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革命ガ始マリマシタ  作者: XICS
戦いの始まり
32/72

大切な人

 泣き疲れた勇気は、再び夢の中にいた――あの悪夢の中に。

 何度も何度も続くルーティンに、勇気はうんざりとしていた――それでも彼の視界が真っ暗になると恐怖で心が満たされ、汗と涙に塗れて目を覚ますのだが――。もはや見慣れた空の色に、彼は何も感じることは無かった。

 身体が風を切る音が響く。勇気の視界には、いつも通り取り残された《ライオット》と《ペニーウェイト》が宙に浮かんでいる。彼の身体は、重力に任せてどんどん落ちていく。

 勇気が虚ろな目で、小さくなっていく二機を見つめていると、彼の身体は大きな音とともに海面に叩きつけられた。そこから先は、目の前が真っ暗になるまで沈み続けるのみである。彼の心が、恐怖で支配される。

――何なんだよ、これは?

 勇気は慄きながら、ただ自分の身を重力に任せることしかできなかった。いつも通り、海中でも呼吸はできるし冷たさも感じない。彼は仰向けで真上を見ているので、光が遠ざかっていくのが分かる。それが余計に彼の恐怖を駆り立てた。

 しかし、視界から光が半分ほど消え去ったところで、今までの悪夢では感じたことのない感触を勇気は覚えた。違和感は、彼の左手にあった。

――なんだろう……温かい……。

 それはまるで、手を握られているような、人肌の温度で包まれているような感触であった。勇気は初めてこの夢の中で感じたその感触に恐れを抱くどころか、安心感のようなものに包まれていた。

 勇気は、自分の左手にある何かを知るために、首を動かそうとした。彼に確証はなかったが、今なら、今こそ、身体を動かすことができると思ったのである。

 勇気は思いきって頸を持ち上げてみた。

 彼の頭が持ち上がり、自分の身体を見ることができた。持ち上がった瞬間、彼は驚きで目を見開いた。

――なんで? 今まではできなかったのに……。

 勇気が混乱している頭で必死に考えていると、左手の部分が妙に明るいことに気付いた。彼はそこに目をやる。

 そして彼は、さらに驚愕した。自分の左手が、すっぽりと光に包まれているのである。彼は驚くことしかできなかった。

 左手を持ち上げる。自分の左手が光っていて、直視することができない。勇気は思わず目を細めた。手を近づけても、何かに包まれている感触と人肌のような温かさは変わることがない。

――どういうことだよ、これ?

 勇気は未だに事態を飲み込めていなかった。自分の身に何が起きたのかすら理解できていない。 

 勇気がまごついていると、また彼にとって信じられない出来事が起こった。

 左手に纏われている光が、膨脹し始めた。

 それは彼を徐々に呑みこんでいき、彼の視界を真っ白にした。

 

 勇気は混乱のうちに、光に呑みこまれた。



 真っ白になった視界。空調の音が耳に微かに入ってくる。

 夢から覚めた――勇気は覚醒しきっていない頭で理解した。重い瞼は未だに開かない。

 一体、さっきの夢は何だったんだ――勇気の頭は、いつもなら見ている筈の悪夢にうなされたのとはまた違った混乱の中に放り込まれていた。暫く彼は、放心して動かなくなった。

 勇気が暫くじっとして少しだけ落ち着きを取り戻すと、左手に感覚が残っていることに気が付いた。彼が左指を少しだけ動かす。

 その感覚は、先程の夢で覚えたそれと全く同じであった。更に、隣で人の息遣いが聞こえてきた。いよいよ勇気はその状況が不気味に思えてきて、瞼を無理矢理引きはがすように目を開け、左手の方へ首を動かした。シーツが擦れる音が大きく響く。

 勇気は、その光景に絶句して思わず目を見開いていた。頭はまだ完全には覚醒していないが、それを補おうとするように目を精一杯開ける。


 勇気のベッドサイドには、恵良がいた――彼の左手を、討伐部隊の手袋をしていない両手で包みながら。


 恵良は、優しく微笑んでいた。今の勇気にとっては、重すぎるほどの優しさを出している。

「恵……良」

 勇気はひどく掠れた声で、彼女の名を呼んだ。口をパクパクとさせ、ここに彼女がいることが信じられないでいる。その表情は、何か恐怖を与える幻視でも見ているかのような顔であった。

 恵良は勇気に名前を呼びかけられると、先程よりも強く彼の手を握った。自分の存在を知らせているかのように、何度も何度も彼に頷く。

「勇気……」

 母親が赤子を優しく抱きかかえるような恵良の言葉。勇気は唇を真一文字に結んだ。


「おかえり。やっと、会えたね」


 恵良は笑っていた。彼のすべてを肯定するかのように。


 それでもまだ、勇気の頭の中は混乱していた。自分の存在を否定されて絶望し、いつの間にか眠りにつき、奇妙な夢から覚めたと思えば、今まで会うことができなかった恵良が自身の目の前にいる。色々なことが起こりすぎて、彼の頭が追い付いていない。

 勇気は上半身を起こして、恵良を見つめる。それを見た恵良が、目を細めて微笑んだ。

「どうして……恵良が、ここに――」

 勇気は言葉を乾ききった喉から絞り出す。涙が流れた跡がくっきりと残っている顔が、彼の混乱を象徴していた。

「勇気の事情聴取が終わったから、私が代表してお見舞いに来たんだよ」

 恵良は勇気にはっきりと伝えるために、ゆっくりと優しい口調で言った。彼女は笑みを絶やさない。

 勇気は、『事情聴取』という言葉でやっと全てを思い出した。しかしそれがきっかけで、自身が絶望の底に叩き込まれたことも含めて、彼の頭の中に記憶が雪崩れ込んでくる。

 俄かに勇気の呼吸が速くなる。彼は目を見開いて恵良の手を振り払い、頭を抱えて蹲った。

「勇気!? どうしたの?」

 恵良から笑顔が消え、部屋の空気が一気に張り詰める。いきなり頭を押さえて蹲り始めた勇気を見て彼女は一時パニックに陥ったが、その様子を見て雪音の言葉を思い出した。

――あいつはかなり罵倒されていた。

――あいつは存在そのものを否定されたと思いこんでいるらしい。

――軍の中では殴る蹴るの暴行を繰り返され、『根性焼き』は何度もされ、ゴミ扱いされていたんだ!

 勇気は、あの事情聴取で耐え難い苦痛を受けて、それを思い出してしまったのかもしれない――恵良は自分が発した言葉に後悔しながら、勇気の両側頭部を掴んで彼女のほうを向かせる。勇気が息を荒げながら腕をダラリと下げて、ポカンとした表情で恵良を見つめる。

「大丈夫だよ、勇気。私たちは勇気の味方だから。安心していいんだよ!」

 恵良に大声で真剣な表情で言われ、勇気は幾分か落ち着いて恵良を見つめ続けた。彼が落ち着いたと分かると、恵良は彼から手を放した。

「……味方?」

「うん! ここにはもう勇気を虐める人はいないから……安心していいんだよ」

 勇気を諭した恵良は、再び微笑んだ。しかし、その笑みはすぐに消えた。勇気が未だに納得していないような表情を彼女に向けているからだ。

「でも……俺は、ここにいちゃいけない存在だって――」

「そんなことない!」

 恵良が柄にもなく勇気に怒鳴った。彼女の語気に、勇気が少しのけ反る。

「あんな奴らの言うこと、真に受けちゃダメ! あいつらにどんなことをされても……討伐部隊わたしたちは勇気を認めてる。だから、もう安心してもいいんだよ!」

 恵良は勇気を諭し続ける。それでも勇気は頷かない。それどころか彼は目をギュッと瞑って俯いてしまった。

 恵良は途方に暮れかけたが、必死に言葉を――自分の想いを絞り出す。

「勇気……お願い、顔を上げて、私を見て」

 勇気は恵良の言葉に反応し、恐る恐る目を開けて彼女の方を再び向く。その様子は、まるで何かに怯えているかのようだった。今にも壊れそうな彼の心に、恵良はそっと優しく触れようと努める。

「……隊長が全部教えてくれたよ、勇気がされたこと。酷いこと言われたり、討伐部隊に入る前は殴られたり蹴られたり、『根性焼き』っていうのをされたり……。ゴミ扱いされてた、って」

 勇気が口をグッと引き結ぶ。恵良は自然とこぶしを握っている。

「でも、今はもう大丈夫だよ。私たちが勇気を助けるから、守るから、絶対に!」

 静かな口調だったが、言葉の端々には強いものがこもっていた。恵良はこぶしを解き、もう一度勇気の左手を握る。彼の手は汗ばんでいて冷たかったが、彼女は気にしなかった。

「だから、お願い……勇気の辛かったことは全部私が受け止めるから……壊れないで」

 恵良の言葉は震えていた。それに呼応するように、肩も少し震え始める。

「恵良――」

 勇気は驚いていた。


 恵良の両目から、涙がポロポロと落ち始めたからである。


 恵良は鼻を啜り、泣いているにも拘らず勇気の目の前で笑顔を見せていた。

「……ごめんね。泣きたいのは勇気なのに……私が泣いちゃって本当にごめんね」



 恵良が泣いた。何故? 誰のために?

 勇気は恵良の泣き顔を見て硬直してしまった。彼女がなぜ泣いたのかを思案するために、ポカンとした顔をしたまま、黙ってしまった。

 勇気は思わず恵良に尋ねた。

「……ねえ、恵良がどうして泣いているの?」

 勇気の言葉に反応して、恵良は左手を彼の手から離し、隊服の袖でゴシゴシと涙を拭い始めた。

「ごめんね……ホントは勇気が泣きたいんだもんね……」

 恵良の目からは、まだ涙が溢れ出てくる。返事も涙声だ。

 勇気は、心臓が締め付けられているかのような痛みを感じていた。自分が絶望の渦中にいるときとは違った痛みであった。泣いている恵良を見るとそれが襲ってくる。

「――違う」

「え?」

「恵良は……嫌な思いしてないじゃないか。それなのに……何で泣くの?」

 勇気は純粋に、それが解らなかった。自分がゴミ扱いされたことと恵良が号泣したことは関係がないと思っている。

 恵良は、キョトンとしている勇気を見つめた――笑顔ではなく、まじめな表情で。

「勇気。勇気は討伐部隊に必要とされてる人なんだよ。勇気が傷つけられているのを見て、嫌な思いしないわけないよ! それに――」

「……それに?」

 勇気に訊かれ、恵良はもう一度袖で目を擦った後話を続ける。彼女は優しく微笑んでいる。

「……私だって、勇気がいてくれないと困る。勇気は、私を助けてくれた人。私を女だからって差別しなかった人。……私にとって、大切な人」

 勇気は、時が止まったような感覚に陥った。そのまま恵良を凝視している。

「だから、だから……勇気が悲しいと私も悲しい。勇気が笑ってくれれば、それだけで私は嬉しい」

 勇気は、恵良が泣いた理由を漸く理解した。それと同時に、胸の痛みも強まる。

 恵良は、自分のために泣いてくれていたのだ。勇気は漸く気づいた。

 さらに、自分が恵良のいう『大切な人』だと解ったのと同時に、自分もまた恵良が『大切な人』だと気づいた。泣いている彼女を見ると胸が痛くなるのが、彼が考えたその証拠である。彼女の泣き顔は見たくないと、彼は心から感じていた。

 それともう一つ、勇気が気づいたことがあった――自分の悪夢から解放してくれたのは恵良だったのだ。

 夢の中で光っていた左手、そこから感じた優しい温もり――全て彼女がもたらしたものだった。

 自分を絶望の底から引き上げてくれたのは、恵良だったのだ。

「俺……必要とされてるの?」

「うん、討伐部隊には必要不可欠だって、隊長もきっと思ってる。礼人さんも雪次さんも賢さんも皆、勇気のことを心配してたし、勇気のために怒ってくれた。皆、勇気のこと、とても心配してるんだよ」

 それを聞くと、勇気は自身の中で何かがは弾けたような音を聞いた。


 勇気は子供のように、恵良の目の前で臆面もなく大声で泣き始めた。口を大きく開けて叫び、流れる涙を気にせず、自身の疎外感や絶望を洗い流していく。


 嬉しくて泣いたのはこれが初めてかもしれない――勇気は泣きながらそんなことを考えていた。

 すると、恵良が赤子をあやすように勇気の背中を擦り始めた。まるで雪音が恵良にやったそれのように。勇気は躊躇うことなく恵良に上半身を預け、恵良に抱きしめられながら泣いていた。



 暫くの時間が経った。

 勇気は既に泣くのをやめており、ベッドサイドに座っている恵良と向かい合っている。彼の眼は泣きすぎで真っ赤に腫れている。

「勇気、目の周り真っ赤だよ」

 恵良にそれを指摘されて笑われると、勇気は目の周りだけでなく頬も赤くした。彼は少し目を擦る。

「……思ったんだけどさ」

 勇気が口を開いた。恵良が注目する。

「何?」

「咲宮のことさ」

 勇気が言うと、恵良は顔を暗くした。

「あの事はもういいでしょ?」

「言わせてくれないか?」

 勇気が真剣な表情で恵良と向き合う。その表情に恵良は茫然とし、思わず頷いた。

「……もし俺が恵良や討伐部隊の皆と出会わなかったら、あいつみたいになってたと思う。事情聴取されてた時、あいつが言ってたことが少し理解できて、少し同情しちゃったんだ」

 恵良は彼の言葉に頷いた。

「敵に同情するのはダメなんだけど……俺は、あいつのおかげで自分が孤児だってことに気が付いたようなもんだから、同情したいし、感謝もしたい」

「そうだったんだ……」

 恵良は少し驚いたような表情を見せた。

 暗い話をした勇気だが、彼の表情はなぜか晴れやかだった。重苦しいものから解放され、彼の気分は軽くなっていた。

「だから……変な話だけど、俺はあいつの思いを理解しながら生きていこうと思う。俺をゴミ扱いする人に、反抗できればいいな、って。日本の敵だけど、あのまま死んでいくのは報われない気がしたんだ」

 勇気の言葉に、恵良は黙って頷いた。同じ施設出身だから解ることもあるのかと、彼女は考えた。

 さらに勇気は言葉を続ける。

「でも、俺は討伐部隊で日本のために戦うことは曲げない。どんなに悪口を言われても、どんなに妨害されても、それだけは変えない」

「……うん。勇気はこうでなくちゃ!」

 恵良は勇気を激励した後、徐に立ち上がった。勇気が彼女の顔を見上げる。彼女は壁にかけられた時計を見て、もうすぐ面会終了の時間だと察していた。

「勇気、私、もう戻るね。勇気が元気になってくれて、本当によかった」

 そう言って恵良がドアに向かって歩き出すと、勇気が彼女を呼び止めた。キョトンとした顔で、彼女はベッドの方を振り向く。

「恵良。助けてくれて……本当にありがとう。恵良がいなかったら立ち直れなかった」

「勇気……」

「恵良は、俺の光だ。俺、早く討伐部隊に復帰できるように頑張るから!」

 勇気は、今まで見せたことのなかった満面の笑みで言った。それを言われた恵良は顔を真っ赤にして俯いてしまった。彼の純粋無垢な笑顔が可愛く眩しく映ったのもあるが、それよりも自分を『光』と喩えられたことに対して照れていた。自分はこんなに大きな存在ではないのに――恵良は謙遜しながら彼と視線を合わせることができなかった。

 そんな恵良を見て、勇気は訝しんだ。

「恵良、どうしたの? 俺……何か変なこと言っちゃった?」

「えっ? う、ううん! 大丈夫だよ。それじゃ、私、もう行くね! リハビリ頑張ってね!」

 恵良は挙動不審になって部屋を出ていった。ドアを閉める音が喧しく聞こえる。

 恵良が出ていくのを見届けた勇気は、再びベッドに仰向けになって息をついた。彼は、自分のことについては一通り考えたので、今度は恵良のことについて考え始めた。

 恵良には感謝してもしきれないと、勇気は考えていた。自分が絶望しているときには必死に引き上げようとしてくれて、自分に悲しいことがあればともに悲しみ、嬉しいことがあればともに喜んでくれる、そして自分が困っているときには助けてくれる――彼の頭は下がるばかりであった。自分もまた、恵良を助けていることを自覚していないが。

――俺も……恵良が苦しんでいるときには助けてあげよう。そうすれば、恵良への恩返しになる。

 彼は再び決心した。いつか恵良が困っているときには、自分が助ける、と。



 恵良が顔を真っ赤にして出てきたのを見て、雪音と澄佳は微笑みながら彼女を迎えた。

「恵良、勇気が元気になって、本当によかったな」

「はい……。私も嬉しいです!」

 恵良は満面の笑みで答えた。彼女は雪音と澄佳とともに歩き出した。

「ところで……勇気が大泣きした時に少し覗いてみたが――」

 雪音が悪そうな笑みを浮かべて恵良を見つめる。彼女はギョッとした顔で雪音を見つめる。

「……何でしょうか?」

「お前、あいつを抱きしめてたろ。熱かったぞぉ」

 恵良はそれを思い出して再び赤面した。壊れそうな勇気を守ろうと、愛護的な感情から行ったのがそれである。

「あ、いや、それは――抱きしめてはいなくて……ただ腕を回した、だけ、です――」

「嘘おっしゃい。あれは完全にハグだったよ」

 雪音の陣営に、澄佳が加担した――当然、彼女も悪い笑みを浮かべている――。言い逃れできなくなった恵良は、二人を置き去りにしてダッシュして逃げてしまった。

「おい、待て――ったく」

 雪音は微笑みながら、走って逃げていく恵良を見つめていた。その横に、澄佳が並ぶ。

「隊長、勇君が元気になってよかったですね」

「……ああ」

 雪音は、勇気の精神が安定したことにホッとしていた。これでリハビリさえ終われば、彼は討伐部隊と合流できる。その時はどんな歓迎をしてやろうか――彼女は考えていた。

「私たちも急ごうか」

「ですね」

 雪音と澄佳は足早に病院の廊下を歩き始めた。雪音もまた、重荷が外れたような気持ちになっていた。



 恵良が病室から出ていった後、勇気は違和感を覚えていた。恵良のことを考えているうちに、身体が熱でも出たかのように熱くなり始めた。彼女が泣いたときに感じた心臓が締め付けられているかのような痛みといい、彼女のことを考えると身体が変な調子になることを彼は感じていた。

 さらに彼は、恵良に触れられた感触を思い出していた。悪夢から自身を救ってくれた時の左手の温もり、自分が大泣きした時の抱擁――落ち着いて考えた彼は、頬を真っ赤に染めてシーツを頭まで被った。肋骨辺りが痛んだが、彼は気にしなかった。抱きしめられただけでどうしてこんなにも顔が熱くなるのか、胸が高鳴るのか――彼には理解できなかった。

「俺……恵良に何されたんだろう」

 勇気は魔法にかけられたかのように、恵良のことしか考えることができなくなっていた。

「助けてくれぇ……」

 なんとも形容しがたい感情が、勇気を襲う。彼はそれに暫くの間翻弄されていた。




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