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革命ガ始マリマシタ  作者: XICS
抵抗の始まり
35/72

復帰と戸惑い

閑話です。

 《オーシャン》の中の一室。洗面台の鏡を見ながら、討伐部隊の隊服に着替えている男がいた。置時計の針はまだ午前の六時を指している。細いががっしりとした肉体に、グレーの隊服が纏われる。

「……よし!」

 手袋まで履き、しっかりと身なりを整えた勇気は、満足げな表情で鏡を見ている。この日が彼の討伐部隊復帰の日なのだ。彼の胸は高鳴っていた。



 勇気はここに戻ってくるまでの三か月間、軍の病院でリハビリを必死に続けていた。皆に少しでも早く追いつくために、討伐部隊の力になりたいために、真面目に取り組んできた――そのせいか、澄佳にやりすぎだと止められたこともあったが。



 勇気は今までのリハビリを思い出しながら、討伐部隊の隊服に袖を通していた。ここまで長かった――彼は鏡の前で自然と微笑んでいた。

「行くか……!」

 勇気はドアを開けて、一歩を踏み出した。その足は、管制室へと向かっていた。



 勇気は管制室のドアの前で立ち止まっていた。なかなかドアのセンサを触れずにいた。まるで初めて入るかのように、彼は緊張していた。先ほどまでの笑顔は消え、緊張した面持ちでドアのセンサの部分とにらめっこしている。

 それでも勇気は意を決したかのようにドアを開けた。

「失礼します!」

 勇気が大声で叫ぶように挨拶をしたが、管制室の中には誰もいなかった。彼は困惑し、首をキョロキョロさせながら管制室へと入っていく。この時間には隊長は起きている筈なのに――勇気は部屋の真ん中で立ち止まって思案していた。

 すると、ドアが開く音がした。勇気が少し驚いた表情で振り向く。

「おはよう、勇気」

 勇気は目を疑った。そこには雪音の他に、恵良・礼人・賢・雪次が立っていた。四人とも笑顔を浮かべている。

「……どうしたんですか、皆さん揃って?」

「なあに、お前を少し驚かせようと思ってな」

 そう言って雪音は管制室の中へと入ってきた。後ろの四人も彼女についていく。彼女はニコニコしながらキョトンとしている勇気に近づき、彼の両肩に両手をポンと載せた。

「お前は立派な討伐部隊の一員だ。いつでも歓迎しよう、盛大にな」

 雪音が離れると、礼人・賢・雪次が勇気のもとに集まった。すぐに礼人が勇気の頭をクシャクシャと撫でる。彼は満面の笑みで荒っぽく撫でている。

「お前なあ、心配させやがって!」

「礼人さん……、少し、痛いです……」

 勇気は乱暴に頭を撫でる礼人に困惑しつつ、前に立っている賢と雪次を見つめる。

「おかえりなさい、勇気君」

「『ナンバーズ』を一機撃墜した英雄の帰還、か。戻ってきてくれて嬉しいぞ」

 二人はにこやかに勇気を迎えていた。そんな二人に、勇気も笑顔を見せる。

 二人が言葉を発したところで、漸く礼人が勇気の頭から手を離す。彼の髪形はまるで寝癖が付いているような乱れっぷりになっていた。

 そこで、三人の後ろから恵良が現れた。彼女は男たちとは違い、はにかんだような笑顔を浮かべている。勇気はその表情を見てドキリとした。顔が熱くなるのを彼は感じる。

「勇気……」

「……恵良」

 暫く二人が見つめ合う。少し間が空いたが、恵良が目を細めた。

「お帰り。また一緒に戦えるね!」

 その一言で、勇気はガチガチに固まってしまった。彼女と接するだけでなんとも言い難い感情が襲ってくるようになった彼にとって、この笑顔は破壊力抜群である。彼は背筋をピンと伸ばして何も喋らなくなってしまった。

 その様子を、恵良が訝しんだ。

「……どうしたの?」

「い、いや! 何でもないよ! 俺、頑張るから、恵良も一緒に頑張ろ!」

 勇気のしどろもどろな様子に、恵良はクスリと笑って頷いた。その様子を周りで見ていた四人はクスクスと笑っていた。

 暫く和やかなムードに浸っていると、雪音が手を一回叩いた。それに勇気たち五人が反応して彼女の方を見る。

「よし、『歓迎会』は終わりだ。朝食が用意されているだろうから、食べてきてくれ。食後にミーティングを始めるから、ここに来てくれ」

 五人は一転して真面目な表情に戻り、了解、と大声で返事をした。



 朝食をとるために、勇気以外の四人の隊員は管制室を出た。しかし、勇気は恵良に促されても出ようとしない。

「勇気……行かないの?」

「少し隊長と話がしたいんだ。先に行っててもいいよ」

 恵良は少しポカンとした表情になり、コクリと小さく頷いて踵を返した。話をしたいと言われた雪音も、いきなりのことに少し戸惑っている。

「何だ、話って」

 ドアが閉まったことを確認すると、勇気は雪音と向き合った。彼は神妙な表情をしている。

 すると、勇気がいきなり頭を下げた。雪音はさらに困惑する。

「この度は、討伐部隊から三ヶ月も抜けてしまい皆様に御迷惑をおかけしました。申し訳ございませんでした」

 頭を下げた勇気を、雪音はポカンとした表情で見つめることしかできなかった。暫くこの状況が続くと、気まずくなったのか雪音が咳払いをした。

「頭を上げろ、勇気」

 はい、と返事をして、勇気が頭を上げる。

「確かに、お前が抜けたことは我々にとって痛手だった。この三ヶ月の間、奴らが攻めてこなかったのがせめてもの救いだ。それに、なんだかお前がいないと空気がどんよりとしてたしな」

 勇気がしょんぼりとした顔で頷く。

「だが、謝るほどではない。むしろこっちが感謝したい。漸く、いつもの討伐部隊に戻ることができたんだからな」

 そう言うと、雪音はにっこりと笑った。それにつられて勇気も笑顔を見せる。

「隊長……ありがとうございます」

「礼はいい。話はこれで終わりか?」

 雪音に話を振られると、勇気は何かを思い出したのか、笑みが消えて真面目な表情に戻った。そして、異様にもじもじとし始めた。

「……どうした?」

「……隊長、あの――」

 勇気は恥ずかしさで委縮してしまった。雪音がそんな彼を見て苦笑する。

「ここにはお前と私しかいない。言いたいことがあったら言ってみろ」

「――最近、変なんです」

 勇気が話し始める。

「恵良のことを思い出すと……なんだか変になるというか、ドキドキするというか――そんな感じになってしまうんです。澄佳先生に訊いても、ただ笑ってるだけで……」

 勇気は必死に訴えた。自分の身体の異常を理解してもらうために、顔を赤くしてか細い声で雪音に伝えた。彼は必死に彼女を見つめている。

 しかし、雪音は真面目に受け取るどころか勇気を見て吹き出してしまった。勇気は澄佳と同じ反応をされて、さらに戸惑ってしまった。

「隊長も……!」

「ああ、すまんすまん。まあ、これは私や澄佳にじゃなくて、本人に直接言った方がいいと思う」

「恵良に、ですか?」

 雪音はニヤニヤしながら頷いた。その笑みが、勇気には不気味に映る。

「ま、とにかく、訓練や任務に支障がない程度にしろよ。がんばれ少年!」

 雪音はそう言いながら、勇気の横をスタスタと通り過ぎて管制室を出た。ドアが閉まると、勇気は静寂とともに管制室に取り残された。

 何を『訓練や任務に支障がない程度にしろ』というのか、何を『がんばれ』というのか――勇気には雪音の言ったことの意味が理解できなかった。彼は唸り声を上げて頭を掻きむしる。

 彼の戸惑いは、ミーティングが始まるまで収まることは無かった。




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