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革命ガ始マリマシタ  作者: XICS
抵抗の始まり
42/72

撤退戦

 恵良が放った言葉に、勇気は茫然として耳を疑った。

 何故恵良が自殺願望を持ち始めたのか、彼には理解することができなかった。彼には、恵良のショックの大きさが理解できなかったのである。

「……何、馬鹿なことを――」

『私は、本気』

 か細い声だが、恵良ははっきりと意思を伝えた。思わず勇気が口を噤む。

『私は……お父様とお兄様に認められなかった。それどころか、死ぬのを望まれた。だったら……どうせ生きていても仕方がないと思ったの』

 確かに、恵良が討伐部隊に入った目的は自分が父に認められるようになるためである。一生懸命日本のために尽くした挙句その父に死ねと言われた――実際に言ったのは兄だが、勇気は二人の総意だと思い込んでいる――のならば、発狂するのも無理はないのかもしれないと勇気は考えた。

 しかし、彼は恵良が死ぬのを到底許すことはできなかった。身勝手だとさえ思っていた。何としても止めなければ――勇気は必死に恵良を説得しようとする。

「ダメだよ。恵良は死んじゃいけない。まだ生きてなきゃいけない人だ!」

『……どうして? 私は用済みの人間なのに』

「用済みなんかじゃない!」

 勇気は、恵良に向かって初めて怒鳴った。初めて彼女に向かって怒りを表した。ゼエゼエと息を切らしながら、無線を睨みつけている。

「恵良は『ナンバーズ』を倒しただろ? 日本を守ってくれたんだろう? 俺たちにとっては……恵良は必要な人間なんだ! だから……一緒に帰ろう。水城隊長のもとへ!」

 勇気は気持ちを幾分か落ち着けて、口元に笑みを浮かべた。しかし、彼は『俺たち』とは言ったものの、恵良に生きていてほしいと一番強く思っていた。


 彼にとって、恵良は光なのだから。


 それでも、恵良からの返事はない。そうこうしているうちに、『3』の火器が冷却されていく。

 《ライオット》のコクピットに、多数の銃口が向けられる。

 勇気はここを一刻も早く離れたかったが、恵良を置いていくわけにはいかなかった。どうすればいい――勇気は向けられた銃口を睨みつけることしかできなかった。

 すると、勇気の目の前が白く光った。勇気の視界が一瞬だけ潰れる。

 何事かと思い、目を細めながら画面を見ると、『3』の右腕が完全に消失していた。敵はそのままきりもみ回転して高度を下げていく。

 長距離から、《ダーケスト》が狙撃を行ったのである。その直後、賢から通信が入った。

『勇気君! ここにいては危険です。早く恵良さんを連れて逃げてください!』

「分かりました。ですが……恵良がここを離れたがらないんです! 恵良、死にたいって言いだして……」

 勇気が憔悴していると、無線の向こうで賢が困った風に唸りだした。彼でもこのようなことになっているとは想像できなかったのだろう。

 すると、今度は賢の通信が切れて礼人が勇気に繋げた。

『勇気、何やってんだ! 早く恵良連れて逃げろっ』

 礼人は、落ちていった『3』を追いかけながら勇気と話している。その『3』は既に体勢を立て直し、《キルスウィッチ》の攻撃を躱しながら艦に近づこうとしている。それを《陰陽》が食い止めている。

「ですが、恵良が……死にたいって言いだしてから動かないんです!」

『何だと!? あのクソ社長め……。兎に角、だ。無理矢理引っ張ってでも連れていけ!』

「……分かりました!」

 勇気が返事をすると、礼人の通信が切れた。無理矢理にでも連れていけという礼人の指示に、勇気は決断した。

「恵良……。手荒になるけど、ごめん!」

『……え?』

 恵良が気の抜けたような声を出した直後、勇気は《ライオット》を操り、右手でグリップしていたビームソードをマウント、その手で《ウォリアー》の左手を掴み、ブースタを強く吹かした。

 恵良は胸が強く圧迫されるような感触と強い痛みを感じていた。短い呻き声を出した後、痛みで顔を歪ませながらシートに張り付いていた。《ライオット》に無理矢理引っ張られているので、話すこともできない。

「一緒に、帰るんだ。俺には……討伐部隊には恵良が必要なんだ!」

 勇気が必死に訴えながら、《オーシャン》へと一目散に自機を進める。早く艦に向かって恵良を帰さなければ――彼はそれだけを思いながらペダルを踏み込んだ。


 しかし、そう簡単には行かなかった。


 《ライオット》と《ウォリアー》のもとに、閃光が飛び込んできた。一瞬光った後、それは《ライオット》の左肩部の装甲を抉っていた。勇気は悲鳴を上げながらコクピットの中で悶絶する。

 その衝撃で、勇気は恵良を離してしまった。勇気は何とか体勢を立て直し、恵良の所へと向かう。その間に、閃光の正体を掴むため、彼はレーダを確認した。

「さっきのは――」

 レーダを確認して、勇気はその正体を掴んだ。それは遠目からでもよく見ることができた。


 上空に浮かぶ純白のモノアイのSW――『2』が増援として到着したのだ。それはビームライフルを構え、こちらを狙っていた。


「まずい……」

 勇気は《ウォリアー》を庇うように《ライオット》を位置づけさせ、左腕のシールドを構えた。彼の額から、冷や汗が流れる。

 すると、突如無線が繋がった。

『勇気、奴に構うな! 俺たちが何とかする』

 声の主は、雪次だった。彼のSW、《陰陽》が、『2』の所へと突っ込んでいくのが見える。

「分かりました!」

 勇気が返事をすると、雪次の通信は切れた。再び《ウォリアー》に目をやり、恵良に無線を繋げる。

「恵良……。いきなり引っ張っちゃってごめん。でも、こうするしかなかったんだ」

 無線からは、恵良の荒い息遣いしか聞こえない。それでも、勇気は恵良が返事をするまで呼びかけ続ける。

「何度も言うけど、俺たちは恵良のことが必要なんだ! だから――」

『黙ってよ』

 恵良がやっと発した声は、熱く語っていた勇気が口を噤んでしまうほど冷ややかだった。

『私は……もう必要とされていないの。それは揺るがない事実。だから……私のことはもうほっといてよ!』

「事実なもんか! 恵良、俺は――」

 その直後、無線からコクピットに何かを叩きつける音が聞こえた。勇気は一瞬怯むが、無線には耳を傾けたままである。

『もう黙って!』

「黙らない!」

 ヒステリックになっている恵良に対して、勇気は怒りと悲しみで顔を歪ませながら怒鳴り声で返した。両者の荒い息遣いのみが、無線に流れる。

『……私は、結局弄ばれてたのっ。一八年間生きてきて、ずっと! だから……もうこんな人生はまっぴらなの!』

「そんなことない! これから新しく生きればいい。日本軍の、討伐部隊の隊員として、さ」

『簡単に言わないでよ! 私は簡単にやり直せない……。もう、先が何も見えないんだよ! 真っ暗なの!』


 恵良は、再び涙を流し始めていた。



 恵良は、父と兄に騙されてから未来のビジョンが見えなくなっていた。

 今頃は二人に『白金』として認められて、女性でも見下されないと『白金』の女として誇りに思っていた筈であった。それが、二人に未来の光を奪われ、こうして闇の中に取り残されている。あたかも、以前見ていた悪夢の中の彼女のように。

 そのため恵良の頭の中では、死ぬ以外に選択肢がなかった。退路を断たれたと思いこんでいる。

 だからこそ、勇気に死ぬのを止められて苦しみ、もがいている。恵良は、何故彼が自身の死を止めようと必死なのかが分からなかった。空虚になった頭で考えても、彼女にはそれが思いつかなかった。



 恵良は、やり場のない感情を涙にして流していた。嗚咽がコクピット内に響き渡る。頭を抱えながら、真っ暗な目の前に絶望している。

「もう、ダメ……。私は、死ぬしかない。何も、見えない――」

 恵良は、先ほど言った言葉を繰り返し始めた。そのようなことしかできないほど、彼女は追いつめられていた。

 しかし、勇気は諦めていなかった。恵良が絶望する姿を見たくなかった、彼女の泣く声を聞きたくなかった、そして何より、自身の大切な人がこのように死にかけている姿を見たくないのだ。

 今にも消えそうな光に、彼は手を差し伸べる。


「だったら……、だったら俺が恵良の『光』になる! 俺が恵良の前を照らす!」


 勇気はきっぱりと言い切った。なんの羞恥心もなく、当然であるかのように叫んだ。

 叫び声に近い彼の無線を聴きとった恵良は、茫然とした表情で目の前の《ライオット》を見つめた。彼女は石のように動かなくなっている。

 それで恵良が落ち着いたと思った勇気は、再び《ウォリアー》の左手を掴み、《ライオット》のペダルを踏んで艦を目指した。今度は恵良は大人しく引きずられている――と言うよりも、未だに勇気の言葉に呆然としているだけであるが。


 数十秒後、二機は無事に《オーシャン》に帰艦した。



 勇気と恵良が逃げている裏では、討伐部隊と『ナンバーズ』の死闘が繰り広げられていた。

 手負いの『3』には、礼人の《キルスウィッチ》が対応していた。礼人は右腕の前腕部を失った『3』からさらに右腕の消失と言うアドバンテージを貰い、戦いを有利に進めていた。二挺の専用ビームライフルで相手を執拗に攻め、艦に近づけないことに成功している。対する『3』は《ライオット》を狙おうと左腕の火器の照準を合わせようとするが、それどころか《キルスウィッチ》から逃げるのに精一杯になっている。

 増援の『2』に対応しているのは、雪次の《陰陽》と艦を守っている賢の《ダーケスト》である。《陰陽》は『2』に肉薄して接近戦を挑んでおり、《ダーケスト》は艦に近づけさせないようにスナイパーライフルで敵を狙撃している。現在も、『2』にそれの照準を向けている。『2』は圧倒的な出力を誇る《陰陽》のビームソードの連撃を、機体の正面をすっぽりと覆うドーム状の電磁シールドで受け止めていた。そのため、雪次の攻撃はまるで通っていない。賢の狙撃は、電磁シールドで弾かれるどころか『2』の圧倒的機動力で躱されてしまっている。

 すると、今まで防戦に徹していた『2』が動き始めた。

 『2』は電磁シールドを解除すると、構えていたビームライフルをマウント、ビームソードに持ち替えて《陰陽》に律儀に接近戦を挑み始めた。瞬間移動のような速さで、《陰陽》に接近してくる。

「臨むところだ」

 雪次が呟くと、《陰陽》は急加速した。二本のビームソードを構え、弾丸のように敵に突っ込む。

 二機が、轟音とともにぶつかり合った。二本で支えている《陰陽》に対して、『2』は一本のビームソードで互角に立ち会っている。

 すると、破裂音とともに、《陰陽》が弾き飛ばされた。雪次は驚愕しながらも姿勢を立て直し、再び『2』へと突進する。

 しかし、『2』の眼中にはもはや《陰陽》は無かった。敵は《オーシャン》へと直進していく。

「しまった……! 賢、頼む。奴を足止めしてくれ!」

「了解しました!」

 賢は『2』の進行方向へと《ダーケスト》を進める。その手には、スナイパーライフルではなく散弾銃が握られている。近接戦を挑むつもりだ。

 《ダーケスト》の機動力で『2』に立ち塞がるのは容易かった。いとも簡単に『2』の進路を塞ぎ、散弾銃の銃口を突き付ける。

 『2』の動きが、一瞬止まった。両者が、少しの間沈黙する。

「これで……終わりです!」

 引鉄が引かれ、ビーム弾が拡散された。

 しかし、賢の眼前に『2』はいなかった。拡散したビームの花火が、零距離で躱されたのである。

「そんな――」

 『2』は、《ダーケスト》の丁度左に避けていた。その手にはまだビームソードが握られており、その切っ先は《ダーケスト》を向いていた。

 それに気づいた賢は、間一髪で機体を後方に移動させて『2』が放った一閃を避けた。幸い機体は無傷だったが、不覚を取ったと彼は冷や汗を流した。

「今度は……逃がさない!」

 散弾銃の引鉄を引きながら後退していく《ダーケスト》。しかし、『2』はそんなものは気にしないという風にその場に留まり、今度はビームライフルを構え始めた。銃口が光っており、チャージしていることを示している。

 それに気が付いた賢も、散弾銃からスナイパーライフルに持ち替えて静止している敵をスコープで覗き始める。

「今です!」

 《ダーケスト》が、スナイパーライフルの引鉄を引いた。

 矢のような閃光が、純白の一つ目を襲う。

 しかし、相手の対応は速かった。ビームライフルをチャージしている間に、前面をすっぽりと覆う電磁シールドを展開して攻撃を無力化した。

「おおおおおおっ!」

 すると、後ろから雪次が雄たけびを上げながら《陰陽》を突っ込ませた。『2』は彼の存在に気付くと、電磁シールドを解いてチャージ中のビームライフルを発射した。


 ビームライフルから射出されたものとは思えないほどの熱量を持つ極太のビーム弾は、《ダーケスト》を通り過ぎて《オーシャン》の尾翼に直撃した。装甲が抉れ、溶解する。


「しまった……っ!」

 賢が心底悔しそうな表情で『2』を睨みつける。警戒はしていた筈だが、相手の対応の方が一枚上手であった。賢はすぐさま雪音に無線を繋げる。

「隊長! すみません……。艦は大丈夫ですか!?」

 すると、数秒無音が続いた後、雪音の息遣いが聞こえた。少し苦しげな様子に、賢の心拍数が跳ね上がる。

「隊長!」

『イタタ……。着弾の衝撃で私も尻をやられた。尾翼はやられたが、エンジンまで損傷は至っていない。コントロールもできる。だがフルチャージだったら、危なかっただろうな』

「すみませんでした……。自分の不覚で――」

 賢は深刻に考えていたが、雪音の方は冗談交じりに無線を飛ばすくらいの余裕はあった。

『くよくよしている暇があったら、艦を守れ。それがお前の任務だろう?』

 賢は、雪音の言葉を聞いて漸く落ち着いた。そうだ、それが自分に課せられた責務だ。そう思っていると、雪音からの通信が切れた。

「援護しますよ、雪次」

 賢はニッと笑い、上空でもみくちゃになっている二機を見つめた。



 《キルスウィッチ》は、手負いの『3』を未だに仕留められていなかった。相手がちょこまかと動き回り、隙ができたかと思えば左腕の火器で迎撃される。更には『2』の横槍も入る始末である。

 礼人は歯ぎしりをしながら、ハエのように飛び回る『3』を追いかけまわしていた。相手はまともな武器を持っていないのにも拘らず、撃墜できないでいる。彼にはその状況が我慢ならなかった。自身の火器もすぐにロックが外れ、掠りもしない。

「くそっ、くそっ……」

 このまま追いかけまわし続けていても埒が明かない――そう考えた礼人は、ターゲットを『2』に変更した。『3』が艦に近づいて攻撃を仕掛ける可能性が十分にあったが、その時は持ち前の機動力で急行できる自信が彼にはあった。

 《キルスウィッチ》が、『2』に向かって火器を乱射する。『2』はそれを予見していたかのように、するすると躱していく。

 そこに、《陰陽》が剣戟を仕掛ける。《陰陽》も『2』同様に味方キルスウィッチの攻撃をするすると躱し、一撃を入れる。『2』は未だにビームライフルをグリップしていたので、これは電磁シールドを張って防いだ。見えない膜がビームソードを弾く。

 のけ反る《陰陽》。そのがら空きになった胴に、『2』がビームライフルを突き付けた。

「こっちにもいるぞぉ!」

 礼人が続けざまに攻撃を仕掛けた。がら空きになっているサイドに、火器を乱射する。橙色の針のようなビーム弾が敵に降り注いだ。

 『2』はこれを間一髪で避けたが、それがグリップしていたビームライフルは被弾した。穴が空いて赤熱し、射撃武器として使えなくなったそれを、『2』は《陰陽》に向かって放り投げた。

「残念だったな」

 既に《陰陽》は体勢を立て直していた。ビームソードの横薙ぎで、『2』が放り投げたビームライフルは両断されて無残に鉄屑となり果てた。二つの鉄塊は、呆気なく自由落下していく。

 すぐさま『2』はビームソードを取り出し、《陰陽》と激突した。一合、二合と、剣戟が繰り広げられる。

 礼人はそれを見ていたが、同時に艦へと突っ込んでいく『3』の存在も見ていた。

「賢! 赤い奴がそっち行ったぞ」

『了解。足止めします!』

 礼人は賢に通信を入れた後、ペダルを思い切り踏み込んで時期を加速させた。



 『3』は、『2』と相手二機が戦闘している時を見計らって《オーシャン》へと突っ込んでいった。構えている左腕の火器の銃口が向く先には、先程損傷した尾翼があった。そこに攻撃を叩きこみ、エンジンを一基潰すという算段だ。

 獲物を見つけた猛禽類のように突っ込んでいく敵を、《ダーケスト》のスナイパーライフルは捉えていた。今度こそは艦を傷つけさせない――賢は決意し、スコープを覗く。

「今だ!」

 スナイパーライフルの引鉄が引かれた。

 放たれた光の槍は、『3』の左脇腹を抉っていた。

 『3』はバランスを失い、《オーシャン》のいる軌道から逸れた。賢がコクピット内でガッツポーズをする。

 しかし、攻撃はこれだけでは終わらなかった。《キルスウィッチ》が『3』の下に急行し、火器を構える。

「俺が、仕留める!」

 礼人が叫ぶと、二挺の火器の引鉄が引かれた。橙色の光の雨が、無抵抗に落ちていく敵に降り注ぐ。

 ビーム弾が、『3』の装甲を溶かしてバラバラにする。更にそれらは降り注ぎ、機体に当たっては貫通する。

 やがてビーム弾の雨はやみ、『3』は赤熱した金属の塊となり果てた。殆どの部分に灼けた穴が空き、四肢が欠損したSWだったものは、無残な姿を晒しながら落ちていく。機能は完全に停止していた。



 数秒後、落ちていった『3』が、目が潰れんばかりの白光を発して大爆発を起こして消え去った。



 礼人と賢がそれを茫然とした表情で見ていると、雪次から通信が入った。

『『2』が撤退した。この戦闘、俺たちの勝ちだ』

 雪次に言われて二人がレーダを確認すると、確かに赤い点が《オーシャン》から離れていっているのが分かった。二人はぐったりとシートに凭れかかり、大きく息をついた。

 礼人はコクピットの中で独り笑い始めた。初めて憎き『ナンバーズ』を、賢のサポートがあったとはいえ仕留めることができたのだ。彼は仕留めた対象が『2』だったらもっとよかったと贅沢なことを考えていたが、それを抜きにしても喜びは一入であった。

「やった……やったぞ」

 礼人は呟くように言った後、勝鬨を上げるかのように雄たけびを上げた。喜びを爆発させている。

 無線でこれを聞いている賢・雪次・雪音は、苦笑いを浮かべていた。彼の苦労を理解している三人としては、彼の喜びは理解することができた。しかし、いくら何でもうるさいからもう少し静かにしてはくれないだろうか――三人は共に思った。

 一通り叫び終わると、そのタイミングを見計らって雪音がSW内の三人に無線を繋いだ。

「お前ら、よくやった。ひとまず危機は脱した。戻ってきてくれ。これからの話もしたいからな」

 雪音の無線を受け取った三人は途端に表情を凛とさせ、了解、と声を揃えて返事をした。特に事情を察した賢と礼人は、不安も顔に滲ませている――きっと恵良のことだろう。


 《キルスウィッチ》・《ダーケスト》・《陰陽》の三機が、《オーシャン》の中へと収監された。





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