雪次を嘲笑っていた。確実に《陰陽》を追いつめ、雪次を疲弊させている。
「……化け物め」
雪次が呟いた直後、『4』はバッタのように上に飛び上がって二本のビームソードを振り下ろそうとした。スピードがSWのそれではなく、鬼神のような雰囲気を出している。
雪次は切れかけていた集中力を取り戻し、落ち着いてその一撃を躱す。そしてがら空きになった頭部に、ビームソードのホーミングを定めた。
《陰陽》の二本のビーム刃が、真っ直ぐな軌跡を描いた。
しかし、一瞬のことであったのに、『4』はわずかなスラスタの調整で後退してその一撃を避けていた。単純馬鹿ではないらしい――雪次は舌打ちをして眼前の敵を睨みつける。
『4』が再び突進する。望むところだとばかりに、雪次が剣戟でお返しをする。
一合。それだけで《陰陽》が弾き飛ばされた。尋常ではない出力に雪次は戦慄するも、体勢を立て直して剣戟を続けた。
二合・三合・四合――何十回も両機の剣戟は続けられ、空中を自由自在に動き回り、ダンスを踊っているかのように空で舞い続ける。袈裟懸け、横薙ぎ、振り下ろし――様々な技が繰り出されるが、《陰陽》の刃は躱されるか弾き飛ばされ、『4』の刃は相手を着実に追いつめていた。
「今まで手を抜いていたみたいだな……」
雪次が苦笑して呟きながら、『4』の重い一撃を受け止める。《陰陽》は大きく後退し、雪次が無線を賢に繋げた。
「賢、こいつは俺一人じゃ無理だ。『2』に気を付けながら加勢を頼む!」
『了解!』
今まで『2』に向いていた銃口が、今度は『4』に向いた。これで二対一だが、雪次は安心していなかった。
気を抜いていれば、確実に殺される。今回は特にそうだ。雪次の額には大きな汗が浮かんでいる。
「やってやるさ、抵抗してやる――」
雪次が自身を奮いたてるように呟くと、《ダーケスト》のスナイパーライフルの光弾が『4』を襲った。敵はそれを予測していたかのようにシールドで防ぐが、その隙に《陰陽》が飛び出した。
シールドを解除した『4』が、《陰陽》の剣戟を受け止める。戦いはまだ始まったばかりであった。
勇気と礼人、そして賢は、『2』を艦に近づかせないようにするのが精一杯であった。特に礼人の《キルスウィッチ》は先程の攻撃の損傷が酷く、死荷重になっている右腕を引きずりながら左腕だけで火器をグリップして敵に照準を定めている。
息を荒げながら、礼人は『2』に攻撃を仕掛ける。すると、無線に通信が入った。
『礼人、聞こえるか?』
雪音の焦っているような声。先程の攻撃のせいで音声が少し乱れている。それに気が付いた礼人は、無線に注目し始めた。
「隊長、何だよ?」
『お前は一旦艦に戻れ。機体の損傷が思ったよりも激しい』
雪音は警告じみたことを礼人に言った。しかし、礼人は苦い顔をしながら戦闘を継続している。
『聞こえなかったのか? 一旦艦に戻れ』
「俺はまだやれる。奴を倒さなきゃならねえ」
『今の状態では無理だ!』
雪音が唐突に叫んだ。その剣幕に、さすがの礼人も怯む。
『さっき計測してみたが、奴らの持っている熱量は今までの比ではない。一度損傷したら追いつくのは困難だ』
「……だが」
『このまま戦っても無駄に命を散らすだけだ。頼む、戻ってきてくれ!』
雪音がそのままの剣幕で礼人に喝を入れるように叫んだ。アラームが鳴る中、彼は周りを見渡した。
冷静に考えると、礼人は今の戦場では完全にお荷物になっていることに気が付いた。『2』は勇気と賢が必死になって艦に近づけないように対処しているし、『4』に対しても雪次が相手を抑え込んでいる。賢も状況に応じて加勢している。
それに彼は、自分はまだ死ぬことができないことを思い出した。これからの戦闘のため、自分を想ってくれている人のために。
周りを見渡した後、礼人は舌打ちをしながら自虐的な笑みを浮かべた。そして、雪音に通信を入れる。
「ああ、分かったよ。今俺は死ねねえ。《キルスウィッチ》、帰艦する」
『分かった。すぐに戻ってきてくれ』
雪音はホッとしたような口調になって礼人を迎えた。雪音からの通信が切れると、彼はすぐさま三人に通信を入れた。
「俺だ。隊長から俺に帰艦命令が出た。悪いが、あとは任せた。これ以上戦えなくて本当にすまねえと思ってる」
先程の笑みとは打って変わって、礼人の顔は怒りと悔しさに満ちていた。もっと加勢してやりたかったという思いが、先程の無線から漂っている。
『了解しました。礼人さん、お怪我なさってるのならゆっくりと休んでください! あとは自分たちが何とかします!』
勇気から大声で返事が飛んできた。
『分かりました。礼人、貴方が無事で何よりです。必ず全員で帰ります』
賢からの温かい通信。
『分かった、『4』は俺たちが何とかする。絶対に帰ってくる』
雪次からの力強い返事を聞き終えると、礼人は《キルスウィッチ》を帰艦させた。悔しそうな表情は消え、少し落ち着いている。
――生きて帰って来いよ、お前ら
礼人が帰艦するところを見届けた後、勇気は目の前の純白の敵を再び睨みつけた。向こうもまた、彼を睨み返しているような気迫を纏っている。
勇気たちは未だに、『2』に対して傷一つつけることができていない。彼はその事実を突き付けられて少し焦っているが、礼人が攻撃されたことで少し落ち着きを取り戻し――これは自身の反応が遅れたからだと彼は自身を責めていた――、賢と協同して『2』の隙を突いて相手を落とす戦略に切り替えた。
「賢さん……、奴は、シールドを張っている時にはビームソードの刃を消してましたよね?」
『はい。つまり……、相手は防御している時には防御している側に攻撃ができない、ということですね。逆もまた然り、でしょうね』
「……それを利用して、自分が奴に仕掛けて、攻撃してきた隙に賢さんが奴を狙撃するのはどうでしょうか」
勇気は賢に礼人と話したことと同じような話をして、作戦を提案した。すると、賢が少し笑った。
『分かりました。その作戦に乗りましょう。僕が倒します』
「ありがとうございます!」
勇気は賢に笑顔で礼を言うと、表情を再び引き締めて『2』に突撃した。左腕のシールドを展開したまま、右手にはビームソードを持って《ライオット》は突っ込んでいく。
対する『2』はビームライフルを構えて《ライオット》に狙いを定める。勇気はそれに注目した。
――そいつを使われたら……厄介だな
すると、《ライオット》が『2』の周りを高速で回り始めた。勇気が何としても自身だけにライフルの狙いを定めさせようと誘導している。
『2』の銃口は《ライオット》を追った。勇気の狙いは成功し、これで少なくとも艦に当たることはなくなると考えた。
さらに、『2』が誘導された隙に《ダーケスト》がスナイパーライフルを構え始めた。賢が狙いを定めて引鉄を絞る。
「こっちだ!」
勇気は《ライオット》を巧みに操作し、相手のロックを外しつつビームソードを振り下ろした。『2』の射線上から三〇度ずれた位置から勇気は攻撃したが、ドーム状の電磁シールドに弾かれてしまう。
それでも何度も何度も『2』の周りをハエのように飛び回り、攻撃を仕掛ける。相手にビームライフルを使わせないためである。
すると、業を煮やしたのか、『2』のシールドが解除されて武器をビームソードに持ち替えた。《ライオット》の振り下ろしたビームソードを弾いて、加速し始める。突っ込む先には、《ダーケスト》が立ち塞がっていた。
「来ましたか……」
賢は《ダーケスト》の武器を散弾銃に持ち替えて迎撃態勢に入った。敵と自身の距離なら、一瞬で詰められる――そう判断した彼は、散弾銃に持ち替えるなりすぐさま引鉄を引いた。
《ダーケスト》の眼前に、ビームが散る。それらは突っ込んでくる『2』を捉えていたが、シールドで防がれることなく垂直方向に跳ばれて避けられてしまった。賢も自機を後退させて、再び『2』に照準を定める。
しかし、『2』は一瞬のうちにビームソードを構えて《ダーケスト》に突き立てようとした。繰り出された突きを間一髪で避けると、賢は一瞬の判断で今が落とせるチャンスだと考えた。
「今だ!」
賢が叫ぶと同時に、《ダーケスト》の散弾銃の引鉄が引かれる。放たれた光の散弾が、『2』を雹のように襲う。
それでも『2』はそれを予期していたかのように、《ダーケスト》の右方向に躱した。敵の機動力に愕然としながらも、賢はまだ諦めの姿勢を見せずに素早く反応して散弾銃の銃口を『2』に突きつける。
そこへ、勇気が吶喊してきた。《ライオット》がビームソードを握りしめ、正面衝突覚悟で突っ込んでいく。
『2』はモノアイを其方に向けてシールドを張った。《ライオット》のビームソードがそれにぶつかり、風船が割れたような音とともに弾き飛ばされた。勇気はつんのめった直後座席に押し戻され、身体の軋みを感じた。身体が押し潰されるような感覚に、彼は呻き声を上げる。
「負けるか……っ!」
勇気は痛みを感じる身体に鞭を打ち、そのまま攻撃を加え続けた。それをシールドで防いでいる『2』はその場から動いておらず、その隙に賢は機体を後退させる。《ダーケスト》はスナイパーライフルを構え直して『2』に照準を向けていた。
「勇気君……そのまま攻撃を続けていて下さい……」
賢が呟きながらスコープを覗きこむ。勇気の攻撃を弾き飛ばした時――その時が賢の唯一の攻撃のチャンスだった。
しかし、ここで『2』がビームソードからビームライフルに持ち替え、賢に銃口を向け始めた。チャンスとばかりに勇気が近接攻撃のラッシュを仕掛けるが、全てフラフラとした動きで躱されてしまった。
《ダーケスト》の後ろには、《オーシャン》が航行している。艦への被害を避けたかった賢は、迷わず《ダーケスト》の左腕のシールドを展開、スナイパーライフルを右腕で持ってシールドを構えた。
「当たれ!」
スナイパーライフルの銃口が光り、白い槍のような光弾が『2』めがけて伸びる。だが、通常のライフルの光弾よりも一段と速いそれを、『2』はあっさりと躱した――片腕で発射したので射撃が安定していないのもあったが――。まるで二人を小馬鹿にしているような動きである。
そしてそれを躱しながら、『2』はビームライフルを放った。《ダーケスト》のシールドがそれを受け止めるが、着弾の衝撃で左前腕ごとシールドが破壊され、機体が後方に吹き飛ぶ。呻き声を上げながら賢は機体を制御するが、『2』は容赦なく銃口を其方に向け、引鉄を絞ろうとした。
「させるかぁ!」
勇気が絶叫しながら、《ライオット》のビームソードを『2』がビームライフルをグリップしている右手部に向けて振り下ろした。彼は敵に、シールドが張れそうもない距離まで肉薄していた。
そしてそれは、呆気なく溶断された。赤熱した切り口が、勇気の目に焼き付けられる。
しかし、それで終わる勇気ではなかった。やっと巡り合うことができたチャンスを逃すわけにはいかない――彼は雄叫びを上げながら、振り下ろしたビームソードを今度は『2』の胴体めがけて薙ぎ払うように振り回した。
『2』は辛くもそれを避けた。しかし、勇気はニッと笑みを浮かべた。
『2』の胴体に、銑鉄のような色をした横線が引かれていた。《ライオット》のビームソードが付けた傷跡である。
それでも勇気たちの攻撃は止まらない。《ライオット》が交代すると、『2』の眼前には《ダーケスト》のスナイパーライフルが見えていた。
それと同時に、賢は勝利を確信したような笑みでスコープを覗きながら引鉄を引いた。
光弾が、敵の左肩部を貫いた。
それと同時に、シールドの発生装置らしきものが破損、そのまま爆発炎上して、白い機体を紅蓮の炎が包み込んだ。
「いっけええええぇっ!」
勇気が燃え盛る炎の中に、ビームソードを刺しこんだ。
手ごたえ、あり。
《ライオット》のビームソードは、『2』の胴を串刺しにしていた。ジェネレータを潰されたのか、頭部が少し痙攣したような動きをした後モノアイの光が消えていく。
《ライオット》がビームソードを抜くと、『2』だった残骸は無抵抗に自由落下を始めた。勇気はそれを茫然として見ている。
少しした後、遥か下で大爆発が起こった。光がせり上がってくる。
勇気と賢は、必死の抵抗で『2』を討伐した。
『2』の爆発は、その場にいる者全員の目を引いた。『4』と戦闘中の雪次も例外ではない。
雪次はニヤリと笑い、再び目の前の敵と向かい合った。『4』は『2』の爆発に驚いているかのように硬直していて動いていない。《陰陽》は二本のビームソードを展開したまま、硬直している相手に向かって突っ込む。
しかし、《陰陽》の両腕部には限界がきはじめていた。肩部の隙間から、電気がバチバチと走っている。このままの調子で相手にぶつかっていけば、確実に腕部が動かなくなる。雪次はそれに既に気付いているので、額から汗を垂らしながら計器をチラと見る。
――もってあと少し、か……
雪次が大きく息を吐くと、賢から通信が入った。
『僕の方は片付いたかと思います。今から援護します! 遅くなってすみません』
「いや、気にしてない。機体損傷のところ申し訳ないが、援護頼む」
『分かりました。雪次が相手の攻撃を誘ってください。僕が撃ち抜きます!』
ああ、と返事をして、雪次が通信を切った。彼が後方を確認すると、確かに傷ついた《ダーケスト》がスナイパーライフルのスコープを覗きこんでいた。
すると、『4』が動きだした。今まで戦っていた《陰陽》をまるでここにいないように扱い、一直線に《オーシャン》の方へと向かう。
「くそっ!」
雪次が毒づき、『4』の前に立ち塞がる。相手は二本のビームソードを構えて突撃してくる。
ここで止める――雪次は《陰陽》を操りビームソードの剣戟を繰り出そうとした。
しかし、『4』は無尽蔵のパワーで《陰陽》を後方に弾き飛ばした。雪次が呻いて機体を制御して対応するが、『4』は闘牛の如く彼の下へと突っ込んでいく。目の前の目標から先に排除するつもりのようだ。
ここで、《陰陽》の右腕の機能が停止した。弾き飛ばされた衝撃で、完全に回路と関節が逝かれてしまった。雪次は舌打ちをして、左腕だけで『4』と相対する。
『4』はそのことに気付いたのか、《陰陽》の右半身を執拗に狙い始めた。その猛攻を雪次は、いつ右腕と同じく使えなくなるか分からない左腕で必死にいなす。賢の援護射撃も、まるで当たらない。
ついに、《陰陽》の左腕も火花を上げて使えなくなってしまった。雪次は悔しそうに呻きながら操縦桿を必死に動かすが、動くことは叶わない。シールドも展開できなくなっている。
既に戦闘不能に近い雪次に、『4』は容赦なく襲い掛かる。
『4』は《陰陽》の両腕を吹き飛ばした。ついには言い得ぬ恐怖で四肢が動かなくなり、操縦もままならなくなってしまった。
万事休すか――雪次は覚悟を決めた。
『4』のビームソードが、《陰陽》の胴体に襲い掛かった。雪次は大きく目を見開き、覚悟した。
そこで、横槍が入った。
勇気の《ライオット》が飛び出し、ビームソードで『4』の攻撃を受け止めていた。しかし、敵の尋常ではない出力で彼は吹き飛ばされてしまう。
「勇気……」
『大丈夫ですかっ!?』
「……すまないな、役に立てなくて」
命拾いした雪次は、ため息を大きく吐いた。すると勇気に助けられたことで彼は再び思いのままに四肢を動かせるようになった。
『そんなことありません! 皆で生きて帰りましょう!』
「……助けてくれてありがとう。すまないが、俺はもう役に立てない。帰艦する」
『雪次さんは……凄いと思います。あんな化け物とこれだけ長い時間戦っていたなんて――』
勇気からの賞賛に、雪次は自虐的な笑みを浮かべながら首を横に振った。《陰陽》は既に後退しており、撤退の準備をしている。
「俺は凄くはない。無責任だが、あとは頼んだ」
『分かりました!』
大きな返事ののち、勇気から通信は切られた。続いて雪次は、雪音に通信を入れる。
「星雪次、これより帰還します。お役に立てず申し訳ございません」
『いや、もういい。お前はよくやってくれたよ。私はお前たちに生きていてほしいから』
雪次は小声で、ありがとうございます、と無線を入れて通信を切った。後方を確認すると、《ライオット》が『4』を足止めしていた。
――勇気……、すまない!
雪次は、勇気に背中を預けて、《オーシャン》へと帰艦していった。




