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革命ガ始マリマシタ  作者: XICS
抵抗の始まり
46/72

王子様とお姫様

 恵良が精神的に復活し始めたその日の夜、雪音がミーティングを開いて勇気たち四人を呼び出した。

 管制室に入って早々、勇気たちは雪音の誇っているような笑顔を見た。それを不気味に感じたのか、四人は、失礼します、と言った後恐る恐る部屋へ入っていく。

 いそいそと横に並ぶ四人。彼らが並んだのを見ると、雪音は咳払いを一つした。四人は一斉に、伸びている背筋をより伸ばそうとする。

「諸君、恵良がもう少しで帰ってくるかもしれない」

 雪音の笑顔の報告に、四人の顔も明るくなった。特に勇気は胸を撫で下ろし、顔は笑っているが今にも泣きそうになっている。

「皆が恵良に生きていてほしいと願っていたのが通じたようだ。特に勇気。お前の呼びかけは特に効いたようだな」

「自分の、呼びかけ――」

 勇気はその事実に涙ぐんだ。流れそうになる雫を、袖で荒っぽく拭う。

 自分の叫びが、願いが、恵良に通じた――勇気はそれだけでも感激していた。やはり自身は恵良に拒絶などされていなかったのだ。そのことが分かっただけでも彼は安心することができた。

 しかし、雪音は勇気の方を向いたまま真面目な表情になった。四人も彼女につられて表情を引き締める。

「だが、今は面会謝絶だそうだ。恵良は《オーシャン》を飛ばすまで医務室で休息させる」

「そうですか……。ですが、何故?」

「澄佳によれば、あいつはまだ回復の途中らしい。だから、下手な刺激を与えないように、言い方は悪いが、隔離しておくそうだ。何日もまともに物を食べていないのもあって、衰弱しているのも原因だが」

 雪音の言葉に、勇気は残念そうな顔をして頷いた。すると、彼の横で礼人が手を挙げた。

「……黄瀬の見舞いは、できねえのか?」

「えーと……それは考えてなかった。澄佳に相談してみる」

 雪音が少し考えて言った後、彼女は礼人の方を見てニヤリと何か悪そうなことを考えているような笑みを浮かべた。礼人がぎくりとしたような顔で雪音を睨むように見つめる。

「……何だよ?」

「舞香のことが心配か?」

 雪音に尋ねられ、礼人は視線を少し下にずらした。

「ああ、心配だよ。めちゃくちゃ出血してたし……、つうか、心配しちゃダメか?」

「いいや、そんなことはない。お前が女の子の心配をするなんて不思議だと思ってな。恵良や私にはそんな素振り見せないから」

 礼人が頬を少し朱に染めて雪音を睨みつけるが、彼女はニヤついた顔を変えようとしない。残りの三人は、雪音を『女の子』に含めてもいいのかどうか思案している。

「恵良には勇気っつう王子様がいるしよぉ、俺がちょっかい出しても野暮だと思ったんだよ! あんたは何してもへっちゃらな顔するから元々心配なんかしてねえ!」

「ふーん、そうか。澄佳と掛け合ってみるよ」

 言い分をさらりと流された礼人は、ばつの悪そうな顔をして俯きながら黙ってしまった。その横で、勇気は自身を『恵良の王子様』扱いした礼人を茫然とした表情で見ている。

「ちょっと……礼人さん、自分は王子様じゃないです……」

「馬鹿……。本物の王子様じゃねえよ。お前は恵良に相応しい、って意味で言ったんだ。そこまで説明しないと解らねえのか!?」

 勇気はこの意味を知らされて、茹でられたように顔を赤くして硬直してしまった。発言した本人も俯いて恥ずかしがり、ため息をつく。二人の様子を傍から見ていた賢と雪次、そして雪音は吹きだしてしまった。特に雪音は勇気に対して、よっ、王子様、とからかう始末である。

「兎に角、私からは以上だ。舞香の件については、今から澄佳に直接訊いてくるから、礼人は私と一緒について来てくれ。それ以外の者は解散してもいいぞ」

 四人は一斉に雪音の方を向き、了解、と大声で返事をして敬礼をした。雪音が動き出すと、同時に礼人も彼女に追随する。残された三人は各々管制室を出ていった。

 勇気の足取りは、他の者と比べて遅かった。先程礼人に言われた『王子様』という単語が未だに引っかかっている。

――王子様、か。俺が……

 そのことを思い出し、勇気は再び赤面した。



 雪音と礼人は、医務室の前まで来ていた。雪音は礼人にドアの前で待つように指示され、彼はこれに従った。

 雪音がドアを開けると、待ってましたとばかりに澄佳が飛び出してきた。

「隊長。恵良ちゃんはちゃんと食べてよく寝てますよ」

「ああ。報告ありがとう。だが今日の用件はそれじゃないんだ」

 澄佳は首を傾げるが、後ろに控えている礼人の後ろ姿を見て全てを察してにやりと笑った。

「舞ちゃんのことですね?」

 雪音はそれに、同じくニヤリと笑うことで返した。

「舞ちゃんのお見舞いなら、うるさくしなければ大丈夫ですよ。今は恵良ちゃん、ぐっすり寝てますから」

 そう言って、澄佳はカーテンの仕切りの方を向いた。その中で恵良はゆっくりと休息している。彼女の安らかな寝息が聞こえてくることがその証拠だ。

 雪音と礼人がホッと胸を撫で下ろすと、澄佳が舞香のベッドへ二人を案内した。カーテンで仕切られている空間の中では、仄かに明かりが灯っている。

「舞ちゃん、カーテン開けるよ」

「分かりました!」

 カーテンの仕切りがなくなる。カーテンを開けると、澄佳は自身のデスクへと戻っていった。

 舞香は、大人しくベッドで寝転んで安静にしていた。しかし、突然の来客――しかも階級が高い二人である――が来たことで、彼女は姿勢を正してかしこまりながらベッドの上で正座をした。身体はガチガチに硬直している。

「わ、わわわわわ! ……お、お疲れさまです!」

「そんなに硬くならんでもいい」

 舞香の調子に、雪音と礼人が苦笑する。舞香も、後ろに立っている礼人の存在に気付くと風船の空気が抜けるように姿勢を崩した。

「礼人がお前の調子を見に来た。私は奥に引っ込んでるよ」

「ちょっ……!」

 舞香が、ありがとうございます、と雪音に礼をすると、彼女は大人しく医務室を出ていった。独り取り残された礼人は、まずカーテンで外部の空間を仕切ると、キョトンとして自身を見つめている舞香にどのような言葉をかけていいのか分からず硬直している。

「……礼人さん?」

 舞香に気遣われ、礼人は肩を痙攣したように震わせた。そして、咳払いを一つ。

「……あのよぉ、調子はどうだ?」

 そう問いながら、礼人は用意されていた丸椅子に座った。それはあたかも礼人が来ることが予測されていたかのようにそこに置かれていた。彼のぎこちない問いに、舞香は頬を緩ませた。

「傷口は塞がってきたって先生が言ってたっス。あと少しで復帰できるかもって言ってたっス!」

 嬉しそうに話す舞香とは対照的に、礼人の表情は曇っていた。それに気づいた舞香が訝しむ。

「どうしたんですか?」

「いや……ちょっと気になることがあってだな」

「気になること、っスか?」

 礼人は頷いたが、その気になることを言いあぐねていた。彼は数秒間唸る。

「あの、よぉ……、訊きにくいんだけどさ」

「……何ですか?」

「お前、暴力振るわれてた、って聞いたけど、そりゃ本当か?」

 礼人の問いに、舞香が一瞬硬直する。彼はそれを見逃さず、やってしまった、と心中でひどく後悔した。勇気に恵良のことを尋ねたときと何も成長していないと、彼は自己嫌悪に陥った。

 しかし、舞香の答えは彼の予想外のことであった。

「勇気さんから聞いたんですか?」

「……ああ、隊長からも聞いた」

 予想外の答えに、礼人は少し戸惑った。肯定することしかできない。

「そのことでしたら、本当っス。それも、一度や二度じゃないっス」

 舞香が神妙な面持ちになり、礼人に話し始める。彼はそれを少し怒りのこもった顔で聞き始める。

「私は、『とある施設』を一五で出て、派遣社員として職場を転々として、ちょうど半年前にこの会社で働き始めました。ちなみに、今私は一七っス」

 礼人が頷いて相槌を入れる。彼は、話している舞香が俯きがちになり目がどんどん死んでいくのが分かった。

「……もう話すな。お前が辛いだけだろ、黄瀬」

「礼人さんには、聞いてほしいんス」

 舞香は俯いていた顔を上げ、礼人に涙の溜まった目を向けた。それを見て、彼は口を噤んで何も言わずに頷く。何で自分には聞いてほしいのかは、後で訊こう――礼人は心を落ち着けた。

「私が働くところでは、何故か分からないっスけど、私だけが殴られたり蹴られたりされました。それだけならまだいい方で……、今の職場では……私は……」

 すると舞香は言葉を途中で切り、頭を抱えて蹲ってしまった。まるで全力疾走した後のように息を荒げ、何かに怯えているように震えている。

「もういい、分かった! だからもう喋らなくていい!」

 礼人には、舞香がやられた仕打ちの内容に大体察しがついてしまった。女性にとって殴る・蹴るより酷く思い出したくもない仕打ち――それだけで彼女がなにをされたのかが彼には解ってしまった。

 礼人は舞香の肩を優しく掴み、なんとかして落ち着かせようとした。彼が肩に触れた瞬間、舞香はビクリと痙攣して彼の顔を見る。

 舞香は、涙を流していた。何かに縋るような目つきで礼人を見つめ、酸素を求める魚のように口をパクパクとさせている。

「礼人、さん?」

「俺が悪かった。辛かったんだな。俺はお前を苦しませるつもりなんてなかったんだ。ただ、あいつらが『施設』出身ってだけでお前を差別してるってのを聞いてよ、許せなかったんだ」

 礼人は静かに、だが力強い声で許しを乞うた。涙で濡れている舞香の瞳をじっと見つめて訴えかける。

 舞香は、『施設』出身の人間が差別されて虐められていることを知らなかった。なので礼人の話を俄かには信じることができない風に茫然とした表情で聞いている。

「……どうして、私は『施設』出身ってだけで差別されるんスか?」

「それは分からねえけど……うちの勇気がそうだったんだ。だから……お前が暴力を受けてるって聞いたときは、腹が立って仕方なかった。俺の同僚が虐められているみたいでさ……」

「……そうだったんスか。だから、あの時――」

 舞香が病院着の袖で涙を拭う。そして、顔には微笑が浮かんでいた。

「あの時、勇気さんが庇ってくれたんです。勇気さんには本当に感謝しています」

 礼人は舞香の肩から手を離し、頷いた。彼の顔にも笑みが浮かんでいる。

「そっか……。あいつもやりやがる」

「でも……」

 そう言って、舞香は先程からは考えられないほどの満面の笑みを浮かべた。礼人が一瞬ドキリとして彼女の顔との距離を少しだけ離す。

「討伐部隊の皆さんには感謝で一杯ですが、礼人さんには、特に感謝してますっス。礼人さんは、私に初めて優しく接してくれた人ですから……。私が動けなかったときにも、礼人さんは一番に私を助けてくれたっス。大丈夫か、って、大きな声をかけてくれたっス」

 舞香の言葉に、礼人は優しく包み込まれたような錯覚を覚えた。彼は口をへの字に曲げて顔を赤くしている。

「……じゃあ、訊くけどよ。何で俺にはこんな泣くくらい辛いこと話してくれたんだ? 俺はあんまし優しくねえぞ。それにあそこには、雪次がいたじゃねえか。あいつも優しくしてなかったっけ?」

 礼人の口数が多くなり、喋る速度が速くなる。視線もまともに舞香の方を向いていない。

 しかし、彼の思考と言葉はそこで途絶えた。


 舞香の小さい身体が、礼人の大きい身体とくっついていた。彼女の両腕は、彼の両肩の後ろに回されていた。

 舞香は、涙を流しながら礼人に抱き着いていた。嗚咽が礼人の耳に直に響く。


「私……、礼人さんのことが……、好き、だから……。辛いことは、礼人さんに、聞いてほしかったから……」


 その言葉で、礼人は失いかけていた意識を取り戻した。と同時に、自身に密着している温もりも感じて悲鳴を上げそうになる。だが恵良が寝ているのと澄佳や雪音にばれたくないといった思いが、彼に絶叫させるのを止めさせた。

「おま――っ! 何言って……」

 礼人は舞香を無理矢理引き剥がした。彼はいきなりの抱擁と告白で、目が回りそうになっている。

 そんな彼のことを考えずに、舞香は嗚咽を漏らしながら子犬のような目で見つめる。

「私じゃ……、だめ、ですかっ?」

「い、いや、ダメってわけじゃねえけど……。もっと場所を考えろよ……! そういう話題大好きな奴らがここにいるんだから」

 上擦った声で礼人が言うと、舞香は、すみません、と連呼しながら泣き崩れてしまった。その光景に、礼人はさらにパニックになる。どうしていいかが分からず、彼は無理矢理舞香の顎を右手で上げさせた。彼女がキョトンとした表情で彼の顔を間近に見た。

「ああっ……! もう泣くな。分かったよ。俺はお前を受け入れる。俺もお前ならいい……、って考えてたところだ」

 礼人は顔を暗がりでも判るように赤くして、真剣な目つきで舞香を見つめている。恥ずかしさを誤魔化すために、唸りながら左手で髪をバリバリと掻き毟る。


 実際のところ、礼人は始めは舞香のことを頑張っている整備員程度しか思っていなかった。ところが、勇気と同じ扱いを受けていると知り次第に彼女への印象が変化し、先程の告白で完全に彼女に心を奪われたのだ。

 守ってやりたい、勇気のような人物はもう見たくない――彼の舞香に対する想いはそれに結びついた。


 礼人が今までに見せたことのない真剣な目つきで見られた舞香は、顔をクシャクシャにしてもう一度飛びつくように彼に抱き着いた。声こそ上げなかったが、舞香は大泣きしていた。

 それを礼人は半ばパニックになりながらも受け止め、しっかりと抱きしめた。心が次第に落ち着いていくのを、彼自身が感じている。


 そこで、カーテンが勢いよく開かれた。その音に、二人が一斉に振り向く。

 そこには菩薩のような笑みを浮かべている澄佳と雪音が、良い雰囲気になっている二人を見守っていた。それを見た礼人は一瞬で脱力し、抱きしめていた舞香を離した。舞香は腰をベッドの端に下ろす。

「舞ちゃん、おめでとうー! 恋が叶ったね!」

「王子様とお姫様が結ばれた、ってところか」

 我に返った礼人が、レールから引きちぎれんばかりにカーテンを閉めて二人を締め出した。過呼吸のように息を荒げ、肩を震わせている。

「勘弁してくれ! 全部聞いてやがったのかっ」

「当然。舞香の告白も、お前の返事もな」

 底意地悪そうに雪音が返すと、礼人は唸りながら頭を抱えて蹲った。反面、舞香はもう泣いてはおらず二人のいる方向に明るい笑みを向けている。礼人は汚い言葉を毒づきながら未だに姿勢を崩さない。

「舞香。少しいいか?」

「……何でしょうか?」

 雪音の言葉に舞香の笑みが消え、一転して真面目な表情になる。礼人の手がカーテンから離れたので、雪音はカーテンを開けて笑顔で舞香と向かい合う。

「お前の境遇、聞かせてもらった。辛かったろう」

 舞香が頷く。真面目なことを言っているのに、雪音の笑顔は崩れない。

「お前は私が見る限りではあの社員の中で一番働けていた。よく腐らずに頑張ってきたな。感心したよ」

「……ありがとうございます!」

「そこで、だ」

 雪音の意味深な言葉に、舞香と礼人が目をパチクリとさせる。隊長が社長と交代した時にエンジニアの仕事をしていて、そこで雪音は舞香の仕事ぶりを見たのだろう――礼人は推測した。

「私が頼んでお前を討伐部隊ここで派遣として雇えるように頼んでみるよ。派遣ですまないが、ここは我慢してくれ」

 雪音は少しだけ頭を下げた。

 しかし、舞香は泣きそうな顔になって頭を下げた。ありがとうございます、と何度も何度も雪音に向かって言い感謝の意を示した。彼女にとっては最早派遣ということはどうでもよく、礼人と一緒にさえいれば何も文句は無かった。礼人も、彼女の頭をクシャクシャと撫でてニッコリと笑う。

「よかったじゃねえか、黄瀬」

「はい……、はい……!」

 舞香は感極まって、再び泣きだした。その様子を、三人が笑顔で見つめる。

「さて、私と礼人はもう戻る。邪魔したな」

 雪音はそう言うと、踵を返して医務室を退室しようとした。それに礼人もついていく。

 しかし、礼人はカーテンの仕切りから出る直前、舞香の方を向いて微笑んだ。彼女も彼に泣きながら微笑みを返す。

 その後、雪音と礼人は医務室を出た。



 医務室を出た礼人と雪音は、廊下を早足で歩いていた。礼人がやけに早足で歩き、雪音がそれに意地悪そうな笑顔を浮かべながらついて行こうとしているためである。

「礼人」

「もう訊かないでくれ……」

 礼人は雪音の顔を見ずに呆れ気味に返したが、雪音は彼の制服の裾を掴んで引きとどめた。苦虫を噛み潰したような顔で、彼は彼女の方に振り返る。

「お前は、あいつに気があったのか?」

 礼人はその表情を崩さずに黙りこくっていたが、雪音は駄々っ子のように裾を引っ張り続けて抵抗している。引っ張るスピードは速くなり、力が強くなる。

 根負けした礼人はため息をつき、情けない表情で雪音を見る。

「あいつに気がねえって言ったら、嘘になるな……。けど、本質的には、俺は勇気みたいに理不尽に虐められる奴を見たくなかっただけだ。これで十分だろ?」

 礼人が訳を説明すると、雪音から笑顔が消えて彼女は考える素振りをした。

「そうか……。変わったな、お前」

「うるせえ」

 雪音が裾から手を離したのを見ると、礼人は一目散に歩き出した。それを、雪音は笑顔で追いかけ始めた。



 ニューヨークに到着してから、一週間が経った。討伐部隊の一部を除く面々にとっては、この一週間はあっという間に過ぎ去ってしまったと感じていた。特に勇気は恵良が回復の兆しを見せ始めた後でも彼女のことを心配しており、この一週間は彼女のことしか考えていないと言っても過言ではない。

 だが恵良にとっては、この期間は一月ほど経っているように感じていた。ずっと医務室の中で体力の回復を優先して引きこもり、訓練には全く参加することができなかった。今までのルーティンを崩されたので、彼女の体内は変な感じになっていると感じていた。

 この一週間で、『白金』のアメリカ視察は予定通り終了した。彼らは《オーシャン》に戻っており、帰国後のことを来賓室で話し合っていた。彼らはその間、討伐部隊の面々とは一切接触しなかった――勿論恵良とも接触はしていない――。



 出発の時間。雪音は討伐部隊の恵良を除く四人を管制室に招集し、《オーシャン》の出発に立ち合わせた。結局、恵良はその日には復帰できなかった。勇気はそれを残念がるも、雪音に宥められて再び真面目な顔になった。

「諸君、ニューヨークでのお勤めご苦労。これから日本に戻る。だが、『ナンバーズ』がいつ襲ってくるかも分からんから準備だけはしっかりとしておけ」

 四人は雪音の言葉に、了解、と返事をして敬礼をした。

 雪音がキーボードを弄り、ものの数分で出発の準備は完了した。

「よし、出発だ」

 《オーシャン》が動き出す。


 討伐部隊は、日本への帰路についた。




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