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革命ガ始マリマシタ  作者: XICS
抵抗の始まり
47/72

抵抗

 《オーシャン》がニューヨークを飛び立った。艦の航行が安定するのにさほど時間はかからず、すぐに安定した。

 その後討伐部隊の四人はすぐにSWの格納庫へと向かい、各々の乗機へと足を運んだ。これは雪音の指示で、往路と同じ轍を踏まないと彼女が決めたためである。四機で出て四機で協力して叩く――雪音の戦闘プランだった。

 もう同じ過ちは犯さない――管制室の中で、雪音は格納庫の様子が映し出されているモニタを見ながら決心した。



 礼人は自身のSWである《キルスウィッチ》に搭乗するために、エレベータの前に立ってスイッチを押した。扉が開き、そこに乗ろうとする。

 礼人がエレベータに乗り、扉を閉めようとすると、一人の日焼けした女性が駆け寄ってきた。彼はそれに気づき、扉の『開』と書かれたボタンを押しっぱなしにした。

 駆け寄ってきた女性は、舞香だった。彼女は未だに包帯を左腕に巻いているがこの一週間で仕事ができるまでに回復し、現在では整備員として復帰している。

 しかし、彼女には変化したことがあった。以前の会社で着ていた緑色の作業服から、討伐部隊の整備員が着用するくすんだ水色をした作業服を着ている。彼女は半ば『見習い』として討伐部隊に雇われることになったのだ。雪音が『白金』とともについてきた『フォロー』の責任者と交渉し、ごねられたもののなんとか引き抜くことに成功したのである。

 礼人は、笑顔で駆け寄ってくる舞香に向けて微笑んだ。いつもの彼からは想像できないような柔和な笑みである。

「礼人さん!」

「おう、どうした?」

「……これから、戦いですか?」

 舞香の顔から、笑顔が消える。それにつられるようにして、礼人も真面目な表情になる。

「ああ。俺たちは奴らが来たらぶっ潰さなきゃならねえからな」

 礼人は格納庫に入ってから、戦闘と私事を完全に切り替えていた。それでも舞香と向き合うと自然と頬が緩んでしまうが。

「きっと……、生きて帰ってくるっスか?」

「馬鹿野郎。俺を誰だと思ってやがる」

 顔が暗くなっていく舞香に、礼人はわざと苛立ったような口調で話し始めた。ごめんなさい、と舞香は謝るが、彼は気にする素振りを見せることなく再び歯を見せて笑う。

「甘く見んなよ。俺は強いんだ。死ぬことなんてねえよ。だから――」

 礼人はここで言葉を切り、手招きで舞香を呼び寄せた。舞香が大人しくエレベータに入る。

 すると、彼は彼女の頭に手をやりクシャクシャと撫でた。

「絶対に戻ってくる。安心して待ってな」

 礼人に荒っぽく撫でられた後、舞香ははにかんで後ろに下がってエレベータを出た。彼女が頷くと、礼人は扉を閉めて自機のコクピットへと向かった。



 勇気は、既に《ライオット》のコクピットの中で待機していた。

 彼の機体は先の戦いで左肩部を損傷したが、一週間で予備の装甲をパッチワークのように付け足して欠けた部分を補強していた。そのため、左肩部だけ塗装が間に合わずに鈍い銀色に光っている。《オーシャン》の尾翼にも同じように金属感むき出しの装甲が覆っている。

 その中で、勇気は機体のチェックを行っていた。特に損傷した左肩部は正常に動くかどうかのチェックは念入りに行っていた――内部のコンピュータを動かして、左肩部の回路に異常がないかを調べている――。

 問題の箇所を含む全ての部分をチェックし終えると、彼は雪音に通信を入れた。

「灰田勇気、《ライオット》、チェック完了しました。オールグリーンであります!」

『そうか、分かった。後は礼人待ちだ』

 勇気は返事をしたが、礼人が自身より確認に時間がかかっていることに疑問を感じた。

「礼人さんは、一体何を?」

 勇気は雪音に尋ねるが、彼女はクスクスと笑うだけで返事をしない。それを不気味に感じた彼は更に訝しむ。

「……隊長?」

『ああ、すまん。こっちの話だ。兎に角、チェックが終わり次第、拘束具を解く』

「分かりました!」

 勇気が返事をすると、雪音の方から通信が切られた。彼は一息ついて、礼人に何が起こったのか考えたが、何も思いつかず、すぐに別のことに頭を切り替えた。


 恵良のことである。


 四人が格納庫に向かう直前、雪音は恵良は戦闘に参加させないと言った。彼女の体力が戻っていないことが主な要因であり、雪音はまた、彼女には訓練室で暫く体力をつけさせてから実戦に復帰させると言っていた。

 勇気は彼女の意見に賛成したが、心の中では恵良に会いたいという気持ちが強くなっていた。自身は戦闘の準備のためにこうしてSWの中におり、対する恵良は格納庫とは正反対の方にある訓練室で体力をつけている。彼女が元気になっただけに、会いたいという気持ちは余計に強まっている。

 勿論、勇気は自身の任務も忘れてはいなかった。猿ヶ森のメガフロートを襲い、多数の同胞を殺した『ナンバーズ』には今までよりも強い怒りを覚えている。自分たちが一回襲撃から守った地だけあって、怒りは尚更強まった。

 日本をめちゃくちゃにしようとする『ナンバーズ』は絶対に許すことができない――それは彼の中では一切変わっていなかった。拳をギュッと握り、前を見据えて扉が開かれるのを待つ。

 すると、勇気の無線が繋がった。彼がそれに注目する。

『礼人の準備が整ったそうだ。これから拘束具を解く。出撃の準備をしてくれ』

「分かりました!」

 勇気が大声で返した数秒後、無線が切れる。それと同時に、SWを拘束していた金具が外れた。

 発進口が開かれ、まばゆい光が差し込む。勇気の視界が眩むが、信号が全て緑色になっているのは見逃さなかった。

 勇気が目をはっきりと開いて前を見る。奴らを、猿ヶ森を襲ったあいつらを絶対に倒す――勇気は心の中で誓った。

「灰田勇気、《ライオット》、行きます!」

 深紅の機体が、カタパルトから火花を散らして射出された。



 《ライオット》は、大空に一番乗りに躍り出た。その後ろから、礼人の《キルスウィッチ》、雪次の《陰陽》、そして賢の《ダーケスト》が飛び出してきた。《ダーケスト》は出て早々、コバンザメのように艦に張り付くように移動し始めた。雪音からの指示があったのだろうと三人は察する。

 礼人の機体が見えると、勇気は彼に通信を入れた。

「礼人さん、あの……」

『ん? どうした?』

「どうして礼人だけ準備が遅れたんですか? 礼人さんはいつも一番早く終わるのに。隊長も笑ってましたけど……」

 勇気の質問に、礼人は黙ってしまった。何秒も返事がないことを訝しんだ勇気は、首を傾げた。

「……礼人さん?」

『……少し手間取ってただけだ。もうこれ以上このことについては質問するなよ』

 礼人が少しドスの利いた声を出して、勇気を威圧した。彼はその迫力に怯み、すみません、としか返すことができなかった。それ以降、礼人が遅れたことについて彼は考えないように努めた。

 勇気は、すぐにレーダに意識を集中させた。いつ『ナンバーズ』が襲ってくるか分からない。前回奴らは『白金』の連中を仕留め損ねたから、今回は本気になって襲ってくるだろう――勇気を含む討伐部隊の隊員は警戒していた。狙撃特化型の機体と赤い機体は撃破し――特に狙撃型を撃破できたのは大きかった――、『2』のチャージ式のビームライフルを撃ち落としたので、不意打ちは無いだろうと彼らは踏んでいる。

 それでも、勇気も警戒はしているが、特に『2』と『4』と何度も戦ったことのある礼人と雪次は、それらがまだ撃墜されていないことに注目しながら警戒を怠っていなかった。

 『4』は近接特化型で圧倒的なパワーを持ち、『2』は圧倒的な機動力と何よりも操縦者の腕が『ナンバーズ』の中でもずば抜けている。その二機が残っていることに、討伐部隊の面々は気をより引き締めた。

 しかし、『ナンバーズ』は中々現れない。討伐部隊のSWは度々エネルギーの補給のために《オーシャン》に戻ったり再出撃を繰り返しながら、警戒を怠らなかった。



 SWが出撃したころ、恵良は一人で彼女以外誰もいない訓練室の中でトレーニングをしていた。勿論、討伐部隊の隊服が身に纏われている。

 彼女は四人に追いつくために、必死になって基礎体力をつける訓練――腹筋や腕立て伏せ等、雪音と澄佳が二人で考えたトレーニングメニューである――を行っていた。大粒の汗を垂らしながら、なまった身体に鞭を入れて苛め抜く。

 早く追いつきたい――恵良はその一心で無我夢中にトレーニングを行っていた。自身に生きていてほしいと願っていた勇気たちに早く恩返しをしたいと、彼女は常々願っていた。それを達成するために、一人で黙々とメニューをこなす。

 水分は適度に摂り、昼食もしっかりと摂取した。恵良は好き嫌いは無いが、早く復帰するためにいつもよりも意識して昼食をとった。

 午後の訓練でも、恵良は手を緩めなかった。きっちりと定められた訓練メニューをこなし、訓練が終了する頃には目の前がグルグル回って見えるほどに疲れ切っていた。独りで大の字になって、ゼエゼエと息を荒げながら訓練室の床に倒れこむ。

 それでも、訓練はきっちりと時間通りに終わらせた。居残り訓練は行わない。これも恵良の体調を考慮して澄佳が彼女に約束させたことである。

「早く……皆に謝らなきゃ、報いなきゃ――」

 恵良はそう呟くと立ち上がり、訓練が終わったことを雪音に告げるために管制室へと向かった。



 《オーシャン》がハワイの領海を超えても、『ナンバーズ』は現れなかった。日の入りが近く、周囲は暗くなりかけている。

 《ライオット》と《ダーケスト》が、その時艦の警護をしていた。《キルスウィッチ》と《陰陽》はエネルギーの補給で艦の中で待機している。

 すると、勇気に通信が入った。賢が繋げたのである。

「どうしましたか?」

『奴ら、来ませんね』

「……そうですね」

 賢の通信で、勇気はフッと一息ついた。少しだけ、肩の力を抜く。

『このまま来なければ、我々としてはいいんですけどね』

「そうですね……」

 賢が冗談めかして言うが、勇気の気持ちは暗いままであった。確かにこのまま来ない可能性もあったが、『ナンバーズ』の存在を気にすると、肩の力が抜けていてもすぐに引き締めてしまう。少し息苦しく感じた勇気は、フルフェイスのヘルメットを取った。そして一旦深呼吸をして身体を落ち着けようとする。


 しかし、そこで心臓に悪い音が鳴り響いた。


 勇気が急いでヘルメットをかぶり直し、レーダを注視する。そこには微かだが、赤い点が映っていた。すぐに雪音からの通信が繋がる。

『奴らが現れた。数は二。おそらく『2』と『4』だろう。勇気は今から奴らの進行方向に向かって艦に近づくのを止めてくれ。今から礼人と雪次も出撃させる。賢は引き続き遠距離から三人を支援してくれ』

「分かりました!」

 勇気が返事をすると、通信が切れた。それと同時に勇気は《ライオット》のペダルを思い切り踏み込み、敵の反応が出たところまで機体を飛ばし始めた。

――あいつらは……今日で絶対に仕留める!

 勇気は歯を食いしばり、Gに耐えながら機体を急上昇させる。彼の胸には、絶対に敵を討伐するという熱い信念がこもっていた。



 敵を感知したアラームが鳴り始めたとき、恵良は《オーシャン》の管制室の中にいた。彼女は訓練が終わった後でも討伐部隊の隊服を着たまま部屋で待機していたので、迅速に管制室に行くことができたのだ。しかし彼女はこの部屋に着いて早々崩れ落ち、雪音に介抱されて椅子に座らされた。

「無理にここに来なくてもよかったのに……。お前はまだ休んでいろ」

「すみません……」

 恵良は謝るが、その直後には敵の反応が出ているモニタを心配そうな表情で見始めた。四人の安否が気になっている。

 すると、雪音が手際よく無線を繋げた。

「礼人、雪次。燃料補給の最中にすまないが、もう出撃してくれ。急を要する事態だ」

 雪音が指示を出すと、二人は大人しく、了解、と返事をした。それを確認すると彼女は通信を切った。

 すると間もなく、《キルスウィッチ》と《陰陽》の二機が大空へと飛び出した。二機が勇気のもとへと向かっていく様子が、モニタで確認できる。

 恵良はこの様子を見て、自分だけが出撃できないことを申し訳なく感じた。いくら自身がまだ完全な状態ではないからとはいえ、今の彼女は討伐部隊に貢献することを第一に考えている。そんな彼女にとって、出撃できないというのは我慢のならないことだった。

 すると、雪音が恵良の方を振り向いた。雪音は、恵良の眉間に少しだけ皺が寄っていることに気が付いた。

「恵良、どうした? 何か気に食わないことでもあったのか?」

 雪音に尋ねられ、恵良はハッとしたような表情で顔を上げて彼女の方を見た。恵良はオロオロとするばかりで何も答えることができない。

「……疲れてるのか?」

「えっ?」

「いや、難しそうな顔してたから、そう思っただけだ」

 雪音が言うと、恵良は大きく首を横に振った。

「……そうじゃないです。私は――」

「戦場に出て、勇気たちを助けたいのか?」

 雪音に言いたいことを当てられてしまい、恵良はポカンとした顔で頷くことしかできなかった。その答えに、雪音はため息をつく。

「この隊に尽くしたいという気持ちは十分に伝わったよ。でもな、自分の身体のことも考えてほしい。生憎、《ウォリアー》の修理も不完全だから、どちらにしろお前は出ることができない」

「……そうですよね。今のまま出ても、足手まといになるだけですもんね……」

 いや、と、雪音が悲観的になってうなだれている恵良に返す。

「お前にもできることはある」

「できること、ですか?」

 雪音が微笑みながら頷く。一時的ではあるが戦いという手段を奪われ、自身にできることは何か全く見当がつかない恵良は、雪音を見つめることしかできなかった。

「ここで無事を祈ることと、無事に帰ってきた四人を笑顔で出迎えてやることだ。それだけでも、あいつらの力になる」

 恵良は雪音につられるようにして微笑んだ。雪音の言葉によって、彼女は戦闘以外にもできることがあると気が付くことができた。

 恵良の笑みはすぐに消え、目はモニタの四つの白い点と二つの赤い点を見つめている。敵を撃墜して、無事に帰ってきてほしい――彼女の胸はそれで一杯になった。

――勇気、皆さん……どうか、無事で……

 恵良は目をつぶり、祈りの形を作った。



 勇気は上空へと昇っていくと、彼は後ろから味方が追いついてきていることに気が付いた。その直後、無線が繋がる。

『勇気、わりいな、遅くなっちまった』

 無線からは、礼人の声が聞こえてきた。勇気は彼の声が聞こえてくると自然と頬が緩んだ。

「とんでもないです。ともに奴らを倒しましょう」

『よしきた!』

 そう言うと、礼人は無線を切った。無線が切れると、勇気は再び凛とした顔になって空を見つめ始める。その直後に、《キルスウィッチ》と《陰陽》が《ライオット》の横に並んだ。今度は勇気が礼人に通信を入れる。

「奴らの進行方向は……これで合ってますよね?」

『ああ。あいつら、まるで俺らと戦いてえような動きだ。俺たちとかち合おうとしてる』

 勇気が再びレーダを確認すると、礼人の言う通りに赤い点が一直線に三人の方へ向かってくるのが分かった。進路を塞いでいることは分かっている筈なのに、なぜか『ナンバーズ』の二機はそのまま突っ込んでくる。

『……何か来るぞ!』

 礼人が叫んだ。


 するとその直後、白い光が槍のように此方に伸びてきた。膨大な熱量をもったそれを、三機は危なげなく躱す。


「……来たか」

 雪次がコクピット内で呟く。

 勇気は憎悪の目で上空に浮かんでいるものを見上げ、操縦桿を一層強く握りしめた。ペダルを強く踏み込み、より高く上がろうとする。


 上空には、雪音の予想通り『2』と『4』が勇気たちを見下ろしていた。


 『2』はビームライフルを構えており、先程の光はそれであると三人は察した。しかし、礼人と雪次は腑に落ちなかった。何故一週間前に落とした火器がそのまま残っていたのか、スペアが用意されていたのか――彼らは考えながらペダルを強く踏み、敵めがけて武器を抜く。

「俺は『4』を、勇気と礼人は『2』をやってくれ。賢はサポートを頼む!」

 雪次が仕切るような発言をした。だが三人はそれに異議を唱えず、各々の役割を果たそうと『ナンバーズ』へと突っ込んでいった。



 まず初めに仕掛けたのは勇気だった。《ライオット》は右腕にビームソードを、左腕にシールドを展開し『2』に襲い掛かる。続いて礼人も《キルスウィッチ》の火器を抜き、白い機体めがけて構える。

 《ライオット》が猛烈なスピードで『2』に近づき、ビームソードを振り下ろした。刃はコクピットを捉えている。

 《キルスウィッチ》も『2』を捉えていた。目標の真横に回り込み、火器を乱射する。勿論、突っ込んでくる勇気に配慮した位置で相手を攻撃しようとしている。

 しかし、相手はそれを読んでいた。『2』は両腕を大きく広げたかと思うと、自身をすっぽりと覆うほどの球状の電磁シールドを張り、《ライオット》の斬撃と《キルスウィッチ》の無数の光弾を弾き返した。弾き飛ばされた勇気は体勢を立て直そうとするが、『2』はそれを見逃してはいなかった。腕を元に戻し、獲物を見つけた猛獣のように突進する。

 そこを《キルスウィッチ》は再び捉えた。『2』の背面ががら空きになっている。チャンスとばかりに、火器を乱射し、橙色の光弾を派手に散らす。

 しかし、そこで礼人は目を疑った。無数の光弾が『2』のバックパックに到達する前に消し飛んでしまったのだ。

「何っ!?」

 礼人は唖然として『2』を凝視した。腕が元の位置に戻っても、機体背面にドーム状のシールドが張られていたのである。どういう原理だ――礼人は歯ぎしりして『2』の正面に回り込もうとした。

 勇気は素早く体勢を立て直してビームソードを構えた。突っ込んでくる『2』もビームライフルをマウントし、ビームソードを構えている。

 両機がぶつかり合った。火花と電流が走るような音が周りに巻き散らかされる。

 そこで、《ライオット》が吹き飛ばされた。勇気は呻き声を上げながら、今まで感じたことのない力に戦慄した。

――何だ、この力は……。今までの奴と違う!

 すぐにスラスタを調整して姿勢を戻した勇気の額からは、汗が流れていた。

 『2』は手を緩めず《ライオット》を攻めたてる。ビームソードを振り回して、防戦一方になっている勇気を嬲っている。相手の剣戟は何度も《ライオット》のコクピットを執拗に狙い、勇気はそれにビームソードで防ぐのに精一杯であった。

 彼の呼吸が荒くなる。ここまで執拗に攻められるのは、自身が奴らの同胞を殺したからなのか――勇気は頭の片隅で考えながら、打開策を模索している。

 何度も何度も繰り出される剣戟。ジリジリと《オーシャン》に近づいていく。しかし『2』は艦が見えていないかのように執拗に《ライオット》だけを切り刻もうとしていた。

「くそっ、くそっ――!」

 勇気が毒づくと、『2』が彼の視界から消えた。素早くレーダを確認し、彼は『2』を自身の丁度左にずれたことを確認した。すぐに彼は《ライオット》を左に方向転換する。

「ここにいることは……分かっているんだ!」

 勇気は振り向くと同時に、ビームソードを『2』の胴体めがけて振るった。

 しかし、彼の渾身の一撃は前面に張られた電磁シールドによって防がれてしまった。破裂音とともに、《ライオット》が弾き飛ばされる。

 攻撃が通らない。どうすればいい。勇気の頭は半ばパニックになった。呼吸が速くなり、操縦桿を握る力が一層強くなる。

『どけろぉ、勇気!』

 突然の絶叫。

 狼狽している勇気の前に、黄緑色の機体が割り込んできた。礼人が追い付き、両手にグリップしている火器が火を噴いた。

 しかし『2』はそれらも弾き飛ばした。自身の攻撃が通用しないと判断すると、礼人は《キルスウィッチ》を後退させた。

『こいつ……常時バリアを張ってやがる。攻撃できるチャンスは――』

「相手が攻撃してきた時、ですか」

『ああ、カウンターを叩きこむしかねえ』

 勇気はごくりと唾を呑みこんだ。相手に肉を切らせるつもりでいかないと撃墜できない――彼は歯を食いしばった。


 しかし、ここで異変が起こった。


 『2』が突如、二人の視界から消えた。

 二人が素早くレーダを確認すると、『2』は《キルスウィッチ》の真後ろに回り込んでいた。

 一体どんな技を使えばこのような動きができるのか――そう思う間もなく、礼人は回り込み、勇気は方向転換し素早くビームソードからビームライフルに持ち替えて引鉄を引いた。

 しかし、勇気の放った光弾は敵の頭上を空しく通り過ぎた。『2』の手には、ビームソードが握られている。

「礼人さん!」

 勇気が礼人に向かって絶叫した。

 しかし、遅かった。


 『2』のビームソードは、《キルスウィッチ》を貫いていた。




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