大空の戦い
《ウォリアー》を飛翔させた後、恵良を焦りの気持ちが襲った。
社長はSWを発進させる直前に『ナンバーズ』を観測した。彼女は奴らがいかに異常な速度で此方に迫ってくるのかを体感している。故に、社長が自身を出したタイミングが遅すぎるということや、自身が奴らの下に急行しなければならないことを彼女は感じていた。
恵良はそのようなことを思いながらも、レーダからは目を離していない。今は攻めてくる『ナンバーズ』に集中しなければ。
すると、《ウォリアー》が出撃して間もないというのにレーダが反応した。『ナンバーズ』のSWを捉えたのだ。敵ということを示す赤い点が、此方に向かって異常な速度で迫ってくるのが分かる。恵良は口を真一文字に結び、敵が向かってくる方向を一点に見つめた。
「来るなら……来て! 倒してあげるから!」
恵良は威勢のいい言葉を呟いた。《ウォリアー》はそのまま敵の方へと突進する。
ある程度進んだところで、《ウォリアー》が空中で停止した。ここで敵を迎え撃とうと恵良が考えたのだ。現在いる場所まで離れれば、《オーシャン》に被害がいく可能性は低いと彼女は踏んでいる。
「《オーシャン》は……大丈夫だね」
恵良はレーダを確認し、赤い点と白い点を交互に見やった。赤い点は自身の方へ向かっている。ただ《ウォリアー》は《オーシャン》と同一直線上にいるので油断はしていないが。
討つべき敵がすぐそこまで迫ってきた。恵良は奥歯をぐっと噛み締め、《ウォリアー》の二本のビームソードを展開する。
追加ブースタがメインブースタとともに吹かされ、《ウォリアー》が弾丸のように目標まで突進し始めた。体内の空気が口から抜ける感覚を覚えながらも、恵良は敵に向かって突っ込んでいく。
――見えた!
白い機体のビームソードと敵の爪状の武器が、轟音をまき散らしながらぶつかり合った。その一瞬後、電流が走る音を響かせながら、二機が拮抗している。
相手は、恵良が初めて対峙して《燕》を大破させられた『3』だった。しかし、彼女が初めて対峙した時のそれとは異なっていた。
先の戦いで欠損した左腕には爪状の武器が装着されておらず、代わりに機関銃のような火器が前腕部に取り付けられている――つまり《ウォリアー》の全力の一撃は、片腕で抑え込まれていることになる。
『3』の白いモノアイが、《ウォリアー》をギラリと睨みつける。それを見たとき、恵良の背筋に悪寒が走った。『3』に蹂躙された時の何にも代え難い恐怖が、心の奥底に未だに残っていた。
しかし、恵良は男顔負けの雄たけびを上げて『3』諸共その恐怖を吹き飛ばそうとした。恐怖の象徴であるモノアイに睨み返し、操縦桿を折れんばかりに押し付ける。
数十秒の膠着の後、吹き飛んだのは《ウォリアー》だった。相手も異常な出力で白い機体を押し返す。さらに余裕があるのか、『3』は恵良の横を通り抜けようとブースタを吹かし始めた。
恵良は機体を吹き飛ばされても、Gに耐えながらスラスタを微調整した後追加ブースタを吹かし、一瞬で『3』の前に立ちふさがる。既に息を切らし玉のような汗が額に浮かんでいるが、彼女は疲れるそぶりを見せず《ウォリアー》のビームソードを再び構える。
「《オーシャン》には……絶対に傷つけさせない!」
恵良は自身に言い聞かせるように呟いた。すると、その気迫が通じたかどうかは不明だが、『3』がジリジリと後退し始める。
「『ナンバーズ』は――討伐する!」
恵良がペダルを踏み込み、追加ブースタを点火する。《ウォリアー》がロケットのように突っ込んでいく。それを迎撃せんと、『3』も右手の爪状の武器を構え始めた。
二機が、再びぶつかった。
管制室の中で待機している勇気たち四人と指揮を執っている社長は、恵良が敵と衝突したことを確認した。管制室の中の空気が一気にピリつく。特に勇気は、白い点と赤い点が接触した時に拳をぐっと握り、切迫した表情で画面を見ていた。
しかし社長は、初めての実戦、しかも指揮する側だというのにやけに落ち着いている。レーダを見ながら、冷静沈着に二機の行方を窺っているように見える。それを見ている賢は、この男のことを不気味とさえ感じていた――雪音でさえ、『ナンバーズ』の襲撃では少し慌てた様子を見せるというのに。
社長がキーボードをいじり終えると、四人の方を向いた。四人が姿勢を正す。
「私の命令があるまで動くな。分かったか」
四人は大声で、了解、と敬礼と返事をした。しかし、彼らは本心では納得していなかった。
『ナンバーズ』と対峙しても馬鹿みたいに落ち着いている態度といい、何故恵良を一人で行かせたのか理由を話さない姿勢といい、社長は四人にとって胡散臭い存在であった。雪音ならば、もう少し人間らしい行動をとる筈だと、四人は同じ風に思っている。
特に勇気は、もはや社長の方へ関心を向けていなかった。恵良が無事かどうか、増援が来ないかどうかが病的に気がかりになっている。
「頑張れ……。帰ってきてくれ、恵良」
勇気が呟くと、社長はそれを聞きとってフッと口に笑みを浮かべた。しかし、その笑みは微笑ましさからきたものではなく、何か黒いものを宿していそうなものだった。
恵良は、常に自らのポジションを意識しながら『3』と戦闘していた。
下手に回り込むと圧倒的な機動力で《オーシャン》への進撃を許してしまいかねない、かといって自分が《オーシャン》を背にして戦っていると相手の火器の流れ弾が艦に当たってしまうかもしれない――位置取りを一瞬一瞬で考えなければならない。極度の緊張とSWがもたらす肉体的負荷、そして頭を使っているので、彼女の疲労は既にピークに達しようとしていた。
《ウォリアー》の二本のビームソードと『3』の右腕の爪状の武器。それらが何度もぶつかり、反発する。勢いよく衝突し、離れ、相手の出方を窺う。剣戟は何十合にもわたって行われるが、両機の出力は衰えることはない。実力は拮抗している。
すると、『3』が左腕に取り付けられている機関銃のような火器を《ウォリアー》に向かって突き付けてきた。幾重にも束ねられている銃身は、コクピットを向いていた。
――コクピット?
恵良は『3』に、殺気のような禍々しいものを感じ始めた。今まで四肢切断と頭部破壊といった部位破壊しか行ってこなかった『ナンバーズ』が、パイロットの命を狙い始めたのだ。
『3』の火器が、文字通り火を噴いた。砲身がグルグルと高速回転して射出されるビーム弾の量は、アサルトライフルや《キルスウィッチ》専用の火器の比ではない。一つ一つが膨大な熱量を持ったビーム弾が、何百という単位で《ウォリアー》を襲う。
幸い弾速はビームライフルよりは遅かったので、《ウォリアー》の持ち前の機動力ならば余裕で躱すことができた。それでも『3』は執拗に機関銃を撃ち続ける。
「……しつこいっ」
恵良は隙を見て飛び出し、相手に攻撃を加えようと考えた。彼女からは、先程の恐怖心は嘘のように消えていた。しかし、銃撃が邪魔でなかなか飛び出すことができない。
すると、相手の銃撃が止んだ。砲口と砲身は真っ赤に灼け、冷却の時間を稼ごうと再び動き始める。
恵良はチャンスとばかりに飛び出し、展開している二本のビームソードを『3』の左腕めがけて振り下ろした。
しかし、相手も素早く対応した。『3』は右の手甲――爪状の武器が取り付けられている――で恵良の攻撃を防ぎ、ぶつかった数秒後には振り払っていた。
恵良は少し呻き声を出しながら素早く《ウォリアー》を後退させる。相手の力が強すぎるのと自身の行動が制限されていることが相まって、彼女の戦法が通用していない。俄かに焦りの感情が出始めた。
恵良が焦っているうちに、今度は『3』が動き始めた。瞬間移動のような目にも留まらぬ速さで《ウォリアー》に接近、そのまま爪状の武器を振り下ろした。恵良はその攻撃を受け止めることで精一杯であり、反撃などできなかった。更に相手のSWとは思えないパワーで弾き飛ばされ、恵良は悲鳴を上げながら飛ばされる。
『3』は攻撃の手を緩めようとはしない。今までとは違い、《ウォリアー》のコクピットを貫かんと爪状の武器を振り回す。恵良はこれにじわじわと恐怖心を抱き始めていた。
「……攻撃の仕方が今までと違う。何で?」
恵良が苦し気に呟いた直後、爪状の武器が《ウォリアー》のコクピットをピンポイントに捉えた。常人には目で追うことすら叶わないスピードで振り下ろされる。
――殺される!
《ウォリアー》は咄嗟に、二本のビームソードをコクピットの前でクロスさせて『3』の一撃を防いだ。風船が破裂したような音がしたと思うと、爪状の武器はビームソードがクロスされている中心を捉えていた。その直線上には、コクピットのど真ん中があった。
しかし、それだけでは安心できなかった。攻撃を押さえつけているのはいいが、ジリジリと少しずつ押し込まれていく。このままではビームに焼かれてどの道死んでしまう――恵良は恐怖に怯えて叫び声を上げながら操縦桿を折れんばかりに押し込んだ。
――離れて、離れて、離れてっ!
恵良は操縦桿を押すと同時に、追加ブースタも点火した。スラスタの噴射炎が、花弁のように広がる。
すると、今度は破裂音とともに『3』が吹き飛ばされた。《ウォリアー》も勢い余って敵の頭上を飛び越えてしまう。恵良は命の危機を脱して安心すると同時に素早く反転したのち、敵のがら空きの背後を狙って再び攻撃を仕掛けた。
「食らえ!」
恵良が力の限り叫び、《ウォリアー》のビームソードが唸りを上げる。それのビームソードは、『3』の背部のブースタを捉えていた。
しかし、『3』は一瞬で反転し、恵良の攻撃をまたも右腕の爪状の武器で防いだ。しかも今度は、器用に爪の間に二本のビームソードを挟みこんだ。爪と爪の間が熱せられて赤熱しても、二機は拮抗したまま離れない。
恵良は、これをチャンスだと思った。そのまま赤熱しているところに当て続ければ、やがて溶断され、相手の近接武器を無力化することができる。それで一気に勝利に近づけると、彼女は操縦桿を握る手に力を込めた。
「これで……終わらせる!」
恵良は力任せに操縦桿を押し、追加ブースタを点火した。『3』の腕がジリジリと少しずつ動き始める。
しかし、そこで黙っている敵ではない。『3』は機関銃のような火器を《ウォリアー》に突きつけ始めた。その銃口は震えているが、やはりコクピットを向いている。
このままでは灼かれる――恵良は急いでビームソードの刃を消し、ブースタを吹かして後退した。
その一瞬後、機関銃のような火器からビーム弾が発射された。《ウォリアー》はスラスタを微調整し、くねくねと動きながらそれらを上手く避ける。機体に灼けついた穴が空くことだけは避けることができた。
《ウォリアー》がある程度距離を取ると、『3』の火器の砲身の回転とビーム弾の連射が止まった。恵良は大粒の汗を流しながら、息を切らして落ち着こうとする。その間にも『3』への警戒は怠らず、それを睨み続けている。
すると、恵良の下に通信が入った。彼女は『3』から目を離さずにそれを繋げる。
「こちら白田恵良です!」
『私だ』
無線を繋げた主は、社長であった。恵良が息を呑み、思わず一瞬だが無線に目線を移す。
「……何でしょうか?」
『このまま相手を引き付けていてくれ。これから増援が来ないうちにケリをつける』
「……ケリ?」
恵良は目を丸くしながら無線に耳を傾けている。彼は一体何を考えているのか――彼女は頭を働かせた。
「勇気たちを、向かわせるんですか?」
『違う。兎に角、奴を引きつけろ』
社長はそう言うと、一方的に無線を切った。恵良は、社長が一体何をしでかすのかが分からず唯々混乱している。
恵良が警戒している『3』はというと、火器を乱射して以降は殆ど動かずに《ウォリアー》の真正面に浮きながら、警戒しているかのようにモノアイで睨みつけているばかりである。両者は膠着状態になった。
「……一体、何がしたいの? お兄様……」
恵良の顔には、不安が滲み出ていた。心の奥底に、救いを求めようとする手が伸び始めていた。
恵良に無線を繋げて一方的に切った社長は、それ以降せわしなくキーボードを弄っている。管制室の画面にはパスワードの入力を求める画面が所狭しと並べられており、それを一つずつ解除して消していく。後ろで一言も発さずに直立している四人は、その異様な光景に息を呑み訝しんでいた。
四人の頭の中には共通して、『ケリをつける』という言葉が引っ掛かっていた。一体何をやるのか、社長の言葉から推測するに、四人を出撃させること以外でケリとやらを付けるそうだが――四人の頭の中は、恵良同様に混乱している。
しかし、社長に問うことは四人にはできなかった。この切迫した状況の中で社長の邪魔をしてはならないと思っているのもそうだが、先程の態度から逆らっては何をされるか分からないと刻みつけられたからでもある。そのため、四人は悶々としながら、必死にキーボードを叩いている社長の後ろ姿を見ることしかできなかった。
すると、四人の目に、社長が画面を見てほくそ笑む表情が映った。四人が画面に視線を移すと、そこには一つの小さいウィンドウが立ち上がっていた――『射撃準備完了』。
それで四人は全てを悟った――彼は航空艦で『ナンバーズ』の機体を落とすつもりだと。
さらに、小さいウィンドウが矢継ぎ早に表示されていく――『CIWS準備開始』・『機銃準備開始』・『ミサイルランチャー準備開始』。文字の下に表示されているバーがどんどん緑色に染まっていく。
「……おいおい、俺初めて《オーシャン》の武装解除を見たぜ」
礼人が雪次に耳打ちする。
「当然だ。今まで艦での戦闘なんて、俺たちSWのパイロットは見たことがないからな」
礼人・雪次・賢に、胸騒ぎが襲い掛かる。『ナンバーズ』相手に上手くいくのだろうか、そしてこの状況で恵良はどうするのか、考えることはたくさんある。
特に勇気は、艦の攻撃の成否よりも、恵良の無事を気がかりにしていた。艦の射線上に、《ウォリアー》が入っているからだ。社長は恵良をどうするつもりなのかが、彼の唯一の心配事だった。
そして、ウィンドウが立ち上がって数十秒後、全ての準備が完了した。
社長の口角がさらに上がる。そして恵良に無線を繋げ始めた。
「白田。全ての準備が整った。これから、この艦で『ナンバーズ』を叩く。お前は奴を引きつけろ」
『えっ!?』
無線越しに、恵良が驚愕の声を上げる。同時に、四人も泡を食ったような表情を社長に向けた。
すると、画面が切り替わり、《ウォリアー》と『3』が映し出された。それに覆い被さるように、SW目標を狙うときに出るロックオンのマーカーが表示される。
四人はさらに驚愕した。
ロックオンサイトが、《ウォリアー》にも表示されていたのだ。
『3』を恵良もろとも吹き飛ばそうという魂胆なのか――四人に悪寒が走り、勇気が一歩踏み込んだ。
「おい! 恵良をどうするつもりなんだ!?」
もはや勇気は、社長のことを隊長とは呼べなくなっていた。彼は怒りで顔を真っ赤に染め、ずかずかと社長の下に近づいていく。礼人・雪次・賢も、勇気を止めようと彼の下へと急ぎ足で歩み寄った。
しかし、社長は勇気のことを気にせず、発射ボタンに手を伸ばす。もはや彼には、画面以外の周りが見えていないし聞こえてもいなかった。
「これで――終わりだ!」
社長が、ミサイルランチャーの発射ボタンを押した。
《オーシャン》から剝きだしになった二基のミサイルランチャーから、八発ずつ、ミサイルが発射された。
合計一六発のミサイルは天に昇り、驚異的な速度で目標へと驀進していく。それらは、上空の二機のSWを捉えていた。
未だに膠着状態のまま動かない二機。スラスタから噴射されている炎の音のみが、空に流れ続けている。
その静寂は、《ウォリアー》のアラーム音によって破られた。何事かと思い、恵良がレーダを見る。それと同時に、『3』が動きだした。
「何なの、これ……!」
恵良は、レーダに映った魚群のような熱源に驚愕していた。しかし、『3』への注意は切らしておらず、彼女は真っ先に敵の方へと向かう。
すると、『3』が左腕の火器を構えた。恵良は身構えて《ウォリアー》のビームソードを再び展開するが、『3』の左腕は《ウォリアー》の方ではない別の方を向いている。何事かと思い、彼女が敵が腕を構えている方を向くと、『3』が火器を乱射した。
『3』の目標は、此方に向かってくるミサイルだった。計一六発のそれらが、煙を尾のように出しながら此方に向かってくる。機関銃のようにビーム弾が乱射され、始めに放たれた八発のミサイルを撃ち落としていく。
恵良は、今がチャンスだと考えた。艦からの攻撃によって、『3』は動きを制限されている。ここで切り伏せることができれば――恵良は雄叫びを上げて『3』の下に突っ込んだ。
「今だあっ!」
一撃、二撃――《ウォリアー》が剣戟を放つ。
しかし、それらは『3』の絶妙なバックステップで躱された。それも、ミサイルを撃ち落としながら、である。恵良は顰め面をした後、すぐに機体を離れさせて再度突撃する。
しかし、ここで異変が起こった。
恵良が再びレーダをちらと見ると、残りのミサイルが何故か敵ではなく味方である自身の方へ向かってくるのが確認できた。熱源があからさまに自身である白い点に向かってきているのがその証拠である。恵良はいよいよ混乱した。
「……なんで? どうして私を狙うの?」
そうこうしているうちにも、ミサイルは自身に向かってくる。更に、『3』も恵良の前に立ち塞がっている。
彼女は焦燥感に駆られ、何も考えずに『3』に突撃した。迷いを捨てようと、再び腹の底から叫んで相手を睨みつける。
それに呼応するように、『3』も近接武器で恵良とぶつかり合った。両機の間から、火花が飛び散る。恵良は操縦桿を潰れんばかりに握りしめ、追加ブースタを点火させて機体の勢いを増加させる。
すると、相手が何故か力を抜いたかのように《ウォリアー》に圧し飛ばされた。恵良はチャンスとばかりにラッシュを仕掛けようとペダルを強く踏み込む。
すると、《ウォリアー》の眼前に『3』の火器が突き付けられた。恵良はビームソードを振りかぶる動きを素早い動きでキャンセルし、垂直方向にブースタを吹かして射線上から逃れようとする。
恵良が避けた直後、火器から大量のビーム弾が射出され、熱で周囲の空気が歪む。すると、《ウォリアー》によって遮られていたミサイルが次々と撃ち落とされていった。
恵良はその隙に、『3』の背後に回り込んだ。背中ががら空きになっている敵を目の前にして、彼女の気が逸る。しかし、それをぐっと堪えると、《ウォリアー》は展開しているビームソードを確実に当てようと、「×」を描くように背部のブースタを狙って振り下ろした。
「これでぇっ!」
『3』の反応が遅れた。
反転してそれを避けようとした『3』の右前腕部が、溶断された。残骸と化した爪状の武器は、空しく宙を舞った後、重力に引き寄せられて落下していった。
《ウォリアー》がその場にとどまる中、『3』が全速力で上方へ退避する。恵良は落ちていく『3』の右前腕部を見て、恍惚としていた。
「やった……!」
しかし、彼女の視界にとんでもないものが映った。
『3』が撃ち漏らした一発のミサイルが、《ウォリアー》向けて飛んできたのである。
レーダには、しっかりとミサイルが此方に飛んでくることが表示されている。まるで敵意があるかのように、味方であるはずの《オーシャン》から放たれたミサイルが目にも留まらぬ速さで飛んでくる。
――避けられない!
《ウォリアー》は咄嗟に、右腕でコクピットを庇う。
その右腕に、ミサイルが着弾した。




